王太子妃は2度目の恋をする

日下奈緒

文字の大きさ
5 / 8

第5話

しおりを挟む
フランシス様が王太子になる事を、王妃様が黙認⁉
もしかして、暗殺を狙っているのは、王妃様⁉
「アリーヌ?」

王太子殿下に声を掛けられ、私はハッとする。
「どうしたの?アリーヌ?」
王妃様も怪しんでいる。

「アリーヌは、時々難しい顔をすることがあるんです。」
「まあ。」
王妃様は私に近づくと、両手を握ってくれた。
その手の温かい事。

「心配しないで。どうにかなるものよ。」
「王妃様……」
「私も最初は、政略結婚だった。でも、陛下が導いて下さったから。こんな私でも王妃の任務を背負えているわ。あなたには、イヴァンがいるじゃない。」
「はい、王妃様。」

よかった。王妃になる事への緊張だと思われた。
今日会ったばかりなのに、暗殺の犯人だと疑っていたら、この先多いに影響を与えてしまうものね。

「アリーヌ、僕もいます。」
「フランシス様……」

王妃様とフランシス様の笑顔は、まるで天使のようだ。
まさか、王太子殿下の暗殺を、企てているようには見えない。

これは、ジュスタンの仕掛けた罠?
いいえ、本当にフランシス様を王太子にしたい、王妃の企み?

「あら、本当ね。アリーヌ。難しい顔をしているわ。」
王妃の言葉に、ハッとした。
「とても緊張しているのね。それはそうね。私達、王族だものね。」

「アリーヌでも、緊張するの?母上。」
「そうね。アリーヌの家は公爵家だから、王族への尊敬が溢れているのよ。」
「ふーん。何も同じ人間なのにね。アリーヌ。」

私は失礼ながら、フランシス様をジーっと見てしまった。
「アリーヌ?」
すると王太子殿下が、私達の間に入ってきた。
「アリーヌは、城に来たばかりで、疲れているのです。今日はこれぐらいにしましょう。」

