28 / 212
第一章 転生者二人の高校生活
意外な決着
しおりを挟む
玲奈のスキルを受けた一八は徐に跪く。玲奈に背を向けていた彼はどうしてか腕の中にケルベロスを抱いていた。
一八はそのまま前のめりに倒れ込んでいく……。
玲奈は状況を察していた。死闘の中、勝負を捨ててまで一八がケルベロスを守ったのだと。態勢を崩していたものの、玲奈と対峙する彼にしかケルベロスは守れなかったことだろう。
騎士とは何かを守る者だ。それこそ命を懸けて守り切る存在だと玲奈は考えている。この結果は誰が騎士であり、騎士でないのかを明確にしていた。
勝利したはずが呆然と立ち尽くす玲奈。校庭に満ちる静寂。しかし、一瞬のあと大歓声が玲奈を称えた。たった一人、大地に立つ彼女に万雷の拍手が送られている。
ただ玲奈に笑顔はなく、苦い表情のままだ。彼女にとって歓声も拍手も皮肉でしかない。玲奈は何も守れなかったのだ。それどころか彼女は子犬を救った英雄を叩きのめしている。玲奈にとって観衆からの賛美は騎士であることを否定していた……。
玲奈は長い溜め息を吐く。一八の腕から顔を覗かせるケルベロスには安堵したものの、ピクリともしない一八には罪悪感しか覚えない。
「玲奈ちゃん!」
立ち呆けている玲奈に駆け寄る影。ギャラリーに紛れていた恵美里と舞子が近寄っていた。
「玲奈さん、凄かったですね! 最後の技は血統スキルでしょうか? おめでとうございます!」
「玲奈ちゃん、あたし涙が出てきちゃった。まさかこんな大きな男の子に勝っちゃうなんて……」
観衆同様に二人も玲奈を称える。玲奈の気も知らず、ただ一方的な賞賛を彼女に浴びせるだけだ。
俯く玲奈は、しばらく口を噤んでいた。しかし、ようやく彼女の重い口が言葉を発する。
「恵美里殿下、この勝負は私の負けです。申し訳ありません……」
結果とは正反対の台詞を玲奈は口にした。
流石に恵美里と舞子はキョトンとしている。敵軍の大将が完全にのびていたというのに、矛盾するその話には小首を傾げるしかない。
「最後の瞬間、ケルベロスが飛び込んできたのです。私はスキルを発動しており、もう剣を振り下ろすしかできませんでした。けれど、一八は躊躇うことなくケルベロスを守ったのです。遠目にはよく分からなかったかもしれませんが、一八は子犬の命を救いました……」
ケルベロスが勝負に乱入し、勝敗にかかわってしまったこと。ようやく二人は知らされていた。
「野蛮なのは私の方でした……。勝利することしか考えていなかったのです。願望のみに忠実な蛮族。私が掲げた正義は実に安っぽいものでした……」
何度も首を振る玲奈。かといって玲奈の戦いぶりは勝利に値するものだと二人は信じて疑わない。けれども、項垂れる玲奈を見てしまっては彼女の言葉を正そうとは思えなかった。
しばし恵美里は考え込んでいる。しかし、結論に達したのか彼女は大きく頷いた。小さく笑みを浮かべながら、玲奈の意を汲んだ言葉を口にしている。
「分かりました。玲奈さん、この賭けはわたくしたちの負けということで滝井副会長に伝えさせていただきます……」
家臣の意思を尊重したかのような台詞である。恵美里は念願だった賭けの勝利を手放していた。
これより先に噴出するだろう不満の数々は容易に想像できたけれど、肩を落とす玲奈に追い打ちをかけるなんて選択はあり得なかったようだ……。
一八はそのまま前のめりに倒れ込んでいく……。
玲奈は状況を察していた。死闘の中、勝負を捨ててまで一八がケルベロスを守ったのだと。態勢を崩していたものの、玲奈と対峙する彼にしかケルベロスは守れなかったことだろう。
騎士とは何かを守る者だ。それこそ命を懸けて守り切る存在だと玲奈は考えている。この結果は誰が騎士であり、騎士でないのかを明確にしていた。
勝利したはずが呆然と立ち尽くす玲奈。校庭に満ちる静寂。しかし、一瞬のあと大歓声が玲奈を称えた。たった一人、大地に立つ彼女に万雷の拍手が送られている。
ただ玲奈に笑顔はなく、苦い表情のままだ。彼女にとって歓声も拍手も皮肉でしかない。玲奈は何も守れなかったのだ。それどころか彼女は子犬を救った英雄を叩きのめしている。玲奈にとって観衆からの賛美は騎士であることを否定していた……。
玲奈は長い溜め息を吐く。一八の腕から顔を覗かせるケルベロスには安堵したものの、ピクリともしない一八には罪悪感しか覚えない。
「玲奈ちゃん!」
立ち呆けている玲奈に駆け寄る影。ギャラリーに紛れていた恵美里と舞子が近寄っていた。
「玲奈さん、凄かったですね! 最後の技は血統スキルでしょうか? おめでとうございます!」
「玲奈ちゃん、あたし涙が出てきちゃった。まさかこんな大きな男の子に勝っちゃうなんて……」
観衆同様に二人も玲奈を称える。玲奈の気も知らず、ただ一方的な賞賛を彼女に浴びせるだけだ。
俯く玲奈は、しばらく口を噤んでいた。しかし、ようやく彼女の重い口が言葉を発する。
「恵美里殿下、この勝負は私の負けです。申し訳ありません……」
結果とは正反対の台詞を玲奈は口にした。
流石に恵美里と舞子はキョトンとしている。敵軍の大将が完全にのびていたというのに、矛盾するその話には小首を傾げるしかない。
「最後の瞬間、ケルベロスが飛び込んできたのです。私はスキルを発動しており、もう剣を振り下ろすしかできませんでした。けれど、一八は躊躇うことなくケルベロスを守ったのです。遠目にはよく分からなかったかもしれませんが、一八は子犬の命を救いました……」
ケルベロスが勝負に乱入し、勝敗にかかわってしまったこと。ようやく二人は知らされていた。
「野蛮なのは私の方でした……。勝利することしか考えていなかったのです。願望のみに忠実な蛮族。私が掲げた正義は実に安っぽいものでした……」
何度も首を振る玲奈。かといって玲奈の戦いぶりは勝利に値するものだと二人は信じて疑わない。けれども、項垂れる玲奈を見てしまっては彼女の言葉を正そうとは思えなかった。
しばし恵美里は考え込んでいる。しかし、結論に達したのか彼女は大きく頷いた。小さく笑みを浮かべながら、玲奈の意を汲んだ言葉を口にしている。
「分かりました。玲奈さん、この賭けはわたくしたちの負けということで滝井副会長に伝えさせていただきます……」
家臣の意思を尊重したかのような台詞である。恵美里は念願だった賭けの勝利を手放していた。
これより先に噴出するだろう不満の数々は容易に想像できたけれど、肩を落とす玲奈に追い打ちをかけるなんて選択はあり得なかったようだ……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる