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第三章 存亡を懸けて
義勇兵
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川瀬は議会の承認を取り付け、編成を始めていた。元トウカイ王国首都ナゴヤへの進軍。新たに義勇兵として五万という一般兵を集め、総員十万の四個師団を予定していた。
共和国の命運をかけた戦いであることを伝えている。ナガハマ前線基地の戦力を残すという条件で何とか承認に漕ぎ着けていた。
「やれやれ、一週間足らずでどれだけ練度を上げられることやら……」
中には腕の立つ者もいたけれど、大半の義勇兵は剣術経験がない。基本的な剣の扱いから始めなくてはならなかった。
基本の上下素振りをさせてみるも、戦力になるとは思えない。しかし、ざっと見た中で気になる兵を見つけていた。
「ほう、君は筋が良いな? 名前は?」
足を止めて川瀬。新規採用された一般兵の中に目を引く者を発見している。
「来田一郎です……」
なかなかの体躯をした青年は来田一郎と名乗る。剣術の経験があるようにしか思えなかった。
「剣術経験のある素振りだな?」
「ええまあ。私は岸野魔道剣術道場に通っておりますから……」
来田の返答に川瀬はむぅっと声を上げた。最近よく聞く道場名。彼は自身もよく知る道場の門下生であったようだ。
「岸野武士の指導を仰いだのか? 君は奥田一八を知っているか?」
問わずにいられない。彼の見た目的には同年代だと思える。だからこそ知っているのではないかと。
「高校の同級生です。去年は一緒に道場へ通っていました……」
「では道場に通って何年になる?」
川瀬としては興味本位であった。武士が生み出した怪物がどのようにして育成されたのか。共和国を救うかもしれない人材の育成方法を知りたく思う。
「え? 私も一八さんも高校三年からですが……」
来田の返答に川瀬は声を失っていた。来田はともかく一八まで二年弱という期間しか剣術経験がないだなんて。
「どうしてお前たちは剣術を始めた?」
聞いておかねばならない。現状において一八は共和国にとって必要不可欠な剣士である。その彼がどうして剣術を始めることになったのかを。
「私と一八さんはまるで異なります。確か一八さんは浅村ヒカリ少佐に負けたくないからという理由だったと思います……」
そういえば奥田一八はヒカリが推薦したと聞いている。割と強引な手段を使ってまで彼を騎士学校へ入学させたのだと。
「浅村少佐との関係は?」
「そこまでは分かりません。扱き下ろされたとは聞いてますけど……」
川瀬は考えている。ヒカリには実の妹がいて、その彼女を差し置いてまで一八を選んだわけ。浅村アカリも騎士になっていたけれど、彼女を構う姿は少しも見ていない。
「ならば来田はどうして義勇兵に応募した?」
川瀬は来田についても聞く。あと数年頑張れば騎士への道が開かれるような素質を感じるのだ。わざわざ一般兵になろうとする意味が分からなかった。
「私には認めてもらいたい人がいます。憧れているその方は今も戦っており、共和国を窮地から救い出す役割を既に持っているのです。だから、いてもたってもいられず応募していました……」
「それは奥田一八か?」
その問いには首を振る。同級生の一八を目標としているわけではないようだ。
「岸野玲奈少尉です――――」
真っ直ぐに見つめられた川瀬は息を呑んでいた。憧れは奥田一八ではなく、岸野玲奈なのだという。また憧れや認められたいという言い回しは暗に理解できた。川瀬から見ても、玲奈は兵団にいるような容姿ではなかったのだから。
「あいつに惚れるとか根性はあるようだ。並の女ではないぞ?」
「分かっています。実はもうフラれているのですが、私にも意地がある。最後は彼女を守って死ねたなら本望です。彼女の記憶にさえ残れば良い」
川瀬は危うさを感じつつも、理解を示している。兵士には戦う理由が必要だと。国のためだとか人族のためとかいう漠然としたものよりも、来田が語った理由は好感が持てた。
「来田、君はこの班じゃなく、浅村少佐が指導する班へと入りなさい。向こうでは応用を教えている。そこで認められたのなら君の希望は叶うだろう。前線を担う部隊へと配備されるはずだ」
現状の訓練はふるいにかけているようなもの。戦える者を前に出し、戦えなければ後方へと回す。かといって、侵攻軍の半数以上が素人ともいえる編成となっており、後方へ配置されたとして戦闘がないわけではなかった。
「そうなれるように頑張ります」
集まった義勇兵は全員が共和国の行く末を案じている。マイバラ基地の陥落は良い意味で国民に危機感を与えていた。万単位で応募者があったこと。戦力になるかどうかは未知数であるが、団結力は間違いなく生まれている。
