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第六章 揺れ動く世界線

予定外の祝辞

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 イセリナの特訓が終わり、着替えを済ませた頃、控え室にも楽団の華やかな演奏が届いていました。

「イセリナ様、そろそろ会場の方へ……」

 執事のアドルフが迎えに来ました。

 私たちの準備は万端です。

 ここは令嬢らしく高貴なる笑みを浮かべて欲しいところですが、イセリナはどこかぎこちない対応。まあ暗殺される側なのですから仕方ありませんね。

「さあ、イセリナ様……」

 イセリナの肩をポンと叩き、会場入りを促します。

 全て任せて欲しい。この世界線において、私は守りたいものを全部守り切ると決めているのだから。

 会場へ戻るも、やはりコンラッドの姿はありません。

(どうやら、この世界線のアドルフはかなり早い段階で雇われたみたいね)

 毒を扱う暗殺者は多くありません。ギフトという先天スキルを有していなければ、足がついてしまう。

 よって毒使いの暗殺者は最優先で決めたのだと考えられます。

(やっぱ出遅れたのか……)

 こうなると冒険者をしていた期間が悔やまれる。コンラッドが動き出す時間を浪費していたのですから。

(いや、あの時間があってこそ今があるんだ)

 無駄なんて少しもなかったのだと、私は思い直していました。

 長々としたデンバー侯爵による話があり、その時間に私とイセリナは舞台裏へと案内されています。

 暗殺者を全滅させた前回、コンラッドを除いた暗殺者は四名でした。此度はアドルフを加えると五人ということになります。

(イセリナにはアンチマジックの術式を施した。アドルフが暗殺計画の主任であれば、攻略法通りで間違いない)

 まだ前座でしかありません。イセリナの暗殺阻止だけで終わってはならないのです。

(メインディッシュはまだ先なのよ……)

 私は冤罪をでっち上げ、リッチモンド公爵に全ての罪を与えるだけよ。

「キリクの香りがしますわね?」

 私はアドルフに声をかけた。

 どうやら変化を起こしまくった世界線においても、彼はミスをしたらしい。

「やはりまだ匂いますでしょうか? いやはや、お恥ずかしい。シャンパンの栓を抜いた折りに、吹き出してしまったのです」

 まあ基本が三流暗殺者なのだからね。一流の執事になりきることなどできないのでしょう。

 毒殺要員でしかない彼のミスには少しばかり安堵感を得られています。

「さあ皆様、キャサリン・デンバー嬢の記念すべき日を祝いましょう!」

 イセリナが口を付けることなくグラスを掲げた瞬間、記憶の通りに照明魔法が効果を失う。

 毒殺を諦めた暗殺者たちが物理攻撃に切り替えるサインです。

(予定通り!)

 私はスリットからナイフを抜き、駆け出していました。

(五人全員を仕留めるんだ!)

 勢いよく飛び出しましたが、どうしてかナイフは空を裂く。

 最初は左右から攻撃されるはずなのに、予想される位置に暗殺者はいませんでした。

(どうして!?)

 刹那にキリクの香りがした。アドルフもまた斬りかかっているみたい。

「ソコォォオオオッ!!」

 私はナイフを突きつけていました。匂いを頼りに思い切り。身を裂いた感触が手の平に伝わっている。

 刹那に生暖かい液体が私に浴びせられていました。

「仕留めた!?」

 逆算をして私はイセリナの守護へと回る。今はしゃがみ込んでいるはず。後ろへと転がる時間を数えていることでしょう。

 乱戦を覚悟した私なのですが、現実は異なる結果に。

 どうしてか、アドルフ以外の暗殺者は現れませんでした……。
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