オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

記憶と重なる者

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 玲奈たちは帰還後、学校に隣接する本部にて事情聴取を受けていた。説教にも似た長い話のあとようやく解放されている。

「まさかエクスキュアをかけてもらえるなんて思わなかったね!」
 莉子が寮への帰り道に笑いながら言った。
 酷い怪我を負った莉子と一八はキュア系の最上位魔法エクスキュアにて治療されている。エクスキュアは唱えられる者が少なく、往々にして詠唱と同時に魔力切れを起こしてしまうため、滅多なことでは施されなかった。

「あの状態で戦っていたのだからな。私が唱えられたら良かったのだが……」
「いや、玲奈ちんのキュアで随分と楽になったし! ありがとね!」
 取り留めのない話のあと、少しばかりの沈黙。だが、長くは続かなかった。タイミングを見計らっていたような莉子が話し始めたからだ。

「零月は玲奈ちんにあげるよ……」
 言って莉子は鞘ごと玲奈の前に突き出す。
 それは意外な話であった。確かに玲奈は借りたけれど、零月は莉子の愛刀であったのだ。

「別に私は莉子が普通の刀に持ち替えてくれたら構わんぞ?」
「いやもらってよ! 零月も玲奈ちんに振ってもらった方が嬉しいはず。あたしじゃ、あんなにも上手く扱えないからね……」
 愛刀は刀士としての魂である。よって易々と人に譲るなどあり得ない。

「もう意地を張る理由もなくなっちゃったのよ。高原君の仇討ちはカズやん君にされちゃったし、あたしはもう仲間に迷惑をかけられない。今年の一班は去年と全然違うんだもの」
 語られる話は莉子が零月に固執した原因と諦める理由であった。頑なに変更を拒否していたのは、何も愛刀であったからというわけでもなさそうだ。

「一応は十一月まで、あたし首席だったのよ。でも魔力切れの恐れがあるって教官と喧嘩しちゃったんだ……」
「んん? 別に剣の選択は強制じゃないだろう?」
「ま、そうなんだけど減点されちゃってさ。流石に頭にきたわ。あたしには零月を振る理由があったのに……」
 どうやら莉子は自身の言い分を少しも聞いてもらえなかったらしい。最終的に減点されて二席になったという。

「理由? 馬鹿以外の原因があるとは思えんが……」
「玲奈ちん、真顔で冗談はやめてよ!」
 決して冗談ではないと玲奈。これには苦笑いの莉子であるが、彼女は続きを口にする。

「去年の一班はね、みんなスピードタイプでさ、威力が全くなかったのよ。Dランクの魔物が現れただけで苦戦しちゃう。群れていようものなら無事では済まないくらいに」
 玲奈にも話が見えてきた。バランスの悪さが原因であると。三科合同の混成実習では考慮されるけれど、学科ごとの実習は能力順となっていたのだ。

「莉子がアタッカーをしていたわけか?」
「それしか手がなかったのよ。でも一度だって魔力切れを起こしていなかった。だからあたしは零月を振り続けてたの。教官に何を言われようとも……」
 小柄な莉子は明らかにスピードタイプである。数値も明らかであったから、教官は刀の変更を指示しただけ。しかし、莉子にも明確な理由があったという。

「思えばレベルが低すぎたんだね。あたしが首席だなんておかしすぎたんだよ。だってカズやん君は本当に強かった。バジリスクをちょいちょいと輪切りにしちゃうんだもの!」
 茶化していう莉子は無理をしているようだった。玲奈は彼女の落ち込みようを推し量れている。剣士は往々にして負けず嫌いなのだ。他人が自分よりも強いと認めるなんて簡単にできることではない。

「莉子、一八と比較するのは間違っている。あいつは剣士として異端なのだ。ずっと柔術をしていたやつは身体の作りが根本的に我々とは異なる。攻撃を受けることを厭わない。回避よりも攻撃を重視しているのだ」
「ああ、柔術もやってんだ。ならヒカリと同じじゃん。あたしも柔術始めようかなぁ」
「それが馬鹿だといっている。もう成人しているのだから少しは頭を使え!」
 ぶーっと口を鳴らす莉子。五歳も年上であるというのに妹のように扱われてしまう。

「莉子は私を目標としろ――――」
 玲奈はどうしても莉子を放っておけない。かつての記憶を掘り起こしてしまう彼女に。遠い昔、世界線すら異なる場所にいた女性が彷彿と蘇ってしまう。
 妹のように可愛がっていた部下の一人。リコという騎士を玲奈は思い出している。恵美里とは異なり容姿が違っているし、魂が同一だとも思えない。けれど、その名を口にするたび、記憶が脳裏にちらついて仕方がなかった。

「玲奈ちんを……?」
「私のが上背があるといっても同じ女だ。あの筋肉馬鹿と競うよりずっと楽だぞ。かといって私はかなり筋トレを重視しているからな。簡単ではないと言っておこう」
 記憶のままに玲奈が返した。あの頃とは年齢も立場も世界線すらも違ったというのに。

「あたしのがお姉ちゃんなのに……」
「無駄に年を重ねただけだ。貴様に尊敬すべきところなど一つもない!」
「ひどいっ!!」
 冗談ぽくなっていたけれど、玲奈は本気である。同じ女性であり刀使い。彼女の見本になれるよう精進しようと改めて思った。

「貴様も刀士なら一番を目指せ……」
 それは莉子の心に直接響く言葉であった。やはり、やるからには一番がいい。四番手で満足するのは甘えだと思う。
「パパに新しい刀を打ってもらうよ。身の丈に合ったもの。スピードを生かす素敵な一振りをね!」
「実家が刀鍛冶というのは良いものだな? やはり道具は合ったものを使うべき。無理をする必要はない。今里と生駒については知らんが、伸吾のやつもかなりやるぞ? だから貴様がアタッカーを演じることなど不要だ」
 莉子はようやく吹っ切れた感じだ。新しい刀を手にしたとき刀士莉子は生まれ変わることだろう。

「へぇ、伸吾っちは認めてんだ? あたしは馬鹿扱いなのに……」
「伸吾は一般兵から受験したらしい。経験豊富だし、何より浅村大尉の教えを受けているはず」
 玲奈はそんな推測をしていた。伸吾は言葉を濁していたけれど、オークエンペラーの一戦に関与していたのなら、間違いなくキョウト支部である。ならば伍長であった伸吾に騎士を薦める者は二人しか該当しない。キョウト支部には騎士が二人しかいなかったのだ。

「ヒカリの教え子?」
「だと思うぞ。他の支部に配置された士官と出会う機会もないだろうしな。伸吾は剣術だけでなく、戦術に至るまで相当叩き込まれている」
 確かにリーダー感があった。ただし無理矢理ではない。全員を納得させた上で伸吾は従わせていたのだ。

「口が上手いタイプかぁ……」
「言葉が悪いな、莉子」
「玲奈ちんに言われたくないよ!」
 笑い合う二人。何の巡り合わせか同期となった彼女たちは共に精進していくことを約束した。自主訓練から学科の予習復習まで時間外も努力するのだと。

 今年こそはと莉子は意気込んでいる……。
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