オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

一八の試み

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 夕食後、一八は机に向かっていた。相変わらずボウッとした伸吾に構うことなく、調べ物をしている。

「できるのか……?」
 思いつきを試してみたくなり、教科書と睨めっこをしているが、少しも捗らない。まだ基礎しか学んでいない彼には難しかったようだ。

「おい伸吾、いい加減に辛気くさい顔を止めろ。それより俺を手伝ってくれ!」
 終いには伸吾を頼る。何しろ彼が開いている教科書は術式論という魔道の応用であったのだから。

「これでも悩んでるんだけどね……? 奥田君はデリカシーがないな?」
「るせぇよ。悩んだって仕方ねぇだろ? ここを教えてくれ」
 ふぅっと長い息を吐く伸吾だが、確かに悩んだとして仕方がない。伸吾は気晴らしに一八の勉強を手伝うことにした。

「ん? 術式論……?」
「そうなんだ。難しくてな。火の玉を飛ばしてぇんだよ。飛竜が吐くようなやつ!」
 どうやら一八は本気で魔法を撃ち放ちたいようだ。術式論には実技など含まれていなかったというのに。

「魔法かぁ。僕も良く分かっていないんだけど、基本は短銃とかで打つんじゃないの?」
「いや、そうじゃねぇんだ。俺はな……」
 ここで伸吾は知らされている。一八がしようとする問題の難解さを。

「剣の先から火の玉を飛ばしてぇんだ――――」

 ゴクリと唾を飲み込む。自分たちは剣術科の生徒であり、間違っても魔道科ではなかった。従って彼がいう話は専門外である。

「どうしてそんなことを……?」
 問わずにいられなかった。オークエンペラーだけでなく、飛竜でさえも討伐する彼がなぜに魔法を使おうというのか。既に十分な強さを持つ彼が今さらファイアーといった初級魔法を覚えて何になるのかと。

「天軍の天主って奴らは羽が生えてるんだろ? だったら俺たちができることは少ない。飛竜だってそうだ。莉子が風魔法の使い手じゃなかったら、地面に落とせなかった。上空から火球を撃ち続けられたらどうしようもねぇ……」
「そうだけど、そういうのは適材適所であるはずだよ? だからこそ魔道科があるんじゃないか?」
 伸吾は首を振る。空を飛ぶ魔物が相手では剣術科の出番は少ない。魔道科が撃ち落とした魔物の処理くらいなものである。

「だから、それじゃ駄目なんだ!」
 いつも一八はあまり反論しない。けれど、この件に関してはなぜか聞き入れてくれなかった。どうにも伸吾は困惑してしまう。

「どういうこと……?」
 一八なりの考えを伸吾は聞くことにした。彼も思うところあって、魔法について調べているはずなのだからと。

 冷静に対処したつもりの伸吾。しかし、彼はここで思いもよらぬ話を聞かされてしまう。

「それじゃあ、俺が天主を斬れねぇじゃねぇか――――」

 呼吸すら忘れて伸吾は一八を見ていた。現在はまだ候補生であって、卒業できるかどうかも分からないというのに、一八はずっと先を見ている。実習で戦う魔物についてではなく、彼は兵団が前線にて食い止めている天軍を見ていた。
「いや、僕たちはまだ卒業できるとは……」
 そう返すのが精一杯である。段階を幾つもすっ飛ばしたような一八の話には戸惑うしかない。

「伸吾、俺は天軍をぶっ潰すつもりだ。お前はどうなんだ? やるかやられるかで、やられる方になりたいのかよ?」
 どうしても即答できない。ずっと魔物退治しかしてこなかった伸吾は騎士のあるべき姿をまだイメージできていないのだ。

「俺はやだね。トウカイ王国の二の舞はごめんだ。ぜってぇ天軍は壊滅させる。俺は天軍をぶっ潰して人生を楽しむんだ……」
「いや、別に奥田君が頑張らなくても、前線には大勢の騎士たちがいるんだよ!?」
 伸吾はどうしても受け入れられない。まだ騎士学校に入学したばかりなのだ。卒業後を想像するよりも、この一年のことしか考えられなかった。
 どうしても否定したい伸吾であったのだが、一八はそれを許さない。的を射た的確な返答は伸吾の言葉を遮っている。

「じゃあ、そいつらは信頼できんのか?――――」
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