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第三章 存亡を懸けて
強襲部隊
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マイバラ基地の正門南側へと陣取った強襲部隊。川瀬一個旅団は配置についていた。
あと五分で定刻となるのだが、奇襲班だけでなく解除班からの連絡もない。これには流石に不安の色が見て取れる。
「川瀬少将、流石に連絡が遅すぎませんか?」
痺れを切らせた玲奈が言った。そもそも彼女はこの作戦が博打といえるほどの確率であることを知らない。成功確率5%未満に期待をして編成された部隊であることを。
玲奈の問いに川瀬は溜め息を零す。予定になかった赤い発光弾。それが何を意味しているのか。ヒカリたちは二手に別れて戦っているはずで、二発打ち上がった赤い発光弾は双方が何らかの連絡を行ったのだと推し量れている。
しかし、それらは既に一時間近くも前の話だ。現状の彼女たちが苦戦しているのか、或いはもう全滅しているのかも分からなくなっている。
「こちらから連絡するわけにはならん。強襲部隊もまた奇襲が前提にある。オークキングがいると分かって通信などできない。身構えられてしまえば、部隊を分けた意味すらなくなってしまう」
強襲部隊もまた大軍勢を混乱させるために存在している。頭を失った雑兵がパニックに陥ること。数で劣る共和国軍守護兵団はそれしか勝機を見出せないのだ。
「玲奈、ここは我慢しろ。仲間を信じて待つだけだ。少しばかりの遅れは織り込み済みだからな……」
川瀬は作戦の遅延だと語る。しかしながら、玲奈はそれが言葉を濁しているだけだと思う。彼もまた作戦の失敗を薄々と感じているのだと。
「もし仮にあと三十分待ったあとも連絡がなければどうするおつもりです?」
玲奈は聞いておかねばならない。無謀な奇襲に挑んだ騎士たちをどうするのか。どこまで待つつもりなのかと。
頷いたあと川瀬が告げる。悩むことなく彼は言葉を繋げていた。
「その場合は撤収だ――――」
危惧していたことをそのまま玲奈は返されている。段階を経るこの作戦は奇襲班のオークキング殲滅ありきであった。それなくして作戦の完遂などあり得ない。
けれども、容認できるはずもなかった。連絡がなかったとして死んだとは決まっていないのだ。助けに向かえば作戦が失敗したとしても、騎士たちを救えるかもしれない。
「浅村少佐や一八を見捨てるのですか? 危険な任務を文句も言わず受け入れた彼女たちを切り捨ててしまうのでしょうか?」
やはり玲奈は助けに行きたいと思う。兵団の要であるヒカリを失うなんて考えられないし、一八と莉子は候補生時代の班員なのだ。作戦に反する感情が沸き立つのは仕方のないことであった。
「連絡がないのだ。仕方あるまい?」
「いや、ならば三十分後にこちらから連絡してみるべきです! 先んじて一般兵は撤退させたとしても、我ら騎士ならば彼女たちの帰路を作り出せるはず!」
玲奈は訴えていた。作戦が失敗に終わったとしても、最後まで仲間を守るべきだと。簡単に切り捨てられる人員ではないのだからと。
「まあそれも手だが、被害は最小限。仮に我らが救助に向かったとして、成功確率は低い。浅村少佐が苦戦する強敵がいるのなら、救助に向かった騎士までもが失われてしまうだろう」
「違います! 今手を打たなければ、脅威が残るだけ。元より兵団はもう戦える人材がいないではないですか!?」
玲奈の指摘は痛いところであった。もしも、作戦を中止し帰路に就いたとして、再侵攻する余力は残されていない。支部から騎士を掻き集めたとしても、ヒカリが苦戦する相手を倒せるとは考えられなかった。
しばし考え込む川瀬。確かにその通りである。浅村ヒカリは真なるアタッカー。彼女の存在は現状の兵団において、希望ともいえる輝きを放っている。ヒカリを見捨てて逃げ帰ったとしても、三千の一般兵が彼女の代役を担えるとは考えにくい。
「そうかもしれん。無駄に年をとるのは害でしかないな。私の思考は自己保身だ。脅威を前に臆していたのだろう……」
玲奈の話に川瀬はそう分析していた。撤退の選択は共和国のためではなく、目前に迫る死への恐怖から逃れるためであるのだと。
「定刻になり次第、こちらから通信する。連絡がなければ騎士のみが救助へと向かう。一般兵は災厄の排除が確認されるまで待機だ」
玲奈は大きな声でハイと返事をする。自身の要望が受け入れられたのだ。そもそも強襲部隊であることに不満を感じていた彼女は今すぐにでも救助へと向かいたかった。
しかし、作戦を変更し、突撃を前倒しできない理由も分かっている。こんな今も奇襲班が戦っているかもしれないのだ。彼らを信じて定刻までは作戦を遂行すべきである。
