家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第2部 初夜の誤解と、優しい眼差し

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そして最後に、にこやかに笑うルシアが姿を現した。
私の妹――誰よりも美しく、誰よりも自信に満ちた瞳を持つ少女。

「お姉様。ようやく結婚ね。」

「ありがとう。」

「これからは夫人として生きるのね。」

「そうね。」

「“伯爵”夫人としてね。」

その言葉には、かすかに含みがあった。まるで、私を見下しているような――そんな気がした。

「私はまあ、公爵夫人になるとは思うけれど。」

「そうかもね。」私は微笑んで応じたつもりだった。

でも、胸が少しだけざわついた。

ルシアは一歩近づき、囁くように言った。

「夜会で見かけても、話しかけないでね。」

「えっ?」思わず聞き返すと、彼女はくすりと笑った。

まるで、これが姉妹の最後の挨拶だとでも言うように。

私は何も返せず、ただ唇を噛みしめるしかなかった。

「だって、妹の私が公爵夫人なのに、姉は伯爵夫人だなんて。どう考えても釣り合わないでしょ。」

ルシアは涼しげな笑みを浮かべながら、まるで事実を告げるだけのような口ぶりでそう言った。

胸の奥に小さな棘が刺さる。私は感情を抑えて言葉を返す。

「伯爵家だって、立派な貴族よ。」

「最近成り上がったばかりだけどね。」

ルシアのその一言に、私は思わず拳を握り締めた。

確かに、グレイバーン伯爵家は父の代に爵位を得た家。

由緒ある家系とは言えない。

でも、だからといって蔑まれる謂れはない。

「そんなこと、関係ないわ。」

「ふうん? でも世間は、そう思ってくれるかしら?」

ルシアは意地悪く目を細めて、最後に一礼した。

「それじゃ、お幸せに。お姉様。」

その言葉だけは、少しだけ本心が混じっていたように思えた。

でも私は――口を閉じたまま、背筋だけは伸ばして見送った。

私は馬車に乗り込んだ。扉が閉まり、ゆっくりと動き出すまでの短い間に、母が声をかけてきた。

「子供が生まれたら、顔を見せに来なさい。」

「はい。分かりました。」

母の目には、再び涙が浮かんでいた。

きっといろいろな思いがあるのだろう。

「結婚式には行くから。」

「……はい、お母様。」

小さくうなずきながら、私は目線を横に移した。

そこには妹のルシアがいた。

だが、彼女は私と目を合わせようとせず、そっぽを向いたままだった。

「ルシア。」私は少し声を強めて呼びかけた。

「なに?」

不機嫌そうな顔で、ようやく振り向いた妹に、私は優しく言った。

「結婚が決まったら、教えて。」

ルシアは少しの沈黙のあと、ふいっと目をそらしながら、ぽつりと答えた。

「分かったわ。」

その声には、どこか拗ねたような響きがあった。

そして、馬車は静かに動き始めた。

私は揺れる馬車の中で、家族との最後の時間を胸に刻みながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
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