ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第2部

フェーズ8-11

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 最近買ってもらったホットプレートで今夜は焼肉をする。涼には先に野菜を焼き始めててもらい、私は飲みものとお肉の準備をしていた。
「創立記念パーティー?」
 遅れてダイニングテーブルにつきながら、私は訊き返した。今月末に涼が勤務する臨海総合病院の創立記念パーティーが開かれるらしい。
「家族も参加していいことになってるから一緒にどう? ドレス着て」
 ドレスなんて本格的だ。医者の集まりなんだし、格式高いパーティーなんだろうな。私が参加したら場違いで浮いてしまいそう。
「麗子さんもいるんだよね?」
 病院のカフェでは客と店員として何度か麗子さんと顔を合わせているものの、彼女は私を涼の妻とは認識していない。パーティーに夫婦同伴で参加するなら当然、妻として麗子さんに挨拶することになる。
「もう気にすることないよ」
 麗子さんは私に結婚祝いをくれた。でもあれは形式的なもので、実際は涼のことを麗子さんがまだ好きだとしたら? 彼女の本心は彼女にしかわからない。
 私が麗子さんの立場だったらどう思うだろう。涼と別れて何年後かに再会したとき、涼は別の人と結婚してる。そんなの耐えられない。結婚祝いなんてとんでもないし、相手には絶対に会いたくない。涼と別れる、別の人と結婚、別れて、別の人と。想像するだけで悲しくて、涙がじわじわと滲んできた。
「ああ、その麗子さんだけど、結婚するらしいぞ」
 鉄板の上で野菜を裏返しながら涼が言った。
「へ?」
 涙がぴたりと止まった。
「結婚? 麗子さんが?」
「そう。相手、誰だと思う?」
「私も知ってる人なの?」
 涼が意味深に笑う。
すみ先生?」
 澄先生しか知らない。お子さんがいるから結婚してるものだとばかり思っていた。そういえば去年の夏祭りで会ったとき、奥さんは一緒ではなかった。実はシングルファザーで、部下である麗子さんと再婚!? 驚きのビッグカップルだ。
「当日のお楽しみにしておいたら。婚約者と参加するだろうから」
「じゃあ、行こうかな」
「よし」
 了承したところで大事なことに気がついた。
「でも待って。私、ドレスなんて持ってない……」
 涼がぶつぶつと何か言っている。
「露出は控えめで、スカートの長さは膝くらい。色は……」
 すでにシミュレーションに入っていた。


 創立記念パーティーの会場は高層ホテルだった。リッチな外観に一瞬でひるんだ私は、地下駐車場で車を降りると涼に訊ねた。
「おかしくない?」
 ピンクゴールドのカクテルドレスを今日のために買ってもらってしまった。まるでハリウッドのセレブが着るドレスみたい。ちぐはぐになっていないか不安だ。
「すごく似合ってる」
 ホテルの外観だけでも怖気づいたというのに、向かった先は大中小ある宴会場のうち、一番大きな大宴会場だった。高い天井には美しく輝く巨大なシャンデリアがぶら下がっている。ベージュのカーペットの上には、白いテーブルクロスがかけられた丸いテーブルがいくつも設置され、各テーブルにはゴージャスな花と料理の大皿が並ぶ。着飾った大勢の人々がグループごとに談笑していて、どこに目を向けても華やかな雰囲気が漂っていた。
 かっこいいスーツ姿の涼にエスコートされながら会場に入った。手つきがさり気ない。慣れてる。
「神河先生、彩ちゃんも」
 人の間を縫うように進んでいくと、澄先生が私たちに気づいて声をかけてきた。医者らしき数人の男性たちと話している。涼と一緒に彼らにも会釈をした。
「彩ちゃんは会うたびに雰囲気が変わるね。浴衣もよかったけど、今日はまた一段と大人っぽくてきれいだよ」
「ありがとうございます」
 はにかみながらお礼を言った。褒めていただいたところで改めて見まわすも、近くに麗子さんの姿はない。一緒ではないのか。不思議に思っていると涼が察したのか、
鷹宮たかみや先生は?」
 と、澄先生に訊いてくれた。
「さっきそのへんを婚約者と挨拶して回ってたよ」
 ん? 「」? ということは相手は澄先生ではないのか。それではいったい誰なの。考えあぐねていたら、背後から声がかかった。
「呼んだ?」
 振り返ると、黒いワンショルダーのロングドレスに身を包んだ麗子さんが立っていた。春にうちに訪ねてきた、涼の友だちの一ノ瀬さんと一緒に。婚約者ってまさか。
「あら、奥様?」
 麗子さんがちらりと私を見た。
「ああ、彩だ」
「こ、こんばんは。いつも主人がお世話になってます」
「はじめまして。同僚の鷹宮です。こちらこそ神河先生にはいつもお世話になっております」
 柔らかい笑顔で丁寧にお辞儀をしてくれた。「はじめまして」ではないのだけど、やはり私には気づいていないようだ。今後はどうだろう。次にカフェで会ったときにはさすがに気づかれてしまうかな。でも普段は薄化粧で、今日は美容院でプロに施してもらったバッチリメイクだから、案外気づかれないままかもしれない。
 元々きれいな人だけど今日は格別だ。エレガントなドレスもとても素敵で、よく似合っている。もっと眺めていたいけれど、それよりも今は隣にいる一ノ瀬さんが気になる。一度に情報量が多すぎてパニックだ。
「彩ちゃん、久しぶり。見違えたから一瞬誰かと思った」
「お久しぶりです」
「会ったことあるの?」
 麗子さんが一ノ瀬さんに訊ねた。
「前に神河の家で飲ませてもらったときにね」
 麗子さんの婚約者って一ノ瀬さんなの? 涼に目配せをすると彼が頷いたので、私は確信を持った。
「ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 さりげなく一ノ瀬さんの腕に回された左手の薬指に、大きなダイヤの指輪がはめられているのを見つけた。いつの間にこういうことになったんだろう。一ノ瀬さんがうちにきたときは涼に麗子さんとのことを訊いたりなんかして、付き合ってる様子はまったくなかった。涼は二人のなれそめを知ってるのかな。パーティーが終わったら訊いてみよう。
 ステージでは理事長・院長の挨拶、来賓からの祝辞のあと、病院のこれまでの歩みを紹介する動画が流れたり、表彰式などが行われた。今年で創立五十周年、大きな節目の年だ。どうりで盛大なわけだ。臨海総合病院の関係者だけでなく、他院や政財界からのゲストも参加しているらしかった。
 軽食をつまんだりドリンクを飲んだりしながら、時折涼の知り合いに一緒に挨拶をした。予想はしていたけど、医者だらけのパーティーだからとんでもなくハイクラスで、私は場違いに感じる。でもこういう機会はまたあるかもしれない。少しずつ慣れていったほうがいい。
 緊張しながらとりあえず笑顔を作りつづけていたら、頬がぴくぴくしてきた。これ以上は笑えないというところでパーティーがお開きになってくれた。
 助かった。これで帰れる。ドレスとパンプスを早く脱いで楽になりたい。ところが涼はクロークで上着を受け取ったあと、出口とは逆方向のフロントへ向かった。
「帰らないの?」
 ついていきながら涼に訊ねる。
「せっかくだから泊まろう」
「えっ? 泊まるって……」
 このホテルに? 今から? 着替えとか何も用意してない。
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