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第三話
朝陽に舞う(3)*
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「一年、時間が欲しい」
休日を迎えたヴェルナは、クリスティーナと二人で公園を散歩していた。
大きな池の水面は太陽の光でキラキラと輝き、水鳥たちが心地良さそうに浮かんでいた。
二人はその池の周りを、なにを話すでもなく、ゆっくりと歩いていた。
そして、ヴェルナは意を決して、ここ数日考えて出した答えをクリスティーナに告げた。
「私は今の仕事が好きだ。だからといって、男にはなれない。でも、女になれば自警団を辞めなくちゃいけない。だから、考えたいんだ。今のままでいるか、身も心も女になるか」
「うん」
「なにも言わないの?」
クリスティーナは立ち止まり、振り返ったヴェルナを見上げた。
「元に戻れって説得すると思った?」
「うん」
「言えないよ」
水鳥たちが一斉に羽ばたき、飛び立った。その騒がしさのせいで、クリスティーナの小さな呟きはヴェルナの元には届かなかった。
「ヴェルナが幸せになってくれたら、それで良い。ヴェルナが幸せになってくれるなら、なんだってする。それだけだよ」
「幸せ、だよ」
クリスティーナを苦しみから解き放ってあげたかった。だが、なにもかもを見透かしたような澄んだ瞳で見つめられ、ヴェルナは目を逸らした。
「ありがとう、ヴェルナ」
「必ず、一年でけじめをつけるから」
クリスティーナはただ、ため息まじりに、気の毒なほど優しい笑みをたたえた。
その微笑みを見て「あぁ、やっぱりダメか」と心の内でこぼし、重く息を吐いた。
ヴェルナがどんなに言葉を尽くしても、クリスティーナは自分を許すことはないのだろう。そして、心から幸せそうに生きるヴェルナを見るその日まで、彼女は苦しみを背負い続けるのだろう。
ならば、と目を伏せ決意する。
(本当に幸せだと思う道を見つけるよ)
* * * *
感謝されれば嬉しい。
街の治安を守れたら、誇らしい。
犯罪者を捕まえ被害を食い止めることができたら、心から安心する。
誰かの役に立てることが、生きる糧になっている。
「私って単純かな」
「つーか、優等生って感じだな」
カルロは酒が入ったグラスを口に運び、ごくりと飲んだ。その酒は濃度が高く、一口飲めば喉が焼けるように熱くなる。
そんなものをよく飲めるなと感心しながら、ヴェルナは果実酒を口に含んだ。
つい数ヶ月前までは想像もしなかったが、今では週に一度、休みの前日にカルロの家で飲むことが当たり前になっていた。
酒が入ると、本音を吐き出しやすいことに気付いたのだ。
もちろん仕事終わりであるため、ヴェルナは女の姿に戻っている。カルロの前でだけは、女の姿でいることに緊張や躊躇いはなくなっていた。
大げさに驚かれることもなく、ごく自然に受け入れてもらえることに安心していた。
「けど、ま、自警団にいる奴らは、だいたいそういう気持ちで働いてんじゃねーの」
「カルロは違うの?」
「俺は、自警団に入ったらモテるって聞いて」
「お前に聞いた私がバカだった」
「最後まで聞けよ」
ヴェルナはクスクスと笑うと、テーブルに突っ伏した。はぁ、とため息をついて横を向く。
「女になったら、なにをして生きようかな。なにを支えにして生きればいいんだろう」
好きなことをしながら生きているのに、それを捨てることになるとは思わなかった。
そう思っている時点で、元の姿に戻る方へと気持ちが傾きつつあるのは明白だったが、やはり決めきれない。
