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第二章 騎士となるために
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守護兵団キョウト支部の通信室ではヒカリと優子がナガハマ基地へと連絡を取っていた。
オペレーターに要件を告げ、川瀬少将を呼んできてもらう。近くにいなかったのか割と時間がかかっている。
待っている間はやはり緊張していた。大尉如きが少将を呼び出して、尚且つ直接通信をするなんて気後れしてしまう。けれど、これも任務なのだとヒカリは息を吸って気持ちを落ち着かせている。
『ああ、待たせた。川瀬だ……』
ようやく川瀬が通信機を取った。この瞬間にヒカリの緊張は吹き飛んでいる。凜々しく口元を結んだあと、彼女は中将より仰せつかった話を始めていた。
「浅村であります。七条中将より議論するよう指示を受けておりますゆえ、ご無礼をお許しください」
『ああ構わん。私は別に貴族ではないからな。部下との壁はあまりない。それに要件はマイバラ基地の話と関係があるのだろう?』
川瀬は早速本題を聞き出そうとしている。礼儀的な遣り取りなど無駄であるのだと。
「その通りです。既に聞いておられるかと思いますが、マイバラ基地が陥落しております。従いまして将官は川瀬少将を含めて四名のみ。よって私は代理として今後の対処案を川瀬少将と詰めなければなりません」
『うむ、ならば浅村、貴様はどう考える? まずはそれからだ……』
どうしてか川瀬はヒカリの意見を聞く。佐官でもない彼女の意見など重視されないだろうに。
「私の意見ですか? 私は命令を聞く立場です。少将を差し置いて意見するわけにはなりません。先に意見するなどとても……」
毅然と返すヒカリだが、直ぐさま否定されてしまう。現状においては立場云々を考えるべきではないのだと。
『浅村大尉、もしも私が先に意見したとして、そのあと君が本心を告げられるか? 私に反駁できるのか? できないのなら先に意見したまえ』
どうやら川瀬は率直な現場の意見を聞きたいらしい。自身が先に発言してしまえば肯定されるだけなのだからと。
過度に躊躇うヒカリだが、唾を飲み込んでから自身の考えを口にしていく。
「恐縮ですが、私個人としましては今後もナガハマ基地を存続すべきかと。最前線であるナガハマは放棄すべきではありません。キョウトにはコウベ、ナラ、ワカヤマに配備される騎士を呼び寄せ、第二の前線基地として機能させるべきです。義勇兵を募り、国を挙げて対抗するべきかと……」
ヒカリは促されるままに意見している。ナガハマ基地を放棄してしまえば、それこそ天軍は二面攻勢に転ずるのではないかと思う。
『ならば守勢に回るということか? その策が導くのは滅びだけだぞ? トウカイ王国が犯した失態の一つなのだからな……』
かつてトウカイ王国もまた押し寄せる天軍に対し、防衛に徹していた。しかし、兵力の大半が魔物である天軍の侵攻は緩むことなく、トウカイ王国は少しの反撃すらできないまま滅びている。
「いえ、キョウトに兵を集めるのは防衛に徹する意味合いではございません……」
ところが、ヒカリは意見を続けた。論破された感のある話であったものの、まだ続きがあるのだという。
「マイバラのオークを殲滅するため――――」
これには川瀬も息を呑んだ。流石に尉官でしかない彼女からそんな話を聞くとは考えもしないことだ。浅村ヒカリという剣士の武勇伝は数多く聞いていたけれど、実際に現場を見てきた彼女がそんな前向きな思考をしているとは意外であった。
『ほう、かき集めの兵で何ができる? マイバラには経験豊富な騎士が百人以上も配備されていたのだぞ?』
試すように聞く。そこまで大口を叩いたのであれば具体策があるはずと。
通信機越しに頷くヒカリは自身の考えを口にする。
「マイバラ基地は恐らく籠城を選択したのだと思われます。けれど、それは少しばかり延命するだけのもの。正直に指揮官の失態であり、責められるべき判断です。砦の前で迎え撃てば、少なからずダメージを与えられたはずで、マイバラ基地の戦力であれば退けられたかもしれません。あれ程までに一方的に負けるはずがないのですから……」
まずはマイバラ基地の選択が失敗に終わったこと。戦術面の失態が現状を招いたと分析している。
「それで私が考える最善の方策ですが……」
川瀬は静かに聞いていた。一介の尉官でしかない彼女の話を。求める内容を口にしていくヒカリが考えた作戦について。
「候補生たちを総動員します。学徒動員は古来より国を滅ぼす悪手と言われておりますが、それは時と場合による。追い詰められた苦肉の策ではなく、早い段階でそれを実行するのです。幸いにも我らにはまだ盾となるナガハマ基地が存在しますから……」
『しかし、候補生を動員したとして熟練の騎士には敵わないだろう? 育成に時間をかけるべきではないのかね?』
ここで川瀬は反論を加えた。ヒカリを試すように。もっとも川瀬自身も彼女の意見に賛成であったのだが、ヒカリがどこまで考えているのかを知りたく思って。
ヒカリは動じることなく、直ぐさま返答を終える。ずっと考えていたこと。今この時こそ実行すべきであるのだと。
「ゲームチェンジャーとなり得る者が一人だけいます。果てしない戦いに終わりを告げられる剣士……」
