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第一章 転生者二人の高校生活
剣術を始める前に
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授業が終わったあと一八は職員室へと来ていた。昼休みに書いた退部届。主将という立場から書き始めるのには時間を要したものの、書き上げた今は堂々と顧問へ提出している。
「奥田、本気か? 柔術を続けたのなら進学や就職に有利だぞ?」
顧問の千林が聞いた。新学年が始まったばかり。新しいメンバーで頑張ろうという矢先の退部届に困惑顔である。
「先生、俺は決めたんだ。人類のためとかそんなんじゃねぇ。奥田一八がどうしたいか。俺は最強になりたいんだ。だからこそ……」
一八の表情は真剣そのものだった。千林は相槌を打って彼の話を聞く。
「俺は騎士を目指す……」
まるで予期せぬ話に千林は息を呑んだ。騎士となるには騎士学校を卒業しなければならない。また未だかつてアネヤコウジ武道学館から騎士学校に合格した者はいない。
「お前、自分の学力を理解しているか? 校内では中の上ってところだが、全国的には最低のレベルだぞ?」
「毎日勉強してる。俺は本気なんだよ。柔術部も両立させようとしていたけど、それじゃあ駄目だって言われたんだ……」
眉根を寄せる千林。いったい誰にそそのかされたのかと。柔術に限れば最強である奥田一八を異なる道に誘う者が気になってしまう。
「それは誰だ? お前に意見できる者など校内にはいないだろう?」
頷く一八を見る限りは千林の予想通り。だとすればご両親かもしれないと思う。一八に意見する者がそれほど多くいるとは考えられない。
「岸野玲奈――――」
思いもせぬ人物に千林は再び絶句させられている。何度も顔を振る千林。その名は地元の有名人に他ならない。三年前ならば地区の大スターであった。
「どうして彼女がお前に意見する? まさか付き合っているのか?」
「そんなんじゃねぇよ。家が隣っていうだけだ。あいつは小さな頃から騎士を目指していた。でも俺は勉強なんかしてこなかったんだ。ついこの前まではそれで良いと思っていた」
何かしらの転機があったのは間違いない。岸野玲奈が幼馴染みであるのなら、今さら彼女に看過されたなんて話ではないはずだ。
「俺は浅村ヒカリをぶん投げてやりたい……」
続けられた一八の話には思考が追いつかない。千林にはまるで因果関係が分からなかった。
「浅村ヒカリ大尉か? どうして彼女の名が出てくる? お前は今の今まで岸野玲奈について話していただろう?」
「玲奈は俺に剣術を教えてくれるだけだ。だから俺は柔術部を辞めて岸野魔道剣術道場で学ぶことにした。浅村ヒカリは俺をコケにしやがったんだ。試合では無敗だった俺を何度も何度も投げやがった。終いには力だけだと言いやがる……」
正確にいうと浅村ヒカリは褒めていたけれど、一八にとっては酷評でしかなかった。前世から考えても弱者として扱われたのは初めてだ。それが屈辱でないのなら一八は騎士など目指していない。
「だから俺はあの女を倒す」
揺るぎない決意を千林は感じていた。柔術界において一八は幼少の頃から注目されている。だからこそ千林は一八が武道学館に入学したときには手を叩いて喜んだ。柔術部が脚光を浴びるのは間違いなかったし、彼が名を馳せるほどに強い新入生が集まってくるはずと。
「しかし、幾ら岸野玲奈に剣術を習ったといって筆記試験もあるのだぞ? 武道学館から一人も合格者が出ていないのは剣術ではなく学力だからな」
「先生、俺は何も学力で合格をもぎ取ろうと思ってない。学力は人並みにさえなればいいんだ。なぜなら俺は剣術試験にて圧倒してやるから……」
一八とて一年頑張っただけでトップレベルの学力を得られるとは考えていない。彼なりのプランがあってこその受験である。学力試験にて足切りされない程度になれたのなら、勝算はあると考えていた。
「先生、すまねぇ。せっかく主将に選んでもらったけど、俺はもう柔術に費やす時間がねぇんだ。こんな時間だって惜しいと思っている……」
一八の意志は固かった。完全に個人的な理由であったものの、千林が柔術部に残って欲しいと考えるのも利己的だと言えた。だとしたら千林が説き伏せる術など残っていない。
「分かった……。ただし絶対に合格すると約束しろ。奥田一八は俺の夢だった。高校生活を無敗で終えるというスーパーヒーロー。俺の夢をぶっ壊すんだ。中途半端は許さんぞ?」
スッと差し出された右手。一八は直ぐさま意味合いを理解した。