「なってみないと、見えてこないものもあるとは思うけどな」
「女になってから考えるんじゃ、計画性がなさ過ぎる」
「じゃあ、計画立ててやろうか」
「ふぅん。聞いてあげようじゃない」
ヴェルナは頬杖をつき、いたずらめいた笑みを浮かべる。あからさまにバカにした態度だというのに、カルロも頬杖をついて、自信たっぷりに笑みを返す。
「俺と結婚するってのはどーよ」
ずっと言うことを決めていたかのように、淀みのない言葉だった。
「お前が次の生きがいを見つける間、俺との新婚生活を楽しめば良いと思うんだけど」
ヴェルナは頬杖を解いて、目を丸くした。そして次の瞬間には、自分でも笑いたいんだか、泣きたいんだか分からない顔をしてしまう。
「俺とお前はさ、仕事を通して良いところも、悪いところも見せ合ってきただろ。俺の苦手なことはお前が補って、お前が苦手なことは俺が補って……それが意外と苦でもねえ。口喧嘩して離れても、結局はお前のそばが一番落ち着くし、うまが合う。こういう関係って、そう得られるもんじゃねーと思うんだ」
求婚の言葉よりもずっと慎重な口調だった。
「お前は、俺のことをどう思ってる?」
ずっと誤魔化し続けてきた。
仕事仲間で、気心の知れた友人で。だが、それ以上の想いを抱いている。
伝わっていないはずはない。それでも、カルロはあえて言葉を求めた。
たった一言なのに、ひどく緊張する。
「好き」
絞り出すようにどうにか伝えると、カルロは満足そうに微笑み頷いた。
「けど、女に戻らなかったら?」
「そこ気にするのかよ」
カルロはそう言うと、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。対面に座っていたヴェルナの隣まで来ると、手を引いて立ち上がらせる。
「だったら、今するか? 誓いの」
「酒臭い」
口づけをされそうになって、カルロの顔面を押し返した。
「おい、雰囲気ぶち壊しだ。だいたい、お前だって同じようなもんだろ」
「私はほら、果実酒だから」
「酒臭いのは一緒だって話だ、よ!」
いきなり身体を横抱きに持ち上げられ、ヴェルナは慌ててカルロの肩にしがみついた。
運ばれる先はベッドだとなんとなく分かる。
これ以上ないほど頬は熱を持ち、鼓動が高鳴った。耳の奥で、ドキドキと音が響く。
まるで宝物のようにそっとベッドに降ろされて、そのまま身体を重ね、二人でシーツの海に沈んだ。
カルロは優しくヴェルナの頬を撫で、髪をすき、求めるように熱い視線を注いだ。
ヴェルナがぎこちなく瞼を伏せると、それが合図になって、唇が重なった。
初めは感触を確かめるように軽く触れ合い、ヴェルナの力が抜けたところで、吸いつくような口づけに変わっていった。
口づけをしている間、どこに手を置けばいいかわからず、カルロの肩や腕のあたりを彷徨う。
所在なさげなヴェルナの手をカルロは掴み、指を絡ませて、シーツに押し付けた。
手のひらも指先も、どこもかしこも熱い。だけど、心地いい。
唇が離れ、また見つめ合う。
「例えお前がどんな道を選んだとしても、俺は変わらず隣にいる。だから、不安になるな。満足するまで悩んでいい。ずっと、一緒だ」
頷くことしか出来なかった。
こんなに幸せになって良いのだろうか。酒に酔って見てしまった妄想じゃないのかと不安になる。
だが、涙を拭ってくれる、節くれだった無骨な指の感触が、幻ではないと教えてくれる。
「抱くぞ、ヴェルナ」
「で、でも」
「最後まではしない。あの日みたいに、触れ合うだけだ。それなら、良いだろ?」
