王太子妃は2度目の恋をする

日下奈緒

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第2話

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少しの間、休ませて貰って、私達は馬車で家まで帰った。
「どうだった?王太子殿下は。」
お父様が馬車の中で聞いてくる。

「はい。素晴らしい方でした。」
「そうか。それはよかった。」

お父様にとっては、好都合でしょう。
政略結婚で、一目見た途端、気に食わないと言うのは、よくある事だと聞くから。

「王太子殿下も、お前の事気に入ってくれたみたいだな。」
「そうでしょうか。」
「そうでもなければ、一目会っただけの女の看病など、申し出るものか。」

私は胸が温かくなった。
嬉しい。王太子殿下も、私の事気に入って下さっている。

『でも、自分の命は短いと思うんだ。』

王太子殿下が、言っていた事。
絶対に、そうはさせない。

「次にお会いするのは、いつでしょうか。」
「そうだな。おまえの体調が良くなり次第というところだな。」
それは、一週間と言ったところだろうか。
あまり時間を置くと、暗殺の手が先にやってきてしまうかも。

「私から、お伺いすると言うのは、如何でしょうか。」
「アリーヌから?」
「はい。」
お父様は、難しい顔をした。

「あれだけの美男子だ。アリーヌから会いたくなるのは、仕方ないだろう。だが、女は、男から声を掛けられて行くのがいい。しばらく待つんだ。」
「……はい。」

私はさっきの王太子殿下を、思い浮かべた。
ああ、早く会いたい。
会って、その腕で強く抱きしめて欲しい。

私は2度目の人生も、あなたに恋をしてしまった。


そして、私の不安をよそに、王太子殿下からのお誘いは、翌日にやってきた。
体調が悪くなければ、又明日にでも会いたいと。
「良かったではないか、アリーヌ。」

お父様も喜んでくれている。
「これで、婚約も早いかもしれないな。」
「はい。」

私は1日でも早く、王太子殿下と婚約して、お城に上がりたい。
そうでなければ、暗殺の手から、殿下をお守りすることはできない。

一体、誰なのだろう。
殿下の人生を奪った人は!