流れを変えるもの。押し寄せる大波を食い止める堰。加えて押し返すような力を持つ存在がいると彼女は言った。
「それは奥田一八――――」
オペレーターに要件を告げ、川瀬少将を呼んできてもらう。近くにいなかったのか割と時間がかかっている。
待っている間はやはり緊張していた。大尉如きが少将を呼び出して、尚且つ直接通信をするなんて気後れしてしまう。けれど、これも任務なのだとヒカリは息を吸って気持ちを落ち着かせている。
『ああ、待たせた。川瀬だ……』
ようやく川瀬が通信機を取った。この瞬間にヒカリの緊張は吹き飛んでいる。凜々しく口元を結んだあと、彼女は中将より仰せつかった話を始めていた。
「浅村であります。七条中将より議論するよう指示を受けておりますゆえ、ご無礼をお許しください」
『ああ構わん。私は別に貴族ではないからな。部下との壁はあまりない。それに要件はマイバラ基地の話と関係があるのだろう?』
川瀬は早速本題を聞き出そうとしている。礼儀的な遣り取りなど無駄であるのだと。
「その通りです。既に聞いておられるかと思いますが、マイバラ基地が陥落しております。従いまして将官は川瀬少将を含めて四名のみ。よって私は代理として今後の対処案を川瀬少将と詰めなければなりません」
『うむ、ならば浅村、貴様はどう考える? まずはそれからだ……』
どうしてか川瀬はヒカリの意見を聞く。佐官でもない彼女の意見など重視されないだろうに。
「私の意見ですか? 私は命令を聞く立場です。少将を差し置いて意見するわけにはなりません。先に意見するなどとても……」
毅然と返すヒカリだが、直ぐさま否定されてしまう。現状においては立場云々を考えるべきではないのだと。
『浅村大尉、もしも私が先に意見したとして、そのあと君が本心を告げられるか? 私に反駁できるのか? できないのなら先に意見したまえ』
どうやら川瀬は率直な現場の意見を聞きたいらしい。自身が先に発言してしまえば肯定されるだけなのだからと。
過度に躊躇うヒカリだが、唾を飲み込んでから自身の考えを口にしていく。
「恐縮ですが、私個人としましては今後もナガハマ基地を存続すべきかと。最前線であるナガハマは放棄すべきではありません。キョウトにはコウベ、ナラ、ワカヤマに配備される騎士を呼び寄せ、第二の前線基地として機能させるべきです。義勇兵を募り、国を挙げて対抗するべきかと……」
ヒカリは促されるままに意見している。ナガハマ基地を放棄してしまえば、それこそ天軍は二面攻勢に転ずるのではないかと思う。
『ならば守勢に回るということか? その策が導くのは滅びだけだぞ? トウカイ王国が犯した失態の一つなのだからな……』
かつてトウカイ王国もまた押し寄せる天軍に対し、防衛に徹していた。しかし、兵力の大半が魔物である天軍の侵攻は緩むことなく、トウカイ王国は少しの反撃すらできないまま滅びている。
「いえ、キョウトに兵を集めるのは防衛に徹する意味合いではございません……」
ところが、ヒカリは意見を続けた。論破された感のある話であったものの、まだ続きがあるのだという。
「マイバラのオークを殲滅するため――――」
これには川瀬も息を呑んだ。流石に尉官でしかない彼女からそんな話を聞くとは考えもしないことだ。浅村ヒカリという剣士の武勇伝は数多く聞いていたけれど、実際に現場を見てきた彼女がそんな前向きな思考をしているとは意外であった。
『ほう、かき集めの兵で何ができる? マイバラには経験豊富な騎士が百人以上も配備されていたのだぞ?』
試すように聞く。そこまで大口を叩いたのであれば具体策があるはずと。
通信機越しに頷くヒカリは自身の考えを口にする。
「マイバラ基地は恐らく籠城を選択したのだと思われます。けれど、それは少しばかり延命するだけのもの。正直に指揮官の失態であり、責められるべき判断です。砦の前で迎え撃てば、少なからずダメージを与えられたはずで、マイバラ基地の戦力であれば退けられたかもしれません。あれ程までに一方的に負けるはずがないのですから……」
まずはマイバラ基地の選択が失敗に終わったこと。戦術面の失態が現状を招いたと分析している。
「それで私が考える最善の方策ですが……」
川瀬は静かに聞いていた。一介の尉官でしかない彼女の話を。求める内容を口にしていくヒカリが考えた作戦について。
「候補生たちを総動員します。学徒動員は古来より国を滅ぼす悪手と言われておりますが、それは時と場合による。追い詰められた苦肉の策ではなく、早い段階でそれを実行するのです。幸いにも我らにはまだ盾となるナガハマ基地が存在しますから……」
『しかし、候補生を動員したとして熟練の騎士には敵わないだろう? 育成に時間をかけるべきではないのかね?』
ここで川瀬は反論を加えた。ヒカリを試すように。もっとも川瀬自身も彼女の意見に賛成であったのだが、ヒカリがどこまで考えているのかを知りたく思って。
ヒカリは動じることなく、直ぐさま返答を終える。ずっと考えていたこと。今この時こそ実行すべきであるのだと。
「ゲームチェンジャーとなり得る者が一人だけいます。果てしない戦いに終わりを告げられる剣士……」
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