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最終章 世界に光を

幸せを手にして

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 長い夏休みが終わって直ぐ、私はソレスティア王城へと赴いていました。

 というのも、婚姻に先立って両家の顔合わせやら、下賜される褒美についての摺り合わせが行われる予定であったからです。

「姫、私は貴方様に付き従った決断を誇りに感じています。登り詰める方だという直感は間違っておりませんでした」

 家族に混じってコンラッドも駆け付けてくれています。

 執事服が似合いますけれど、こう見えて凄腕の暗殺者なのよね。

「ありがとう。ま、それは過大評価よ……」

「ご謙遜を。そのうち王子から実権を奪うのでしょう?」

「冗談はやめなさい。私は真っ当な王太子妃になるつもりですわ」

 二人して笑っていると、リックもまた話に加わります。

「アナスタシア様は強欲ですからね……」

「リック、お母様呼びを強制されたいの?」

「ああいえ、そういうわけでは! しかし、本当に私が侯爵家の当主になっていいのですか?」

 リックが話すようにアナスタシア子爵家は二階級も陞爵し、侯爵家になる予定です。

 廃爵となったメルヴィス公爵家とダルハウジー侯爵の所領をほぼ全域授かることになっています。

「もう王家には確認を取っています。リーフメル周辺は王領のままだけど、実質的に施政を行うのはリックよ」

 色々と話し合った結果、セシルはリーフメル城に残ることになりました。

 彼が貴族院を卒業するまで、リックはリーフメルを含めた巨大な所領を持つ貴族となるのです。

「はぁ、何だか嬉しいやら恐ろしいやら……」

「私も手伝うし、気楽にね? 可愛い彼女を幸せにしてあげるのよ?」

 懸念であったリックとエリカですが、二人は互いを気に入ったみたい。

 お付き合いを始めたところのようですけど、エリカが休みの日には足繁く北の大地まで通っていると聞きました。

「頑張ります。アナスタシア様にお仕えできたことは私の誉れです。五年前のあの日からずっと……」

 真面目に返されると照れくさいものね。

 さりとて、感謝されるのは悪い気がしないわ。

「アナ姉ちゃん、おめでとう!」

 私たちの話が一段落したところで、弟のレクシルが近寄ってきました。

 私の家族が勢揃い。マリィはお留守番なので、たった五人だけでしたけど、全員が掛け替えのない人たちです。

「レクシル、貴族院ではちゃんと勉強するのよ? 良い成績で卒業できたなら、私の所領を少しわけてあげましょうか」

「姉ちゃんの所領とか無理! 領主が変わったら絶対に不満がでちゃうよ!」

「そうならないように頑張りなさい。間違ってもお父様のような脳筋になっちゃ駄目よ?」

「分かってるって!」

 本当に分かってるのかしら。

 私と同じ血を引いてはいるけれど、祖先にはノーキン・スカーレットとかいう怪物の血まで混じってる。

 勉強しないと、ダンツのようになってしまうのは明らかです。

「アナ、脳筋は酷いな?」

「貴方、正論に酷いはないと思いますよ?」

 父ダンツと母メイアも笑顔です。みんなこの日を楽しみにしてくれていました。

 正式な婚約発表は貴族院を卒業したあとだけど、事前段階の顔合わせですら祝賀ムードに満ちています。

「俺はアナがルーク殿下を捲し立てた場面が今でも忘れられん。不敬罪でもおかしくないほど、文句を言っていただろ? 貴族の娘だとは思えなかったぞ……」

「お父様、言っちゃなんですが、私は貴方の娘ですわ。貴族らしくないのはお互い様です」

「アナちゃん、ホントその通りよね。仕送りは私がちゃんと管理して所領の発展に使っているから安心して良いわよ」

 お母様、それはとても助かります。

 お金を送ってもダンツが管理してたんじゃ無駄になるだけだしね。

「いやでも、あのアナがルーク殿下をなぁ……」

 しみじみと語るダンツに私は少しばかり恥ずかしくなる。

 冗談しか口にしないような父だけど、失踪した折りにはとても心配をかけたと思います。

 ずっと家にいない娘で申し訳ございません。

「アナ、幸せになれ――」

 ちょっとやめてよ。

 涙腺が緩んじゃう。今日はまだ顔合わせでしかないというのに。

 本番はまだまだ先なのよ。涙はそれまで取っておかなくちゃ。

「あれ……?」

 だけど、私の頬を涙が伝っている。

 一つ二つと堰を切ったように。

「アナちゃん、貴方なら大丈夫。自慢の娘だもの。王家の婚約者だってアナちゃんなら立派に務められるわ」

「お姉ちゃん、頑張って!」

 ありがとう、みんな。

 思えばこうやって激励されるのは初めてだわ。

 髭は私に興味を示さなかったし、イセリナだった頃は誰も励ましてくれませんでした。

 やってやろうと思います。私にできることをして、ルークを支えていけたら。

 涙を流しつつも、私は全員に謝意と意気込みを込めた返答を済ませるのでした。


「私は幸せになるよ――――」
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