オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

顔合わせ

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 混成試験の班割りが発表されていた。少しばかり困惑した二人であるが気持ちを切り替えている。

「さて一八、恵美里のところへ行くぞ!」
「待てよ、玲奈!」
 直ぐさま行動を始める玲奈を一八は追いかけていく。真っ先に動いたはずが、どうしてか既に支援科の二人も恵美里の元へと集まっていた。
 女性ばかりである。知った顔が多かったけれど、流石に一八は緊張してしまう。

「やあ皆の衆、栄えある一班に選ばれて光栄だな!」
「玲奈ちゃん、流石ね? 男の子に混じって主席だなんて!」
 玲奈が現れるや支援科の早久良が言った。授業で一緒だった支援科の二人は既に玲奈と仲良くなっているようだ。

「いやいや、早久良も静華も流石だな? よろしく頼む!」
「玲奈さん、おめでとうございます! 共に首席ということで感慨深いですね?」
「本当におめでとう! 玲奈さんの同窓生であるのは私の誇りです!」
 恵美里と小乃美が玲奈に謝辞をくれる。やはり首席という立場は何事にも代えがたい栄誉であり、特に剣術科の首席はその評価が高い。

「このみんは凄く頑張ったのだな? てっきり舞子が入ってくると考えていたのだが……」
 玲奈は二班と顔合わせをする舞子の姿を見ていた。いつも通りの笑顔であったものの、彼女の落胆は容易に察せられるものだ。

「舞子さんも頑張っていたのですけど、小乃美さんは学科の全てが満点ですので……」
「いや、私より恵美里さんの方が凄いですよ! 実技も学科も満点とか!」
 どうやら魔道科の上位二人は学科試験を満点で終えたらしい。その差が順位として現れてしまったようだ。

「支援科のお二人様、わたくしが七条恵美里です。どうぞよろしくお願いしますね?」
「ああいや、お気遣いなく! 七条さんと同じ班になれるとは光栄です!」
 剣術科の二人だけでなく超有名人が魔道科にはいた。一般庶民である早久良と静華は流石に恐縮している。

 このあとは小乃美が自己紹介をし、いよいよ一八の紹介となった。しかしながら、一八が言葉を発することはなく、彼の前には玲奈が仁王立ちしている。
「こいつが剣術科次席の一八だ。見てくれはゴリラだが肝はホーンラット並。話しかけないことにはずっと黙り込んでいるはず。早久良と静華は積極的に話しかけてやってくれ」
 玲奈は特に自己紹介を必要としていない。全員と顔見知りであったからだ。よって彼女は一八の自己紹介をし、加えて彼の代弁をしている。

「へぇ、奥田君って大人しいんだ?」
「嘘でしょ? 入学時に二年生と喧嘩したって聞いたけど?」
 早速と早久良と静華が興味を持つ。支援科首席と次席とはいえ、そこは年頃の女の子である。たった一人一班に選ばれた男に興味津々であるらしい。

「いやちょっと待て! 別に俺はそこまでチキンじゃねぇし!」
「その体躯でチキンだったら面白いよ?」
 早久良がグイッと顔を近付けるや、思わず一八は視線を逸らす。聞いた通りの反応に早久良は大きな笑い声を上げた。

「アハハ、これは楽しい混成試験になりそうだね!」
「しかも安全が保証されてますしね?」
 静華もまた笑っている。どうやら彼女たちはこの試験に一抹の不安も抱いていないらしい。

「早久良に静華、言っておくが我々の担当エリアは非常に厳しい場所だぞ? 年に一回しか魔物駆除をしないエリアだし、昨年度はBランクの魔物が現れて中止になったと聞いている……」
 浮かれるような二人に玲奈が釘を刺した。伸吾に聞いた話であったけれど、試験は途中で撤退もあり得るのだと。

「んんー、撤退しても去年の一班は配属したんでしょ? 今年は去年よりも粒ぞろいだし、玲奈ちゃんは単騎でもBランクと戦えると思うけど?」
「無論、私は逃げも隠れもしないし全員を守るつもりだが、それでも困難な場面は必ずあるだろう。また私は撤退を良しとしない。たとえ本部からの命令であろうとも、任務をやり遂げたいと考えている」
 玲奈はこの場を仕切っている。剣術科の首席であった彼女は伸吾に任せていた仕事を担うことにした。剣術科は常に先頭に立つ。だからこそ全体に指示を出すものだと。

「玲奈さん、であれば使用武器の確認をいたしましょう。わたくしも小乃美さんも特に縛りなどございません。属性はわたくしが火であり、小乃美さんが水になります」
 早速と恵美里が作戦に必要な情報を述べる。剣術科の力量を知り、尚且つ魔道にも精通している玲奈こそが作戦を考えるべき。剣術の火力が足りないのであれば、魔道科のデバイスを火力重視にすればいいし、火力が十分であるのなら支援に徹するのも手であった。

「剣術科の我々は共にアタッカー。一八の強さは知れ渡っているままであって、威力だけで言うなら私は二番手だ。悩むべき事柄は二班の方が多いだろう」
 玲奈の返答を受け、恵美里が頷いた。共にアタッカーとの話は威力が十分であることを明確にしている。二人は首席と次席なのだ。頂点に立つ二人の攻撃力は聞くまでもなかった。