カルロの指に乱れたあの日の記憶が蘇り、下腹部の奥がじんと疼いた。
「前は出来なかったことも、色々してやるから」
「いい、いらない」
「なんで。胸を揉まれながら、胸の先を吸われたらどうなるのか知りたくないか? 背中や脚に口づけをされる感覚は、知らなくていいのか?」
「あっ、やっ」
カルロはヴェルナの耳の付け根や、顎の骨をたどって首筋に愛撫をした。
ほら、どうする。意地悪に訊きながら、服の上からヴェルナの胸を揉んだ。
「んっ……はぁ……」
「胸の先、好きだったよな。こうして、服の上から爪で引っ掻くと……ふっ、腰揺れたぞ。もっとしてやる」
胸の先に爪を立てられ、カリカリと小刻みに刺激される。すこしずつ感度が増していくのが分かり、じりじりと甘く痺れた。
慣れない快感に嬌声を上げていると、唇を塞がれ舌を絡め取られた。
くちゅ、くちゅ、と唾液が混ざり合う音が立つ。
カルロの飲んだ酒の苦みと、ヴェルナが飲んだ果実酒の甘さが混ざる。不思議と不快感がない。酔っているせいで、色々と感覚が鈍っているのかもしれない。
それなのに、快楽だけは敏感に反応するのだから、自分の身体に呆れてしまう。
「服、脱がしていいか」
「ん」
女物の服を脱がされるのは初めてだ。
促されるままに全てを脱ぎ捨て、カルロの前に裸体をさらす。
枕に頭を乗せて仰向けになると、カルロは両手をついて嬉しそうに眺めた。
「はぁ……いい。綺麗だ」
肩や腕を撫でられ、胸を直接揉まれる。
硬く尖った胸の先に舌をはわせ、爪で引っ掻いたときと同様に小刻みに刺激して、ジュッと強く吸いついた。
たまらず甘い声を上げるヴェルナに、カルロもとうとう我慢の限界を迎えた。優しい愛撫が荒々しくなり、柔らかな胸にしゃぶりついた。
「お前の声聞いてると、理性もなにもかも吹っ飛ぶ……優しくしてやりてぇのに。なぁ、気付いてるか。胸触ってる間、太ももこすり合わせてた。ここ、すごいことになってそうだな?」
ごつごつした手がヴェルナの腹を撫で、股へと滑り落ちた。指先が閉じた太ももの間に侵入し、脚を開くように持ち上げられる。
割れ目に指が触れ、上下にこすってくる。
「やっぱりな。すごい濡れてる」
「言わなくていいからっ」
何度か入口を指で押し撫でて、やがてゆっくりと押し込まれた。
カルロはヴェルナの表情を確認しながら、探るように指を奥へと進める。
「痛いか?」
「だい、じょうぶ……」
「舌、出せ」
突然の命令に、心臓がドキッと跳ねた。
おずおずと舌を伸ばして差し出せば、カルロの唇に挟まれて強く吸われた。
舌を前後にしごく動きと合わせるように、指も前後に動いた。
震える膣を優しくこすられて、ヴェルナは口づけから逃げ、切なげな嬌声を漏らした。
「そんなに感じてたら、この先もたねーぞ」
「だって……あっ、気持ちいいの、止まらな」
「なら、仕方ねーな。俺も止めてやれねーし」
そう言うと、カルロはヴェルナの両脚を持ち上げて、太ももに口づけをしながら股の間に頭を沈めた。
驚いて身を起こしたヴェルナの眼前で、カルロは躊躇なく潤んだ秘部に唇をつけ、舌で舐め上げた。
「なにしてっ――アァッ、やめてっ……そんなところ、汚い、から!」
「汚くねーし、お前なら平気」
「私が平気じゃないって!」
「いいから、感じてろ」
熟れて硬くなった肉芽を容赦なく責め立てられ、ビクビクと腰が揺れてしまう。
ぶ厚い舌に小さな肉芽が蹂躙されて、膣を太い指で犯される。
「ダメッ、ダメッ、大きいのクる! ダメ――」
ヴェルナはカルロの髪を掴んで、ビクンと腰を跳ねさせた。
淫裂がひくひくと痙攣するのが分かる。
