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第七章 光が射す方角

ひた隠しにしていたこと

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「ルーク殿下とイセリナの婚約は既定事項です」

 ここは問題などありません。

 何しろ、その現実は女神アマンダが指示したままなのですから。

「ならば、僕は誰と結ばれるべきなのでしょう?」

 深く考えもせずに答えていた私は、そのような問いが向けられるなんて考えていません。

 完全なやらかしです。答えられる内容が私にはありませんでした。なぜなら女神アマンダの指示によれば、セシルと結ばれるべき相手は私なのですから。

「そ、それは……」

 浅はかすぎた考えに私は唇を噛んだ。

 使命の通りであれば、エリカとの婚約を妨害し、私がそこに割り込むだけ。

 しかし、私は気付いてしまった。前世からずっとルークを想っていたのだと。

「答えにくい内容でしょうか? たとえば身分差がある一つ年上の女性とかどうですかね?」

 セシルは問いの方向性を変えた。

 濁されていましたが、誰を指すのかは明らかです。

 セシルは確かにエリカのことが気になっているとも話していたのですから。

「その女性と結ばれるべき……」

 私は使徒として間違った選択をしている。

 ともすればリセットされてしまいそうな現実でありましたが、今も世界は正常に時を刻んでいる様子。

「誰なのか知っているのですね?」

「もちろんです。私はその未来に行き着くように動いております」

 古代魔法ありきの作戦でしたけれど、もう後へは引けません。

 私は必ずや闇属性を消去する魔法を構築しなければならなくなりました。

「ならば、ルイ様と僕が結ばれたなら、魔王因子とやらは発現するのでしょうか?」

 セシルがまたも続けました。

 今度は具体的に魔王因子の発現条件を聞いています。

 どう答えたなら正解なの? 嘘を口にすると、私自身がとある女性になってしまう。

 自分で蒔いた種でありましたが、矛盾を含むそれに回答は存在していません。

「大丈夫そうですね? 安心しました。先ほども申しましたが、貴方が手に入るのであれば、僕は妾を取りません。愛の女神アマンダに誓って、僕は生涯に亘り貴方だけを愛し続けます」

 もう身動きが取れない。私は自身が芽生えさせたイバラによって、身体中を拘束されているようです。

 逃げることも首を振ることすらできませんでした。

 刹那に身体の奥底から熱いものが込み上げてくる。それは全てを吐き出すように、言葉を喉元から押し出していました。

「それでも私はルークを愛している……」

 感情を声に。

 本心を言葉に。

 セシルに罪はありませんが、私は告げていました。

 誰にも邪魔されたくない気持ち。何度生まれ変わろうとも忘れない想いを。

 これで納得して欲しい。涙を流せば見逃してくれる。大泣きする私はそんなことを期待していました。

「何を隠されているのです? 貴方様がルーク兄様を愛しているのは本当でしょう。しかし、ルイ様は貴族院に入られるまで、ルーク兄様と数回しか会っておりません。そこまでの感情を抱くには短すぎると思いませんか? 兄様とは違って身分差を予め考えられていたのなら」

 この拷問はいつまで続くのでしょうか。

 やはりセシルは文武両道。剣術だけでなく、頭も切れるままでした。

(もう私は駄目ね……)

 セシルの問いが向けられるたび、私の心はイバラによって締め付けられていく。

 鋭い棘が幾つも心に突き刺さっていました。

 もう答えるしかない。私が秘めたる全てを。

「実をいうと、私は初めからアナスタシア・スカーレットではありません。女神アマンダの不手際により、最初の転生時には異なる人物だったのです……」

 突拍子もない話でしょう。だけど、私は伝えるしかない。

 私を惑わせる事象の全てを……。

「前世はイセリナ・イグニス・ランカスタでした……」
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