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第二章 騎士となるために
バジリスク
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一八と莉子もまた緊急的な撤収命令に耳を澄ませている。強大な魔物と聞けば流石に無視はできない。莉子はまだ一匹の魔物も狩っていなかったけれど、戦果云々を口にする場合ではなかった。
「カズやん君!?」
「撤収だ。調子に乗って奥まで入りすぎちまったな……」
折り返しと言うべき地点まで、いち早く到着しようとしたのが裏目に出た。莉子に戦果を与えようと頑張っていたのに、今となっては完全な徒労である。
「急ぐぞ!」
「うん!」
来た道を戻っていく。手分けして死体の回収をしつつ、現れる魔物にも対処している。割と骨が折れる任務だったが、律儀にも二人は全ての死体を回収していた。
「クソ、急に魔物が多くなったぞ!?」
「あたしも戦う! もう帰るだけだしいいっしょ?」
「ああ、頼む。流石に対応しきれねぇ……」
来た道を戻るだけだというのに、異様な数の魔物が出現している。全てが弱い魔物であったけれど、こんなにも現れるだなんて完全に想定外だ。
「何かに……追い立てられてる?」
そんな疑問を一八が思考した瞬間、耳をつんざく魔物の声が木霊した。
加えて木々がへし折れる音。どう考えても自然と発生したようには思えない。
「マジかよ……」
巨大な影が二人の行く手を阻んでいた。麓より登ってきた魔物。魔物生態学でも学んだそれに違いなかった。
「バジリスク……」
現れたのはバジリスクだ。完全に目が合っている。今さらやり過ごすのは困難だろう。無足である個体は森林地帯に強い。木々が生い茂っていたとしても、すり抜けて移動するため、森で出会ってしまえば逃げ切るのは難しい。
「まさか……去年の?」
バジリスクの口から炎が漏れていた。加えて個体は無足であり、莉子は彷彿と去年の記憶を思い出している。
舌を出すたびに炎がチラついていた。それは記憶と合致する。魔力強化を怠れば、瞬く間に消し炭となってしまうはずだ。
「カズやん君、炎を避けきれないのなら、防御魔法をステージ3まで展開して。そうじゃなきゃ黒焦げになっちゃうから!」
「あいよ。経験談とは頼りになるな……」
一刻も早く撤収しなければならなかったというのに、戦闘は避けられそうになかった。獲物を狙うような目で凝視するバジリスクが見逃してくれるはずもない。
「ちくしょう、やるっきゃねぇな……」
「確か輪切りにしてくれるんだよね?」
ニシシと笑う莉子。トラウマが蘇っているのかと思えば、彼女にはまだ余裕があるのかもしれない。
「カズやん君、サンキュ。君が魔力を温存させてくれたから、今度こそあたしは戦える……」
どうやら空元気ではないようだ。莉子は零月に手をやり、この実習で始めて刀を抜いた。
「やっと敵討ちできるよ――――」
トラウマなど最初からなかった。莉子は始めからバジリスクとの戦いを望んでいたらしい。花束を用意していたのもエリア2の探索をすると決めていたからだろう。
「あんま調子に乗るなよ? 強大な魔物は間違ってもコイツじゃねぇ。さっさと片付けて戻るぞ」
「うは! 強気だね! 作戦は?」
「デカいだけの蛇に何ができる? 逃げ回られると厄介だ。全開魔力でぶった切るだけ」
一八は両手に斜陽を握っている。全力で戦うことは問わずとも分かっただろう。弱い魔物が相手の時には片手で振り回していたのだから。
「りょ! じゃあ、あたしも全力で行く」
二人が奈落太刀を構えている。二本の長尺刀はまるで牙のよう。そんな姿に威圧感を覚えたのかバジリスクは身動き一つしなくなっていた。
「こねぇなら行くぞっ!」
一八が斬り掛かった。バジリスクは即座に炎を吐いて応戦。だが、一八は猛然と突っ込んで行く。防御魔法のレベルは聞いた通りにステージ3。ほぼ全開という開放値である。無傷ではいられないだろうが、早期の討伐を視野に入れてのことだ。
刹那に甲高い金属音が木霊する。力の限りに振りきった一八の一撃だが、バジリスクの頭部は切り裂けなかった。
「カズやん君、頭はめちゃくちゃ固いの!」
「先に言えっ!」
即座に莉子が斬り掛かった。水平に薙ぎ払うような斬撃。頭の付け根を狙った攻撃は振り切れていたけれど、鱗を少し斬り裂いただけだ。
透かさずバジリスクが反撃を始める。大きな口を開いて、噛みつきというより二人を飲み込むかのように。
二人共が刀を振り切ったあとだ。防御魔法は展開していたが、この攻撃をまともに受けてしまえば、致命傷は避けられない。
「クソが!」
体勢は完全に崩れていたけれど、一八は力任せに切り返す。腹筋も背筋もよじれてしまいそうになっていたが、全力でバジリスクの口元へと奈落太刀を合わせている。
再び鼓膜に響く金属音。一八の切り返しがヒットしていた。
「ふはは! やったぜ!」
力任せの攻撃はバジリスクの長い牙を折っている。流石に二本は無理であったが、それでも最初の一本は根元に近い太い部分を完璧に両断していた。
「すごい……」
莉子は呆気にとられた。高原が何度斬り付けようとも反応すらしなかったバジリスクが悶絶している。まだ彼は二回しか攻撃していなかったというのに。
「覚悟しろやぁぁっ!!」
時を移さず一八は追撃を加える。今度は視認できるほどに強大な魔力が乗った一撃。一八が決めにかかっているのだと莉子にも理解できた。
遭遇から僅か三分。それは圧巻の戦闘だった。
