12 / 12
第三話
朝陽に舞う(4)*
しおりを挟む
女に戻れるかもしれない。それが分かってからは、女性とよく会話をするようになった。
内容はもっぱら家事育児のこと。苦労話から楽しかった話まで、彼女たちは面白おかしく話して教えてくれる。
以前のヴェルナは、女性と関わることに消極的だった。普通に接しているだけで好意を向けられ、知らぬ間にいざこざに巻き込まれることもあった。
だが今は、面倒ごとがなくなり、普通に女性と接することができる。
付き合った記念に、とカルロから贈られた指輪をつけているおかげだろう。すこしばかり緩い指輪だったが、ヴェルナは肌身離さずつけていた。
結婚を考えているのかと聞かれることが増え、ヴェルナは含みのある笑顔を見せた。
ヴェルナが結婚を考えているという噂はたちまち広がり、詰所の内外が騒然としたのは言うまでもない。
「先輩の心を掻っ攫った奴は誰? 消していい?」
とトーマに凄まれたが、改めて想いを受け取れないことを伝えた。
「昔からずっと寄り添ってくれていた人だから、その人じゃなきゃダメなんだ」
「俺が入る余地はないってことですか」
「ごめん。今はもう、その人のことしか愛せない」
トーマは深くため息をついて、頷いた。
「分かりました。キレイさっぱり諦めまーす。じゃあ俺、今から取調べなんで。失礼します」
「トーマ!」
去りゆく背中を引き止める。
「ずっとずっと、ズルくて、ごめん」
トーマはからりと乾いた声で笑った。
「そんなん、お互いさまですよ」
トーマは即決型だ。切り替えも早い。だけどそれは、彼がそう演じているだけのこと。
他人が気付かないことによく気付くのは、トーマが繊細な人である証拠だった。
思わせぶりな態度を取ってしまったとき、彼はどれだけ傷ついただろうか。
無駄だと分かっていても、できるだけ傷つけたくなくて、言葉を選んだ。
トーマもまたヴェルナのために言葉を選んだ。
忘れないでおこう。
彼の優しさにつけ込んで傷つけたことも、そして、最後まで大切にしてもらったことも。
そして時が経ちーーもうすぐクリスティーナと約束をした期限がやってくる。
気持ちは固まっており、半年前に自警団を辞める旨は上司に伝えてあった。
この一年、日々を大切に過ごしてきた。後悔しないように。自分の成し遂げたことを心に刻むように。
退職に踏み切れないヴェルナを後押ししたのは、やはりカルロだった。
『これまでの頑張りが失われるわけじゃねぇ。積み重ねてきたことは、お前の力になってる。どんな道を選んだとしても、これまでの経験がお前を助けてくれるはずだ。だから、心の中で一番求めていることを選べ。うまくいかないときは、俺が支える。絶対、見放したりしねーから。勇気を出してやってみろ』
その言葉で、ヴェルナは女に戻ることを決意した。本当に呪いが解けるかは分からない。それでも、試してみようと思った――カルロと二人で。
* * * *
「まさか、あんなに驚かれるとは思わなかった」
「最後の最後で、飲み会に参加したんだ。そりゃあ、驚くだろう」
「いや、送別会に主賓が出なくてどうするんだよ。初めから出るって言ってあったのに、本当に来たって言うか?」
送別会を抜け出したヴェルナとカルロは、夕日に照らされた道を並んで歩いていた。
仕事終わりの人や子供の手を引いて歩く母親。いつもの風景なのに、どこか感傷的に映る。
「楽しかったか?」
「……うん。もっと早く、勇気を出しておけば良かった」
飲み会に出ただけで、拍手喝采を浴びて馬鹿みたいに騒いだ。うるさくてかなわないけれど、仕事では見られない仲間たちの思わぬ一面に驚いたり、感心したり、共感したり、この時間でしか得られない体験もあった。すこしくらい、飲み会に顔を出しておけば良かったと後悔した。
今日で終わりだ。
じわり、と涙がにじむ。
