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第7部 妹の終焉と、家族の始まり
①
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ルシアの婚約がもたらされたのは、それからしばらく経ってからだった。
あの気性の激しい妹が、ようやく結婚するらしいと風の噂で聞いた。
実家とは絶縁状態が続いており、私はもう詳しい事情を知らなかった。
だがその知らせを聞いた日の夜、セドリックに問いかけた。
「相手は、どんな方なの?」
セドリックは少し首をかしげながら答えた。
「聞いたところによると……どうやら地方の伯爵家らしい。名門ではないが、堅実な家柄のようだ。」
「そう……」
私は頷いた。あのルシアと結婚する相手が、果たしてどんな人物なのか、少し心配にもなった。
だが、それでも——あの妹がようやく誰かと落ち着こうとしている。
そして舞踏会の日、私は久しぶりにデュラン夫人と再会した。
「お久しぶりです、デュラン夫人。」
そう挨拶をすると、彼女は優雅に微笑んだ。
「クラリス、元気そうね。ますます伯爵夫人らしい顔立ちになったわ。」
周囲の視線が私たちに集まり、二人の親しい仲はすでに社交界でも周知の事実のようだった。
「ところで……ルシアが婚約したんですって?」
「ええ、そうみたいです。」
私は少し言い淀みながら答えた。どうやらデュラン夫人にとっても、ルシアは昔から可愛い公爵令嬢として映っていたらしい。
「噂では、二人は恋人のように仲がいいそうよ。」
「そうですか。」
思わず微笑んでしまった。
皮肉にも、あの妹にもようやく愛を分かち合える相手が現れたというのなら、それは祝福されるべきことなのかもしれない。
「やはり、あなたは思いやりのある人ね。」
「えっ?」
私はデュラン夫人の言葉に驚いて顔を上げた。
「妹のことを聞いて、心配しているあなたがいるわ。」
――確かに。
あれほど傷つけられ、憎しみを抱いたはずのルシアなのに。
それでも彼女が不幸になることを、私は望んでいなかった。
あの子は、私のたった一人の妹なのだ。
「では、本人から聞くといいわね。」
「本人?」
デュラン夫人が視線を送った先には、優雅に談笑する青年の姿があった。
淡い金髪に端正な顔立ち、そして穏やかな笑みをたたえた彼――。
「彼が、その相手。レオン・カザリス伯爵よ。」
その名を聞いた瞬間、私は言葉を失った。
まさか、この人が……あのルシアの、婚約者?
伯爵という立場だけでなく、その佇まいは王子のような気品すら感じさせた。
――本当に、あの妹と?
私は、胸の奥が不思議な感情でざわめくのを感じていた。
あの気性の激しい妹が、ようやく結婚するらしいと風の噂で聞いた。
実家とは絶縁状態が続いており、私はもう詳しい事情を知らなかった。
だがその知らせを聞いた日の夜、セドリックに問いかけた。
「相手は、どんな方なの?」
セドリックは少し首をかしげながら答えた。
「聞いたところによると……どうやら地方の伯爵家らしい。名門ではないが、堅実な家柄のようだ。」
「そう……」
私は頷いた。あのルシアと結婚する相手が、果たしてどんな人物なのか、少し心配にもなった。
だが、それでも——あの妹がようやく誰かと落ち着こうとしている。
そして舞踏会の日、私は久しぶりにデュラン夫人と再会した。
「お久しぶりです、デュラン夫人。」
そう挨拶をすると、彼女は優雅に微笑んだ。
「クラリス、元気そうね。ますます伯爵夫人らしい顔立ちになったわ。」
周囲の視線が私たちに集まり、二人の親しい仲はすでに社交界でも周知の事実のようだった。
「ところで……ルシアが婚約したんですって?」
「ええ、そうみたいです。」
私は少し言い淀みながら答えた。どうやらデュラン夫人にとっても、ルシアは昔から可愛い公爵令嬢として映っていたらしい。
「噂では、二人は恋人のように仲がいいそうよ。」
「そうですか。」
思わず微笑んでしまった。
皮肉にも、あの妹にもようやく愛を分かち合える相手が現れたというのなら、それは祝福されるべきことなのかもしれない。
「やはり、あなたは思いやりのある人ね。」
「えっ?」
私はデュラン夫人の言葉に驚いて顔を上げた。
「妹のことを聞いて、心配しているあなたがいるわ。」
――確かに。
あれほど傷つけられ、憎しみを抱いたはずのルシアなのに。
それでも彼女が不幸になることを、私は望んでいなかった。
あの子は、私のたった一人の妹なのだ。
「では、本人から聞くといいわね。」
「本人?」
デュラン夫人が視線を送った先には、優雅に談笑する青年の姿があった。
淡い金髪に端正な顔立ち、そして穏やかな笑みをたたえた彼――。
「彼が、その相手。レオン・カザリス伯爵よ。」
その名を聞いた瞬間、私は言葉を失った。
まさか、この人が……あのルシアの、婚約者?
伯爵という立場だけでなく、その佇まいは王子のような気品すら感じさせた。
――本当に、あの妹と?
私は、胸の奥が不思議な感情でざわめくのを感じていた。
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