オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

キョウト支部

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 共和国軍守護兵団キョウト支部――――。
 早朝にあった魔物討伐から帰還した浅村小隊は士官級が二人しかいなかった。それはそのはず共和国軍は最前線の防衛に尽力しており、殆どの騎士が前線へと配備されている。トウカイ王国の二の舞にはなるまいと天軍の侵攻を警戒していた。

「大尉、今朝の被害報告です……」
 士官級の一人である優子が今朝方の出撃による被害報告を提出する。
 長い息を吐きながらヒカリがそれに目を通す。その表情から思わしくない内容であったのは察するに容易い。
「だから私は新兵をいきなりキョウトに配備するなと進言したというのに……」
 ヒカリは報告書をパンと叩いてから机に放り投げる。どうやら配備されたばかりの新卒兵の多くが犠牲となってしまったらしい。
「かといって実戦経験を積まないと成長しませんし……」
「そんなものは比較的魔物被害が少ないオオサカですべきだ。オオサカで実戦を経験してからキョウトないしコウベやナラへと配置すればいいだけ」
 首都オオサカの周辺には四つの都市があった。北にキョウト、東にナラ、そして西にはコウベがあり、南にはワカヤマ。都市間にはいずれも魔物が住んでいたけれど、オオサカと四都を結ぶ街道に凶悪な魔物は少ない。よってヒカリはオオサカにて新兵が腕を磨くことを上申していたようだ。

「しかし、オオサカは騎士学校の管轄です。騎士たちが腕を磨く場でありますし、新兵までオオサカに配備すれば今度は新卒する候補生のレベルが低下しかねません」
 概ね優子が話す通りである。オオサカ周辺の警護は騎士学校が一手に引き受けており、候補生たちはオオサカで実戦経験を積んでいくのだ。
「それは私も理解しているが、流石に一般兵の熟練度がなさ過ぎる。無駄死にも良いところだ。私の裁量で出撃させなくても良いのであればまだ考えようもあるのだが……」
 言ってヒカリは嘆息する。軍の指示通りに動くしか彼女にはできなかったのだ。

 魔物事故の危険度により出撃する規模は細かく決まっている。危険度Bランクであれば基本は大隊以上の出撃となるが、その中に騎士で構成された班が含まれるのなら中隊規模まで減ずることができた。しかし、キョウト支部には班を編制するだけの騎士がいない。規定通りに大隊以上の出撃とするしかなかった。
「いきなりBランクでしたからね……」
「まったくだ。数人を残すくらいしか認められないのだからな。配備されて早々にBランク被害に対応できるはずがないのだ……」
 配備されて二日目である。新兵は概ね高校を卒業したばかりの者たち。少しの訓練も行わずに彼らは出撃を命じられていた。

「せめて彼がいてくれたら、もう少し被害が抑えられたのかもしれません。彼がいたならば、新兵を落ち着かせる役を担ってくれたでしょう……」
 溜め息を零しながら優子が言った。台詞から推し量ると、その役割を請け負っていた彼はもういない。戦死したのか、或いは兵団を去って行ったのか。
「なんだ? 私の勧めが間違っているとでも言うつもりか?」
「そういうわけでは……。ただタイミングが悪かったと思うだけです」
 ピクリと眉を動かすヒカリに優子は言葉を濁した。優子としてはヒカリが語ったままだと考えている。彼女の勧めはとやらは結果的に間違っていたのだと。

「言っておくが、長い目で見ると絶対に間違っていない。あいつは一年間キチンと学ぶだけで一線級になる。この私が二年も指導してやったのだ。緊張していたようだが、現に難関を乗り越えて見せただろう?」
 二人が口にする彼。二人共が戦力だと考えている逸材らしい。

「伸吾は必ずここに戻ってくる――――」
 優子が必要戦力と考える人物の名。それが鷹山伸吾であるとヒカリは言った。
「伸吾が配備されたなら、優子は少尉に昇格できるはず。私かお前の下について戦うことになるだろう。騎士となり大幅に成長した姿を見せてくれるはずだ」
「そうでしょうか? あまり目立ってしまうと前線に配備されるかと思いますけど」
 優子は不安だった。士官級が増えるのなら喜ぶべきことなのだが、生憎と今年度の配備はなかったし、来年も同じだろうと危惧している。

「それに私たちだって来年は前線配備かもしれませんよ?」
「まあそれな。天軍が攻勢を強めたのならあり得る話だ。しかし、現状のままであれば下手に動かさないだろう。何しろ私たちはキョウト市の被害を一度も出していない。街に被害が出ていないうちは配置替えなどしないはずだ」
 ヒカリには自信があった。全て希望通りになるだろうと。このあと明確な理由を彼女は口にする。
「伸吾の配備希望は出しているし、今年の騎士学校にはあの二人がいる。如何に伸吾といえども首席にはならんよ……」
 ヒカリの話に優子が頷いている。ようやくと優子も納得したようだ。
「岸野さんと奥田君ですね……。そういえば二人とも合格したとニュースでやってましたね」
「あの二人は正直に次元が違う。今すぐに最前線へ配置しても構わんのはあの二人くらいだろう」
 別格だと話すのは玲奈と一八のこと。二人の剣を間近に見たヒカリは素直に評価しているらしい。即戦力とのお墨付きを与えている。
「ではアカリちゃんはどうなのです?」
 ここで優子が話題を変えた。ニュースにもなる二人の話ではなく、上官の妹に関して興味を持っている。
「まあアカリは駄目かもしれん。どうも潜在魔力量が不足しているらしい。計測で引っかかったと連絡を受けた。幾ら技術を磨こうとも魔力だけはどうにもならん」
 意外にもヒカリはあっさりと返していた。実の妹であるというのに落胆もなければ期待感すらないようである。
「アカリは戦う者ではなかった……」
 遂には戦力外とも取れる発言まで。流石に優子はアカリが気の毒になってしまう。
「潜在魔力計測は一般的ではありませんしね……。大量の魔石を消費しますし……」
「まあそういうことだ。幼い頃から徹底して魔力を伸ばす訓練をさせてきたけれど、現状で伸びしろがないのであれば、アカリには素質がなかった。既に最大値であったとは想定外だよ」
 潜在魔力測定は最新の魔道計測機である。数年前に実用化されたばかりだ。以前であれば普通に配備できた剣士も計測値によっては専行替えを余儀なくされている。
「まあ前線ではなくとも護衛や地方支部であれば任務はあるだろう。何も全員が前線に張り付く必要はないのだ」
 確かにと優子。支部にも顔を見せていたアカリの現状は気の毒にも思えたけれど、騎士とは国に仕える者たちの称号である。前線で剣を握るだけが全てではない。
「何にせよ、来年は粒ぞろいだと聞いている。支部にも少しばかりは配慮してもらえるだろう。連続勤務の軽減ができる程度には……」
 まだ年度が始まったばかりだ。しかし、彼女たちは来年を見ている。いち早く戦力の増強を望んでいるからだ。オークの大量発生が天軍による謀略であると発覚してからは特にそれが顕著である。誰しもが共和国の行く末を案じていた……。
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