「であればシュートライフルで構わないでしょうか? わたくしはずっとガトリング砲を使っていたのですけれど……」
「ガトリング砲!?」
 何気ない恵美里の意見であったが、玲奈が食いついている。次の瞬間には恵美里の肩を掴み、思いの丈をぶつけていた。

「是非、ガトリング砲を! マルチ対応だろうか!? 私は雷属性なんだが!」
「え、ええ……。一応マルチ属性ですけど、もしかして玲奈さん……」
 刹那に嫌な予感に苛まれてしまう。恵美里は玲奈一推しのアニメを知っているのだ。彼女がセーラー服とガトリング砲に嵌まっている話は生徒会でも有名な話であった。

「一度で良いから撃ってみたいのだ! 魔物を蜂の巣にしてやりたい!」
 恵美里はアタッカーとしてガトリング砲を使っていただけであり、特別なこだわりなどなかった。重量はあったし、できるなら他のデバイスを使用したいところである。
「ガトリング砲はかなり重量がありますし、広範囲に飛散しますので混成戦には適さないかと……」
「通常時のマジックデバイスじゃなくてもいい! ハンディデバイスに収納してもらえたら私は構わん! この機会に撃ってみたいのだ!」
 玲奈の熱量に押される恵美里。肩掛けのガトリング砲は威力こそ最高レベルだが、やはり前衛士がいる場面では問題があった。まあしかし、他の武器をメインとするならば、いざというときの火力にもなるし、持っていくだけなら何も問題はない。

「それでしたら、メインはシュートライフルということで……」
「じゃあ、わたしはハンドガンタイプにします。素早く援護射撃ができるように!」
「それがいいな! このみんは剣士が近付く隙を作ってくれるだけでいいぞ!」
 魔術科の装備は直ぐに決定した。基本は魔道科の二人が考える通りとなり、追加的にガトリング砲を持っていくという結果に。

「はい! エクストラヒールは必要かな? 一回使うだけで昏倒しちゃうんだけど……」
 ここで早久良が手を挙げた。彼女は一番の使い手である。各種ロッドを用意すると十本以上になってしまうのだ。ハンディデバイスの容量を考えると荷物は減らしておきたいところであった。

「二人は念のためエクストラヒールを携帯して欲しい。もし非常用テントや着替えが入らないというのなら、私が預かることも可能だ」
 玲奈はこの混成試験を難題だと考えていなかったけれど、彼女は不測の事態を想定している。
 エクストラヒールは術士の魔力を一度に奪い去ってしまうものであったけれど、最大級の回復が期待できた。だからこそ念には念を入れて装備品に加えるべきだと。

「この遠征には各班三個の魔力回復薬が与えられる。基本的に支援科が持っておくべきだろう」
 遠征と呼ぶべき試験には魔力回復薬が与えられていた。使わずに済めば良いのだが、生憎とこの試験では使い切る班が殆どである。剣士とは異なり、魔道科と支援科は魔力が切れては何もできないのだから。

「了解。じゃあリーダーは玲奈ちゃんということでいいの?」
 静華が言った。ここまで場を仕切っているのは明確に玲奈なのだ。一八は気が小さいらしいし、彼女は玲奈こそが適任だと考えている。

「わたくしはそれで構いません。剣術科がリーダーを務めるのは慣例でもありますし」
 恵美里が同意したところで、班員から拍手が贈られる。まだ玲奈は承諾していなかったというのに。

「一八、貴様はそれでいいのか?」
「誰に言ってんだ? チキンな俺がリーダーとかねぇだろ?」
 一八に聞くも嫌味が返ってきた。こうなると自分しかいない。首席でもあったし、玲奈はリーダーを請け負うことにした。

「じゃあ、リーダーを務めさせていただこう。指示はその都度出す。基本的に魔道科と支援科は距離を取ってくれて構わない。正直に剣術科だけで平気なのだから」
「おお! カッコいい! やはり【黒髪の雷姫】の異名は伊達じゃないね?」
 ここで聞き慣れぬ話を早久良が始める。もちろん玲奈は初めて聞く。そのような異名で呼ばれた経験などなかった。

「早久良、何だそれは……?」
「飛竜退治のときにね、玲奈ちゃんが雷撃を放ったって支援科では大騒ぎだったのよ! それ以来支援科ではそう呼ばれてるの。黒髪の雷姫ってね!」
 何だか恥ずかしい話だ。今となっては来田が雷神と呼ばれることを嫌がった理由が分かるような気がした。

「あまりその名で呼ぶなよ? 恥ずかしい……」
「いやいや、最強の剣士でありながら支援魔法まで扱う騎士にみんな憧れてんのよ。私たちの同期が浅村大尉を超えるんじゃないかってさ!」
 玲奈が支援科の授業に参加していたのは一つだけであったが、彼女の存在は想像よりも大きくなっていたようだ。

「今となってはだな。かといって目指すところは全員が同じだろう? やるからには一番を目指す。戦う限りは勝利しかないのだから……」
 玲奈の返答に早久良はヒューっと口を鳴らす。その辺りの言動が支援科にてアイドル的な扱いとなっていることに玲奈は気付いていない。

「とにかく、明日は合同訓練を行う。さりとて疲れが残らない軽めのもの。連携が取れたのなら、それだけで十分だろう」
 玲奈に不安は少しですらなかった。何しろ彼女はスタンピードの経験者なのだ。後にも先にもあれ程に苛烈な状況を経験していない。

 班員に一八が含まれているだけで安心感が得られていた……。
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