カルロは頭を上げると口元を拭い、ふっと笑った。
「派手にイッたな。ここで気ぃ飛ばされても困るし、今日はこれ以上しないでおく。四つん這いになれるか?」
「う、ん」
ヴェルナが四つん這いになる間、カルロは服を脱ぎ、昂りをヴェルナの割れ目にこすりつけた。
「分かるか? お前に触れたらすぐこうなる。そういえば、なかで精液を出せって言われただけで、挿れるなとは言われなかったよな」
「そう、だったかな」
「今日はさすがに挿れねーけど。今度、な?」
「……うん」
カルロはヴェルナの白い背中に口づけをし、片手で胸を揉んだ。
温かくて気持ちがいい。
「挟んで」
シーツのこすれる音が響く。
ヴェルナの太ももに挟まれて、カルロの昂りがさらに熱を持つ。
腰を掴まれて、ゆったりとした動きで揺すられる。
「前にしたときよりも、ずっと快いな。なんでか分からねーけど」
「関係が、変わった、からじゃないの」
「確かに。これからは、罪悪感なしに抱ける」
「罪悪感なんてあったの?」
「俺をなんだと思ってんだよ。それに、何度も夢のなかでお前を犯してた。あの日、挿れたくて、挿れたくてたまらなかった」
腰がぶつかり合う乾いた音と一緒に、いやらしい水音が鳴った。
先走りがヴェルナの肉芽を濡らし、たくましい昂りがそこを掠めるように触れていく。
二人の乱れた吐息が激しさを増す。
カルロはヴェルナの尻をわしづかみにして、声を上げた。
「出すぞ。全部、お前にかけるからっ」
「んっ、あっ、イ……くぅ……」
最後に大きく腰を打ちつけると、カルロは昂りを引き抜いて、ヴェルナの腰の上でそれをしごいた。
熱いものが背中に降ってくるのを感じる。
「ダメだ、まだ鎮まらねぇ」
「えっ、ちょっ、カルロ待って」
はっと身体を起こしたヴェルナに、カルロは深く口づけをした。
「もう充分待った」
この日、疲れて寝落ちるまでカルロは解放してくれなかった。
休日を迎えたヴェルナは、クリスティーナと二人で公園を散歩していた。
大きな池の水面は太陽の光でキラキラと輝き、水鳥たちが心地良さそうに浮かんでいた。
二人はその池の周りを、なにを話すでもなく、ゆっくりと歩いていた。
そして、ヴェルナは意を決して、ここ数日考えて出した答えをクリスティーナに告げた。
「私は今の仕事が好きだ。だからといって、男にはなれない。でも、女になれば自警団を辞めなくちゃいけない。だから、考えたいんだ。今のままでいるか、身も心も女になるか」
「うん」
「なにも言わないの?」
クリスティーナは立ち止まり、振り返ったヴェルナを見上げた。
「元に戻れって説得すると思った?」
「うん」
「言えないよ」
水鳥たちが一斉に羽ばたき、飛び立った。その騒がしさのせいで、クリスティーナの小さな呟きはヴェルナの元には届かなかった。
「ヴェルナが幸せになってくれたら、それで良い。ヴェルナが幸せになってくれるなら、なんだってする。それだけだよ」
「幸せ、だよ」
クリスティーナを苦しみから解き放ってあげたかった。だが、なにもかもを見透かしたような澄んだ瞳で見つめられ、ヴェルナは目を逸らした。
「ありがとう、ヴェルナ」
「必ず、一年でけじめをつけるから」
クリスティーナはただ、ため息まじりに、気の毒なほど優しい笑みをたたえた。
その微笑みを見て「あぁ、やっぱりダメか」と心の内でこぼし、重く息を吐いた。
ヴェルナがどんなに言葉を尽くしても、クリスティーナは自分を許すことはないのだろう。そして、心から幸せそうに生きるヴェルナを見るその日まで、彼女は苦しみを背負い続けるのだろう。
ならば、と目を伏せ決意する。
(本当に幸せだと思う道を見つけるよ)
