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第三章 存亡を懸けて
複数のオークキング
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真っ直ぐに突き進む四人の騎士。マイバラ基地が直ぐそこまで近づいていた。
「見張りのオークキングは私に任せてくれ……」
解除班が任務に就けるよう、まずは見張りを殲滅しなければならない。ヒカリは脅威であるというのに、オークキングを受け持ってくれるらしい。
「一人で大丈夫なのか?」
「誰にいっている? 奇襲を成功させるには気付かれてはならない。スキルで一刀両断にしてやろう」
一八の問いには自信満々にヒカリ。オークキングとて気付かれる前であれば、雪花斬にて切り裂けると考えているようだ。
「莉子、てめぇは左のをやれ。右側の二頭は俺が斬る……」
「りょ。そのあとは?」
「ババァの方は気にしなくてもいい。斬るといったのだから、斬ってくれるはず。俺たちは見張りを討伐したあと、北側エリアのオークキングをぶっ殺すだけだ……」
ヒカリと一八はエリアを分けていた。ヒカリたちが基地の南側であり、一八たちが北側を担当する。どちらにどれだけ潜んでいるのかは何も分からなかったというのに。
「ま、着いていくよ。あたしは君に群がるオークを斬るだけし……」
本当に落ち着いていられた。作戦を聞いた時には声を失ったものの、いざ任務が始まってしまっては恐怖も混乱もない。たった四人での無謀な奇襲作戦。死を覚悟した今であれば怖いものなどなかった。
突撃を始めた奇襲班。刹那に一八の視界が輝く。それは青白い輝き。視界に入り込む閃光が何であるのかを一八は一瞬にして理解した。
なぜなら、その光は記憶にあるままだ。青白い閃光は自身を斬り裂いた雪花斬に他ならない。
「俺たちも行くぞ!!」
自身も外壁へと取り付き、直ぐさまオークを斬る。ただし、ここは魔力など込めない。
オークキングを相手にするヒカリとは状況が違っている。このあとの奇襲に繋げるべく、隠密行動を重視するだけだ。
「カズやん君!」
「よっしゃ、乗り込むぞ!」
即座に見張りの三体を斬った一八たち。ヒカリたちの様子を窺うことなく、倒壊した壁の隙間から基地内に侵入していく。
壁を乗り越えた二人は目を疑っていた。暗視ゴーグルに浮かび上がるのは隙間なく埋め尽くされたオークの群れ。目標とするオークキングは遥か先であった。
「莉子、ぶっ飛んでいくぞ!」
「りょ、了解!」
流石に莉子は動揺した感じだが、一八が向かうというのならついていくだけだ。魔力回復薬は十分な数があるのだし、出し惜しみするなとも言われている。よって二人はそのままオークの群れを飛び越えるべく、エアパレットに魔力を注ぐ。
一八は狙いを定めている。練り上げた魔力を全て斜陽へと流し込み、一刀両断するのだと決めた。
突如として空に炎が舞う。オークたちは何事かと思ったことだろう。その炎は打ち上がったかと思えば、流れ星のように落下し、果てにはオークキングを斬り裂いてしまう。
「莉子! 次だっ!」
「雑魚が多いって!」
狙い通りに一刀両断した一八だが、息をつく暇はない。地面まで降りてしまった彼は再浮上するほどの隙間を見つけられないでいる。
「クソが!」
魔力を目一杯に乗せて斜陽を振り回す。周囲にいた何体のオークを斬り裂いたことだろう。それでもまだ気が触れそうになるくらいの群れが二人を取り囲んでいる。
「莉子、お前は血統スキルを持ってないのか!?」
ここで一八が聞く。ヒカリのような血統スキルがあれば、この状況を打開できるはずと。
「ウチが鍛冶屋なの見たっしょ!? カズやん君こそ持ってないの!?」
「俺んちは柔術道場だぞ!?」
二人して溜め息を吐く。相方の血統スキルには期待できないのだと。
こうなると背中合わせに剣を振るだけであり、襲い来るオークを斬るだけであった。
ジリ貧だと思った二人だが、それよりも状況は悪化する。刹那に魔物の咆吼が轟いたのだ。しかも複数同時に……。
「何あれ……?」
莉子の視界にも入っている。暗視ゴーグルに写るもの。巨大な二つの影が向かっているのが見えた。
「こりゃ五体どころじゃねぇな……」
北側だけで三体目になる。先陣を切って向かってくるところを見ると、現れたオークキングはネームドではないはずだ。
「カズやん君、どうすんの!?」
堪らず問いかける莉子。流石に二体同時は幾ら一八でも厳しいと思って。
