オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
192 / 212
第三章 存亡を懸けて

作戦変更

しおりを挟む
 一八たちは徐々に戦線を上げていた。
 一般兵の背後からゆっくりと進んでいる。一八と伸吾の任務は基本的に魔道士と支援士の露払いであった。
 外壁に取り付いたところで、突如として一八のハンディデバイスが音を立てる。

「もしもし、奥田です……」
『浅村だ! 今どこにいる?』
 通信相手は浅村ヒカリであった。彼女たちは飛竜討伐班だ。従って一八たちの居場所を確認する意味が分からない。

「座標Hイプシロン35だ。何かあったのか?」
『とりあえず、支援士だけそこに残してくれ。貴様たちは一般兵の援護射撃を続けろ。天主が現れた場合は撤退でも構わん』

 よく分からない話だ。一八と伸吾は後方侵攻班の筆頭守護者である。他にも騎士は同行していたけれど、彼らは候補生上がりであって実力は数段劣っているのだ。

「了解。俺たちはこれから外壁内に行く。支援士は准尉級に警護を任せていいんだな?」
『それでいい。岸野が酷い怪我を負ってな。治療が終われば支援士をお前たちの位置まで送り届ける。決して無茶はするなよ?』
 一八は息を呑んでいた。まさか玲奈が治療を必要とするなんて。飛竜が強大な魔物であることは分かっていたけれど、彼女なら上手く戦うと一八は考えていたのだ。

「玲奈は大丈夫なのか……?」
『命に別状はない。恐らく何カ所か骨折している。飛竜を仕留めるには岸野の攻撃が必須なのだ。いち早い治療が岸野には望まれる』
 何をやらかしたのか分からないが、玲奈の雷属性が効果を発揮したのは理解した。骨折を治療してまで戦線に戻そうとしているのだから。

「こき使うのはほどほどにしれやれよ?」
 一八は溜め息交じりに返す。共和国の命運を懸けた一戦である。だからこそ、無茶を強いられるのだが、骨折した玲奈が前線に戻されるのには不安を覚えてしまう。

『まあそれな。既に飛竜の翼は無効化している。だから、あと一撃。岸野には全霊の一太刀を繰り出してもらう。岸野はそこでお役御免となる』
 どうやら怪我をしたのは飛竜の翼を破壊した折であるようだ。目的の第一段階をクリアした討伐班はそれ故に一時撤退を選んだらしい。

「ま、しゃーねぇな。俺たちは作戦を予定通り遂行する。羽虫野郎をぶっ殺してくるぜ」
『ふはは! 貴様のことは信頼しているが、天主は魔道部隊に任せるのだぞ? 貴様たちが出しゃばる必要はない』
 言って通信は切れた。これより計画が変更となる。一八たちは支援士の防御魔法を頼りにできなくなり、それでも一般兵と魔道士部隊を守護しなければならない。

「今里、生駒!」
 一八は支援士の警護をする今里たちに声をかける。他にも複数の騎士がいたけれど、まずは自身もよく知る剣士に話をつけようと。

「どうした?」
「ああ、実は作戦が変更となった。もう直ぐ飛竜討伐班がここにやって来る。お前たちはこの場所に残って支援士の警護を続けてくれ」
 生駒は顔を顰めている。飛竜討伐班が戻ってくることは理解できたけれど、どうしてそれを指示するのかと。

「奥田はどうする? まさか魔道士部隊は作戦継続なのか?」
「悪いが、しょうがねぇよ。俺たちは一般兵の援護射撃も行っているんだ。少佐様のご命令だよ……」
 飛竜討伐班に怪我人が出たのは間違いない。けれど、順調に行軍ができていたのは全て一八と伸吾のおかげだ。だからこそ不安を覚えてしまう。

「俺たちで務まるのか?」
 生駒が憂えている未来。一八にも推し量れたけれど、今は個人の心配よりも全体を考えるべきだ。何より彼らも騎士であるのだから。

「ここならそれほど劣悪な状況にはならん。それに生駒と今里は戦える。Bクラスだったやつも配備されてんだぞ? 栄えある一班の一員だったお前たちが引っ張らずにどうすんだよ?」
 一八は生駒の背中を押すように言った。

 生駒は頷いている。Dランク級の魔物であれば戦える自信はあった。一八と伸吾を除けばこの場所で一番の腕前であると自負している。従って不安げに首を振るなんてできない。
 一般兵が国のために外壁内で戦っているのに、騎士である自身が臆してはいられないのだと。

「それでいい。あとは頼んだ……」
 言って一八は手を挙げる。それは今里と生駒の健闘を祈る意味合いと、魔道士部隊の進軍を意味していた。

 ここで部隊は二つに分けられ、一方は外壁内へと侵攻し、もう一方はその場に居残ることに。

 粛々と進む侵攻計画。少しばかりイレギュラーがあったものの、極端な作戦変更は成されることなく、ただ進捗を重ねている……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...