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第二章 騎士となるために
通信
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「ゲームチェンジャーとなり得るのは奥田一八です――――」
ヒカリの意見に川瀬は絶句していた。この期に及んでヒカリはたった一人に期待していたのだ。しかも、首席ではない一人の剣士を。そこだけは川瀬とヒカリの意見が異なっていた。
『奥田一八? 彼がエンペラーと渡り合った剣士であるのは私も知っている。貴様は彼に期待しているのか? 彼は次席であったと思うが?』
川瀬は頻繁に本部と連絡を取っていた。だからこそ、自身も知る岸野玲奈に期待を寄せている。同じ流派であり、師匠の孫娘である彼女に期待していた。
「ええまあ、割とかかわる機会が多かったもので。彼には不屈の闘争心が備わっています。現状のマイバラ基地に彼がいたとすれば、状況を一変させた可能性があります」
『それほどまでにか? しかし、次席であるという事実は欠点があることを明確にしている。何しろ岸野玲奈が首席なのだから……』
遂には自身が推す剣士の名を口にしてしまう。どうにも不可解なヒカリの話を否定するかのように。
「岸野玲奈なら私も知っています。彼女は完成度が極めて高い。冷静な判断も持ち合わせている。総合的な評価なら私も彼女を推薦するでしょう……」
『ほう、ならば剣術特化として考えれば奥田一八だと? 守護兵団きっての災害級ハンターである大尉が彼を認めるということか?』
対策会議としては随分と論点がずれているようにも感じる。しかし、川瀬は納得するためにも問いを返していた。
「奥田一八なら苦境を変えられる。何しろあの男は私であっても天恵技を使わねば倒せなかったのです。それはまだ騎士学校に入る前のこと。剣術試験にて私は彼の試験へと強引に割り込んだ。力量を見極めようとして……」
その話を川瀬は知らない。だが、妙に興味をそそる。並の剣士であれば浅村ヒカリが試験官に割り込んだ時点で諦めてしまうはずだと。
「どれだけ痛めつけようが剣を振る。何度斬り付けられようとも踏み込んできた。剣圧は凄まじいの一言。三十分と斬り合った結果、私は雪花斬を使用し失神させるしかなかったのです。意識が失われないのであれば、彼は片腕であっても剣を握ったでしょう」
俄には信じられなかったけれど、ヒカリが奥田一八を推す理由は十分に理解できた。守護兵団を見渡したとして、彼女と三十分も斬り合える剣士が如何ほども存在しないことを分かっていたからだ。
『雪花斬を使わねば倒れなかったと?』
「それも不意打ちです。彼を高みへと導くため、私は負けられなかった。また試験後の推薦も彼を指名しています。だからこそ私には分かるのです。彼は最後まで戦える人間だと。たった一人でエンペラーに立ち向かえる胆力を持つ者が他にいますか? 最前線の士気を上げられる剣士は奥田一八をおいて他にはおりません」
ふぅっと川瀬の長い息が通信に乗っている。
共和国軍が攻勢に転じるには奥田一八の前線配備しかないと、ヒカリは考えていた。従って彼女は奥田一八のプレゼンテーションを続ける。
「彼ならば戦局を変えられます。どうか私に戦力を与えてください。奥田一八と魔道士、更には支援士を。マイバラのオーク討伐はお任せください」
ここまで言われてしまうとは想定外だった。ヒカリが本気でオーク殲滅を考えており、奥田一八を必要としているなんて。
『あとで間違いだったと訂正などできんのだぞ? 浅村大尉、そこはよく考えろ』
「考えた結果であります。一般兵の増強も必須ですけれど、私は対となる剣を欲しているのです。彼が片腕であれば私も存分に戦える。なぜなら……」
とどめとばかりにヒカリが言った。捲し立てるように。自身の希望が叶うようにと。
「奥田一八の心は決して折れない――――」
しばしの沈黙があった。けれども、それが長く続くことはなく、程なく川瀬は彼女の意見に返答している。
『ならば結構。ナガハマを放棄するのは私も愚策だと考えている。攻める意味合いでもナガハマの兵力は維持すべきだ。加えて候補生の招集は私も賛成と言っておこう。しかし、それらの同意は私がナガハマの指揮を継続することを意味しない。私も戦線に参加しようと考えている。数日内にキョウトへと発つつもりだ』
意外な話になる。天軍がわざわざ迂回をしてマイバラを攻めたのは明確にナガハマの指揮を彼が執っていたからだ。攻めあぐねた結果としてマイバラ基地の陥落がある。
「少将のお考えには賛同できかねます。ナガハマあってこその作戦なのですから」
『心配無用。秘密裏に移動するし、ナガハマには信頼できる部下を残していく。一般兵を動かすつもりもない。ここは存在するだけでいい。ならば強力な手札を温存するのは無駄だろう?』
如何にも自信満々に川瀬が言った。常に前線に立つ彼はやはり強力な戦力となる。だがしかし、天軍に感付かれてはナガハマ基地が再び狙われることになった。
『浅村大尉、要は天軍が気付く前にマイバラのオークを殲滅すればいい。それにナガハマは簡単には落とせんよ。ずっとこの私自ら指導してきたのだ。騎士はいうまでもなく、一般兵の質もマイバラとは比べものにならん』
一貫して川瀬はナガハマの勢力を信頼していた。手塩にかけて育て上げた部隊を彼は信じている。
『浅村大尉、我らには後がない状況をよく考えろ。どうしようもなくなる前に手を打つしかないのだ。それこそオークの殲滅は今後の鍵を握るだろう。最善を尽くすだけのことだ』
もうヒカリは反論できなかった。確かに次なる一戦は共和国の命運をかけるものだ。出し惜しみするのではなく、強力なアタッカーを投入すべき場面である。
「了解しました。少将のご到着をお待ちしております……」
急な会談はこれにて終わる。予想をもしない川瀬少将の参戦決定という形で。
疲れたのかヒカリは背もたれに体重を預け、ふぅっと長い息を吐いた。巻き返すべく戦いの準備。オオサカへと発った七条中将の判断を信頼しているけれど、仮に本部が却下したとして今し方決まった方針を曲げるつもりはない。
早速とヒカリは本部へと通信を繋ぐのだった……。
ヒカリの意見に川瀬は絶句していた。この期に及んでヒカリはたった一人に期待していたのだ。しかも、首席ではない一人の剣士を。そこだけは川瀬とヒカリの意見が異なっていた。
『奥田一八? 彼がエンペラーと渡り合った剣士であるのは私も知っている。貴様は彼に期待しているのか? 彼は次席であったと思うが?』
川瀬は頻繁に本部と連絡を取っていた。だからこそ、自身も知る岸野玲奈に期待を寄せている。同じ流派であり、師匠の孫娘である彼女に期待していた。
「ええまあ、割とかかわる機会が多かったもので。彼には不屈の闘争心が備わっています。現状のマイバラ基地に彼がいたとすれば、状況を一変させた可能性があります」
『それほどまでにか? しかし、次席であるという事実は欠点があることを明確にしている。何しろ岸野玲奈が首席なのだから……』
遂には自身が推す剣士の名を口にしてしまう。どうにも不可解なヒカリの話を否定するかのように。
「岸野玲奈なら私も知っています。彼女は完成度が極めて高い。冷静な判断も持ち合わせている。総合的な評価なら私も彼女を推薦するでしょう……」
『ほう、ならば剣術特化として考えれば奥田一八だと? 守護兵団きっての災害級ハンターである大尉が彼を認めるということか?』
対策会議としては随分と論点がずれているようにも感じる。しかし、川瀬は納得するためにも問いを返していた。
「奥田一八なら苦境を変えられる。何しろあの男は私であっても天恵技を使わねば倒せなかったのです。それはまだ騎士学校に入る前のこと。剣術試験にて私は彼の試験へと強引に割り込んだ。力量を見極めようとして……」
その話を川瀬は知らない。だが、妙に興味をそそる。並の剣士であれば浅村ヒカリが試験官に割り込んだ時点で諦めてしまうはずだと。
