第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第2部 戦の兆し ①

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一か月後。

宮中に緊迫した空気が流れた。

「第3皇子、アシュレイよ!総指揮官として、北方の反乱を鎮圧せよ!」

玉座の間に響き渡る国王の声に、アシュレイ殿下がひざをつき、静かに頭を垂れた。

「はっ!」

その瞬間、場にいたすべての者が背筋を伸ばした。

戦が――本当に始まるのだ。

その知らせを聞いた私は、城の中庭で訓練していたルークに小声で尋ねた。

「ねえ、何で……第3皇子が?」

ルークは剣を納めて肩をすくめた。

「皇太子殿下は体が弱くてね。病がちなんだ。だから戦地には向かない。」

「じゃあ、第2王子は?」

「第2王子は争いが苦手でさ。文化や芸術を愛する方なんだよ。剣より筆、って感じかな。」

「じゃあ、アシュレイ殿下は……」

「実力で、戦の任を背負ってる。若いのに、よくやってるよ。」

そう言ったルークの声に、尊敬の色がにじんでいた。

私は黙って空を見上げた。

どこかで、アシュレイ殿下も同じ空を見ているだろうか。

不安と――胸の奥に、言葉にならない熱が広がっていくのを感じていた。

そんなある日。

私は、宮殿の花壇のそばで二人の姿を見つけた。

「えっ……!」

アシュレイ殿下と――カトリーナ妃。

並んで歩いている。穏やかな表情で。

仲が悪いと聞いていたのに……。

気になって、思わず近くの木陰に身を潜めた。

「カトリーナ。花、咲いたね。」

「ええ。球根を植えてよかったわ。」

ゆったりと会話するその様子は、まるでおとぎ話に出てくる王子様とお姫様のようで――
(……って、本当に皇子だけど)

胸がきゅっと締めつけられる。

アシュレイ殿下がふと立ち止まり、カトリーナ妃をそっと抱き寄せた。

(……え)

その瞬間、息を呑んだ。

ふたりの距離が、あまりにも近くて。

あの夜、「もう一緒に寝ていない」と寂しげに語った彼の顔が、ふいに胸に蘇った。

――じゃあ、これは何?

目の奥が熱くなる。

私はただ、木陰に身を隠したまま、動けずにいた。

すると――アシュレイ殿下は、カトリーナ妃にそっと口づけをした。

(きゅーん……!)

胸が鳴る。

私も、あんなふうに抱き寄せられて、唇を奪われたい――

そんなことを思ってしまった自分に、頬が熱くなる。

「カトリーナ。そろそろ……子どもが欲しい。」

柔らかな声に、どこか切実な願いが込められていた。
けれど――

「すみません。夜伽が……苦手なんです。」

カトリーナ妃はわずかに顔を伏せ、苦しそうに目をそらした。

「えっ……」

「欲情の……はけ口にされてるようで……嫌なんです。」

殿下の瞳に、驚きと痛みが浮かぶ。

「そんなこと、ない。俺は……君がっ……!」

言葉を絞り出すようにして、彼はカトリーナ妃を後ろからぎゅっと抱きしめた。
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