一体を任せると言われたら、戦おうと考えていた。けれど、一八はそのような話を口にしない。
「二体とも任せろ。雑魚を頼む。もしも俺がレイストームを撃ち放ったとすれば、直ぐに回復薬を飲ませてくれ。あれは確実に昏倒する。無理矢理に流し込んで、殴ってでも目覚めさせろ……」
どうやら噂に聞く魔法を使うつもりだと莉子は気付く。女神より与えられしその魔法は全魔力を消費すると聞いたのだ。
「分かった。そのときには目覚めの口づけをしてあげるよ……」
ニシシと笑う莉子に一八もつられていた。まだパートナーには余裕があるのだと思う。だとすれば、雑魚の相手は任せても問題ないはずだ。
一直線に向かってくるオークキング。二体は仲間を踏みつけながらも真っ直ぐに近付いていた。
「まずは左側の一体と戦う。莉子は右側のオークキングに注意しておけ……」
「レイストームじゃないの!?」
先ほどはエアパレットの勢いもあって一刀両断にしていた。しかし、地に足をつけた今も一八は正攻法にての戦いを選択する。
「たぶん、ネームド以外は思ったほど強くねえ。最初の一体はエンペラーの半分も強度がなかった。進化級があんなに柔いはずがない……」
経験則から語られていく。幾ら人工的に生み出されたといっても、オークキングに変わりはない。けれども、一八は想像していたよりずっと弱いと感じていた。
「いけるの?」
「腕で防御されなきゃ一刀で決められる。防がれたとして三太刀ありゃ問題ねぇよ」
正直に莉子は信じられなかったけれど、体躯ほどの脅威を一八が感じていないのだと分かった。
「飛竜より?」
どうしてか聞いている。渾身の一振りにて飛竜の左翼を斬り裂いたことは彼女にとって刀士としての誇りであり、自信の源であった。だからこそ飛竜との比較を知りたがっている。
「飛竜は滅茶苦茶かてぇよ。恐らくバジリスクと同等か、それよりも柔い……」
背中越しに聞こえる声に莉子は笑みを浮かべた。自身もまた奇襲班員である。ならばパートナーにばかり任せるのは間違っているはずだ。
「じゃあ、右側を任せてくんない? あたしもオークキングと戦ってみたい」
一瞬の沈黙。けれど、それは二人共が刀を振ったからであり、別に一八が躊躇したわけではない。
「なら頼む。この乱戦を抜け出す方法を考えねぇとな……」
「お任せあれ! 飛び出すタイミングは合わせるし!」
ずんずんと近付いてくるオークキング。二人は視界の端に迫る影を確認していた。
一方で一八は確信している。やはり向かい来るオークキングは人工的に生み出されたものであると。威圧的に咆吼することなくオークと共に侵攻してくる二体は記憶にある自分自身の姿とは似ても似つかない。
「でけぇだけだな……」
自分であれば雑魚には引くように命令し、戦果を独り占めにしようとしただろう。加えて大声で威圧し、戦意を削いだはず。何の策もなく進むだけのオークキングには王者としての風格を感じない。
「莉子、いくぞ!!」
「うん!」
二人は瞬間的にエアパレットの出力を上げた。周囲に群がるオークに激突しながらも再び宙に舞う。
「真っ二つにしてやれぇぇっ!!」
一八の号令にて一斉に斬りかかる。
刹那に莉子の長刀が竜巻を纏い、一八の斜陽は炎を上げた。一刀にて仕留める。二人共が決意のままに振りきっていた。
一八は袈裟切りに、莉子は右薙ぎに刀を振る。二つの軌跡がシンクロすることなどなかったけれど、結果は二つ共が同じである。
一八はオークキングの左肩から右脇腹にかけてを斬り裂き、莉子は一番柔いと思われる腹を裂いていた。巨体を真っ二つにはできなかったけれど、二体のオークキングは大量の血しぶきを上げて、徐に倒れ込む。数体のオークを下敷きとし、程なく息絶えた。
「よっしゃ、次はどこだ!?」
一八はエアパレットから右足を下ろし、固定した左足だけで旋回するようにしている。
次の瞬間、赤色の発光弾が視界に入った。それはマイバラ基地の南側エリア。ヒカリたちが担当した場所であり、赤い発光弾はネームドモンスターが現れたという合図に他ならない。
「カズやん君!?」
「マジか!?」
動揺する二人。しかしながら、二人は赤い発光弾に驚いたわけではない。
二人の直ぐ近くにあった建物が突如として倒壊したからだ。加えて散乱する瓦礫をものともせず出現した巨大な影。挙げ句の果て、その強大な何者かは言葉を発している。
「人族共、よく聞け……」
野太い声が周囲に轟く。一瞬にして手下のオークが距離を取っている。