来田をヒカリの元へと向かわせてから、川瀬は引き続き義勇兵たちに熱心な指導を始めるのだった……。
共和国の命運をかけた戦いであることを伝えている。ナガハマ前線基地の戦力を残すという条件で何とか承認に漕ぎ着けていた。
「やれやれ、一週間足らずでどれだけ練度を上げられることやら……」
中には腕の立つ者もいたけれど、大半の義勇兵は剣術経験がない。基本的な剣の扱いから始めなくてはならなかった。
基本の上下素振りをさせてみるも、戦力になるとは思えない。しかし、ざっと見た中で気になる兵を見つけていた。
「ほう、君は筋が良いな? 名前は?」
足を止めて川瀬。新規採用された一般兵の中に目を引く者を発見している。
「来田一郎です……」
なかなかの体躯をした青年は来田一郎と名乗る。剣術の経験があるようにしか思えなかった。
「剣術経験のある素振りだな?」
「ええまあ。私は岸野魔道剣術道場に通っておりますから……」
来田の返答に川瀬はむぅっと声を上げた。最近よく聞く道場名。彼は自身もよく知る道場の門下生であったようだ。
「岸野武士の指導を仰いだのか? 君は奥田一八を知っているか?」
問わずにいられない。彼の見た目的には同年代だと思える。だからこそ知っているのではないかと。
「高校の同級生です。去年は一緒に道場へ通っていました……」
「では道場に通って何年になる?」
川瀬としては興味本位であった。武士が生み出した怪物がどのようにして育成されたのか。共和国を救うかもしれない人材の育成方法を知りたく思う。
「え? 私も一八さんも高校三年からですが……」
来田の返答に川瀬は声を失っていた。来田はともかく一八まで二年弱という期間しか剣術経験がないだなんて。
「どうしてお前たちは剣術を始めた?」
聞いておかねばならない。現状において一八は共和国にとって必要不可欠な剣士である。その彼がどうして剣術を始めることになったのかを。
「私と一八さんはまるで異なります。確か一八さんは浅村ヒカリ少佐に負けたくないからという理由だったと思います……」
そういえば奥田一八はヒカリが推薦したと聞いている。割と強引な手段を使ってまで彼を騎士学校へ入学させたのだと。
「浅村少佐との関係は?」
「そこまでは分かりません。扱き下ろされたとは聞いてますけど……」
川瀬は考えている。ヒカリには実の妹がいて、その彼女を差し置いてまで一八を選んだわけ。浅村アカリも騎士になっていたけれど、彼女を構う姿は少しも見ていない。
「ならば来田はどうして義勇兵に応募した?」
川瀬は来田についても聞く。あと数年頑張れば騎士への道が開かれるような素質を感じるのだ。わざわざ一般兵になろうとする意味が分からなかった。
「私には認めてもらいたい人がいます。憧れているその方は今も戦っており、共和国を窮地から救い出す役割を既に持っているのです。だから、いてもたってもいられず応募していました……」
「それは奥田一八か?」
その問いには首を振る。同級生の一八を目標としているわけではないようだ。
「岸野玲奈少尉です――――」
真っ直ぐに見つめられた川瀬は息を呑んでいた。憧れは奥田一八ではなく、岸野玲奈なのだという。また憧れや認められたいという言い回しは暗に理解できた。川瀬から見ても、玲奈は兵団にいるような容姿ではなかったのだから。
「あいつに惚れるとか根性はあるようだ。並の女ではないぞ?」
「分かっています。実はもうフラれているのですが、私にも意地がある。最後は彼女を守って死ねたなら本望です。彼女の記憶にさえ残れば良い」
川瀬は危うさを感じつつも、理解を示している。兵士には戦う理由が必要だと。国のためだとか人族のためとかいう漠然としたものよりも、来田が語った理由は好感が持てた。
「来田、君はこの班じゃなく、浅村少佐が指導する班へと入りなさい。向こうでは応用を教えている。そこで認められたのなら君の希望は叶うだろう。前線を担う部隊へと配備されるはずだ」
現状の訓練はふるいにかけているようなもの。戦える者を前に出し、戦えなければ後方へと回す。かといって、侵攻軍の半数以上が素人ともいえる編成となっており、後方へ配置されたとして戦闘がないわけではなかった。
「そうなれるように頑張ります」
集まった義勇兵は全員が共和国の行く末を案じている。マイバラ基地の陥落は良い意味で国民に危機感を与えていた。万単位で応募者があったこと。戦力になるかどうかは未知数であるが、団結力は間違いなく生まれている。
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