恋する幼馴染

散りぬるを

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 雪は、冬馬と見知らぬ女子とのお遊びに対して、不愉快な気分になっていた。
 お菓子を咥えあった時の距離は、キスを迫れる距離だった。つまり、見知らぬその女子は、冬馬の唇を奪いに来ていた。それが気に入らない。過去の出来事であってもだ。
 見知らぬ女子に対して嫉妬して、年甲斐もなくムキになっている。

「雪」

 冬馬は雪のお菓子を持つ手に触れて降ろさせる。
 雪はハッと我に返り、手を自分の胸に引き寄せた。
 今の冬馬は「幼馴染」に戻るために来ているのに、その思いを踏みにじろうとしていた。

「ご、ごめん! その、羨ましくなっちゃって。私も冬馬と同じ歳だったら、こういう遊びしたかったなって。……本当、ごめん」

 誤魔化すように笑って、咥えられなかったお菓子を自分で食べる。

「俺……雪としたら、遊びじゃ済まなくなる……」

 冬馬は深くため息をつくと背中を丸め、自分の膝に肘を乗せて口元を指で覆った。

「もう伝わってると思うけど、俺、雪のこと意識してる」
「…………」
「今でも好きだよ。心から好きだって思える人は、君だけだった。けど、今日会いに来たのは、この気持ちを手放すため」
「えっ……」
「選んでもらえない悲しさとか、触れられない苦しさよりも、君に会えないことの方がずっと辛くて寂しかった。だから、幼馴染に戻れば、雪のそばにいられると思ったんだ」

 冬馬は視線を下ろしたまま黙った。
 告白をされたあの日の光景が呼び起こされる。
 温泉旅行の帰りの電車の中で、二人がけの席に座り冬馬は静かな声で「好き」と伝えてくれた。
 思いを受け取れないと伝えると、今のように視線を下げて黙ってしまった。

「私も、好き」

 あの日、伝えなかった言葉がポロリとこぼれる。
 冬馬が、パッと顔を上げる。驚きと疑念に瞳が揺れていた。
 きちんと伝えなければならない。
 あの時からずっと引きずっていた"後ろめたさ"と"情けなさ"に向き合う時が来た。

「あの時ね…………、冬馬のことは好きだったけど、未成年と付き合うことに抵抗感があったの」

 雪は冬馬の足元に座り、あの頃伝えられなかった思いをぽつり、ぽつりと話し始めた。

「法律では何ともないんだろうけど、何か起きた時に私が全ての責任を負うことになる。……それが、怖かった。好きだけじゃ越えられない壁っていうのかな。その壁がすごく大きく感じて、冬馬と付き合わないっていう楽な方を選んだの」

 頼りなく震える声をどうにか紡いでいく。
 本音を打ち明けるという行為は、いくつになっても慣れない。
 冬馬を見上げると、彼は戸惑いながらも雪の話に耳を傾けてくれていた。

「ごめんね、今すごく傷ついているよね。私が逃げるためについた嘘に振り回されて、嫌な思いをさせたよね。本当にごめんなさい」

 冬馬は頭を左右に振る。それから、雪の手を取って自分の隣に座らせた。
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