ずっと堪えていたものが、溢れるように。
顔が歪み、視界が揺れる。
「楽しかった……」
呪われた身体に絶望し、必死になって「男」を演じ「男」として生きてきた。男の社会で過ごし、辛く苦しいこともあったけれど、思い出されるのは楽しかった出来事ばかりだ。
「おつかれさん、ヴェル」
「うん」
カルロの大きな手で頭をポンと撫でられ、ヴェルナは心のなかで「ヴェル」に別れを告げた。
二人はそのままカルロの家に行き、日が沈みきるのを待っていた。
今日は、ヴェルナの退職日であり、呪いを解く日でもあるのだ。
やや緊張した面持ちで湯浴みを済ませたヴェルナは、ベッドに座ってカルロが来るのを待っていた。
身体はすっかり女へと戻っている。この姿が当たり前になるのかと思うと、変な気分だった。
湯浴みを終わらせたカルロは、目を赤くして現れた。無言でヴェルナをきつく抱きしめる。
「どうしたの?」
「俺、思ったより、男のお前も好きだったみたいだ」
「え?」
「すげー……寂しい……。この日を待ってたのに、どうしようもなく寂しいんだ……」
まさか、泣いたのか。
ヴェルナは目をぱちくりさせた。
カルロはヴェルナではなく「ヴェル」と過ごした時間の方が圧倒的に長い。喪失感に襲われるのも仕方がないことかもしれない。それだけ、「ヴェル」を大切にしてきてくれたということだ。
ヴェルナはカルロの背中に手を回して撫でた。
「ありがとう、カルロ」
カルロは、はっと息を吐き出して身体を離した。
「もう大丈夫だ。悪ぃ。情けねーところ見せたな」
良いんだ、分かってる。
ヴェルナは優しく微笑んだ。
すると、カルロも苦い笑みを浮かべてヴェルナに口づけをした。
もう何度もしたというのに、飽きることなく求めてしまう。角度を変えて唇を重ね、舌を絡ませる。
「今日は、いつもより激しくしていいか?」
ヴェルナは、息を呑み込むと同時に頷いた。
カルロにはずいぶん前に純潔を捧げた。昂りを挿入されて責め立てられても痛みはない。だが、カルロに気持ちいいところを執拗に突き上げられ、頭が真っ白になってしまう。
激しくすると言うことは、いつも以上に――。
「そんな期待されると余計に燃えるんだけど」
「なに言って」
「違うのか?」
カルロの手がヴェルナの服のなかに忍び込み、慣れた手つきで胸をすくって揉み始める。
胸の先に触れられることを期待して、じっと待つ。
硬くなった尖りに爪がかすめただけで、肩がびくりと震える。尖りをカリカリと引っ掻かれ、指の腹でこねられて、無意識に腰が揺れた。
「ほんと、これが好きなんだな」
「っるさい……んっ」
再び唇を塞がれて、吐息を絡ませ合った。
「耳を舐められながら、ここを引っ掻かれるのが大好きなんだよな」
「ふ、あ……んんっ……」
耳輪を舌先でそーっと舐められ、耳先をぱくりと口に含まれた。くちゅくちゅと卑猥な音に鼓膜を犯される。
胸を揉む手が止まり服を脱がされ、カルロも服を脱ぎ捨てた。
ベッドの上で絡まるように抱き合った二人は、激しい口づけに溺れていった。
身体をむさぼるように唇と舌で快感を与えられる。
ヴェルナはカルロの顔にまたがり、身体を伏せると熱い昂りを口に含んで愛した。
その間、硬く主張する小さな肉芽をえぐるように舐められ、達したところで潤んだ淫裂に指を沈められた。
「俺のをしゃぶったままイくとか、どんだけ淫乱なんだよ。ここ、すげードロドロ……いつもより濡れて、垂れてくる……もったいねーな」
言って、カルロは淫裂に吸い付いた。
指でほぐされて柔らかくなった膣に舌をねじ込まれ、抜き差しされる。
カルロの舌の動きに合わせて、ヴェルナは頭を上下に動かし、昂りを吸いながら唇でしごいた。
「くっ……それ以上は、ダメだっ。口、離せって……ヴェルナ!」
ちゅぷ、と卑猥な糸を垂らして昂りから口を離したヴェルナは、とろけた顔でカルロへと振り返る。
カルロは身体を起こして、ヴェルナの唇を親指で拭ってやった。
「ったく。そんなに美味かったか? なんて、聞くまでもないか。今度はこっちに食わせてやるから。横になれ」
仰向けに寝たヴェルナの両太ももをぐいと持ち上げ、昂りを淫裂にこすりつける。
「挿れるぞ」
「うん」
ズズズ……と埋め込まれていく。
圧迫感にはぁと息を吐き、昂りを奥まで受け入れる。
ヴェルナはカルロの首に腕をまわし、身体を引き寄せた。
小刻みに揺すられて、馴染んだところで奥を突き上げられた。指では届かず焦れて疼いていたところを的確に刺激される。
「アァッ、ンッ、ひっ……ハァンンッ」
「なんかっ、いつもより、締め付けがすげーんだけど。もしかして、ずっとイってる?」
「わかんな、いっ……そこ、ダメッ」
ヴェルナは身体をひねり、カルロから逃れようとした。だが、そのまま体勢を変えられてしまう。
ベッドから上半身が離れ、たくましい両腕に抱きしめられながら激しく腰を打ち付けられた。
「こっちの方が、快いんだよな?」
ヴェルナはイヤイヤと頭を振り、善がり声を上げ続けた。
「やだぁ、やなのっ」
「あー、悪ぃ。こっち触るの忘れてた」
カルロは太い親指を愛液で濡らすと、肉芽を探り出しヌルヌルと撫でまわした。
「むりっ、もうダメッ――」
膣と外から与えられる刺激に耐えきれず、あっという間に達してしまう。
「あっ、ぶね……っ、はぁ、はぁ……ははっ、ヒクヒクしてるの、分かる」
深く口づけをして、カルロはヴェルナの細い肩に唇をはわせた。
「なぁ。このまま出されるのと、向き合って抱きしめながら出されるの、どっちが良い?」
「向き合う方がいい……」
「ん、分かった。体勢変えるぞ」
クチュッと音を立てて昂りが引き抜かれ、二人はもとの体勢に戻り、再び深く繋がった。
カルロはヴェルナに口づけをしながら、自身の熱を高めていった。
絶頂に向けて抽送が激しくなる。
「そろそろ、出すからなっ」
「うんっ……はぁ、アァッ……ほしいっ……一番深い、とこっ」
「ああ。一番奥で出してやるっ……だから、一緒に」
互いに舌を絡めて、唇に吸いつく。
パンっと強く腰を打ち付けられ、ヴェルナは嬌声を上げて果てた。
カルロもまた、小さくうめいてヴェルナの奥で果てた。
ずるり、と昂りが引き抜かれる。
肩で息をしながら見つめ合う二人。
「どうだ……?」
「……特に、なにも……」
すこしの沈黙の後、どちらともなく吹き出して、クスクスと笑い合った。
「本当にこれで合ってんのか?」
「さぁ、どうだろう」
もっと劇的ななにかを期待していたが、大きな変化はなかった。
カルロはヴェルナに口づけをして、にっと笑った。
「念のため、もう一回やっておこう」
「へっ? いや、ちょっと待ってさすがに――アァッ」
ヴェルナは観念して、カルロから与えられる快楽に溺れることにした。
カーテンの隙間から差し込む光に反応し、ヴェルナは眉間に皺を寄せて目を開けた。
小鳥のさえずりが聞こえ、間違いなく朝が来たのだとぼんやりとした頭で理解する。
「目ぇ覚めたか。おはよう」
腕を枕にして、カルロがこちらを見ていた。
穏やかな笑みに、ヴェルナもつられて笑顔になる。
「おは――あ……」
声が低くない。
手を見ると、それは女の柔らかみのある手だった。
カルロがうんと頷いた。
「良かったぁ……男になってたらどうしようかと」
「自警団に再就職だな」
「あははっ、それはさすがに情けない」
感動で涙が出るかと思っていたが、喜びの方が勝って笑顔ばかりこぼれる。
カルロはベッドから起き上がり、服を持ってヴェルナの前に戻ってきた。
「それは?」
「クリスティーナから。呪いが解けたら渡してくれって頼まれてた」
「クリスが?」
