オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
198 / 212
第三章 存亡を懸けて

真相

しおりを挟む
『失われた人族の魂。輪廻へと返る霊力によって魔界門が開くと信じております』
 再び声を失う玲奈。どう思考したとすれば、そのような結論に至るのかが分からない。

「彼らは何の確証もなしに、そのようなことを考えたのか!?」
 声を荒らげずにはいられない。天主という種を存続させるために、人族を殺めているだなんて。しかも飛躍しすぎた憶測ともいえる方法に縋ってまで。

『状況が状況でしたからね。千年前、魔素が枯渇し魔界門が開くよりも前に、人族は半数が死滅していたのです。その情報を得た彼らは魔界門を開く鍵が人族の魂であると解釈しました』

「そんな馬鹿な……」
『だからこそ彼らは魔人を悪魔と呼んだのですよ。原初の悪魔を再臨させるには生け贄となる数多の魂が必要なのだと』

 天主が魔族を悪魔と呼んだのは人の魂を弄ぶような存在だと考えたからであり、当時のチキュウ世界では大勢の人族が失われていたからこそ生け贄が必要だと考えたらしい。

『ワタクシは苦心いたしました。どうにかして彼らに真実を伝えたかった。しかし、ワタクシが神託を授けられるのは加護を持つ者のみ。彼らが妙な思考を始めた頃には、既に天主は子を成せない種となっていたのです。ワタクシが加護を与えるべき救世主は誕生させられなかったのですよ。彼らに真相を伝える手段はなくなっていました……』

 明かされる秘話はあり得ない内容であった。知るべきではない話。悲しき結末を生みだしたのは些細な誤解に他ならない。

「なるほど、合点がいった。チキュウ世界を救うために、女神殿は天主の排除を選択したのだな?」
 女神としては苦渋の判断であったように思う。何しろ双方を生かすという手段は既に残されていないのだから。

『玲奈、できれば貴方から伝えて欲しい。天主は真実を知るべき。滅びを加速させた彼らは真実を知り、己が罰としなければなりません』
「言っておくが、私は天主を根絶させるつもりだぞ? 人族にとってそれが適切な対処であり、彼らはそれに値することをした」

『そこはお任せします。最後の最後でも構わない。愚かさを知ること。それは魂の浄化に必要なことであります』
 玲奈は頷いていた。マナリスはやはり中立なのかもしれない。人族が被った被害は甚大であり、天主は罰を受けるに相応しい状況を作り出したのだ。庇うことも助勢することもなく、静観するだけのよう。

『ワタクシには見えております。もう人族の滅びはなくなりました。あとはどのようにして幕を下ろすのか。玲奈には期待していますよ?』
 玲奈はマナリスの姿が薄く消えかかっているのに気付く。一方的に現れたと思えば、話したいだけを口にして勝手に去ろうとしていることを。

「ちょっと待て! 聞きたいことがある! 私はオークキングという種にこの先も出会わないのか!?」
 ずっと気になっていたこと。玲奈の願いが叶っていたのかどうか。確かに今までは一度も出会っていない。偶然なのか必然なのか玲奈は知りたく思う。

 もう既にマナリスの姿は消えていた。しかしながら、玲奈には彼女の声が届いている。

 出会ったことがありましたかね?――――――と。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...