オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

抱える懸念

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 二限目以外は座学ばかりであった一八。本日最後の授業も座学である。ただし、この度の教室は大講堂。戦術論に関する授業は剣術科の必修科目であるらしい。

 鐘が鳴ると担当教官がやって来た。どうやら剣術や広域実習教官の西大寺が担当であるようだ。
「全員揃っているな。Bクラスの候補生諸君、私が戦術論の担当をする西大寺だ」
 Aクラスは何度か彼の授業を受けていた。よって西大寺が現れるや背筋を伸ばしている。西大寺の厳しさは既に全員が理解していたから。

「朝礼にて通達済みであるが、全員が揃ったこの場で改めて説明しよう。本年度の候補生は早期配備となる可能性がある。ただし、単純に成績上位であれば良いわけではない。実戦にて成果を上げたものだけが選ばれる。かといって座学の成績も重視されるからな。騎士とは強く聡くある者。戦況を見極める洞察力まで必要とされる。よって早期配備者は総合的に判断され、選ばれし者だけが卒業していく」
 朝礼と同じ内容から始まる。具体的なラインは語られず、選ばれた者という抽象的な基準であった。

「また早期配備者には特典が用意される。よほどのことがない限り、候補生は准尉という階級を与えられるだけだが、今回の早期配備者は全員が少尉待遇とのことだ」
 ここで全員の顔色が変わる。あまり興味を感じていなかった者が大多数であったけれど、准尉と少尉では階級以上の差があった。一般的に尉官と言えば少尉からであって、基本給も大幅に異なっていたのだ。
 だが、それだけに何人も早期配備者が出るとは思えない。普通の卒業生は概ね数年間は准尉待遇のままだ。少尉待遇で何人も卒業者が出るのであれば、不満が噴出しかねなかった。

「Aクラスの候補生はより研鑽に努めろ。またBクラスの候補生は、まずAクラスを目指して努力するように。早期配備試験は半年後だ。また後期からは臨時採用の候補生が参加する。しっかりと訓練しないことには、あっという間に追い抜かれてしまうからな?」
 臨時の合格者など今までにないことであった。ここまでの話で早期配備が少ないだろうと予想していた候補生たちだが、意外と多くが選ばれるのではないかと考え直している。

「本来ならじっくりと学ぶ予定であったが、今期は半年で全てを終える。だが、授業で習うという意味合いではない。重要な項目のみ授業で行い、その他の項目は自習しておくこと。質問は随時受け付けているので、しっかりとやるように。戦術論は必修科目であるのは理解しているはず。自堕落に過ごして、取り残されることなどないようにしろ」
 西大寺は年間スケジュールの変更を告げた。全ては早期配備が原因である。ただし授業が駆け足で進むのではなく、特に重要な内容のみを学ぶようだ。

「時間がない。早速、始めよう。まずは属性と適性について……」
 実技とは異なり、雷が落ちることなく授業が進んでいく。早速と西大寺は教科書の項目を指定した。
 属性には適性があり、火・水・風・土の四大元素の他、派生的な氷や雷が存在する。また自然属性とは異なる光と闇があるらしい。

「先日、全員が属性を調べたはず。得意属性は威力が増すだけでなく、魔力消費が抑えられる。積極的に使用し、熟練度を高めて行け。得意属性以外は非推奨だ。戦闘は一人で戦うものではない。苦手とする属性の魔物がいたとして、それを補う属性の騎士が編成されるからだ」
 基本的に班単位で行動する。戦場において騎士は一般兵を指揮しつつも前線で戦わなければならない。よって偏った編成は成されることなく、編成において得意属性は重要視されている。

「貴様たちでも基本的な属性発現くらいは学んでいるはず。この中に発現させたことがない者はいるか?」
 ここで西大寺が聞いた。流石にAクラスにはいなかったけれど、Bクラスには属性を発現させたことのない剣士がチラホラといる。

「あぶねぇ。恥を掻くところだったぜ……」
 一八は安堵していた。彼はつい最近になって初めて炎を発現させたのだ。次席という立場であった一八は余計な注目を浴びずに済んでいる。

「属性発現のコツは魔力の流れをイメージすることだ。身体の中心から息を吐くようにして吸い上げる。沸き立つ魔力をそのまま腕へと流すようにし、手の平に集中させる。ここまでは魔道科や支援科の候補生たちも同じだ。けれど、剣術科が決定的に異なるのは貴様たちの武器には術式が刻まれていないことである」
 西大寺は剣術科だけが異なると言う。
 魔道科の射出式デバイスや支援科が使用するヒーリングデバイスには基本的に魔法術式が記録されている。手の平まで魔力を循環させられたのなら、あとは起動トリガーを引くだけなのだ。
 対して剣は刃物であり、魔法を展開する術式孔を設けると強度や切れ味に悪影響を及ぼす。よって剣術科は剣に魔力を流すだけで完結し、属性発現させることによって威力を増していた。

「属性発現は必ずものにしろ。習得できなかった候補生が騎士になった例はない。つまりは最低限だ。常に発現させるつもりで剣を振れ。属性発現の調節まで習得しないことには上など目指せん」
 教科書には図解説明があった。卒業に必須とのことで候補生たちも真剣である。既に習得している者も、微妙な調節が可能となるように西大寺の説明をノートに書き留めていた。

「調節か……」
 一八は思い出している。飛竜への一撃。無我夢中で全力だった。持てる全てを吐き出すようにして斬り付けるしかなかったのだ。
 ただそれは相手が飛竜であったからで、一般的な魔物であればその限りではない。魔物の危険度に応じて調節する必要があった。

「個々の属性を理解したのなら、次はどういった敵であれば有効なのかを考えなければならない。我々の敵となるものは魔物だけではない。現状で最も危惧されるものは天軍ないし、天主という羽人である。天主の源流は魔族であり、混血化した今も属性は闇。このことから自然属性は得意不得意を持たぬことが分かる。剣術科の中で有効的と言える属性を持つのは鷹山候補生だけだ……」
 属性の話から天軍についての話へとなっていく。天主に対する攻撃は得手不得手がほぼ存在しない。だが、伸吾が持つ光属性だけは異なるという。

「ただし、光属性の所有者が無双できるわけではない。攻撃が闇に有効であっても、自身もまた闇の攻撃に酷く脆いのだ。鷹山伸吾、貴様はこの先に選択を迫られるだろう」
 稀有な属性である光。闇に対して効果的ではあっても、諸刃の剣である感じだ。また西大寺は伸吾の選択について続けた。

「光属性は前衛士向きではない――――」

 それは一定の未来を予測して伝えられている。必ずしも剣術科全員を前に話す必要はなかっただろうが、西大寺の思惑は伸吾に考えさせることである。あたかも、それこそが正解なのだと暗に伝えているかのよう。
                                        
「教官、僕は剣士です。失格となるのなら受け入れますが、それ以外では信念を曲げられません」
 スッと手を挙げた伸吾は毅然と言い放つ。
 審判の資格を持つ祖父に育てられた伸吾。やはり彼もまた幼い頃から剣士であり、属性による不利とか考えたくはなかったらしい。

「まあそれも追々だ。お前には魔道科から転科要請が届いている。考えておくように」
 以降は属性ごとに適した魔物の説明があり、本日はここまでとなった。
 ようやく一日が終わっている。高校とは違って昼寝をするような授業はない。一日が終わると全員が疲れ果てていた。

「伸吾、部屋に戻るぞ……」
 一八の声に伸吾は無言で頷くだけ。どうも彼は西大寺の話が気になっているようだ。
 魔道科から転科要請が来るなんて、ただ事ではない。かといって信念は曲げたくなかった。考えておけと言われたものの、結論など既に出ているのだ……。
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