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第三章 存亡を懸けて
作戦開始
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一八たち奇襲班は配置についていた。新月であったため、周囲は一面の闇だ。支給された暗視ゴーグルがなければ、目的地にさえも辿り着けそうにない。
ヒカリはハンディデバイスを確認。一応は22時が作戦開始時間となっていたけれど、偵察に向かった優子が戻らなければその限りではない。
しばらくすると優子が戻ってきた。彼女の報告が事前情報と一致していたのなら、即座に行動開始となる。
「少佐、見張りが立っています!」
真っ先に報告されたのは基地周辺に見張りがいることだった。制圧の翌日だというのに、オークたちは割と警戒しているらしい。
「豚畜生がやるじゃないか。何体いた?」
「五体なんですが……」
どうにも歯切れの悪い優子にヒカリは眉根を寄せる。彼女の様子から問題が発生したのは明らかであった。
「一体はオークキングだと思われます……」
声を失うヒカリ。まさか支配級であるオークキングが見張りをしているなんて考えもしていないことだ。またその話は一定の結論に結びつけられていく。
「更なる脅威が存在するのか……」
確認されているオークキングは五体。それらが同等であれば、オークキングが見張りをするなどあり得ない。
「内部にはネームドがいる――――」
ネームドモンスターとは同種であっても、比較にならない強さを持つ。数多の経験を積み長い年月を経た魔物は力を得るだけでなく、やがて名を得るのだという。
マイバラ基地にネームドモンスターが含まれている可能性は高い。災厄級であるオークキングを従える魔物。昨日今日で新手が現れたとは考えにくく、確認されたオークキングの中にネームドモンスターが含まれているのだと思われる。
「おい、オークキングだって早々現れるものじゃねぇぞ!? ネームドとか千年から生きてんじゃねぇのか!?」
堪らず一八が口を挟んでしまう。ベルナルド世界ではオークキングでも自分しかいなかったのだ。加えて一八自身もネームドではなかった。しかし、一八にはベルナルド世界を破滅の手前まで追い込む力があったのだ。
「天主は進化の技法を確立したのかもしれん。流石に多すぎる。オークキングなど数百年に一体程度の発生確率しかないのだからな……」
考えられることは多くなかった。神が定めたとされる進化に天主が首を突っ込んでいること。人為的にオークキングを生み出しているのではないかと。
「オークは繁殖力が半端ねぇからな。幾らでも実験できそうだ……」
「オークキングなのはそれが理由かもしれんな。まあしかし、人工的に作られたオークキングなら勝機は十分だ。戦闘経験が不足したオークキングなど中身はオークと変わらん。問題はネームドオークキング。発見でき次第、二人で斬りかかるぞ?」
ヒカリの話に一八は頷いていた。自身も相当な経験を経てオークキングに進化したのだ。無理矢理に進化したとして、身体面くらいなものだろうと思う。
「発見したなら赤色の発光弾を打て。間違っても青色の発光弾は撃つなよ?」
ここで作戦のおさらいというべき話になる。オークキングが殲滅されたなら、青色を打って連絡することになっていた。それは魔道士たちがガトリングキャノン砲を撃ち放つ合図である。
ヒカリは赤い発光弾にて、イレギュラーであるネームドの発見を知らせ合うことにした。
「また解除班から術式解除の連絡が入ったあと、既にオークキングを殲滅していた場合のこと。私が発光弾を打たなければ、お前たちが青色の発光弾を撃つように」
追加的な連絡はもしもの場合であった。何らかの問題でヒカリが号令となる青色の発光弾を打てない場合、一八たちは彼女の代わりに発光弾を打たなくてはならないようだ。
「解除班がミスる場合は考えてねぇのか?」
ここで一八が質問を加える。外壁は至る所が破壊されており、解除班がオークに見つかる可能性を否定できなかったからだ。