翌日、私は一人馬車に乗って、殿下が待つお城へやってきた。
今度は女中達が迎えに来てくれた。

「こんにちは。」
「ようこそいらっしゃいました。」

女中達のしつけもなっている。
さすがは王宮だ。
お城へ入り、そのまま王太子殿下の部屋に通された。

「王太子殿下、参りました。」
「アリーヌ。」

王太子殿下は、私に近づくと、女中の前でも私の手を握った。
慌てて女中が、部屋から出て行く。

「体調は?」
「はい、おかげ様で元気です。」
「良かった。」

殿下は嬉しそうに、笑顔を見せてくれた。
「ところで今日は、何をしよう。」
「そうですね……」

私は仲良くなるのであれば、今しかないと思った。
「まずは、お話でもしましょうか。」
「そうだね。こちらにおいで、アリーヌ。」

王太子殿下は、ソファーに案内してくれた。
男の人と、同じソファーに座るのは、実は初めて。

従兄弟でさえ、向かいのソファーに座らせられた。
だから、私は内心ドキドキしている。

「アリーヌは、どんな子供だったの?」
「私の幼少期ですか?」
「うん。興味があってね。」

またドキドキしている。
「そうですね。家でかくれんぼをするのが、好きでした。」
「ははは。楽しそうだね。」

よかった。殿下、楽しそうにしている。
その笑顔を見るのが、とても嬉しい。

「殿下は、どんな幼少時代を?」
「そうだな……」
急に殿下は、寂しそうな顔をした。

「私は、小さい頃に母を亡くしてね。」
「えっ……」
「直ぐに新しい母が出来て、弟も生まれたのだが、寂しい気持ちは拭えなかった。」

殿下はそういう寂しさを持って、大人になったのね。
私はそっと、殿下の手を握りしめた。

「大丈夫ですよ。」
「アリーヌ……」
「私がいつも、殿下のお側にいますから。」

すると殿下も、私の手を握り返してくれた。
「有難う、アリーヌ。君といると、温かい気持ちになれる。」
見つめ合う瞳に、私の顔が映る。

何だか、この感じ。
懐かしい気持ちになる。

私達は前世では、よく見つめ合って話をしていた。
それを思い出す。

「アリーヌ。」
「はい?」
「君は私を情熱的な目で見るよね。」

私はハッとした。
もしかして、軽い女だと思われた?
「それは、王太子殿下があまりにも素敵な方だから。」

私は、そう言うと殿下から視線を反らした。
「私を好いているという事かな?」
「……はい。」

カーっと、顔が赤くなった。
「そうか……」
私はもう一度、殿下を見た。
王太子殿下は、無表情で下を向いている。

「アリーヌの気持ちは、有難いと思っている。でも、私にはまだ分からないのだ。」
「何がですか?」
「誰かを恋しいと思う気持ちだ。」

そうだ。
どんなに私が、王太子殿下の側にいたいと思っても、殿下が私の側にいたいと思わなければ、結婚どころか婚約さえできない。
ここは何とか、しなければ。

「殿下。恋しいと言う気持ちは、一目見て湧き上がるものもあれば、時間をかけてゆっくり育まれるものもございます。」
「いや、違うんだ。」

王太子殿下は、そっと私の手を離した。
「アリーヌに、会いたい気持ちはあるんだ。」
「殿下?」
「ただ……君を私の人生に巻き込むのは……」
「巻き込んで下さい!」

私はハッとした。
知らない内に、王太子殿下の手を、自分から握っていた。

「失礼しました。」
慌てて手を離し、左側にずれた
「いや、いいんだ。」

殿下は優しい。
こんな私を、許してくれる。

「ところでさっき、私の人生に巻き込んでいいと言ってくれたね。」
「あっ、いえ、それは。」

もう少し仲良くなってから、言うべきだった。
失敗した。

「本当に、巻き込んでしまっていいかい?」
「えっ……」

すると王太子殿下は立ち上がり、私の前にひざまずいた。
「あなたを一目見た時から、運命を感じていた。アリーヌ・アフネル嬢。私と結婚してください。」

例え結婚の申込であっても、一国の王太子が、公爵令嬢に頭を下げるなんて。
「王太子殿下。」
私を床に膝を着いた。

「私でよければ。」
「アリーヌ。」
王太子殿下は、私を立たせてぎゅっと抱きしめてくれた。

「ああ、よかった。」
もしかしたら、勢いだったのかもしれないけれど、そんな事はどうでもいい。

王太子殿下は、何かを不安に思っている。
それが何なのかは、まだ分からないけれど、とりあえず王太子殿下の側にいる事はできるようになった。
後は、この城に乗り込むだけだ。

「王太子殿下。」
「ん?何?」
「私達結婚を決めたからには、一緒にこのお城で暮らしましょう。」
「えっ⁉」

私は王太子殿下を、真剣に見つめた。
「……結婚の準備には、一般的に半年かかると言われているが。」
「はい。結婚式は半年後に挙げましょう。ただ、その前から王太子殿下と一緒に、私はいたいのです。」
そう。あなたを暗殺から、守る為に。

「アリーヌ……?」
私の真剣な決意を、王太子殿下はくみ取って下さったようで、私は早めに後宮に入る事ができた。
その反面。家に帰った私は、お父様に酷く怒られた。

「公爵家の令嬢たるおまえが、結婚前から後宮に入りたいなどと、言うなんて!」
「ごめんなさい、お父様。」
私はずっとお父様に、謝り続けた。

「でも、お父様。どうしても私は、王太子殿下の側にいなければならないの。」
「何だって?」
「これは、王太子殿下を守る為なのよ。」

私は、新たな決意を持って、後宮へと入り込む準備を始めた。
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