これはまさしく前回と同じ。一八が知るままの強者に他ならない。
「己が名はカイザー……」
魔物は名乗り、更には威圧的に告げた。
この地を任されしオークエンペラーである――――と。
「見張りのオークキングは私に任せてくれ……」
解除班が任務に就けるよう、まずは見張りを殲滅しなければならない。ヒカリは脅威であるというのに、オークキングを受け持ってくれるらしい。
「一人で大丈夫なのか?」
「誰にいっている? 奇襲を成功させるには気付かれてはならない。スキルで一刀両断にしてやろう」
一八の問いには自信満々にヒカリ。オークキングとて気付かれる前であれば、雪花斬にて切り裂けると考えているようだ。
「莉子、てめぇは左のをやれ。右側の二頭は俺が斬る……」
「りょ。そのあとは?」
「ババァの方は気にしなくてもいい。斬るといったのだから、斬ってくれるはず。俺たちは見張りを討伐したあと、北側エリアのオークキングをぶっ殺すだけだ……」
ヒカリと一八はエリアを分けていた。ヒカリたちが基地の南側であり、一八たちが北側を担当する。どちらにどれだけ潜んでいるのかは何も分からなかったというのに。
「ま、着いていくよ。あたしは君に群がるオークを斬るだけし……」
本当に落ち着いていられた。作戦を聞いた時には声を失ったものの、いざ任務が始まってしまっては恐怖も混乱もない。たった四人での無謀な奇襲作戦。死を覚悟した今であれば怖いものなどなかった。
突撃を始めた奇襲班。刹那に一八の視界が輝く。それは青白い輝き。視界に入り込む閃光が何であるのかを一八は一瞬にして理解した。
なぜなら、その光は記憶にあるままだ。青白い閃光は自身を斬り裂いた雪花斬に他ならない。
「俺たちも行くぞ!!」
自身も外壁へと取り付き、直ぐさまオークを斬る。ただし、ここは魔力など込めない。
オークキングを相手にするヒカリとは状況が違っている。このあとの奇襲に繋げるべく、隠密行動を重視するだけだ。
「カズやん君!」
「よっしゃ、乗り込むぞ!」
即座に見張りの三体を斬った一八たち。ヒカリたちの様子を窺うことなく、倒壊した壁の隙間から基地内に侵入していく。
壁を乗り越えた二人は目を疑っていた。暗視ゴーグルに浮かび上がるのは隙間なく埋め尽くされたオークの群れ。目標とするオークキングは遥か先であった。
「莉子、ぶっ飛んでいくぞ!」
「りょ、了解!」
流石に莉子は動揺した感じだが、一八が向かうというのならついていくだけだ。魔力回復薬は十分な数があるのだし、出し惜しみするなとも言われている。よって二人はそのままオークの群れを飛び越えるべく、エアパレットに魔力を注ぐ。
一八は狙いを定めている。練り上げた魔力を全て斜陽へと流し込み、一刀両断するのだと決めた。
突如として空に炎が舞う。オークたちは何事かと思ったことだろう。その炎は打ち上がったかと思えば、流れ星のように落下し、果てにはオークキングを斬り裂いてしまう。
「莉子! 次だっ!」
「雑魚が多いって!」
狙い通りに一刀両断した一八だが、息をつく暇はない。地面まで降りてしまった彼は再浮上するほどの隙間を見つけられないでいる。
「クソが!」
魔力を目一杯に乗せて斜陽を振り回す。周囲にいた何体のオークを斬り裂いたことだろう。それでもまだ気が触れそうになるくらいの群れが二人を取り囲んでいる。
「莉子、お前は血統スキルを持ってないのか!?」
ここで一八が聞く。ヒカリのような血統スキルがあれば、この状況を打開できるはずと。
「ウチが鍛冶屋なの見たっしょ!? カズやん君こそ持ってないの!?」
「俺んちは柔術道場だぞ!?」
二人して溜め息を吐く。相方の血統スキルには期待できないのだと。
こうなると背中合わせに剣を振るだけであり、襲い来るオークを斬るだけであった。
ジリ貧だと思った二人だが、それよりも状況は悪化する。刹那に魔物の咆吼が轟いたのだ。しかも複数同時に……。
「何あれ……?」
莉子の視界にも入っている。暗視ゴーグルに写るもの。巨大な二つの影が向かっているのが見えた。
「こりゃ五体どころじゃねぇな……」
北側だけで三体目になる。先陣を切って向かってくるところを見ると、現れたオークキングはネームドではないはずだ。
「カズやん君、どうすんの!?」
堪らず問いかける莉子。流石に二体同時は幾ら一八でも厳しいと思って。
一体を任せると言われたら、戦おうと考えていた。けれど、一八はそのような話を口にしない。
