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第三章 存亡を懸けて
帰還のあと
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玲奈と一八がマイバラ基地に帰還したのは出発してから九日後のことであった。
流石に疲れ果てていたけれど、休息を求めるよりも二人は報告を行っている。
「ふはは、あの親書で同盟を結んでくるとは恐れ入った! 既に藤城首相からの通信が入っている」
「冗談ではありませんよ。血の気が引きました。まあ結果的に同等以上の条件が得られましたけれど……」
豪快に笑う川瀬に玲奈は苦笑いだ。足下を見られる外交が悪手であると分かっていたけれど、イレギュラーがなければ物別れになっていたはず。
「まあ、あれは警告だったのだ。危機感がなければ同盟など受けるはずもないからな。今回ばかりは天軍に助けられたともいえる」
今後の交渉にて不可侵条約を結ぶ必要があると考えていた川瀬。一度の使者を送るだけで締結の運びとなったのは戦略上非常に有り難かった。何しろ共和国は背後を恐れずに戦えるのだから。
「しかし、天軍がヒダ山脈越を計画していたとは迂闊だった。そもそもマイバラとトウキョウを同時に陥落させる両面作戦であったのだろうな……」
距離的な問題としてコウフへの進軍が遅れたのだと思う。ヒダ山脈はタテヤマ連邦越よりも遥かに過酷な道のりであったのだから。
「奥田はどう思う? ネームドは一体だけだったのだろう?」
川瀬は一八にも意見を聞く。急遽参戦した感想を求めるようにして。
「二体なら全滅でしたね。俺も玲奈も戦える状態じゃなかったっす。たぶん連合国にはネームドだけでなく、真なる進化級オークにも対抗する手段がないんじゃないかと」
「ほう、連合国軍は大した戦力を持っていないという印象か?」
川瀬とて理解している。使者が帰るや直ぐさま決議をし、通信してきたのだ。頼りにしているのは明らかであり、それだけ連合国の焦りを感じられた。
「ダメっすね。進化級オークがいない戦いで物量作戦しかできないんすから。剣士の質も魔道士も共和国に分があります。ただ、支援士に関してはうちは負けてます」
一八の話に川瀬はオッと声を上げる。一から十まで世話をするような関係かと思えば、共和国にも同盟の利点がありそうだと。
「それは何かね?」
今後の交渉材料になりそうだと思う。共和国が連合国への兵士派遣をするならば、代わりに彼らが差し出せるものが欲しいところ。一方的な関係よりも健全であった。
「再生魔法っす。俺はディザスターに殴られて粉砕骨折していたらしいんです。でも一晩で直してしまった。あんな回復魔法があるなんて思いもしませんでした」
そういえば川瀬も聞いたことがあった。連合国には小国が入り乱れる長い戦乱の時代があり、少ない兵を維持するため支援魔法が研究されていたのだと。
「再生魔法か。今後の交渉で術士の派遣を願うとしよう。有益な情報だった。感謝する」
川瀬は天軍との戦いに勝機を見出している。連合国が出し渋りすることも考えられたが、既にカントウ連合国は安息の地ではなくなった。いつ何時攻め入られるかも分からないのだから、共和国の要請にある程度は従うはずだ。
「それで川瀬少将、進軍はいつ頃になりますでしょうか? 我々は流石に少しばかり休みたいのですが……」
ここで玲奈が意見をする。流石の彼女も疲れ果てていた。予定より二日も遅れてしまったのは、予想以上に体力的な問題が大きかったからだ。
「うむ。直ぐにでも出発したいところなのだが、慌てても仕方がない。基本的な剣術を一般兵が学んでからになる。一週間後辺りに出発できれば良い方だな」
少しも剣術経験がない兵には槍を持たせていた。彼らは本陣を守るための兵であり、機動力も殲滅力も求めていない。だが、それでも適切な攻撃を学ぶ必要がある。
「そうですか。ならば十分です。しっかりと休息を取ったあと、我ら二人も訓練に参加させてもらいます」
「そうしてくれ。指導者が不足していてな。有名人であるお前たち二人ならば熱心に話を聞いてもらえるだろう。是非とも兵団の底上げを頼みたい」
進軍は早ければ早いほど効果を発揮すると結論づけられている。しかし、ど素人を戦場に送り込んだとして、混乱するだけなのだ。数日で進化級オークの数が増える可能性は低かったし、せめてど素人が素人程度になるくらい底上げするべきだと判断されている。何しろ天軍の主力であるオークは雑兵であったとしても、一般人には脅威であるのだから。
「明後日から頼めるか? 申し訳ないが三日も休暇を与えられる時間がない」
「それは心得ています。今頑張らねば後悔するだけ。我らは最悪の事態を想定して動くべきですから」
大役を果たした一八と玲奈だが、与えられる休暇は本日と明日だけであるらしい。
だが、玲奈も一八もそれで構わないと考えている。地上から天軍を排除することこそが、真の休息を得るタイミングなのだ。