白いブラウスと、ベストがついた緑色のスカートを手渡される。スカートの裾には丁寧な刺繍が施してあり、可愛らしくも美しかった。
着てみろよ、とカルロに促され、ヴェルナはクリスティーナからの贈り物を身につけた。
カーテンを開けて、朝陽が差し込む部屋のなか――スカートの裾をつまんで動いて見せるヴェルナに、カルロは優しく微笑んだ。
ヴェルナは気恥ずかしげに、けれど、嬉しそうに笑った。
「それからもう一つ、今度は俺から」
そう言うと、カルロは手のなかに隠していた指輪をヴェルナの左手の薬指にはめた。
「すごい、ぴったり……なんで?」
「ははっ。いいな。その顔を見たかった。そんでもって、お前に持っててもらった指輪を俺がもらう、と」
「ええ? もしかして、最初からそのつもりで?」
「そう。ヴェルのことを忘れたくないから」
ああ、だから指輪がすこし緩かったのか。
カルロは、昨日までヴェルナがはめていた指輪を左手の薬指にはめた。そして、鈍く光る指輪へと寂しげに口づけをする。
懐かしむように目を細め、はっと息を吐き出すと、今度は恭しくヴェルナの左手を取り、手の甲に口づけをした。
「ヴェルナ。俺と結婚してくれるか?」
「っ……もちろん、喜んで」
二人は抱きしめ合って幸せに満ちた笑みを浮かべる。
ヴェルナはカルロの胸に頬を寄せ、目を閉じる。
良かった。
ちゃんと、幸せだ。
幸せだと心から思える。
「今日は忙しくなるな」
「うん。まずはクリスティーナに会いに行って」
「その後はお前の実家に挨拶だな。そんで、お師匠さんは最後だ。さて、今日は何人の泣き顔を見ることやら」
クスクスと笑い合っていると、カルロが突然「あ!」と声を上げた。そして、しまったというような顔をする。
「俺、お前に大事なこと伝えるの忘れてた……」
なに、と身構えながらも首を傾げるヴェルナに、カルロは今まで見たこともないほど、眩しい笑顔を浮かべ、小さな耳にささやいた。
「愛してる」
内容はもっぱら家事育児のこと。苦労話から楽しかった話まで、彼女たちは面白おかしく話して教えてくれる。
以前のヴェルナは、女性と関わることに消極的だった。普通に接しているだけで好意を向けられ、知らぬ間にいざこざに巻き込まれることもあった。
だが今は、面倒ごとがなくなり、普通に女性と接することができる。
付き合った記念に、とカルロから贈られた指輪をつけているおかげだろう。すこしばかり緩い指輪だったが、ヴェルナは肌身離さずつけていた。
結婚を考えているのかと聞かれることが増え、ヴェルナは含みのある笑顔を見せた。
ヴェルナが結婚を考えているという噂はたちまち広がり、詰所の内外が騒然としたのは言うまでもない。
「先輩の心を掻っ攫った奴は誰? 消していい?」
とトーマに凄まれたが、改めて想いを受け取れないことを伝えた。
「昔からずっと寄り添ってくれていた人だから、その人じゃなきゃダメなんだ」
「俺が入る余地はないってことですか」
「ごめん。今はもう、その人のことしか愛せない」
トーマは深くため息をついて、頷いた。
「分かりました。キレイさっぱり諦めまーす。じゃあ俺、今から取調べなんで。失礼します」
「トーマ!」
去りゆく背中を引き止める。
「ずっとずっと、ズルくて、ごめん」
トーマはからりと乾いた声で笑った。
「そんなん、お互いさまですよ」
トーマは即決型だ。切り替えも早い。だけどそれは、彼がそう演じているだけのこと。
他人が気付かないことによく気付くのは、トーマが繊細な人である証拠だった。
思わせぶりな態度を取ってしまったとき、彼はどれだけ傷ついただろうか。
無駄だと分かっていても、できるだけ傷つけたくなくて、言葉を選んだ。
トーマもまたヴェルナのために言葉を選んだ。
忘れないでおこう。
彼の優しさにつけ込んで傷つけたことも、そして、最後まで大切にしてもらったことも。