* * * *
感謝されれば嬉しい。
街の治安を守れたら、誇らしい。
犯罪者を捕まえ被害を食い止めることができたら、心から安心する。
誰かの役に立てることが、生きる糧になっている。
「私って単純かな」
「つーか、優等生って感じだな」
カルロは酒が入ったグラスを口に運び、ごくりと飲んだ。その酒は濃度が高く、一口飲めば喉が焼けるように熱くなる。
そんなものをよく飲めるなと感心しながら、ヴェルナは果実酒を口に含んだ。
つい数ヶ月前までは想像もしなかったが、今では週に一度、休みの前日にカルロの家で飲むことが当たり前になっていた。
酒が入ると、本音を吐き出しやすいことに気付いたのだ。
もちろん仕事終わりであるため、ヴェルナは女の姿に戻っている。カルロの前でだけは、女の姿でいることに緊張や躊躇いはなくなっていた。
大げさに驚かれることもなく、ごく自然に受け入れてもらえることに安心していた。
「けど、ま、自警団にいる奴らは、だいたいそういう気持ちで働いてんじゃねーの」
「カルロは違うの?」
「俺は、自警団に入ったらモテるって聞いて」
「お前に聞いた私がバカだった」
「最後まで聞けよ」
ヴェルナはクスクスと笑うと、テーブルに突っ伏した。はぁ、とため息をついて横を向く。
「女になったら、なにをして生きようかな。なにを支えにして生きればいいんだろう」
好きなことをしながら生きているのに、それを捨てることになるとは思わなかった。
そう思っている時点で、元の姿に戻る方へと気持ちが傾きつつあるのは明白だったが、やはり決めきれない。
「なってみないと、見えてこないものもあるとは思うけどな」
「女になってから考えるんじゃ、計画性がなさ過ぎる」
「じゃあ、計画立ててやろうか」
「ふぅん。聞いてあげようじゃない」
ヴェルナは頬杖をつき、いたずらめいた笑みを浮かべる。あからさまにバカにした態度だというのに、カルロも頬杖をついて、自信たっぷりに笑みを返す。
「俺と結婚するってのはどーよ」
ずっと言うことを決めていたかのように、淀みのない言葉だった。
「お前が次の生きがいを見つける間、俺との新婚生活を楽しめば良いと思うんだけど」
ヴェルナは頬杖を解いて、目を丸くした。そして次の瞬間には、自分でも笑いたいんだか、泣きたいんだか分からない顔をしてしまう。
「俺とお前はさ、仕事を通して良いところも、悪いところも見せ合ってきただろ。俺の苦手なことはお前が補って、お前が苦手なことは俺が補って……それが意外と苦でもねえ。口喧嘩して離れても、結局はお前のそばが一番落ち着くし、うまが合う。こういう関係って、そう得られるもんじゃねーと思うんだ」
求婚の言葉よりもずっと慎重な口調だった。
「お前は、俺のことをどう思ってる?」
ずっと誤魔化し続けてきた。
仕事仲間で、気心の知れた友人で。だが、それ以上の想いを抱いている。
伝わっていないはずはない。それでも、カルロはあえて言葉を求めた。
たった一言なのに、ひどく緊張する。
「好き」
絞り出すようにどうにか伝えると、カルロは満足そうに微笑み頷いた。
「けど、女に戻らなかったら?」
「そこ気にするのかよ」
カルロはそう言うと、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。対面に座っていたヴェルナの隣まで来ると、手を引いて立ち上がらせる。
「だったら、今するか? 誓いの」
「酒臭い」
口づけをされそうになって、カルロの顔面を押し返した。
「おい、雰囲気ぶち壊しだ。だいたい、お前だって同じようなもんだろ」