徐に刀を抜いては軽く一振り。そのときを待ちわびているような玲奈であった……。
あと五分で定刻となるのだが、奇襲班だけでなく解除班からの連絡もない。これには流石に不安の色が見て取れる。
「川瀬少将、流石に連絡が遅すぎませんか?」
痺れを切らせた玲奈が言った。そもそも彼女はこの作戦が博打といえるほどの確率であることを知らない。成功確率5%未満に期待をして編成された部隊であることを。
玲奈の問いに川瀬は溜め息を零す。予定になかった赤い発光弾。それが何を意味しているのか。ヒカリたちは二手に別れて戦っているはずで、二発打ち上がった赤い発光弾は双方が何らかの連絡を行ったのだと推し量れている。
しかし、それらは既に一時間近くも前の話だ。現状の彼女たちが苦戦しているのか、或いはもう全滅しているのかも分からなくなっている。
「こちらから連絡するわけにはならん。強襲部隊もまた奇襲が前提にある。オークキングがいると分かって通信などできない。身構えられてしまえば、部隊を分けた意味すらなくなってしまう」
強襲部隊もまた大軍勢を混乱させるために存在している。頭を失った雑兵がパニックに陥ること。数で劣る共和国軍守護兵団はそれしか勝機を見出せないのだ。
「玲奈、ここは我慢しろ。仲間を信じて待つだけだ。少しばかりの遅れは織り込み済みだからな……」
川瀬は作戦の遅延だと語る。しかしながら、玲奈はそれが言葉を濁しているだけだと思う。彼もまた作戦の失敗を薄々と感じているのだと。
「もし仮にあと三十分待ったあとも連絡がなければどうするおつもりです?」
玲奈は聞いておかねばならない。無謀な奇襲に挑んだ騎士たちをどうするのか。どこまで待つつもりなのかと。
頷いたあと川瀬が告げる。悩むことなく彼は言葉を繋げていた。
「その場合は撤収だ――――」
危惧していたことをそのまま玲奈は返されている。段階を経るこの作戦は奇襲班のオークキング殲滅ありきであった。それなくして作戦の完遂などあり得ない。
けれども、容認できるはずもなかった。連絡がなかったとして死んだとは決まっていないのだ。助けに向かえば作戦が失敗したとしても、騎士たちを救えるかもしれない。
「浅村少佐や一八を見捨てるのですか? 危険な任務を文句も言わず受け入れた彼女たちを切り捨ててしまうのでしょうか?」
やはり玲奈は助けに行きたいと思う。兵団の要であるヒカリを失うなんて考えられないし、一八と莉子は候補生時代の班員なのだ。作戦に反する感情が沸き立つのは仕方のないことであった。
「連絡がないのだ。仕方あるまい?」
「いや、ならば三十分後にこちらから連絡してみるべきです! 先んじて一般兵は撤退させたとしても、我ら騎士ならば彼女たちの帰路を作り出せるはず!」
玲奈は訴えていた。作戦が失敗に終わったとしても、最後まで仲間を守るべきだと。簡単に切り捨てられる人員ではないのだからと。
「まあそれも手だが、被害は最小限。仮に我らが救助に向かったとして、成功確率は低い。浅村少佐が苦戦する強敵がいるのなら、救助に向かった騎士までもが失われてしまうだろう」
「違います! 今手を打たなければ、脅威が残るだけ。元より兵団はもう戦える人材がいないではないですか!?」
玲奈の指摘は痛いところであった。もしも、作戦を中止し帰路に就いたとして、再侵攻する余力は残されていない。支部から騎士を掻き集めたとしても、ヒカリが苦戦する相手を倒せるとは考えられなかった。
しばし考え込む川瀬。確かにその通りである。浅村ヒカリは真なるアタッカー。彼女の存在は現状の兵団において、希望ともいえる輝きを放っている。ヒカリを見捨てて逃げ帰ったとしても、三千の一般兵が彼女の代役を担えるとは考えにくい。
「そうかもしれん。無駄に年をとるのは害でしかないな。私の思考は自己保身だ。脅威を前に臆していたのだろう……」
玲奈の話に川瀬はそう分析していた。撤退の選択は共和国のためではなく、目前に迫る死への恐怖から逃れるためであるのだと。
「定刻になり次第、こちらから通信する。連絡がなければ騎士のみが救助へと向かう。一般兵は災厄の排除が確認されるまで待機だ」
玲奈は大きな声でハイと返事をする。自身の要望が受け入れられたのだ。そもそも強襲部隊であることに不満を感じていた彼女は今すぐにでも救助へと向かいたかった。
しかし、作戦を変更し、突撃を前倒しできない理由も分かっている。こんな今も奇襲班が戦っているかもしれないのだ。彼らを信じて定刻までは作戦を遂行すべきである。
徐に刀を抜いては軽く一振り。そのときを待ちわびているような玲奈であった……。
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