そして時が経ちーーもうすぐクリスティーナと約束をした期限がやってくる。
気持ちは固まっており、半年前に自警団を辞める旨は上司に伝えてあった。
この一年、日々を大切に過ごしてきた。後悔しないように。自分の成し遂げたことを心に刻むように。
退職に踏み切れないヴェルナを後押ししたのは、やはりカルロだった。
『これまでの頑張りが失われるわけじゃねぇ。積み重ねてきたことは、お前の力になってる。どんな道を選んだとしても、これまでの経験がお前を助けてくれるはずだ。だから、心の中で一番求めていることを選べ。うまくいかないときは、俺が支える。絶対、見放したりしねーから。勇気を出してやってみろ』
その言葉で、ヴェルナは女に戻ることを決意した。本当に呪いが解けるかは分からない。それでも、試してみようと思った――カルロと二人で。
* * * *
「まさか、あんなに驚かれるとは思わなかった」
「最後の最後で、飲み会に参加したんだ。そりゃあ、驚くだろう」
「いや、送別会に主賓が出なくてどうするんだよ。初めから出るって言ってあったのに、本当に来たって言うか?」
送別会を抜け出したヴェルナとカルロは、夕日に照らされた道を並んで歩いていた。
仕事終わりの人や子供の手を引いて歩く母親。いつもの風景なのに、どこか感傷的に映る。
「楽しかったか?」
「……うん。もっと早く、勇気を出しておけば良かった」
飲み会に出ただけで、拍手喝采を浴びて馬鹿みたいに騒いだ。うるさくてかなわないけれど、仕事では見られない仲間たちの思わぬ一面に驚いたり、感心したり、共感したり、この時間でしか得られない体験もあった。すこしくらい、飲み会に顔を出しておけば良かったと後悔した。
今日で終わりだ。
じわり、と涙がにじむ。
ずっと堪えていたものが、溢れるように。
顔が歪み、視界が揺れる。
「楽しかった……」
呪われた身体に絶望し、必死になって「男」を演じ「男」として生きてきた。男の社会で過ごし、辛く苦しいこともあったけれど、思い出されるのは楽しかった出来事ばかりだ。
「おつかれさん、ヴェル」
「うん」
カルロの大きな手で頭をポンと撫でられ、ヴェルナは心のなかで「ヴェル」に別れを告げた。
二人はそのままカルロの家に行き、日が沈みきるのを待っていた。
今日は、ヴェルナの退職日であり、呪いを解く日でもあるのだ。
やや緊張した面持ちで湯浴みを済ませたヴェルナは、ベッドに座ってカルロが来るのを待っていた。
身体はすっかり女へと戻っている。この姿が当たり前になるのかと思うと、変な気分だった。
湯浴みを終わらせたカルロは、目を赤くして現れた。無言でヴェルナをきつく抱きしめる。
「どうしたの?」
「俺、思ったより、男のお前も好きだったみたいだ」
「え?」
「すげー……寂しい……。この日を待ってたのに、どうしようもなく寂しいんだ……」
まさか、泣いたのか。
ヴェルナは目をぱちくりさせた。
カルロはヴェルナではなく「ヴェル」と過ごした時間の方が圧倒的に長い。喪失感に襲われるのも仕方がないことかもしれない。それだけ、「ヴェル」を大切にしてきてくれたということだ。
ヴェルナはカルロの背中に手を回して撫でた。
「ありがとう、カルロ」
カルロは、はっと息を吐き出して身体を離した。
「もう大丈夫だ。悪ぃ。情けねーところ見せたな」
良いんだ、分かってる。
ヴェルナは優しく微笑んだ。
すると、カルロも苦い笑みを浮かべてヴェルナに口づけをした。
もう何度もしたというのに、飽きることなく求めてしまう。角度を変えて唇を重ね、舌を絡ませる。
「今日は、いつもより激しくしていいか?」
ヴェルナは、息を呑み込むと同時に頷いた。
カルロにはずいぶん前に純潔を捧げた。昂りを挿入されて責め立てられても痛みはない。だが、カルロに気持ちいいところを執拗に突き上げられ、頭が真っ白になってしまう。
