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第1部 売れ残り令嬢と、成り上がり伯爵の縁談
⑦
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週末、早速グレイバーン伯爵が我が家を訪れた。
玄関から続く赤絨毯の上を、落ち着いた足取りで歩いてくるその姿は、確かに立派だった。
整った顔立ちに、深い色の瞳。噂に違わぬ“ハンサム”という言葉がぴったりの男性だった。
だが彼は、応接間に通されると、まっすぐに父と母のもとへと歩み寄り、私の前を素通りしていった。
「はじめまして。セドリック・グレイバーンです」
低く通る声が、部屋に響いた。
「これは我が家へようこそ」父が丁寧に応じる。
その間、私は立ったまま、居場所のない空気に包まれていた。紹介も、目も、言葉もない。
まるで私が“いないもの”であるかのように。
――ああ、やっぱり私に興味などないのだ。
そう思った瞬間、ほんの少しだけ、胸の奥がきゅっと痛んだ。
「こちらが、娘のクラリスです。」
母の言葉に、ようやくセドリックの視線が私に向けられた。
「……はじめまして、クラリス嬢。」
形式的な挨拶に、私は作り笑顔を浮かべるのが精一杯だった。
彼の目には、私はどう映っているのだろう。
「グレイバーン伯爵。はじめまして。」
ようやくの思いで声をかけたけれど、私は彼の顔をまともに見ることができなかった。
下を向いたままの挨拶に、きっと『暗い女だ』と思われたに違いない。
案の定、伯爵はそれ以上何も言わず、会話も弾まなかった。
沈黙が重くのしかかる中、父が空気を読んで口を開いた。
「グレイバーン伯爵。今日はどれくらい時間を取れる?」
「夕食など楽しむ時間なら、あります。」
伯爵はあくまで冷静で、抑揚のない声だった。
「そうか。よかった。」
父は安堵したように笑い、まるで旧知の友人であるかのように、伯爵に肩を寄せた。
初対面とは思えないほど、気さくな素振りで言葉を重ねていく。
――私よりも、父の方が彼と親しげで、言葉を交わしているなんて。
何とも言えない疎外感が胸に広がった。
婚約者として紹介されたはずの私は、そこに居ても居なくても変わらないような存在だった。
ただ、彼の冷たい瞳の奥に――何かを隠しているような気配を、ほんの一瞬、感じた。
それが何なのかは、この時の私には、分からなかった。
玄関から続く赤絨毯の上を、落ち着いた足取りで歩いてくるその姿は、確かに立派だった。
整った顔立ちに、深い色の瞳。噂に違わぬ“ハンサム”という言葉がぴったりの男性だった。
だが彼は、応接間に通されると、まっすぐに父と母のもとへと歩み寄り、私の前を素通りしていった。
「はじめまして。セドリック・グレイバーンです」
低く通る声が、部屋に響いた。
「これは我が家へようこそ」父が丁寧に応じる。
その間、私は立ったまま、居場所のない空気に包まれていた。紹介も、目も、言葉もない。
まるで私が“いないもの”であるかのように。
――ああ、やっぱり私に興味などないのだ。
そう思った瞬間、ほんの少しだけ、胸の奥がきゅっと痛んだ。
「こちらが、娘のクラリスです。」
母の言葉に、ようやくセドリックの視線が私に向けられた。
「……はじめまして、クラリス嬢。」
形式的な挨拶に、私は作り笑顔を浮かべるのが精一杯だった。
彼の目には、私はどう映っているのだろう。
「グレイバーン伯爵。はじめまして。」
ようやくの思いで声をかけたけれど、私は彼の顔をまともに見ることができなかった。
下を向いたままの挨拶に、きっと『暗い女だ』と思われたに違いない。
案の定、伯爵はそれ以上何も言わず、会話も弾まなかった。
沈黙が重くのしかかる中、父が空気を読んで口を開いた。
「グレイバーン伯爵。今日はどれくらい時間を取れる?」
「夕食など楽しむ時間なら、あります。」
伯爵はあくまで冷静で、抑揚のない声だった。
「そうか。よかった。」
父は安堵したように笑い、まるで旧知の友人であるかのように、伯爵に肩を寄せた。
初対面とは思えないほど、気さくな素振りで言葉を重ねていく。
――私よりも、父の方が彼と親しげで、言葉を交わしているなんて。
何とも言えない疎外感が胸に広がった。
婚約者として紹介されたはずの私は、そこに居ても居なくても変わらないような存在だった。
ただ、彼の冷たい瞳の奥に――何かを隠しているような気配を、ほんの一瞬、感じた。
それが何なのかは、この時の私には、分からなかった。
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