元より二人は二日も休めるだなんて考えていなかった……。
流石に疲れ果てていたけれど、休息を求めるよりも二人は報告を行っている。
「ふはは、あの親書で同盟を結んでくるとは恐れ入った! 既に藤城首相からの通信が入っている」
「冗談ではありませんよ。血の気が引きました。まあ結果的に同等以上の条件が得られましたけれど……」
豪快に笑う川瀬に玲奈は苦笑いだ。足下を見られる外交が悪手であると分かっていたけれど、イレギュラーがなければ物別れになっていたはず。
「まあ、あれは警告だったのだ。危機感がなければ同盟など受けるはずもないからな。今回ばかりは天軍に助けられたともいえる」
今後の交渉にて不可侵条約を結ぶ必要があると考えていた川瀬。一度の使者を送るだけで締結の運びとなったのは戦略上非常に有り難かった。何しろ共和国は背後を恐れずに戦えるのだから。
「しかし、天軍がヒダ山脈越を計画していたとは迂闊だった。そもそもマイバラとトウキョウを同時に陥落させる両面作戦であったのだろうな……」
距離的な問題としてコウフへの進軍が遅れたのだと思う。ヒダ山脈はタテヤマ連邦越よりも遥かに過酷な道のりであったのだから。
「奥田はどう思う? ネームドは一体だけだったのだろう?」
川瀬は一八にも意見を聞く。急遽参戦した感想を求めるようにして。
「二体なら全滅でしたね。俺も玲奈も戦える状態じゃなかったっす。たぶん連合国にはネームドだけでなく、真なる進化級オークにも対抗する手段がないんじゃないかと」
「ほう、連合国軍は大した戦力を持っていないという印象か?」
川瀬とて理解している。使者が帰るや直ぐさま決議をし、通信してきたのだ。頼りにしているのは明らかであり、それだけ連合国の焦りを感じられた。
「ダメっすね。進化級オークがいない戦いで物量作戦しかできないんすから。剣士の質も魔道士も共和国に分があります。ただ、支援士に関してはうちは負けてます」
一八の話に川瀬はオッと声を上げる。一から十まで世話をするような関係かと思えば、共和国にも同盟の利点がありそうだと。
「それは何かね?」
今後の交渉材料になりそうだと思う。共和国が連合国への兵士派遣をするならば、代わりに彼らが差し出せるものが欲しいところ。一方的な関係よりも健全であった。
「再生魔法っす。俺はディザスターに殴られて粉砕骨折していたらしいんです。でも一晩で直してしまった。あんな回復魔法があるなんて思いもしませんでした」
そういえば川瀬も聞いたことがあった。連合国には小国が入り乱れる長い戦乱の時代があり、少ない兵を維持するため支援魔法が研究されていたのだと。
「再生魔法か。今後の交渉で術士の派遣を願うとしよう。有益な情報だった。感謝する」
川瀬は天軍との戦いに勝機を見出している。連合国が出し渋りすることも考えられたが、既にカントウ連合国は安息の地ではなくなった。いつ何時攻め入られるかも分からないのだから、共和国の要請にある程度は従うはずだ。
「それで川瀬少将、進軍はいつ頃になりますでしょうか? 我々は流石に少しばかり休みたいのですが……」
ここで玲奈が意見をする。流石の彼女も疲れ果てていた。予定より二日も遅れてしまったのは、予想以上に体力的な問題が大きかったからだ。
「うむ。直ぐにでも出発したいところなのだが、慌てても仕方がない。基本的な剣術を一般兵が学んでからになる。一週間後辺りに出発できれば良い方だな」
少しも剣術経験がない兵には槍を持たせていた。彼らは本陣を守るための兵であり、機動力も殲滅力も求めていない。だが、それでも適切な攻撃を学ぶ必要がある。
「そうですか。ならば十分です。しっかりと休息を取ったあと、我ら二人も訓練に参加させてもらいます」
「そうしてくれ。指導者が不足していてな。有名人であるお前たち二人ならば熱心に話を聞いてもらえるだろう。是非とも兵団の底上げを頼みたい」
進軍は早ければ早いほど効果を発揮すると結論づけられている。しかし、ど素人を戦場に送り込んだとして、混乱するだけなのだ。数日で進化級オークの数が増える可能性は低かったし、せめてど素人が素人程度になるくらい底上げするべきだと判断されている。何しろ天軍の主力であるオークは雑兵であったとしても、一般人には脅威であるのだから。
「明後日から頼めるか? 申し訳ないが三日も休暇を与えられる時間がない」
「それは心得ています。今頑張らねば後悔するだけ。我らは最悪の事態を想定して動くべきですから」
大役を果たした一八と玲奈だが、与えられる休暇は本日と明日だけであるらしい。
だが、玲奈も一八もそれで構わないと考えている。地上から天軍を排除することこそが、真の休息を得るタイミングなのだ。
元より二人は二日も休めるだなんて考えていなかった……。
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