200 / 212
第三章 存亡を懸けて
残る目的
しおりを挟む
北の大地にある星形要塞都市ゴリョウカク。
アザエルは四日後になってナゴヤ陥落の一報を受けていた。
「陥落したのが四日前とかどうなっているんだ?」
流石にご立腹である。予てから四天将の行動には不満を感じていた彼であるが、本土の拠点としていた基地を失ったことには文句を言わすにいられない。
「全滅のようです。ガブリエルとウリエルが討たれ、ミカエルがナゴヤへ向かうまで情報が一つもありませんでした……」
ナゴヤの指揮官として新たに配備される予定だったミカエル。その彼が現場に赴くまで天軍が状況を確認できる術はなかったらしい。
アザエルへの報告にはラファエルだけでなく、実際に現場を見たミカエルが同席している。
「共和国軍を侮っていました。まさかあれ程の部隊を編成できる力を残しているなんて。恐らくはガブリエルとウリエルも油断していたことでしょう。あの様子であればギフが陥落するのも時間の問題です」
ミカエルの報告にアザエルは長い息を吐いた。あとに戻れぬ戦いを続けてきたのだ。現状は前進したようで、後退であるようにも思う。
「まだ魔界門は開かぬのか? ヤゴヤとて無条件で降伏したわけではあるまい?」
「その通りなのですが、魂の数が足りないとしか……」
天軍は焦っていた。想定外の反撃から、まさかの拠点陥落まで。常に攻め手であった彼らは敗戦という言葉を上手く消化できない。
「してラファエルよ、これからどうするつもりだ? 我らは人族を殺めなければならんのだぞ?」
アザエルの質問に対する回答はない。防衛の柱であった飛竜まで失っていたのだ。現状で使役できる飛竜は見つかっておらず、兵を増強するとしてもオークしかない。またオークは単体での繁殖が期待できるものではなく、捕らえた人族の女は既に一人も生きていなかった。
「陛下、もう我々は戦えないように存じます――――」
散々な一ヶ月であった。破竹の勢いで人族を圧倒するつもりが、気付けば追い込まれている。
ラファエルの出した結論は子供にでも理解できるものであった。
「ラファエル、もう戻れはせぬ。我らが滅びようとも、原初の悪魔さえ喚び出せたなら構わん。新世代が新たな天軍を築き上げてくれるだろう」
アザエルの話はこの先を予感させるものであった。今さら和平などあるはずもなく、彼らは人族を殺めるだけなのだ。原初の悪魔を喚び出すという最低限の目的を遂げようとしている。
「了解しました。最後に足掻いて見せましょう。ギフにはミカエルだけでなく、私も赴きます。人族共を一人でも多く道連れにしてやります」
「頼む。余は魔界門が開くときをゴリョウカクにて待つ。けれど、行き着く場所は同じ。これまで仕えてくれたこと。余は感謝しておる」
既に敗戦以外の未来はあり得なかった。戦う術がない天軍は人族を巻き添えにして自爆するより他がない。よって再会などあるはずもなく、この会合が今生の別れとなる。
「長いようで短い九百年でした。できるなら黄泉もお供したかったですね……」
「目的地は同じだ。会うこともあるだろうて……」
最後にアザエルは二人と握手を交わし、この報告を打ち切っていた。
二つの侵攻が失敗した時点で詰んでいる。更には前線基地ナゴヤを失ったのだ。どうあっても巻き返す余力など残っていない。
天軍の目的は既に魔界門を開くことだけに絞られていた……。
アザエルは四日後になってナゴヤ陥落の一報を受けていた。
「陥落したのが四日前とかどうなっているんだ?」
流石にご立腹である。予てから四天将の行動には不満を感じていた彼であるが、本土の拠点としていた基地を失ったことには文句を言わすにいられない。
「全滅のようです。ガブリエルとウリエルが討たれ、ミカエルがナゴヤへ向かうまで情報が一つもありませんでした……」
ナゴヤの指揮官として新たに配備される予定だったミカエル。その彼が現場に赴くまで天軍が状況を確認できる術はなかったらしい。
アザエルへの報告にはラファエルだけでなく、実際に現場を見たミカエルが同席している。
「共和国軍を侮っていました。まさかあれ程の部隊を編成できる力を残しているなんて。恐らくはガブリエルとウリエルも油断していたことでしょう。あの様子であればギフが陥落するのも時間の問題です」
ミカエルの報告にアザエルは長い息を吐いた。あとに戻れぬ戦いを続けてきたのだ。現状は前進したようで、後退であるようにも思う。
「まだ魔界門は開かぬのか? ヤゴヤとて無条件で降伏したわけではあるまい?」
「その通りなのですが、魂の数が足りないとしか……」
天軍は焦っていた。想定外の反撃から、まさかの拠点陥落まで。常に攻め手であった彼らは敗戦という言葉を上手く消化できない。
「してラファエルよ、これからどうするつもりだ? 我らは人族を殺めなければならんのだぞ?」
アザエルの質問に対する回答はない。防衛の柱であった飛竜まで失っていたのだ。現状で使役できる飛竜は見つかっておらず、兵を増強するとしてもオークしかない。またオークは単体での繁殖が期待できるものではなく、捕らえた人族の女は既に一人も生きていなかった。
「陛下、もう我々は戦えないように存じます――――」
散々な一ヶ月であった。破竹の勢いで人族を圧倒するつもりが、気付けば追い込まれている。
ラファエルの出した結論は子供にでも理解できるものであった。
「ラファエル、もう戻れはせぬ。我らが滅びようとも、原初の悪魔さえ喚び出せたなら構わん。新世代が新たな天軍を築き上げてくれるだろう」
アザエルの話はこの先を予感させるものであった。今さら和平などあるはずもなく、彼らは人族を殺めるだけなのだ。原初の悪魔を喚び出すという最低限の目的を遂げようとしている。
「了解しました。最後に足掻いて見せましょう。ギフにはミカエルだけでなく、私も赴きます。人族共を一人でも多く道連れにしてやります」
「頼む。余は魔界門が開くときをゴリョウカクにて待つ。けれど、行き着く場所は同じ。これまで仕えてくれたこと。余は感謝しておる」
既に敗戦以外の未来はあり得なかった。戦う術がない天軍は人族を巻き添えにして自爆するより他がない。よって再会などあるはずもなく、この会合が今生の別れとなる。
「長いようで短い九百年でした。できるなら黄泉もお供したかったですね……」
「目的地は同じだ。会うこともあるだろうて……」
最後にアザエルは二人と握手を交わし、この報告を打ち切っていた。
二つの侵攻が失敗した時点で詰んでいる。更には前線基地ナゴヤを失ったのだ。どうあっても巻き返す余力など残っていない。
天軍の目的は既に魔界門を開くことだけに絞られていた……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる