家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第10部 ふたりの城と、落ちぶれた家族の末路

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翌月、セドリックは国王の言葉通り、爵位を昇進し、正式にグレイバーン侯爵となった。

「よかったわね、セドリック。」私は彼の肩にそっと手を添える。

「……ああ。今日から、グレイバーン侯爵だ。」

そう呟く彼の横顔は変わらず落ち着いていて、浮かれる様子もまるでない。

新たな爵位を得ても、おごらない——そんなセドリックだからこそ、私は惹かれ続けているのだと思う。

「そう言うクラリスもそうだろ。」

「え? 私が?」

「グレイバーン侯爵夫人。」セドリックが、からかうように笑った。

「……やだ、なんだかくすぐったい響きね。」

私が照れ笑いをすると、セドリックも笑った。

爵位が上がっても、こうして二人で笑い合える。

変わらない日々と、変わらぬ愛。

それこそが、何よりも誇らしく、幸せなことなのだと私は実感していた。

「仕事は変わるの?」

私はふと、疑問に思ってセドリックに尋ねた。

「変わらないさ。ただ……」

セドリックは少し言い淀んでから続けた。

「ただ?」

「君が前に言ってた、孤児院の支援。正式に始めようと思う。」

「まあ、素敵!」

思わず声が弾んだ。ずっと心にあった願い。

それが、セドリックの力で形になる日が来るなんて。

「僕も、君に触発されたんだ。未来を育てることが、何より大事だと。」

その言葉に、胸が熱くなる。

優しさは、こうして行動に表れるのだと実感した。

「増々、頑張らないとね。」

セドリックはそう言って、そっと私のお腹を撫でた。

「君の願いが、この子の未来にも繋がる。」

新しい命と共に、私たちの想いも動き出している。

家族として、そして誰かの支えになる存在として、歩き出す時が来たのだ。

ある日、私の母がグレイバーン侯爵家を訪れた。

「クラリス、おめでとう。」

玄関先で笑顔を見せた母は、子供ができたと知って、いてもたってもいられずに来てくれたのだという。

どうやら、父の反対を押し切って一人で来たらしい。

「はい、ありがとうございます。」

私は驚きながらも、嬉しくて母の手を握った。

「早いけれど……」

そう言って、母は小さな包みを差し出した。

「これは?」

そっと開けると、そこには淡いクリーム色の、手編みの小さな靴下が入っていた。

「まあ……赤ちゃんの?」

「そうなの!手紙で知った時から、夜なべして編んだのよ。」

母の瞳が潤んでいるのを見て、私の胸も熱くなった。

遠く離れていても、母の愛情は変わらず、私を包んでくれる。

「ありがとう、お母様。」

私はそっと靴下を胸に抱きしめた。

小さな命のために――母から私へ、そして私から子へと続く、温かな想い。
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