「どれだけ痛めつけようが剣を振る。何度斬り付けられようとも踏み込んできた。剣圧は凄まじいの一言。三十分と斬り合った結果、私は雪花斬を使用し失神させるしかなかったのです。意識が失われないのであれば、彼は片腕であっても剣を握ったでしょう」
俄には信じられなかったけれど、ヒカリが奥田一八を推す理由は十分に理解できた。守護兵団を見渡したとして、彼女と三十分も斬り合える剣士が如何ほども存在しないことを分かっていたからだ。
『雪花斬を使わねば倒れなかったと?』
「それも不意打ちです。彼を高みへと導くため、私は負けられなかった。また試験後の推薦も彼を指名しています。だからこそ私には分かるのです。彼は最後まで戦える人間だと。たった一人でエンペラーに立ち向かえる胆力を持つ者が他にいますか? 最前線の士気を上げられる剣士は奥田一八をおいて他にはおりません」
ふぅっと川瀬の長い息が通信に乗っている。
共和国軍が攻勢に転じるには奥田一八の前線配備しかないと、ヒカリは考えていた。従って彼女は奥田一八のプレゼンテーションを続ける。
「彼ならば戦局を変えられます。どうか私に戦力を与えてください。奥田一八と魔道士、更には支援士を。マイバラのオーク討伐はお任せください」
ここまで言われてしまうとは想定外だった。ヒカリが本気でオーク殲滅を考えており、奥田一八を必要としているなんて。
『あとで間違いだったと訂正などできんのだぞ? 浅村大尉、そこはよく考えろ』
「考えた結果であります。一般兵の増強も必須ですけれど、私は対となる剣を欲しているのです。彼が片腕であれば私も存分に戦える。なぜなら……」
とどめとばかりにヒカリが言った。捲し立てるように。自身の希望が叶うようにと。
「奥田一八の心は決して折れない――――」
しばしの沈黙があった。けれども、それが長く続くことはなく、程なく川瀬は彼女の意見に返答している。
『ならば結構。ナガハマを放棄するのは私も愚策だと考えている。攻める意味合いでもナガハマの兵力は維持すべきだ。加えて候補生の招集は私も賛成と言っておこう。しかし、それらの同意は私がナガハマの指揮を継続することを意味しない。私も戦線に参加しようと考えている。数日内にキョウトへと発つつもりだ』
意外な話になる。天軍がわざわざ迂回をしてマイバラを攻めたのは明確にナガハマの指揮を彼が執っていたからだ。攻めあぐねた結果としてマイバラ基地の陥落がある。
「少将のお考えには賛同できかねます。ナガハマあってこその作戦なのですから」
『心配無用。秘密裏に移動するし、ナガハマには信頼できる部下を残していく。一般兵を動かすつもりもない。ここは存在するだけでいい。ならば強力な手札を温存するのは無駄だろう?』
如何にも自信満々に川瀬が言った。常に前線に立つ彼はやはり強力な戦力となる。だがしかし、天軍に感付かれてはナガハマ基地が再び狙われることになった。
『浅村大尉、要は天軍が気付く前にマイバラのオークを殲滅すればいい。それにナガハマは簡単には落とせんよ。ずっとこの私自ら指導してきたのだ。騎士はいうまでもなく、一般兵の質もマイバラとは比べものにならん』
一貫して川瀬はナガハマの勢力を信頼していた。手塩にかけて育て上げた部隊を彼は信じている。
『浅村大尉、我らには後がない状況をよく考えろ。どうしようもなくなる前に手を打つしかないのだ。それこそオークの殲滅は今後の鍵を握るだろう。最善を尽くすだけのことだ』
もうヒカリは反論できなかった。確かに次なる一戦は共和国の命運をかけるものだ。出し惜しみするのではなく、強力なアタッカーを投入すべき場面である。
「了解しました。少将のご到着をお待ちしております……」
急な会談はこれにて終わる。予想をもしない川瀬少将の参戦決定という形で。
疲れたのかヒカリは背もたれに体重を預け、ふぅっと長い息を吐いた。巻き返すべく戦いの準備。オオサカへと発った七条中将の判断を信頼しているけれど、仮に本部が却下したとして今し方決まった方針を曲げるつもりはない。
早速とヒカリは本部へと通信を繋ぐのだった……。
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