オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

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 二週間が経ち、騎士学校では各教科の試験結果が張り出されている。これにより前期の順位が確定し、残すところは混成広域実習という卒業試験を残すだけとなっていた。

「おお、最後まで玲奈ちんが一番だ……」
 張り出された順位表に莉子が感嘆の声を上げる。
 今年度は共和国議会の決定により前期後期で分けられていた。まだ五ヶ月目であったけれど、一応は前期の首席が玲奈で確定している。

「順位など配備されれば関係ない。首席だからといって何も変わらんのだ……」
 やはり総合力が評価された感じだ。実技では圧倒的な成果を上げる一八が優位であったはず。しかし、玲奈は実技だけでなく、あらゆる教科で好成績を収めていたのだ。

「しっかし、支援科の必修科目まで三位とかやり過ぎじゃねぇか? 支援科の奴らが気の毒になってくるぞ……」
 科目別順位表を眺めながら一八が言った。それはそのはず支援科の必修科目である回復技法という授業で玲奈は三位との評価を受けていたのだ。

「前線では一人でも回復魔法が使えた方が良いだろう? せっかくだから真剣に学んだだけだ。今ではエリアキュアまで唱えられるようになった。上位の早久良と静華はエクスキュアまで唱えられる猛者なんだぞ?」
 佐山早久良《さやまさくら》と高井静華《たかいしずか》は支援科のツートップであった。流石に及ばなかったものの、玲奈は試験を三位で終えたらしい。

「それを言っちゃ、カズやん君だって魔道科の必修科目で五位になってんじゃん?」
 莉子が指摘したように、一八は術式論の試験を五位でクリアしていた。大勢の魔道科候補生を押しのけてまで。

「一八、ズルはいけないと言っただろう?」
「別にズルなんてしてねぇよ。俺は女神からレイストームの多重術式を授けてもらっただろ? だから他の術式を考えるのに、レイストームの知識が役に立ったんだ。複雑な術式を理解したあとなら、魔法陣がどう機能しているのか分かりやすかった。ルーンについては調べる必要があったけど、覚えるほど術式の奥深さを理解できるから面白かったぜ。それに俺の評価はレイストームの改良だと思う。俺は女神からもらった術式を更に改良して見せたんだからな!」
 自信満々に一八が言った。彼はレイストームに関してのみ女神マナリスによって知識を与えられていたけれど、他の術式に関してはその限りではない。しかし、一八は与えられた知識から他の術式を理解していったらしい。

「奥田君は本当に頑張ってたもんね。菜畑教員は本当に転科して欲しそうだったよ?」
 一八の成長ぶりに菜畑は二度も転科を勧めたらしい。レイストームを撃ち放つほどの魔力があり、熱心に取り組むだけでなく明確に理解を深めた彼をただの剣士で終わらせたくなかったようだ。

「まあ、我々一班はまず間違いなく早期配備となるだろう。全員覚悟は決まったか?」
 ここで玲奈が問う。早期配備とはいち早く騎士になること。候補生よりもずっと責任が増すことを意味した。

「僕は一般兵出身だからね。他のみんなより覚悟は決められていると思う。騎士は大勢の命を預かっている。街の住人だけでなく一般兵の命でさえも……」
「貴様のことは案じていない。私は莉子と一八に問うただけだ」
 真っ先に返答した伸吾であったが、元より彼に聞いたのではなかったようだ。ずっとペアを組んでいた玲奈は伸吾の心配などしていないらしい。

「あたしは二年目の落第生だよ? そんなのとっくに決まってるよ。本来ならここにはいなかったはずなんだし!」
「俺だって決まってる。騎士学校に入ってから、より一層仲間の大切さや守るべき存在があることを思い知らされたんだ」
 最終試験を残していたものの、一班の順位は入学から今までほぼ変動がない。首席が玲奈であり、次席が一八。三席に莉子と四席の伸吾まで。一度だけ生駒と今里が入れ替わったことがあったけれど、抜かれた生駒が五席を取り戻して今に至っている。

「あとは混成試験の組み合わせだな……」
 混成試験は実際の編成と似たようなものであり、剣術科二名に魔道科二名、支援科二名の合計六名となる。場合によっては支援科が一人で魔道科が三名になる場合もあったが、基本的には二名ずつが編成された。

「例年通りなら、上位二名ずつだよ! あたしは飛ばされたけどね!」
「調べたところによると、去年だけじゃなく、ずっと上位から二名ずつになってるね。だから、剣術科のペアは岸野さんと奥田君になる……」
 伸吾の説明に一八と玲奈は視線を合わせている。思えば騎士学校に入学してから、まともに行動した記憶がない。それこそオークエンペラーの一件が最後であった。

「ほう、それは面白いな。一八、どれだけ強くなったか見せてみろ?」
「はん、ビビんな? 試験前にトイレは済ませておけよ?」
 互いに笑みを見せつつも、張り合うような二人。ここまでペアを組んでいた莉子と伸吾はやはりパートナーが最強だと思えているし、二人が組むことを楽しみにも感じている。

「君たち二人が組んだら、魔道科も支援科も必要ないかもね?」
「伸吾よ、貴様は本当に自分を卑下しすぎる。貴様とて立派なアタッカーだ。お馬鹿な莉子を守ってやってくれ」
 伸吾の話に玲奈がチクリ。最初はその実力に懐疑的であった玲奈も今や伸吾が強者であることを認めている。背中を預けるに十分な剣士であるのだと。

「カズやん君、ちょっと言ってあげて! あたしは生まれ変わったって!」
 何も言わない一八を莉子が急かす。自分だって成長しているのだと。伸吾の世話になる必要などないってことを。

「うんまあ、莉子は見た目以上に強え。俺は伸吾がどの程度やるのか知らんが、戦闘力だけでいうなら莉子は負けてないと思う。実際に莉子は三席なんだし、飛竜の翼を切り裂けるほどの威力も持ち合わせている。馬鹿なのは否定できんが……」
「ひっど! あたしは馬鹿じゃないって!」
 四人が笑い合っていると、拡声器を持つ九頭葉校長が現れた。どうやら混成試験について説明するらしい。

 貼り出された成績表に大騒ぎであった候補生たちだが、一様に背筋を伸ばし敬礼をした。
「ああ、結構。自身の成績は確認してもらえたことだろう。この成績を元にして前期の混成試験パーティーを決定する。一班は剣術科岸野玲奈と奥田一八……」
 まだ九頭葉校長の話途中であったものの、一部の候補生からどよめきが起こっている。
 玲奈と一八はどの科でも有名人だ。彼ら二人が剣術科のトップであったことは当然であったけれど、驚きでもあったらしい。

「静かに! 魔道科からは七条恵美里と大和田小乃美……」
 魔道科の選抜も驚愕に値したけれど、候補生たちは怒られたばかり。流石に声を上げるわけにはならなかった。
 玲奈は人知れず驚いている。それはそのはず魔道科はずっと恵美里と舞子のツートップであったのだ。徐々に小乃美が成績を上げていたことは知っていたけれど、最後に舞子を抜いてしまうだなんて考えもしなかった。

「支援科は佐山早久良と高井静華。以上が一班の編成となる。続いて二班……」
 このあとも淡々と編成が発表されていく。概ね予想通りであり、サプライズ的な編成は小乃美と舞子が入れ替わっただけであった。

「次に試験場所だが、Aクラスはロッコウ山周辺とし、Bクラスはアタゴ山周辺とする。日程は明後日早朝より二日間。このあと各班ごとに顔合わせをし、各々に準備を始めろ」
 言って校長が去って行く。どうやら試験の準備は今日を含めて二日しかないらしい。連携に重点を置いて訓練する必要があったというのに。

 予想通りにペアとなった玲奈と一八。しかしながら、魔道科から選ばれた二人の名前に戸惑いを隠せなかった……。
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