家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第1部 売れ残り令嬢と、成り上がり伯爵の縁談

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「まぁ、成り上がりの伯爵よね? 本当に結婚するの? お姉様が?」

ルシアの無邪気な声が、私の背中に突き刺さる。

彼女には悪気がない。――でも、それが一番残酷だった。

「ルシア、無礼なことを言わないの」

お母様は軽くたしなめたが、その声に怒気はなかった。

「だって不思議じゃない?」

ルシアはまた、まるでお菓子でも食べているかのように軽やかに言葉を継いだ。

「グレイバーン伯爵って、なかなかハンサムな方よね? 背も高くて、あの瞳の色、少しだけ青が混ざっていて――素敵だったわ」

私は返事をしなかった。ただ黙って、階段の手すりを握りしめていた。

「それこそ、お金に糸目をつけずに、美人で教養のある令嬢を選べる立場なのに……」

ルシアはくるりと私の方を振り返り、いたずらな笑みを浮かべる。

「なのに、“あのそばかす顔のお姉様”だなんて」

クスクスと喉の奥で笑いながら、彼女はまるでそれが冗談のように続けた。

私の胸の奥に、冷たい何かが落ちる。いや、もう何度も落ちている。

そのたびに砕けた心の破片が、私の中でざらざらと音を立てるのだ。

「ルシア、やめなさい。」

母の声がようやく少し鋭さを帯びたが、ルシアは「ごめんなさい」と可愛らしく笑って誤魔化した。

「しかも成り上がり。地位もお金で買い取ったもの。名誉もないじゃない

ルシアが言うと、お母様は疲れたように笑った。

「でもお金はあるわ。」

「お金があれば、それでいいの?」

ルシアが目を丸くする。

「……正直、あの子の婚約には疲れたの。」

その一言に、私は立ち止まった。

階段の途中、背後で交わされる声に、足が動かなくなった。

「何度も縁談が立ち消えになって……公爵家の名に泥を塗られているようなものよ。誰も“あの顔”を貰いたがらないの」

「“あの顔”……?」ルシアが、わざとらしく繰り返す。

私は踵を返して駆け戻りたい衝動を堪えながら、ただ、手すりを握る力を強めた。

冷たい金属が手のひらに食い込むのも、今は心地よく思えた。

“正直、あの子の婚約には疲れた”――

その言葉が、何度も頭の中を回った。

私は、家のために、家名のために、笑って従ってきたはずだった。

それなのに――疲れた? 恥だと?

私の何が、そんなにみっともないというの?

音も立てず、私は静かに階段を下り、人気のない廊下を歩いた。

胸の奥に沈むような痛みを抱えながら。
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