オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
99 / 212
第二章 騎士となるために

高原君

しおりを挟む
 一八と莉子は探索に入っていた。現れる魔物はラージスパイダーやホーンワラビーというEランク危険度の魔物ばかりである。量はそこそこいたけれど、一八が全て斬り倒していた。

「カズやん君、あたしにも倒させてくれなきゃ実績が……」
「うるせぇ。まだ序盤だろ? 終盤になれば参加させてやる」
 広域実習は一日かけて行われる。オオサカの魔物被害を軽減する目的もあるこの科目は、中途半端に行われるものではない。

「しっかし、本当に魔力を乗せてないの?」
 見事な太刀筋に莉子が目を丸くしている。斜陽は零月よりも一尺長いのだ。簡単に振り回す一八を見ては驚くしかなかった。

「雑魚に魔力を使うのはもったいねぇ。俺は去年のオーク戦で嫌というほど理解した。魔力は温存してなんぼ。余らせて帰るくらいがちょうどいい」
 乱戦になれば魔力を使う必要もあるだろう。しかし、狙い通りに刀を振れるのなら、魔力など込めなくても一刀両断にできる。奈落太刀は業物であるし、一般に出回っている刀とは一線を画すものだ。

「ワーウルフか……」
 ミノウ山地の麓まで来ると魔物の種類が変わった。しかし、問題はなかった。危険度が上がろうとも一八だって成長を遂げている。群れるワーウルフといえども、相手にはならなかった。
「ふーん、なかなか戦闘感がイイね? 斬っていく順位付けがイケてる。とても十八歳とは思えないな」
「そりゃあどうも。こちとら戦いに関しては年齢以上の経験を積んでんだ。他のやつと比べられても困る」
 オークキングに進化する前を含めると、一八は前世で百年以上も生きていた。その毎日が戦いである。数多の魔物を倒してきたし、オーク同士でも戦いが絶えない。戦闘経験だけは誰にも負けないといえる。

「あ、カズやん君、ちょっと待ってくれる?」
 急な坂道の手前。少しばかり森が開けた場所で莉子が言った。
 疲れたはずはない。エリアに入ってからは徒歩であったけれど、魔力を使うどころか剣すら振っていない彼女が疲労感を覚えるはずもなかった。

「どうした?」
 一八が問うと莉子はハンディデバイスを操作。彼女がボックスから取り出したのは百合の花束であった。

 莉子はそっと地面にそれを置くや、片膝をついてそのまま祈り始めている。
「マナリス様、どうか高原君が安らかに……」
 一八は静かに祈りが済むまで待つ。聞くまでもないことだ。昨年度の死者である高原候補生がこの場所で尽きたこと。無関係な場所で花を供えるはずもなかった。

「ごめん、ちいっと雰囲気悪くしたね?」
「ああいや、構わん。ただ祈る相手が間違っているな? 高原ってのはマナリスよりも素晴らしい女神の元へと還っていったはずだ……」
 魂の行き先を知る一八。次に向かう世界はマナリスの手を離れる。それはマナリスから直々に聞いた話であった。

「カズやん君はマナリス教徒じゃないの?」
「いや、一応は信徒だ。何しろ俺は女神の加護を持っているし……」
「あ、そういやカズやん君も女神の加護を持ってるんだったね! 超アガるやつじゃん! あたしも加護が欲しかったなぁ!」
 女神の加護を持つ一八と玲奈。魔力に問題がない玲奈や圧倒的な強さを誇る一八が莉子には羨ましく感じられた。それが加護による恩恵ではないかと思えて仕方がない。

「じゃあさ、どうしてマナリス様に祈っちゃ駄目なの?」
 再び歩き始めた二人だが、莉子は話を続ける。敬虔な信者であれば、事あるごとに祈りを捧げるはずと。
「さあな。そんな気がしただけだ……」
 説明できるはずがない一八は濁して答えている。この世界に生きる限りはマナリスに祈るべきだ。しかし、死後は別の女神が担当するだなんて話を信じてもらえるはずがない。

「急いで行くぞ。午前中に折り返しまで到着するからな」
 一八が足を速めている。この度の実習は必ず無事に戻らねばならなかった。莉子がトラウマを払拭するためには、魔力切れなど起こさずに任務を完遂するしかない。

 ミノウ山地の中腹。そこが二人の目的地である……。



*****************
次回より隔日の更新となります。
次回の予定は27日更新です!
*****************
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...