「それは最悪の想定だな。その場合は手の空いた者が指定座標を吹き飛ばす。術式は基礎に刻まれている。所定の手続きを経て解除するか、外壁の基礎ごと破壊するしかない。解除班が全滅した場合は腹を括れ……」
ヒカリの話は作戦が90%以上失敗に終わる場面であろう。何しろオークの大軍勢を相手にするのだ。手の空いた者がいるはずもない。
「なるほどな。ちったぁ骨のある任務じゃねぇか?」
「そう言ってもらえると嬉しいね。貴様を選んで良かったよ。生き残れとは言わん。死んでも剣を振り続けろ……」
ヒカリは国家のために命を捧げるつもりらしい。そもそもの話、奇襲が成功する確率からしておかしいのだ。生還できる望みなど最初から抱いていない。
「あっちゃぁ、あたしいきなり戦死? とんだ貧乏くじを引かされたね? 久しぶりに会う同郷なのに……」
「莉子、悪いな。騎士として戦わねばならん時だ。マイバラに増援が来てしまえば、勝利確率はゼロになる。今だからこそ勝機を見出せるのだから……」
素直に頭を下げるヒカリ。戦況を見極めた彼女は共和国の浮沈をこの奇襲の成否にだけ見ていた。
「分かってるよ。それにあたしはもう二度も死んだ身なんだ。共和国のために死ねるのなら本望だよ」
「助かる。優子もすまないな。私の部下になったばかりに……」
ヒカリは優子にも謝っていた。自身の部下になったことで、休みがないだけでなく死地へと赴くことになったのだと。
「やめてください。キョウト支部でなければマイバラにいたかもしれません。だから生き延びたと考えています。それに少佐には毎朝ご飯を用意してもらいましたしね」
「安い命だな? もし仮に生還できたのなら、とっておきの豆でコーヒーを淹れてやろう……」
最後に四人は笑っていた。極限を超えた彼女たちは恐れなどなくなっている。寧ろ任務の完遂だけはやり遂げようと決意していた。
「全員、隠密スキルを実行しろ……」
いよいよだ。解除班も配置につき、奇襲班の突撃が開始される。
「全てを斬り裂き、己が軌跡を残せ! 共和国の未来を切り開く勇敢なる剣士の歩みを! 道程に積まれた死体の山こそがお前たちの墓標であり……」
声高に叫ぶヒカリ。既に覚悟を決めた班員たちに最後のエールを送る。
「お前たちが生きた証しだ!――――――」
ヒカリはハンディデバイスを確認。一応は22時が作戦開始時間となっていたけれど、偵察に向かった優子が戻らなければその限りではない。
しばらくすると優子が戻ってきた。彼女の報告が事前情報と一致していたのなら、即座に行動開始となる。
「少佐、見張りが立っています!」
真っ先に報告されたのは基地周辺に見張りがいることだった。制圧の翌日だというのに、オークたちは割と警戒しているらしい。
「豚畜生がやるじゃないか。何体いた?」
「五体なんですが……」
どうにも歯切れの悪い優子にヒカリは眉根を寄せる。彼女の様子から問題が発生したのは明らかであった。
「一体はオークキングだと思われます……」
声を失うヒカリ。まさか支配級であるオークキングが見張りをしているなんて考えもしていないことだ。またその話は一定の結論に結びつけられていく。
「更なる脅威が存在するのか……」
確認されているオークキングは五体。それらが同等であれば、オークキングが見張りをするなどあり得ない。
「内部にはネームドがいる――――」
ネームドモンスターとは同種であっても、比較にならない強さを持つ。数多の経験を積み長い年月を経た魔物は力を得るだけでなく、やがて名を得るのだという。
マイバラ基地にネームドモンスターが含まれている可能性は高い。災厄級であるオークキングを従える魔物。昨日今日で新手が現れたとは考えにくく、確認されたオークキングの中にネームドモンスターが含まれているのだと思われる。
「おい、オークキングだって早々現れるものじゃねぇぞ!? ネームドとか千年から生きてんじゃねぇのか!?」
堪らず一八が口を挟んでしまう。ベルナルド世界ではオークキングでも自分しかいなかったのだ。加えて一八自身もネームドではなかった。しかし、一八にはベルナルド世界を破滅の手前まで追い込む力があったのだ。