これは男の約束である。一八はガッチリとその手を取った。迷惑をかけるのは分かりきっている。しかし、二人の間で約束したことを成し遂げられたのなら十分な恩返しになると思う。
一八は自信満々に千林へと告げる。
俺は騎士になるから――――と。
「奥田、本気か? 柔術を続けたのなら進学や就職に有利だぞ?」
顧問の千林が聞いた。新学年が始まったばかり。新しいメンバーで頑張ろうという矢先の退部届に困惑顔である。
「先生、俺は決めたんだ。人類のためとかそんなんじゃねぇ。奥田一八がどうしたいか。俺は最強になりたいんだ。だからこそ……」
一八の表情は真剣そのものだった。千林は相槌を打って彼の話を聞く。
「俺は騎士を目指す……」
まるで予期せぬ話に千林は息を呑んだ。騎士となるには騎士学校を卒業しなければならない。また未だかつてアネヤコウジ武道学館から騎士学校に合格した者はいない。
「お前、自分の学力を理解しているか? 校内では中の上ってところだが、全国的には最低のレベルだぞ?」
「毎日勉強してる。俺は本気なんだよ。柔術部も両立させようとしていたけど、それじゃあ駄目だって言われたんだ……」
眉根を寄せる千林。いったい誰にそそのかされたのかと。柔術に限れば最強である奥田一八を異なる道に誘う者が気になってしまう。
「それは誰だ? お前に意見できる者など校内にはいないだろう?」
頷く一八を見る限りは千林の予想通り。だとすればご両親かもしれないと思う。一八に意見する者がそれほど多くいるとは考えられない。
「岸野玲奈――――」
思いもせぬ人物に千林は再び絶句させられている。何度も顔を振る千林。その名は地元の有名人に他ならない。三年前ならば地区の大スターであった。
「どうして彼女がお前に意見する? まさか付き合っているのか?」
「そんなんじゃねぇよ。家が隣っていうだけだ。あいつは小さな頃から騎士を目指していた。でも俺は勉強なんかしてこなかったんだ。ついこの前まではそれで良いと思っていた」
何かしらの転機があったのは間違いない。岸野玲奈が幼馴染みであるのなら、今さら彼女に看過されたなんて話ではないはずだ。
「俺は浅村ヒカリをぶん投げてやりたい……」
続けられた一八の話には思考が追いつかない。千林にはまるで因果関係が分からなかった。
「浅村ヒカリ大尉か? どうして彼女の名が出てくる? お前は今の今まで岸野玲奈について話していただろう?」
「玲奈は俺に剣術を教えてくれるだけだ。だから俺は柔術部を辞めて岸野魔道剣術道場で学ぶことにした。浅村ヒカリは俺をコケにしやがったんだ。試合では無敗だった俺を何度も何度も投げやがった。終いには力だけだと言いやがる……」
正確にいうと浅村ヒカリは褒めていたけれど、一八にとっては酷評でしかなかった。前世から考えても弱者として扱われたのは初めてだ。それが屈辱でないのなら一八は騎士など目指していない。
「だから俺はあの女を倒す」
揺るぎない決意を千林は感じていた。柔術界において一八は幼少の頃から注目されている。だからこそ千林は一八が武道学館に入学したときには手を叩いて喜んだ。柔術部が脚光を浴びるのは間違いなかったし、彼が名を馳せるほどに強い新入生が集まってくるはずと。
「しかし、幾ら岸野玲奈に剣術を習ったといって筆記試験もあるのだぞ? 武道学館から一人も合格者が出ていないのは剣術ではなく学力だからな」
「先生、俺は何も学力で合格をもぎ取ろうと思ってない。学力は人並みにさえなればいいんだ。なぜなら俺は剣術試験にて圧倒してやるから……」
一八とて一年頑張っただけでトップレベルの学力を得られるとは考えていない。彼なりのプランがあってこその受験である。学力試験にて足切りされない程度になれたのなら、勝算はあると考えていた。
「先生、すまねぇ。せっかく主将に選んでもらったけど、俺はもう柔術に費やす時間がねぇんだ。こんな時間だって惜しいと思っている……」
一八の意志は固かった。完全に個人的な理由であったものの、千林が柔術部に残って欲しいと考えるのも利己的だと言えた。だとしたら千林が説き伏せる術など残っていない。
「分かった……。ただし絶対に合格すると約束しろ。奥田一八は俺の夢だった。高校生活を無敗で終えるというスーパーヒーロー。俺の夢をぶっ壊すんだ。中途半端は許さんぞ?」
スッと差し出された右手。一八は直ぐさま意味合いを理解した。
これは男の約束である。一八はガッチリとその手を取った。迷惑をかけるのは分かりきっている。しかし、二人の間で約束したことを成し遂げられたのなら十分な恩返しになると思う。
一八は自信満々に千林へと告げる。
俺は騎士になるから――――と。
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