激しくすると言うことは、いつも以上に――。
「そんな期待されると余計に燃えるんだけど」
「なに言って」
「違うのか?」
カルロの手がヴェルナの服のなかに忍び込み、慣れた手つきで胸をすくって揉み始める。
胸の先に触れられることを期待して、じっと待つ。
硬くなった尖りに爪がかすめただけで、肩がびくりと震える。尖りをカリカリと引っ掻かれ、指の腹でこねられて、無意識に腰が揺れた。
「ほんと、これが好きなんだな」
「っるさい……んっ」
再び唇を塞がれて、吐息を絡ませ合った。
「耳を舐められながら、ここを引っ掻かれるのが大好きなんだよな」
「ふ、あ……んんっ……」
耳輪を舌先でそーっと舐められ、耳先をぱくりと口に含まれた。くちゅくちゅと卑猥な音に鼓膜を犯される。
胸を揉む手が止まり服を脱がされ、カルロも服を脱ぎ捨てた。
ベッドの上で絡まるように抱き合った二人は、激しい口づけに溺れていった。
身体をむさぼるように唇と舌で快感を与えられる。
ヴェルナはカルロの顔にまたがり、身体を伏せると熱い昂りを口に含んで愛した。
その間、硬く主張する小さな肉芽をえぐるように舐められ、達したところで潤んだ淫裂に指を沈められた。
「俺のをしゃぶったままイくとか、どんだけ淫乱なんだよ。ここ、すげードロドロ……いつもより濡れて、垂れてくる……もったいねーな」
言って、カルロは淫裂に吸い付いた。
指でほぐされて柔らかくなった膣に舌をねじ込まれ、抜き差しされる。
カルロの舌の動きに合わせて、ヴェルナは頭を上下に動かし、昂りを吸いながら唇でしごいた。
「くっ……それ以上は、ダメだっ。口、離せって……ヴェルナ!」
ちゅぷ、と卑猥な糸を垂らして昂りから口を離したヴェルナは、とろけた顔でカルロへと振り返る。
カルロは身体を起こして、ヴェルナの唇を親指で拭ってやった。
「ったく。そんなに美味かったか? なんて、聞くまでもないか。今度はこっちに食わせてやるから。横になれ」
仰向けに寝たヴェルナの両太ももをぐいと持ち上げ、昂りを淫裂にこすりつける。
「挿れるぞ」
「うん」
ズズズ……と埋め込まれていく。
圧迫感にはぁと息を吐き、昂りを奥まで受け入れる。
ヴェルナはカルロの首に腕をまわし、身体を引き寄せた。
小刻みに揺すられて、馴染んだところで奥を突き上げられた。指では届かず焦れて疼いていたところを的確に刺激される。
「アァッ、ンッ、ひっ……ハァンンッ」
「なんかっ、いつもより、締め付けがすげーんだけど。もしかして、ずっとイってる?」
「わかんな、いっ……そこ、ダメッ」
ヴェルナは身体をひねり、カルロから逃れようとした。だが、そのまま体勢を変えられてしまう。
ベッドから上半身が離れ、たくましい両腕に抱きしめられながら激しく腰を打ち付けられた。
「こっちの方が、快いんだよな?」
ヴェルナはイヤイヤと頭を振り、善がり声を上げ続けた。
「やだぁ、やなのっ」
「あー、悪ぃ。こっち触るの忘れてた」
カルロは太い親指を愛液で濡らすと、肉芽を探り出しヌルヌルと撫でまわした。
「むりっ、もうダメッ――」
膣と外から与えられる刺激に耐えきれず、あっという間に達してしまう。
「あっ、ぶね……っ、はぁ、はぁ……ははっ、ヒクヒクしてるの、分かる」
深く口づけをして、カルロはヴェルナの細い肩に唇をはわせた。
「なぁ。このまま出されるのと、向き合って抱きしめながら出されるの、どっちが良い?」
「向き合う方がいい……」
「ん、分かった。体勢変えるぞ」
クチュッと音を立てて昂りが引き抜かれ、二人はもとの体勢に戻り、再び深く繋がった。
カルロはヴェルナに口づけをしながら、自身の熱を高めていった。
絶頂に向けて抽送が激しくなる。
「そろそろ、出すからなっ」
「うんっ……はぁ、アァッ……ほしいっ……一番深い、とこっ」