「私はほら、果実酒だから」
「酒臭いのは一緒だって話だ、よ!」
いきなり身体を横抱きに持ち上げられ、ヴェルナは慌ててカルロの肩にしがみついた。
運ばれる先はベッドだとなんとなく分かる。
これ以上ないほど頬は熱を持ち、鼓動が高鳴った。耳の奥で、ドキドキと音が響く。
まるで宝物のようにそっとベッドに降ろされて、そのまま身体を重ね、二人でシーツの海に沈んだ。
カルロは優しくヴェルナの頬を撫で、髪をすき、求めるように熱い視線を注いだ。
ヴェルナがぎこちなく瞼を伏せると、それが合図になって、唇が重なった。
初めは感触を確かめるように軽く触れ合い、ヴェルナの力が抜けたところで、吸いつくような口づけに変わっていった。
口づけをしている間、どこに手を置けばいいかわからず、カルロの肩や腕のあたりを彷徨う。
所在なさげなヴェルナの手をカルロは掴み、指を絡ませて、シーツに押し付けた。
手のひらも指先も、どこもかしこも熱い。だけど、心地いい。
唇が離れ、また見つめ合う。
「例えお前がどんな道を選んだとしても、俺は変わらず隣にいる。だから、不安になるな。満足するまで悩んでいい。ずっと、一緒だ」
頷くことしか出来なかった。
こんなに幸せになって良いのだろうか。酒に酔って見てしまった妄想じゃないのかと不安になる。
だが、涙を拭ってくれる、節くれだった無骨な指の感触が、幻ではないと教えてくれる。
「抱くぞ、ヴェルナ」
「で、でも」
「最後まではしない。あの日みたいに、触れ合うだけだ。それなら、良いだろ?」
カルロの指に乱れたあの日の記憶が蘇り、下腹部の奥がじんと疼いた。
「前は出来なかったことも、色々してやるから」
「いい、いらない」
「なんで。胸を揉まれながら、胸の先を吸われたらどうなるのか知りたくないか? 背中や脚に口づけをされる感覚は、知らなくていいのか?」
「あっ、やっ」
カルロはヴェルナの耳の付け根や、顎の骨をたどって首筋に愛撫をした。
ほら、どうする。意地悪に訊きながら、服の上からヴェルナの胸を揉んだ。
「んっ……はぁ……」
「胸の先、好きだったよな。こうして、服の上から爪で引っ掻くと……ふっ、腰揺れたぞ。もっとしてやる」
胸の先に爪を立てられ、カリカリと小刻みに刺激される。すこしずつ感度が増していくのが分かり、じりじりと甘く痺れた。
慣れない快感に嬌声を上げていると、唇を塞がれ舌を絡め取られた。
くちゅ、くちゅ、と唾液が混ざり合う音が立つ。
カルロの飲んだ酒の苦みと、ヴェルナが飲んだ果実酒の甘さが混ざる。不思議と不快感がない。酔っているせいで、色々と感覚が鈍っているのかもしれない。
それなのに、快楽だけは敏感に反応するのだから、自分の身体に呆れてしまう。
「服、脱がしていいか」
「ん」
女物の服を脱がされるのは初めてだ。
促されるままに全てを脱ぎ捨て、カルロの前に裸体をさらす。
枕に頭を乗せて仰向けになると、カルロは両手をついて嬉しそうに眺めた。
「はぁ……いい。綺麗だ」
肩や腕を撫でられ、胸を直接揉まれる。
硬く尖った胸の先に舌をはわせ、爪で引っ掻いたときと同様に小刻みに刺激して、ジュッと強く吸いついた。
たまらず甘い声を上げるヴェルナに、カルロもとうとう我慢の限界を迎えた。優しい愛撫が荒々しくなり、柔らかな胸にしゃぶりついた。
「お前の声聞いてると、理性もなにもかも吹っ飛ぶ……優しくしてやりてぇのに。なぁ、気付いてるか。胸触ってる間、太ももこすり合わせてた。ここ、すごいことになってそうだな?」
ごつごつした手がヴェルナの腹を撫で、股へと滑り落ちた。指先が閉じた太ももの間に侵入し、脚を開くように持ち上げられる。