「天主は進化の技法を確立したのかもしれん。流石に多すぎる。オークキングなど数百年に一体程度の発生確率しかないのだからな……」
考えられることは多くなかった。神が定めたとされる進化に天主が首を突っ込んでいること。人為的にオークキングを生み出しているのではないかと。
「オークは繁殖力が半端ねぇからな。幾らでも実験できそうだ……」
「オークキングなのはそれが理由かもしれんな。まあしかし、人工的に作られたオークキングなら勝機は十分だ。戦闘経験が不足したオークキングなど中身はオークと変わらん。問題はネームドオークキング。発見でき次第、二人で斬りかかるぞ?」
ヒカリの話に一八は頷いていた。自身も相当な経験を経てオークキングに進化したのだ。無理矢理に進化したとして、身体面くらいなものだろうと思う。
「発見したなら赤色の発光弾を打て。間違っても青色の発光弾は撃つなよ?」
ここで作戦のおさらいというべき話になる。オークキングが殲滅されたなら、青色を打って連絡することになっていた。それは魔道士たちがガトリングキャノン砲を撃ち放つ合図である。
ヒカリは赤い発光弾にて、イレギュラーであるネームドの発見を知らせ合うことにした。
「また解除班から術式解除の連絡が入ったあと、既にオークキングを殲滅していた場合のこと。私が発光弾を打たなければ、お前たちが青色の発光弾を撃つように」
追加的な連絡はもしもの場合であった。何らかの問題でヒカリが号令となる青色の発光弾を打てない場合、一八たちは彼女の代わりに発光弾を打たなくてはならないようだ。
「解除班がミスる場合は考えてねぇのか?」
ここで一八が質問を加える。外壁は至る所が破壊されており、解除班がオークに見つかる可能性を否定できなかったからだ。
「それは最悪の想定だな。その場合は手の空いた者が指定座標を吹き飛ばす。術式は基礎に刻まれている。所定の手続きを経て解除するか、外壁の基礎ごと破壊するしかない。解除班が全滅した場合は腹を括れ……」
ヒカリの話は作戦が90%以上失敗に終わる場面であろう。何しろオークの大軍勢を相手にするのだ。手の空いた者がいるはずもない。
「なるほどな。ちったぁ骨のある任務じゃねぇか?」
「そう言ってもらえると嬉しいね。貴様を選んで良かったよ。生き残れとは言わん。死んでも剣を振り続けろ……」
ヒカリは国家のために命を捧げるつもりらしい。そもそもの話、奇襲が成功する確率からしておかしいのだ。生還できる望みなど最初から抱いていない。
「あっちゃぁ、あたしいきなり戦死? とんだ貧乏くじを引かされたね? 久しぶりに会う同郷なのに……」
「莉子、悪いな。騎士として戦わねばならん時だ。マイバラに増援が来てしまえば、勝利確率はゼロになる。今だからこそ勝機を見出せるのだから……」
素直に頭を下げるヒカリ。戦況を見極めた彼女は共和国の浮沈をこの奇襲の成否にだけ見ていた。
「分かってるよ。それにあたしはもう二度も死んだ身なんだ。共和国のために死ねるのなら本望だよ」
「助かる。優子もすまないな。私の部下になったばかりに……」
ヒカリは優子にも謝っていた。自身の部下になったことで、休みがないだけでなく死地へと赴くことになったのだと。
「やめてください。キョウト支部でなければマイバラにいたかもしれません。だから生き延びたと考えています。それに少佐には毎朝ご飯を用意してもらいましたしね」
「安い命だな? もし仮に生還できたのなら、とっておきの豆でコーヒーを淹れてやろう……」
最後に四人は笑っていた。極限を超えた彼女たちは恐れなどなくなっている。寧ろ任務の完遂だけはやり遂げようと決意していた。
「全員、隠密スキルを実行しろ……」
いよいよだ。解除班も配置につき、奇襲班の突撃が開始される。
「全てを斬り裂き、己が軌跡を残せ! 共和国の未来を切り開く勇敢なる剣士の歩みを! 道程に積まれた死体の山こそがお前たちの墓標であり……」
声高に叫ぶヒカリ。既に覚悟を決めた班員たちに最後のエールを送る。
「お前たちが生きた証しだ!――――――」
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