「そうね。」
王妃様は、私から手を離した。
「さあ、行こう。アリーヌ。」
王太子殿下が、私の背中を押してくれた。

「では、失礼致します。王妃様、フランシス様。」
「またね。」
フランシス様は無邪気に、手を振ってくれた。

二人が暗殺に加わっているのであれば、どうやって?
待って⁉
朝方、王太子殿下の部屋に行った時、窓の隅に王妃様と弟君がいたような。
私は、頭を抱えた。

「大丈夫か?アリーヌ。」
王太子殿下が、私の顔を覗いた。
「体調が悪いのなら、部屋に……」

殿下がそう言うと、ジュスタンが私をヒョイと肩に担ぎこんだ。
「えっ?」
「お任せ下さい。俺が部屋に連れて行きます。」

ええ!嘘!私、こんな状態で部屋に運ばれるの⁉
「待て、ジュスタン!」
「はい?」
「まずは、アリーヌを下ろせ。」

王太子殿下のお陰で、ジュスタンの肩から解放された。
「未来の王太子妃を、荷物と一緒にするんじゃない。」
「はい?」

「女性はこうして、抱き抱えるものだ。」
ふわっと私の身体は、空中に上がった。
うわっ!王太子殿下の顔が近い。

「失礼しました!」
ジュスタンは、恥ずかしながら謝った。
それを見た私は、笑えてきた。

「ふふふ。」
「アリーヌ?」
「もう大丈夫です。お二人を見ていたら、元気が出ました。」

そして王太子殿下は、私を下ろしてくれた。
「無理しなくていいんだよ、アリーヌ。」
「無理などしておりません。殿下。」

私達が見つめ合うと、ジュスタンはどこかに隠れてしまった。
「ジュスタンの奴、さっき言った事を、早速実行しているな。」
王太子殿下は、私の手を握った。

「今の内に、二人きりになれる場所に行こう。」
「えっ?」
「こっちだ、アリーヌ。」

王太子殿下は、私の手を引いて、走り出した。
「あれ?王太子殿下⁉」
遠くから、ジュスタンの声が聞こえた。

「早く、早く!アリーヌ。」
「お待ちください!殿下!」
必死にドレスの裾を持って、王太子殿下に付いていく。

「ここまで来れば、大丈夫だ。」
気が付けば、1階の庭に着いた。
「まあ、綺麗。」
白い花が一面に咲いていて、風が吹くとキラキラ光った。

「ここは、亡くなった母上の花畑なんだ。」
「お母上の?」
王太子殿下は、花を一輪摘むと、私の頭に飾ってくれた。

「ここに来るとね、母上を思い出すんだ。」
「……大切な場所なのですね。」
「ああ。」

庭の白い花を見ている王太子殿下は、無表情だった。
きっと悲しいけれど、私にそれを見せない為に。

「私はここに来ると、悩みも無くなる。アリーヌは、どうすれば悩みが無くなる?」
「殿下……」
「アリーヌは、たまに難しい顔をする。それを取り除いてあげたいんだ。」

私は泣きそうになりながら、殿下の背中をぎゅっと抱きしめた。
「私は……殿下とお話しているだけで、悩みが無くなります。」
「それは嬉しいな。」

殿下は振り返ると、私のおでこを突っついた。
「それで?今、悩んでいる事は?」
私は言おうか、言うまいか、困った。
「何でも言ってくれ。夫婦になる仲じゃないか。」
「はい、殿下。」

私は思い切って、この場に賭けようと思った。
「王妃様の事です。」
「お母上の事?」
「フランシス様を、王太子にしようと望んでいるとか。」
「誰に聞いた?」

私は、黙った。
「ジュスタンだな。全く余計な事を。」
王太子殿下は、急に歩き出した。
「殿下?」
私もそれに付いていく。

すると庭の端に、白い椅子が用意されていた。
「ここなら、誰にも聞かれないだろう。」
王太子殿下は、その椅子に座った。
「アリーヌも、横に座って。」
「はい、殿下。」

私が座ると、殿下は足を組んだ。
「ジュスタンが言っている事は、本当だ。」
「では、王妃様は王太子殿下を……」

暗殺しようとしているのでは!

「そうと決まった訳じゃない。」
「殿下……」
「二人共、私の事を慕ってくれている。私を陥れてとはとても思えない。」

王太子殿下は、王妃様とフランシス様の事を信頼しているのだろう。
私も王妃様が、王太子殿下の暗殺に加わるとは思えない。

そうなると、今度は王妃様のお父上が怪しい。
自分の娘を王族に嫁がせて、王子が生まれた場合、その王子を次期王太子にしたいのは、祖父の夢だ。

「では、もう一つ教えて下さい。」
「何を?」
「王妃様の実家はどこですか?」

すると王太子殿下は、私の両肩を掴んだ。
「アリーヌ、何を考えているのだ。」
「殿下?」
「王妃の外戚など、関係ないだろう。」
「いえ、関係あります!」

私は、必死に王太子殿下に訴えた。
「フランシス様を王太子にしたいのは、一番は王妃様の外戚でしょう!王太子殿下を陥れたいと考えるには、ちょうどいいお方です!」
殿下は私を、困った表情で見つめた。

「どうしてアリーヌが、そこまで気にするんだ。」
「それは!」
まさか、あなたは前世で暗殺されたのよ、なんて言えない!

「アリーヌ。私は心配だ。」
「殿下?」
「君は、人を疑い過ぎるのではないか?ジュスタンを疑っていたのも、私に何かするのではないかと、考えていたからだろう。」

私は、言葉を無くしてしまった。
「王妃も、フランシスもジュスタンも、私にとっては大切な人だ。疑ってかかるのは、止してくれ!」
そうだ。家族も側近も疑えと言ったら、王太子殿下は誰を信頼すればいいと、言うのだろう。
「分かりました。」

そう返事をすると、王太子殿下は私を抱きしめてくれた。
「一番は、君に何かあるのが嫌なんだ。」

殿下の切ない言葉。
もしかして殿下は、私を大切に思って下さっている?

「アリーヌ。どうか危ない事には、首を突っ込まないでくれ。」
「はい、殿下。」

その時の私は、自分の嘘が王太子殿下に伝わってしまうのが怖かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結】花冠をあなたに ―信じ尽くした彼女の、最期の言葉―

桜野なつみ
恋愛
病弱な婚約者を支え続けた令嬢ミリアーナ。 幼いころから彼を想い、薬草を学び、研究し、元気になったら花畑で花冠を編ごう」と約束していた。 けれど、叔母と従妹の影がその誓いをゆがめ、やがて誤解と病に蝕まれていく。 最期に彼女が残したのは――ただ一つの言葉。 全十話 完結予定です。 (最初は全四話と言っていました。どんどん長くなってしまい、申し訳ありません。)

処理中です...