オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

魔法構築

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「そいつらは信頼できんのかよ? 悪いが俺はよく知らねぇやつなんぞ当てにしない。俺自身によって天軍を殲滅してやるんだ……」
 個人戦ではなかったというのに、一八は一人で天軍を滅ぼすように言う。他人は少しも信用できないのだと。

「それってエンペラーのときと……同じ……?」
 思わず聞き返した内容は昨年度のこと。既に伸吾はその回答を聞いていたというのに、再び問いかけている。

「違ぇよ……。天軍は最初から気にくわねぇんだ。北の大地で大人しくしとけばいいのによ。攻めてくんだから、叩き潰すっきゃねぇだろ?」
 言い分は理解できるけれど、大国を壊滅させるほどの勢力である。天軍は個人など相手にしていないはずで、国力のみが対抗し得る手段であるはず。

「奥田君一人でどうこうできる相手か!? 適材適所だろう? 逃げた敵まで僕たちがどうこうする必要はないんだ!」
「じゃあ、聞くけどよ。兵団の全員がそう考えていたらどうする? 自分の仕事じゃないと。誰かがやっつけてくれるってよ……」
 その質問は返答に困るものであった。あり得ない話ではない。誰もが他人任せであり、誰かがやるだろうと考えている可能性。恐らくはトウカイ王国にもそういった他人任せの思考が蔓延っていただろう。滅びへと加速させるような意識があったに違いない。

 何度も首を振る伸吾に一八が続ける。
「天主が空を飛んで後退したとして、俺は逃がさねぇよ。剣士だからって理由なんかで逃げられてたまるか……」
 それは独善的であり、自分勝手な主張であったが、同時に崇高な目標だと思えた。
 敵を殲滅するなんて一介の兵士には高すぎる目標であるけれど、個々の意識が同じようなものであれば可能となるのかもしれない。

「まったく、奥田君は凄いね……。僕は驚かされてばかりだ。一般兵だった僕には任務外だと感じられてしまう。責任を持って敵を倒すなんて考えたこともなかった……」
 一般兵への命令は討ち漏らしがないようにだとか、戦線の維持だとか。逃げていく敵を追いかけるなんて任務は含まれていなかった。

「別に凄くねぇよ。俺は今の生活を続けたいだけ。天軍が共和国に攻め入るのなら、俺は奴らを許さない……」
 一八の台詞は慎吾の心に響く。確かにそうだと思う。共和国には家族である祖父だけでなく、世話になった人たちがいる。それを飲み込もうとする天軍は絶対に許されるべきではないと。

 小さく息を吐いたあと、慎吾は大きく頷いた。
「やはり僕は剣を握るよ。闇属性が弱点だとか知ったことじゃない。僕が天軍を滅ぼす……」
 予期せぬ返答に一八はオッと声を上げる。
 同じ志を持つ兵が少しでも多くなれば、それは間違いなく天軍に対して脅威となっていくだろう。なぜなら防戦と攻戦は同じ戦いという括りでありながら、本質がまるで異なっているのだから。

「それで属性発現を飛ばすって発想だけど、不可能ではないはずだよ? ただし、魔力消費はとんでもないことになるだろうけど……」
 ようやく伸吾は一八に助力する気になったようだ。一八の悩みは、とりあえず解決できるらしい。

「だから俺は術式を覚えてぇんだよ。簡略化して魔力消費を抑えたい。手始めにファイアーを槍のような形にできないかと考えてるんだ……」
 意外にも一八にはしっかりとしたビジョンがあった。ファイアーは初級魔法ながら範囲攻撃である。それを単体攻撃的に細く撃ち出せたのなら、魔力消費が抑えられるのではないかと。

「なるほどね。だけど、基本的に火属性は成形に向いていないはず。風もそうなんだけど、水や氷のように簡単なものじゃないね」
 言って伸吾は自身の本棚から一冊の本を取り出している。
 分厚く古めかしい革製の表紙。一見してそれが魔法書であるのは分かった。

「自分で構築するよりも探した方がいい。火属性は研究が進んでいるし、適切な魔法がきっと見つかる」
 一八はおおっと期待するような声を上げた。ど素人であるから初級魔法のファイアーを元にしようと考えたのだが、現存する呪文を使う方が簡単だし、無駄な時間がなくなるはず。

「やっぱ頼りになるな! それで良い魔法はあるのか?」
「ちょっと待って。探してみるから……」
 しばし待つ。パラパラと流し見るような伸吾を一八はジッと眺めていた。自分一人では今もまだファイアーの術式について頭を悩ませていたはず。ルームメイトに恵まれたなと改めて一八は思っていた。

「うん、これがいいね。フレイムアロー!」
 ページを捲る手が止まるや、伸吾が言った。
 フレイムアローという魔法は初めて聞くものであったけれど、何だか途轍もなく強い魔法のように聞こえている。

「カッコいいじゃねぇか。強大な魔法っぽいな?」
「いやいや、本当に初級魔法だよ。でも、これなら本当に魔道科が持ってる短銃を携帯した方がいいけどね」
 この魔法書にある術式は概ね解析が進んでおり、既にデバイス化が完了しているものばかりだ。従って詠唱するよりもデバイスを携帯した方が簡単だし、間違うこともない。

「それな。剣術科の俺がしゃしゃり出ていいのかどうか分からん。だから詠唱する方が良いかと思ったんだ。玲奈のキュアだってデバイスなしだっただろ?」
「確かに彼女は使い慣れていたね。信仰心を上げただけじゃなく、詠唱文を簡略化できていた。岸野さんなら支援専門でも騎士になれるんじゃないかと思う」
 玲奈の評価は相変わらずだ。高校を卒業し騎士学校に入っても、彼女は多方面から高評価を博する。それこそ幼い頃からの努力が完全に実ったかのように。

「あいつは特殊だからな。昔から目標を見誤らない。来たるべきときに備えて、十全な準備をしてきてる。俺はあいつを見習って生きてこなかったから、今になって苦労してるんだ……」
「そうかな? 確かに岸野さんは全てに秀でているし、現状でも即戦力だと思う。でも奥田君だって負けてないよ。苦労していると考えるのは高みを目指しているからだし。仮に他の候補生が君の立場にいたとするなら、恐らくその彼は現状に満足をして少しも努力をしないだろう。既に十分な強さを持っているのだからね。だから僕は……」
 饒舌に語る伸吾。彼は本心を偽りなく言葉にしている。

「奥田一八という剣士を誰よりも評価しているよ――――」

 涙腺を刺激するような台詞であった。一八の努力はその過程を知らぬ者にも評価されている。玲奈と比較することなく、彼は純粋に一八を見てくれていた。

「あんがとよ。俺はこれからも突き進むだけなんだ。悪いが手を貸してくれ」
「もちろん。これから魔道科に行ってみよう。デバイスの貸し出しをお願いして、とりあえず撃ってみるんだ。改良とかはそのあとになる」
 なかなか行動力がある。確かに悩んでいたとして解決はしない。実際に魔法を使ってみて、どんな感じなのかを知る必要があった。

「いいな! 俺はやっぱ実践派だしな!」
 一八も乗り気である。既に放課後であったけれど、常駐する教員は必ずいるだろうし、転科を勧められている伸吾が一緒なのだ。容易に断られるような気がしない。

 二人は意気揚々と魔道科へと向かっていく……。
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