莉子はただ呆然と眺めるだけ。小さく頭を振る以外は何もできない。目の前の光景が信じられないままである……。
バジリスクの頭部は胴体から切り離されていた――――。
「カズやん君!?」
「撤収だ。調子に乗って奥まで入りすぎちまったな……」
折り返しと言うべき地点まで、いち早く到着しようとしたのが裏目に出た。莉子に戦果を与えようと頑張っていたのに、今となっては完全な徒労である。
「急ぐぞ!」
「うん!」
来た道を戻っていく。手分けして死体の回収をしつつ、現れる魔物にも対処している。割と骨が折れる任務だったが、律儀にも二人は全ての死体を回収していた。
「クソ、急に魔物が多くなったぞ!?」
「あたしも戦う! もう帰るだけだしいいっしょ?」
「ああ、頼む。流石に対応しきれねぇ……」
来た道を戻るだけだというのに、異様な数の魔物が出現している。全てが弱い魔物であったけれど、こんなにも現れるだなんて完全に想定外だ。
「何かに……追い立てられてる?」
そんな疑問を一八が思考した瞬間、耳をつんざく魔物の声が木霊した。
加えて木々がへし折れる音。どう考えても自然と発生したようには思えない。
「マジかよ……」
巨大な影が二人の行く手を阻んでいた。麓より登ってきた魔物。魔物生態学でも学んだそれに違いなかった。
「バジリスク……」
現れたのはバジリスクだ。完全に目が合っている。今さらやり過ごすのは困難だろう。無足である個体は森林地帯に強い。木々が生い茂っていたとしても、すり抜けて移動するため、森で出会ってしまえば逃げ切るのは難しい。
「まさか……去年の?」
バジリスクの口から炎が漏れていた。加えて個体は無足であり、莉子は彷彿と去年の記憶を思い出している。
舌を出すたびに炎がチラついていた。それは記憶と合致する。魔力強化を怠れば、瞬く間に消し炭となってしまうはずだ。
「カズやん君、炎を避けきれないのなら、防御魔法をステージ3まで展開して。そうじゃなきゃ黒焦げになっちゃうから!」
「あいよ。経験談とは頼りになるな……」
一刻も早く撤収しなければならなかったというのに、戦闘は避けられそうになかった。獲物を狙うような目で凝視するバジリスクが見逃してくれるはずもない。
「ちくしょう、やるっきゃねぇな……」
「確か輪切りにしてくれるんだよね?」
ニシシと笑う莉子。トラウマが蘇っているのかと思えば、彼女にはまだ余裕があるのかもしれない。
「カズやん君、サンキュ。君が魔力を温存させてくれたから、今度こそあたしは戦える……」
どうやら空元気ではないようだ。莉子は零月に手をやり、この実習で始めて刀を抜いた。
「やっと敵討ちできるよ――――」
トラウマなど最初からなかった。莉子は始めからバジリスクとの戦いを望んでいたらしい。花束を用意していたのもエリア2の探索をすると決めていたからだろう。
「あんま調子に乗るなよ? 強大な魔物は間違ってもコイツじゃねぇ。さっさと片付けて戻るぞ」
「うは! 強気だね! 作戦は?」
「デカいだけの蛇に何ができる? 逃げ回られると厄介だ。全開魔力でぶった切るだけ」
一八は両手に斜陽を握っている。全力で戦うことは問わずとも分かっただろう。弱い魔物が相手の時には片手で振り回していたのだから。
「りょ! じゃあ、あたしも全力で行く」
二人が奈落太刀を構えている。二本の長尺刀はまるで牙のよう。そんな姿に威圧感を覚えたのかバジリスクは身動き一つしなくなっていた。
「こねぇなら行くぞっ!」
一八が斬り掛かった。バジリスクは即座に炎を吐いて応戦。だが、一八は猛然と突っ込んで行く。防御魔法のレベルは聞いた通りにステージ3。ほぼ全開という開放値である。無傷ではいられないだろうが、早期の討伐を視野に入れてのことだ。
刹那に甲高い金属音が木霊する。力の限りに振りきった一八の一撃だが、バジリスクの頭部は切り裂けなかった。
「カズやん君、頭はめちゃくちゃ固いの!」
「先に言えっ!」
即座に莉子が斬り掛かった。水平に薙ぎ払うような斬撃。頭の付け根を狙った攻撃は振り切れていたけれど、鱗を少し斬り裂いただけだ。
透かさずバジリスクが反撃を始める。大きな口を開いて、噛みつきというより二人を飲み込むかのように。
二人共が刀を振り切ったあとだ。防御魔法は展開していたが、この攻撃をまともに受けてしまえば、致命傷は避けられない。
「クソが!」
体勢は完全に崩れていたけれど、一八は力任せに切り返す。腹筋も背筋もよじれてしまいそうになっていたが、全力でバジリスクの口元へと奈落太刀を合わせている。
再び鼓膜に響く金属音。一八の切り返しがヒットしていた。
「ふはは! やったぜ!」
力任せの攻撃はバジリスクの長い牙を折っている。流石に二本は無理であったが、それでも最初の一本は根元に近い太い部分を完璧に両断していた。
「すごい……」
莉子は呆気にとられた。高原が何度斬り付けようとも反応すらしなかったバジリスクが悶絶している。まだ彼は二回しか攻撃していなかったというのに。
「覚悟しろやぁぁっ!!」
時を移さず一八は追撃を加える。今度は視認できるほどに強大な魔力が乗った一撃。一八が決めにかかっているのだと莉子にも理解できた。
遭遇から僅か三分。それは圧巻の戦闘だった。
莉子はただ呆然と眺めるだけ。小さく頭を振る以外は何もできない。目の前の光景が信じられないままである……。
バジリスクの頭部は胴体から切り離されていた――――。
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