家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第1部 売れ残り令嬢と、成り上がり伯爵の縁談

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さらっと聞いたつもりだった。でもそれは、ずっと胸の奥にしまい込んでいた、私の本心だった。

誰にも聞けなかったこと。誰にも、怖くて聞けなかったこと。

けれど、彼の返答はあまりにもあっさりしていて。

「別に。どうでもいい。」

その瞬間、心に小さな棘が刺さったような気がした。

どうでもいい――その言葉の響きが冷たくて、思わずうつむく。

私という存在も、そばかすも、すべて「どうでもいい」ものなのだと、突きつけられたような気がして。

でも、すぐに気づく。

それは侮蔑ではなかった。あの目には、軽蔑も、拒絶も、なかった。ただ、事実を告げただけの静かな瞳。

「気にする理由がないから。……君が気にしているのかい?」

その一言に、喉の奥が熱くなった。

なぜだろう。たったそれだけの言葉が、こんなにも胸を揺らすなんて。

「いえ。気にしていません。」

そう言って、私はそっと視線を落とした。

気にしていない――そのはずだった。

何度も言い聞かせてきた。

鏡の中の顔を見つめながら、これは私の一部なのだと。

けれど、「どうでもいい」という彼の一言に、私の中で何かがひび割れた。

私を娶るのは、私自身ではなく、エルバリー家の娘だから。

家柄のため。政略のため。ただそれだけ。

彼の瞳には嘘がなかった。だからこそ、その無関心が、かえって重く胸にのしかかる。

「君が気にしていないなら、それでいい。」

セドリック伯爵の声は変わらず穏やかだった。

私の感情の揺れなど、まるで気づいていないように。

私は自分の膝の上で手を握りしめた。

「結婚式は一週間後にしよう。」

突然の言葉に、私は思わず息をのんだ。

「一週間後……せめて、十日ほど頂けませんか?」

「どうして?」

戸惑いながらも、私は必死に言葉を探した。

「ウェディングドレスを……作るからです。」

刺繍一つとっても、時間がかかる。最後くらい、自分のための一着を纏いたかった。

彼は少しだけ間を置いて、うなずいた。

「承知した。十日後にしよう。」

ほっと息をついたのも束の間、彼は淡々と続けた。

「それ以上は待てない。」

その瞳には、譲ることのない意志が宿っていた。

私は小さく頭を下げた。

たとえ期限つきでも、彼が応じてくれたことが、少しだけ嬉しかった。
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