オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第三章 存亡を懸けて

作戦の遂行

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 ヒカリたちもオーバーロードとの熾烈な戦いを始めていた。
 例によって雑兵は彼女たちを取り囲むだけ。逃げられないようにと命じられているのだろう。

「少佐、どうします?」
「どうするもこうするもない。やはり腕を無効化するしかないだろう?」
 ヒカリの選択は長期戦であった。オークキングは基本的に体術を得意としている。ならば攻守の要である腕を最初に潰してしまおうと。

「了解しました……」
 まず斬り掛かるのはヒカリである。目一杯に魔力を乗せた一撃がオーバーロードの右腕に入った。更には優子も同じ箇所へと打ち込んでいる。
 息の合ったコンビネーション。この辺りは一八たちと異なっている。経験による裏付けが戦闘だけでなく、作戦にも現れていた。

「続けるぞ!」
 休む間もなく斬りかかる。どちらかの腕を無効化しないことには致命傷は与えられない。たった二人であったけれど、ヒカリも優子も臆することなく剣を振る。
 幾度となく斬りかかっていた。しかしながら、手応えはない。二人の連撃は属性発現のみであり、まだまだ時間がかかりそうだ。

 以前は血統スキル雪花斬にてオークエンペラーの腕を斬り落としたヒカリであるけれど、両腕が残る状態において雪花斬は繰り出しにくい。天恵技は身体の動きをスキルに支配されるため、回避がままならなくなってしまうからだ。

「一八君はよく属性発現もなしに斬り落としましたね?」
「まったくだ。途方もない数を打ち込んだに違いない……」
 今になって奥田一八という刀士が成した偉業を知る。身体強化だけでエンペラーの腕を斬り落としてしまったのだから、尋常ではない精神力を要したはずと。

「我らは二人いる! いくぞ、優子!」
 再び攻勢を仕掛けるヒカリだが、集中力を削ぐことになってしまう。
 なぜなら、視界の端に発光弾が映り込んだからだ。

「何だと!?」
 慌てて攻撃を中止。優子もまた彼女に合わせて足を止める。

「赤色……でしたよね?」
 赤色の発光弾はネームドの出現を意味している。自分たちがハズレを引いたと思いきや、北側エリアにも出現してしまったらしい。

「優子、もはや援軍は期待できんぞ。それよりもいち早く片付けて北側に向かわねばならん」
 ヒカリの話に優子は頷きを見せる。薄ら笑いを浮かべるようなオーバーロードを二人して仕留めるしかないのだと。

「やりましょう。先輩としての意地があります……」
「それでいい。オーク共はギャラリーでしかない。手数で押していくぞ」
 作戦は変わらない。狙うはオーバーロードの右腕のみ。目的を遂げたあとは血統スキルを撃ち放つだけだ。

 だが、時間だけが過ぎていく。幾度となく正確な連続攻撃を浴びせていたけれど、オーバーロードの右腕は依然として健在であった。

「ハハハ! 軽い剣だな? 所詮は女か。強者かと考えたが、我の評価は間違っていたようだ!」
 平然と右腕を見せつけるオーバーロード。如何にもヒカリたちの攻撃が効いていないと言いたげである。大袈裟に腕を振ってはダメージがないことをアピールしていた。

「なんて化け物だ……」
「効いているのですかね……?」
 流石に疲れ始めていた。スピードで圧倒する二人であるが、決め手に欠けていたのも事実だ。二人は徐々に集中力を失っていく。魔力回復薬を飲んでは斬るを繰り返し、反撃にも注視しなければならないのだから。

「優子、ボウッとするな!」
「は、はい!」
 どうしても突破口を見出せない。戦況は押しているようで、その実はジワジワと押されていたのだ。攻め手に勝るだけであり、オーバーロードの攻撃を躱すのも難しくなっている。一撃でも受けようものなら、彼女たちは呆気なく失われてしまうというのに。

 ここでヒカリは決断する。もう直ぐ解除班の準備が完了する一時間だ。作戦に狂いを生じさせてはならない。魔道士による一斉照射のあと、強襲部隊が乗り込んでくる手筈なのだ。

「優子、雪花斬を使用する。死ぬ気でフォローしろ……」
「本気ですか!? 失敗に終われば、それこそ全てが無駄になります!」
 優子が否定するも、ヒカリは首を振った。作戦の立案者である自身が計画を違えてはならないのだと。

「必ず斬り落とす。私を信じてついてこい……」
 それは賭けであったものの、このまま斬り続けたとして何時間もかかりそうな気がする。またその時間を無傷でいられる保証はない。何しろ集中力が散漫になりかけているのだ。

 ヒカリが駆け出す。オーバーロードに悟られぬように。血統スキルの使用を決めた今も同じコンビネーション攻撃の振りをする。
 ヒカリはただ集中していた。天恵技の使用は身体の自由を奪う。圧倒的な威力を生み出すけれど、狙いをつけるのには適していない。さりとて今までの累積ダメージを無駄にするのは愚策だ。必ず斬り落とすと誓ったヒカリは雪花斬を右腕の同じ箇所へと斬り付けなければならない。

「予測しろ……。今までにあったオーバーロードの動きを……」
 ここまでは斬り付けると、必ず腕を突き出して防御していた。ならば角度や向きを先んじて予測し、ヒカリはスキルを実行するだけだ。

 鋭い眼光がオーバーロードを捉えていた。ヒカリは先ほどまでと同じように剣を振り上げ飛びかかっている。

「雪花斬!!――――――」
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