「ああ。一番奥で出してやるっ……だから、一緒に」
互いに舌を絡めて、唇に吸いつく。
パンっと強く腰を打ち付けられ、ヴェルナは嬌声を上げて果てた。
カルロもまた、小さくうめいてヴェルナの奥で果てた。
ずるり、と昂りが引き抜かれる。
肩で息をしながら見つめ合う二人。
「どうだ……?」
「……特に、なにも……」
すこしの沈黙の後、どちらともなく吹き出して、クスクスと笑い合った。
「本当にこれで合ってんのか?」
「さぁ、どうだろう」
もっと劇的ななにかを期待していたが、大きな変化はなかった。
カルロはヴェルナに口づけをして、にっと笑った。
「念のため、もう一回やっておこう」
「へっ? いや、ちょっと待ってさすがに――アァッ」
ヴェルナは観念して、カルロから与えられる快楽に溺れることにした。
カーテンの隙間から差し込む光に反応し、ヴェルナは眉間に皺を寄せて目を開けた。
小鳥のさえずりが聞こえ、間違いなく朝が来たのだとぼんやりとした頭で理解する。
「目ぇ覚めたか。おはよう」
腕を枕にして、カルロがこちらを見ていた。
穏やかな笑みに、ヴェルナもつられて笑顔になる。
「おは――あ……」
声が低くない。
手を見ると、それは女の柔らかみのある手だった。
カルロがうんと頷いた。
「良かったぁ……男になってたらどうしようかと」
「自警団に再就職だな」
「あははっ、それはさすがに情けない」
感動で涙が出るかと思っていたが、喜びの方が勝って笑顔ばかりこぼれる。
カルロはベッドから起き上がり、服を持ってヴェルナの前に戻ってきた。
「それは?」
「クリスティーナから。呪いが解けたら渡してくれって頼まれてた」
「クリスが?」
白いブラウスと、ベストがついた緑色のスカートを手渡される。スカートの裾には丁寧な刺繍が施してあり、可愛らしくも美しかった。
着てみろよ、とカルロに促され、ヴェルナはクリスティーナからの贈り物を身につけた。
カーテンを開けて、朝陽が差し込む部屋のなか――スカートの裾をつまんで動いて見せるヴェルナに、カルロは優しく微笑んだ。
ヴェルナは気恥ずかしげに、けれど、嬉しそうに笑った。
「それからもう一つ、今度は俺から」
そう言うと、カルロは手のなかに隠していた指輪をヴェルナの左手の薬指にはめた。
「すごい、ぴったり……なんで?」
「ははっ。いいな。その顔を見たかった。そんでもって、お前に持っててもらった指輪を俺がもらう、と」
「ええ? もしかして、最初からそのつもりで?」
「そう。ヴェルのことを忘れたくないから」
ああ、だから指輪がすこし緩かったのか。
カルロは、昨日までヴェルナがはめていた指輪を左手の薬指にはめた。そして、鈍く光る指輪へと寂しげに口づけをする。
懐かしむように目を細め、はっと息を吐き出すと、今度は恭しくヴェルナの左手を取り、手の甲に口づけをした。
「ヴェルナ。俺と結婚してくれるか?」
「っ……もちろん、喜んで」
二人は抱きしめ合って幸せに満ちた笑みを浮かべる。
ヴェルナはカルロの胸に頬を寄せ、目を閉じる。
良かった。
ちゃんと、幸せだ。
幸せだと心から思える。
「今日は忙しくなるな」
「うん。まずはクリスティーナに会いに行って」
「その後はお前の実家に挨拶だな。そんで、お師匠さんは最後だ。さて、今日は何人の泣き顔を見ることやら」
クスクスと笑い合っていると、カルロが突然「あ!」と声を上げた。そして、しまったというような顔をする。
「俺、お前に大事なこと伝えるの忘れてた……」
なに、と身構えながらも首を傾げるヴェルナに、カルロは今まで見たこともないほど、眩しい笑顔を浮かべ、小さな耳にささやいた。
「愛してる」
26
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる