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第2部 初夜の誤解と、優しい眼差し
①
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私は結婚式の前日に、エルバリー家を去ることになった。
部屋の荷物を一つずつ整理していると、思い出が胸にこみあげてくる。
少女の頃に描いた落書き、姉妹で取り合ったリボン、母に買ってもらった古びた本。
手を止め、窓の外を見つめた。
「この家とも今日が最後なのね……」
思わず呟く。
確かにこの家には、痛い思い出もある。
けれど、それ以上に、私の人生の根っこがある場所だ。
淡い夕陽が、カーテン越しに部屋を包む。
いろいろあったけれど、やっぱり、寂しい。
胸が少しだけ、きゅっと締めつけられた。
「何かあったら、直ぐに帰ってくればいいわ。」
自分に言い聞かせて、私は最後に刺繍の入ったウェディングドレスをまとめた。
自分の結婚式には、自分で刺繍したウェディングドレスを着たい。
そう、ずっと夢見ていた。
ドレスの仕立ては三日ほど。
けれど刺繍には、何倍もの時間をかけた。
夜を徹し、指先に絆創膏を貼りながら、ひと針ひと針に想いを込めた。
まさか本当に間に合うとは思わなかった。
結婚そのものは、私の思い描いたものとは違った。
相手も、きっかけも、すべてが。
けれど、このドレスだけは、私の自由だった。
私が選び、私の手で仕上げたもの。
「よかった……」
出来上がった刺繍を見て、心からそう思った。
たとえ政略結婚でも、これは確かに、私の意思だった。
「大丈夫よ。だって、これを着て結婚式を挙げるのだもの。」
私は自分に言い聞かせた。
「そろそろ参りましょうか。」
荷物をまとめていた私に、伯爵家から遣わされた使用人が声をかけてきた。
「これ以上遅くなりますと、夜分遅くにグレイバーン伯爵邸に到着することになってしまいます。」
時計の針を見ると、もう夕方を過ぎていた。
この時刻が、家を出る限界だと知らされていた。
「……分かりました。行きましょう。」
私は深く息を吸い込んで、振り返ることなく扉を閉めた。
これが、エルバリー家の娘として過ごす最後の瞬間。
もう戻ることはできない。
これから私は、グレイバーン伯爵夫人としての道を歩むのだ。
母の刺繍道具が置かれた棚、妹たちの声が響いていた廊下、父が朝食を取っていた食堂……
どれも愛しくて懐かしい。
だけど、今は立ち止まれない。
「行きましょう。」私は小さく呟き、馬車へと足を運んだ。
揺れる車内で、私は心の中でそっと言った。
「さようなら、エルバリー家のクラリス。」
部屋の荷物を一つずつ整理していると、思い出が胸にこみあげてくる。
少女の頃に描いた落書き、姉妹で取り合ったリボン、母に買ってもらった古びた本。
手を止め、窓の外を見つめた。
「この家とも今日が最後なのね……」
思わず呟く。
確かにこの家には、痛い思い出もある。
けれど、それ以上に、私の人生の根っこがある場所だ。
淡い夕陽が、カーテン越しに部屋を包む。
いろいろあったけれど、やっぱり、寂しい。
胸が少しだけ、きゅっと締めつけられた。
「何かあったら、直ぐに帰ってくればいいわ。」
自分に言い聞かせて、私は最後に刺繍の入ったウェディングドレスをまとめた。
自分の結婚式には、自分で刺繍したウェディングドレスを着たい。
そう、ずっと夢見ていた。
ドレスの仕立ては三日ほど。
けれど刺繍には、何倍もの時間をかけた。
夜を徹し、指先に絆創膏を貼りながら、ひと針ひと針に想いを込めた。
まさか本当に間に合うとは思わなかった。
結婚そのものは、私の思い描いたものとは違った。
相手も、きっかけも、すべてが。
けれど、このドレスだけは、私の自由だった。
私が選び、私の手で仕上げたもの。
「よかった……」
出来上がった刺繍を見て、心からそう思った。
たとえ政略結婚でも、これは確かに、私の意思だった。
「大丈夫よ。だって、これを着て結婚式を挙げるのだもの。」
私は自分に言い聞かせた。
「そろそろ参りましょうか。」
荷物をまとめていた私に、伯爵家から遣わされた使用人が声をかけてきた。
「これ以上遅くなりますと、夜分遅くにグレイバーン伯爵邸に到着することになってしまいます。」
時計の針を見ると、もう夕方を過ぎていた。
この時刻が、家を出る限界だと知らされていた。
「……分かりました。行きましょう。」
私は深く息を吸い込んで、振り返ることなく扉を閉めた。
これが、エルバリー家の娘として過ごす最後の瞬間。
もう戻ることはできない。
これから私は、グレイバーン伯爵夫人としての道を歩むのだ。
母の刺繍道具が置かれた棚、妹たちの声が響いていた廊下、父が朝食を取っていた食堂……
どれも愛しくて懐かしい。
だけど、今は立ち止まれない。
「行きましょう。」私は小さく呟き、馬車へと足を運んだ。
揺れる車内で、私は心の中でそっと言った。
「さようなら、エルバリー家のクラリス。」
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