「二体とも任せろ。雑魚を頼む。もしも俺がレイストームを撃ち放ったとすれば、直ぐに回復薬を飲ませてくれ。あれは確実に昏倒する。無理矢理に流し込んで、殴ってでも目覚めさせろ……」
どうやら噂に聞く魔法を使うつもりだと莉子は気付く。女神より与えられしその魔法は全魔力を消費すると聞いたのだ。
「分かった。そのときには目覚めの口づけをしてあげるよ……」
ニシシと笑う莉子に一八もつられていた。まだパートナーには余裕があるのだと思う。だとすれば、雑魚の相手は任せても問題ないはずだ。
一直線に向かってくるオークキング。二体は仲間を踏みつけながらも真っ直ぐに近付いていた。
「まずは左側の一体と戦う。莉子は右側のオークキングに注意しておけ……」
「レイストームじゃないの!?」
先ほどはエアパレットの勢いもあって一刀両断にしていた。しかし、地に足をつけた今も一八は正攻法にての戦いを選択する。
「たぶん、ネームド以外は思ったほど強くねえ。最初の一体はエンペラーの半分も強度がなかった。進化級があんなに柔いはずがない……」
経験則から語られていく。幾ら人工的に生み出されたといっても、オークキングに変わりはない。けれども、一八は想像していたよりずっと弱いと感じていた。
「いけるの?」
「腕で防御されなきゃ一刀で決められる。防がれたとして三太刀ありゃ問題ねぇよ」
正直に莉子は信じられなかったけれど、体躯ほどの脅威を一八が感じていないのだと分かった。
「飛竜より?」
どうしてか聞いている。渾身の一振りにて飛竜の左翼を斬り裂いたことは彼女にとって刀士としての誇りであり、自信の源であった。だからこそ飛竜との比較を知りたがっている。
「飛竜は滅茶苦茶かてぇよ。恐らくバジリスクと同等か、それよりも柔い……」
背中越しに聞こえる声に莉子は笑みを浮かべた。自身もまた奇襲班員である。ならばパートナーにばかり任せるのは間違っているはずだ。
「じゃあ、右側を任せてくんない? あたしもオークキングと戦ってみたい」
一瞬の沈黙。けれど、それは二人共が刀を振ったからであり、別に一八が躊躇したわけではない。
「なら頼む。この乱戦を抜け出す方法を考えねぇとな……」
「お任せあれ! 飛び出すタイミングは合わせるし!」
ずんずんと近付いてくるオークキング。二人は視界の端に迫る影を確認していた。
一方で一八は確信している。やはり向かい来るオークキングは人工的に生み出されたものであると。威圧的に咆吼することなくオークと共に侵攻してくる二体は記憶にある自分自身の姿とは似ても似つかない。
「でけぇだけだな……」
自分であれば雑魚には引くように命令し、戦果を独り占めにしようとしただろう。加えて大声で威圧し、戦意を削いだはず。何の策もなく進むだけのオークキングには王者としての風格を感じない。
「莉子、いくぞ!!」
「うん!」
二人は瞬間的にエアパレットの出力を上げた。周囲に群がるオークに激突しながらも再び宙に舞う。
「真っ二つにしてやれぇぇっ!!」
一八の号令にて一斉に斬りかかる。
刹那に莉子の長刀が竜巻を纏い、一八の斜陽は炎を上げた。一刀にて仕留める。二人共が決意のままに振りきっていた。
一八は袈裟切りに、莉子は右薙ぎに刀を振る。二つの軌跡がシンクロすることなどなかったけれど、結果は二つ共が同じである。
一八はオークキングの左肩から右脇腹にかけてを斬り裂き、莉子は一番柔いと思われる腹を裂いていた。巨体を真っ二つにはできなかったけれど、二体のオークキングは大量の血しぶきを上げて、徐に倒れ込む。数体のオークを下敷きとし、程なく息絶えた。
「よっしゃ、次はどこだ!?」
一八はエアパレットから右足を下ろし、固定した左足だけで旋回するようにしている。
次の瞬間、赤色の発光弾が視界に入った。それはマイバラ基地の南側エリア。ヒカリたちが担当した場所であり、赤い発光弾はネームドモンスターが現れたという合図に他ならない。
「カズやん君!?」
「マジか!?」
動揺する二人。しかしながら、二人は赤い発光弾に驚いたわけではない。
二人の直ぐ近くにあった建物が突如として倒壊したからだ。加えて散乱する瓦礫をものともせず出現した巨大な影。挙げ句の果て、その強大な何者かは言葉を発している。
「人族共、よく聞け……」
野太い声が周囲に轟く。一瞬にして手下のオークが距離を取っている。
これはまさしく前回と同じ。一八が知るままの強者に他ならない。
「己が名はカイザー……」
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