割れ目に指が触れ、上下にこすってくる。
「やっぱりな。すごい濡れてる」
「言わなくていいからっ」
何度か入口を指で押し撫でて、やがてゆっくりと押し込まれた。
カルロはヴェルナの表情を確認しながら、探るように指を奥へと進める。
「痛いか?」
「だい、じょうぶ……」
「舌、出せ」
突然の命令に、心臓がドキッと跳ねた。
おずおずと舌を伸ばして差し出せば、カルロの唇に挟まれて強く吸われた。
舌を前後にしごく動きと合わせるように、指も前後に動いた。
震える膣を優しくこすられて、ヴェルナは口づけから逃げ、切なげな嬌声を漏らした。
「そんなに感じてたら、この先もたねーぞ」
「だって……あっ、気持ちいいの、止まらな」
「なら、仕方ねーな。俺も止めてやれねーし」
そう言うと、カルロはヴェルナの両脚を持ち上げて、太ももに口づけをしながら股の間に頭を沈めた。
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「なにしてっ――アァッ、やめてっ……そんなところ、汚い、から!」
「汚くねーし、お前なら平気」
「私が平気じゃないって!」
「いいから、感じてろ」
熟れて硬くなった肉芽を容赦なく責め立てられ、ビクビクと腰が揺れてしまう。
ぶ厚い舌に小さな肉芽が蹂躙されて、膣を太い指で犯される。
「ダメッ、ダメッ、大きいのクる! ダメ――」
ヴェルナはカルロの髪を掴んで、ビクンと腰を跳ねさせた。
淫裂がひくひくと痙攣するのが分かる。
カルロは頭を上げると口元を拭い、ふっと笑った。
「派手にイッたな。ここで気ぃ飛ばされても困るし、今日はこれ以上しないでおく。四つん這いになれるか?」
「う、ん」
ヴェルナが四つん這いになる間、カルロは服を脱ぎ、昂りをヴェルナの割れ目にこすりつけた。
「分かるか? お前に触れたらすぐこうなる。そういえば、なかで精液を出せって言われただけで、挿れるなとは言われなかったよな」
「そう、だったかな」
「今日はさすがに挿れねーけど。今度、な?」
「……うん」
カルロはヴェルナの白い背中に口づけをし、片手で胸を揉んだ。
温かくて気持ちがいい。
「挟んで」
シーツのこすれる音が響く。
ヴェルナの太ももに挟まれて、カルロの昂りがさらに熱を持つ。
腰を掴まれて、ゆったりとした動きで揺すられる。
「前にしたときよりも、ずっと快いな。なんでか分からねーけど」
「関係が、変わった、からじゃないの」
「確かに。これからは、罪悪感なしに抱ける」
「罪悪感なんてあったの?」
「俺をなんだと思ってんだよ。それに、何度も夢のなかでお前を犯してた。あの日、挿れたくて、挿れたくてたまらなかった」
腰がぶつかり合う乾いた音と一緒に、いやらしい水音が鳴った。
先走りがヴェルナの肉芽を濡らし、たくましい昂りがそこを掠めるように触れていく。
二人の乱れた吐息が激しさを増す。
カルロはヴェルナの尻をわしづかみにして、声を上げた。
「出すぞ。全部、お前にかけるからっ」
「んっ、あっ、イ……くぅ……」
最後に大きく腰を打ちつけると、カルロは昂りを引き抜いて、ヴェルナの腰の上でそれをしごいた。
熱いものが背中に降ってくるのを感じる。
「ダメだ、まだ鎮まらねぇ」
「えっ、ちょっ、カルロ待って」
はっと身体を起こしたヴェルナに、カルロは深く口づけをした。
「もう充分待った」
この日、疲れて寝落ちるまでカルロは解放してくれなかった。
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