オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
199 / 212
第三章 存亡を懸けて

神託

しおりを挟む
 ナゴヤ市への侵攻から一夜が明けていた。
 完全制圧したあと、昨晩は生存者の捜索に費やされている。不眠不休で捜索したにもかかわらず、一人の生存者も発見できていない。

 玲奈はまだ療養中であったけれど、飛竜討伐班や天主の対処をした一八たちも捜索に参加していた。

「奥田、もう自分を責めるな……」
 一八はずっと塞いだままであった。その理由はヒカリも推し量っている。更にはかけるべき言葉などあるはずもないと。

「伸吾は俺たちを庇って死んだ。どうすりゃ良かったんだよ!?」
 返答などあるはずもない。伸吾は騎士としての使命を全うしただけだ。捨て身の攻撃こそが適切であり、被害を最小限とできたのだから。

「伸吾のためにできることは少ない。残された我らは天軍を滅ぼすだけだ……」
 一八にだって分かっている。失われた魂を今さらどうにもできないこと。転生をした彼は伸吾の魂が次なる世界に旅立ったのだと知っていた。

「ちくしょう、俺さえもっと上手く戦えていたら……」
 どうしても自己犠牲なんて許せない。一八は全員が生き残って欲しかった。笑い合う仲間がそこにいてこその勝利だと思っている。

 ヒカリは思案していた。彼女としても伸吾の訃報はつらく感じていたけれど、ヒカリはもう何年も軍人をしているのだ。仲間を失うことに慣れてしまっている。

「奥田、貴様は伸吾の意を汲め。ずっと共にあれ。伸吾の判断を私は誇りに感じている。私はずっと価値ある行動をしろと教えてきた。昨日の行動はまさに教えたままだよ。共和国の未来をあいつは紡いだのだ」
 ポンと一八の肩を叩く。失意に暮れる者にかけられる言葉は少ない。死者に敬意を表し、肯定してあげることくらいしか。

「奥田にできること。伸吾に報いることは一つだけだ……」
 発破をかけていく。一八が力強く歩み始めるようにと。

「天を名乗る羽虫をこの世から消し去るのみ――――」

 同じ志の元で戦っていたのだ。伸吾に報いる方法があるとすれば、それは目的を遂げることであった。共和国だけでなく、チキュウ世界に平和をもたらせてこそ、伸吾の行為に意味合いを持たせることができる。

「わぁってるよ。そんなことは……」
 一八が返した。ふて腐れていたとして、伸吾のためにはならないこと。そんなことは明らかであったというのに思い悩んでしまう。一八は昨日まで普通に存在した伸吾を忘れるなんてできなかっただけだ。

「ぜってぇ許さねえよ。天軍は一人残らず地獄送りだ……」
 長い息を吐く一八。大いなる落胆と共に後悔を吐き出す。そこに残ったものは怒りだけだ。天軍を全滅させてやろうという気概だけがそこにあった……。

「一八、話がある……」
 ここで一八は不意に声をかけられている。予期せぬその声。さりとて誰であるのか一八には分かった。

「玲奈、お前大丈夫なのか?」
「浅村少佐、少し一八と話がしたいのですが……」
 一八の問いには答えず、玲奈はヒカリに聞く。二人だけで話がしたいのだと。
 元より杖をつく玲奈が無事であるはずはない。また、わざわざベッドから抜け出すほどの急用であるのは明らかであった。

「構わんが、私がいると邪魔な話か?」
「別に構わないですけど、少佐に理解できるとは思えません」
 男女の話かと思いきや、玲奈はそんな風に返している。流石に興味を覚えたのか、ヒカリは密談ともいえる話に同席することにした。

 一八は困惑している。個人的に話があるとすれば、女神関係に他ならない。ヒカリが側にいると転生者であることがバレてしまう可能性があった。

「一八、私も女神殿に会った……」
 初っぱなからヒカリは眉を顰める。今し方、玲奈が語ったことは神託のような話であるのだから。

「天軍について教えてもらった。天主は放っておいても絶滅する運命らしい」
 聞いていたようにヒカリには少しも理解できない。女神の神託が天主の悲運についてであるだなんて。

「天主は種を存続させるために、魔界門を開くつもりだ。原初の悪魔を喚び出そうとしている」
「いや待て、確かに起源は原初の悪魔だとかいうやつって習ったけど、どうしてもう一度喚び出すんだ? それに絶滅する運命って……」
 ヒカリは呆然として二人を眺めている。意味不明な話を始めた玲奈だけでなく、平然と受け入れたような一八の態度。明らかにおかしいと思う。

「それは現存する天主に繁殖能力がなくなっているからだ。再び原初の悪魔を喚び出し、彼らは人族と交配させようとしている。また原初の悪魔を喚び出すための魔界門は人族を生け贄にすることで開くと考えているらしい」

「岸野、貴様は気が触れたのではないだろうな?」
 堪らずヒカリが口を挟む。天主は世界統一を目論んでいるはず。しかし、玲奈が語る理由が真相だとすれば、統一などではなく虐殺するためだけに戦争を起こしたことになる。

「いえ、至って冷静であり、精神状態はまともです。女神マナリスは天軍の現状を教えてくれました。彼らに真実を伝えてやって欲しいと」
「マナリス様は人族の味方だろう? 女神が天主を救えというのか?」
 人族からすれば主神マナリスは絶対神であり、人族の守護者である。実状を知らぬ人族は概ねそう考えているはずだ。

「いえ、天軍の排除には賛成も反対もしない様子。ただ真実を伝えることが魂の浄化に繋がるだとか……」
「玲奈、お前まさか天軍と対話するつもりなのか!? 伸吾は殺されたんだぞ!?」
 ここで一八が聞いた。たった今、全滅を誓った相手だ。一八としては問答無用で叩き斬るべき存在である。

「いや、そうじゃない。私も天軍は許せない。女神殿には全滅させると言った。だが、彼らに真実を伝えることを女神殿は望んでいる……」
 どうにもよく分からない話であったが、マナリスはただ滅びるのではなく、真相を知った上でその道を辿ることが重要だと考えているらしい。

「つまりは私が復帰するまでに滅ぼすのはやめて欲しい。私は一応、女神の加護を持つものなのだから……」
 律儀にも玲奈はそれを伝えるために、ベッドから這い出て来たようだ。ヒカリの同席を拒まなかったのもそれが理由かもしれない。

「岸野、私は納得したわけではないが、殲滅が前提であれば許可しよう。貴様は早く身体を治せ。天主が力を取り戻しては厄介だ」
「ああ、それは問題ありません。既に運命は人族に傾いたようです。我らがスタンスを変えない限り、天軍は全滅となるでしょう」
 最後まで理解に悩む玲奈の話。元トウカイ王国ナゴヤを陥落したけれど、北にはまだギフという大都市が残っている。更には北の大地にあるという星形要塞都市ゴリョウカクまで。

「まあ、それは気休め程度に考えておく。どのような神託が下りようとも、我らがなすべきことは変わらんのだ」
 言ってヒカリは手を挙げて去って行く。今し方の話をどう解釈したのかは不明だが、一応は彼女も女神の意志を考慮するはずだ。川瀬少将や七条中将と話を詰めながらの進軍を予定するだろう。

 風向きは明確に変わっている。一八たちの使命も終わりへと近付いていた……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...