オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

辞令

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 ヒュドラの出現から一夜明けた騎士学校では全校生徒が集められ、臨時の朝礼を行っていた。

 壇上にはどうしてか七条中将がいる。そこに九頭葉校長の姿はなかった。
「候補生諸君、既に伝え聞いている通り、前線を維持していたマイバラ基地が陥落した。それにより本部は候補生全員を早期配備とする案を可決。従って君たちはこれより騎士となるのだ……」
 全員が既に知っていた内容である。マイバラ基地が天軍によって滅ぼされたことも、早期配備として騎士になることも。

「昨夜、可決したのはマイバラのオークを殲滅する作戦。またその作戦は絶対に失敗が許されない。なぜなら共和国兵団はその一戦に存亡をかけているからだ。敗戦すれば最後、もう共和国は戦えん。タテヤマ連峰の南側から天軍を排除しない限りは我らに未来などない……」
 悲壮感漂う話である。共和国は既に喉元に噛みつかれているような状況だ。少しですら失敗が許されない窮地に他ならない。

「昨夜から義勇兵の募集案内を全国で放送している。国民もまた戦うしかないことを理解してくれるはずだ。君たち騎士はその先頭に立って戦うことが責務となる」
 トウカイ王国が滅びてから数年。国民の誰もが少しは想像していた未来が直ぐそこまで来ている。既に滅びた王国を見ているからこそ、その放送はリアリティに溢れ、愛国心を刺激したことだろう。

 このあとは剣術科から名を呼ばれ、所属と階級が与えられることに。事前の話とは異なり、全員が准尉待遇ではあったけれど、それは緊急的に配備を命じられた者にまで少尉待遇が適応されなかっただけだ。

 しかしながら、剣術科の四席からは違っている。
「鷹山伸吾少尉、前へ!」
 流石にざわついている。これまで例外なく准尉であった階級が伸吾は少尉待遇となっていた。

「鷹山少尉は川瀬一個旅団所属、特務強襲隊配備を告ぐ」
 再びどよめく。これまで明確な所属を告げられたことはない。しかし、ここで初めて所属部隊名が明言されていた。

「金剛莉子少尉、前へ!」
 続く莉子もまた少尉待遇であった。この時点で候補生たちは気付いている。少尉待遇であった者こそが早期配備の対象者であったことを。
 なぜなら少尉待遇である二人は他の候補生たちとは異なり、明確な所属を告げられていたのだから。

「金剛少尉は浅村小隊所属、特別奇襲班配備を告ぐ!」
 聞き慣れぬ部隊名に候補生たちが困惑する。その名称から受ける印象は捨て身で特攻を強いられる部隊。不穏な雰囲気を感じずにはいられなかった。

「奥田一八少尉、前へ!」
 一八もまた少尉であるようだ。しかし、少尉待遇である彼らは正規兵として何の功績も成し遂げていない。けれども、騎士学校での活躍は目を見張るものがあり、それを功績としたのだろう。

「奥田少尉は浅村小隊所属、特別奇襲班配備だ!」
 この時点で魔道科と支援科の候補生たちは察知していた。恐らく彼らは最前線に配備されるのだろうと。後方支援などではなく、先頭に立って戦うことを義務付けられる。少尉待遇は数少ないメリットに過ぎないはずだと。

 剣術科の授与式もいよいよ最後となる。首席である彼女が名を呼ばれたならば、それで前線に配備される人員が勢揃いとなるはずだ。

「岸野玲奈少尉、前へ!」
 やはり最後も少尉待遇である。ヒュドラの首を三本も斬り落としたという剣士が最後の人員に他ならない。

 長い黒髪を後ろで束ねた彼女が壇上へと向かう。階段を上る彼女は一見すると、どこかのご令嬢かと思うほど上品な所作をする。だが、外見だけで判断するのは間違いだ。戦場での彼女は勇猛なる剣士であり、日常も割と大雑把。どんぶり飯を何杯も完食してしまう彼女がどこかの貴族だとはもう誰も思わない。

「岸野少尉は川瀬一個旅団所属、特務強襲隊配備!」
 またも出てきた特務強襲隊。首席が含まれているのだから、そこが基地に缶詰となる部隊ではないと分かる。

 首席と四席が川瀬一個師団に所属する特務強襲隊配備であり、次席と三席が浅村小隊に所属する特別奇襲班配備となった。これにより魔道科と支援科の上位陣も腹を括るしかなくなっている。最前線の配備は最早避けられない状況であった。

 このあとも淡々と授与式が進められ、候補生全員に階級が与えられている。大多数が予想したように、魔道科と支援科の上位陣もやはり前線配備となっていた。

「諸君、来たるべき大戦は直ぐそこだ。それまでに更なる研鑽と強靱な精神を養って欲しい。もはや我らの後ろは崖なのだ。間違いなく全員が出撃となる。心しておいて欲しい」
 最後に釘を刺すような言葉がある。具体的な所属が明らかとならなかった面々も出撃するのだと。国の存亡をかけた戦いなのだ。暢気に見物できるような者が早期配備されるはずはない。

「オーク殲滅作戦は一般兵及び義勇兵の目処が立ち次第、決行となる。準備期間は少ないが、できることを適切にこなしてくれ」
 これで七条中将の話は終わる。
 恐らく七条中将が指揮官だと全員が思った。川瀬少将が前線まで赴くというのなら、大魔導士である彼が後方に陣取るのだと。

 それだけでキンキ共和国が次戦にかける意気込みを理解できた。敗戦のあとには何も残らない。そういった戦いを仕掛けようとしているのは明らかである。

 全員が覚悟を決められた。祖国のため、人族のため。天軍に対抗し得る最後の機会が次なる大戦なのだと。

 誰しもが思う。決意は容易なことであった。
 勝たねば未来がないこと。勝利こそが未来へと続く唯一の術であることを……。
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