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13話 ポーション製作 後編
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薬師組合からポーションの材料を持ち帰ったティカは、自室に荷物を置き早速ポーション作りに励むと思いきや昼食を取りに商業区へ向かった。
商業区はその名の通り、食べ物から日用品、ルイツ特産の鉱石まで様々なものが売られている。露店販売なので直接品物を目利きしたり、店主と交渉などが日常的に行われる活気溢れる場所だ。
そんな商業区へ昼食を買いにやってきたティカ。美味しそうな匂いが辺りから漂う中、一つの屋台に足を止めた。大きな金属製の寸胴鍋をかき混ぜる店主の姿が目にはいった。薬を調合する姿と屋台で料理をかき混ぜる姿にシンパシーでも感じたのかその屋台へ誘われるように近づいてく。
「いらっしゃい! 食べて行くかい?」
「おじさん、これってどういう食べ物なんですか?」
「おっ、この料理を見るのは初めてかい」
「はい」
「これはな、麵料理ってんだ。小麦粉を細く伸ばしたものを一度茹でてスープと一緒に食べる料理だ。一口どうだい、ほれ」
寸胴鍋からスープと麺を器に注いでティカに器を渡した。小さな器から立ち上る湯気と共に野菜の風味と出汁がティカの鼻をくすぐる。店主から箸を受け取って実際に試食してみる。ズルズルと啜りながら口にすると何とも言えないもちもちとした触感とつるりと口に入る麺に頬を緩ませた。
「おじさん、これ一杯ください」
「あいよ。銅貨三枚な」
「はい」
「まいど」
銅貨三枚を店主に渡し、木製の器いっぱいの麺料理を受け取った。屋台の脇にずれ麺料理を啜る。麺以外にも角切りに切った一口サイズの野菜があっさりスープの出汁を吸って口に入れた瞬間うま味が溢れる。今まで食べたことのない料理に目を輝かせながら食べるティカだった。
昼食を食べ終わり、宿に戻ってポーション製作に取り掛かろうと帰路についていた時のことだ。ふと目に留まったのは雑貨屋だった。露店販売らしく店先に布を敷いて雑貨を並べてあった。
見たところ日用品が七割といったところか。日用品以外にこの町特産の鉱石も少しばかり置かれていた。大きさは掌に収まるサイズで一つ銅貨八枚から大銅貨2枚程度だ。
雑貨が乱雑に並ぶなかティカが気になっていたのは黒光りする鉱石だ。他の鉱石に混じって艶と黒色が一際目立つ石が一つだけあった。他の鉱石はくすんだ土色をしているので恐らく鉄鉱石だ。更に小石くらいの銅鉱石が二つ。この黒い鉱石の正体に気づいたのか手に取ってまじまじと観察している。
「すみません、これいくらですか?」
「ん? 大銅貨一枚だよ」
「これ下さい」
「まいどどうも」
黒い鉱石を大銅貨一枚で購入したティカは今度こそ小鳥の宿へ帰還した。
「さて、ポーション作っていきますか」
小鳥の宿の自室に戻ったティカは、早速ポーション作りに取り掛かった。まず始めに蒸留装置を組み立てて設置。先ほどエマからわけてもらった水を蒸留装置にかけておく。意外と水から蒸留水にするまでに時間がかかるのだ。
蒸留している間に魔石を粉末にする作業にとりかかる。革袋から取り出した白い魔石をすり鉢で丁寧に粉末状にし、別の袋へ移した。この作業を魔石が無くなるまで行った。
続いて薬草から成分の抽出作業に移る。組合でポーションを作ったときは道具がなく仕方なく抽出せずにそのまま使用したが、薬草の成分を抽出すれば効果の高いポーションを作ることができる。
鞄から抽出器を取り出し床に置く。見た目は丸い筒状の機械で上部の蓋を開けると粉末を入れられるようになっている。一度に入りきらないので半分だけ粉末状の薬草を入れた。抽出器の下部をスライドさせると丸い窪みがあり、そこへ鞄から取り出した銀色の球体を窪みに嵌め込んだ。この物体は放散石といい天然の放散結晶を圧縮成形したものだ。放散石に熱を加えることで起きる拡散現象と呼ばれる光を利用して物体を細かく分離させる。ちなみに人がこの拡散光を浴びると水蒸気のように蒸発してしまう。扱いには細心の注意が必要だ。
抽出器の底をスライドさせ黒い石を二つ、そして魔石を一つ入れて抽出を開始する。この黒い石は石炭鉱といい、魔力と反応して熱を生む鉱物だ。先ほど露店で買ってきたものと同じ見た目だ。
抽出器が薬草を抽出をしている間、調合釜を準備して暫し休息時間。先ほど露店で買った石をポケットから取り出した。
「やっぱり石炭鉱だよねこれ。まさか大銅貨一枚で買えるなんて……もう少し在庫が欲しいところだけど、露店を探し回ってたら他にも見つかるかな」
どうやら露店で買った鉱石は石炭鉱で間違いないようだ。大銅貨一枚で買えたことに満足げだが正直、ティカが持つ石炭鉱の相場は大銅貨一枚程度なので妥当だ。寧ろあの小ささだと少々割高気味かもしれない。まぁ、あまり手に入らなかったから買えて嬉しいのか満足気な表情だ。
しかし、石炭鉱はごく普通に手に入るポピュラーな鉱石で採掘が盛んな町なら簡単に手に入るものだ。流通も結構されており、特にこの町ルイツは大規模な鉱床があるため鉄鉱石の次くらいに採掘される。需要もそこそこあって、一般的な使い方として火炎石と混ぜて冬場の暖とりや溶岩石と混ぜて超高温の熱で武器を打ったりと用途は様々だ。
「んー、もう一度麺料理を食べに行くついでに露店でも散策しようかなぁ…………おっ!」
シューという湯気の音を合図に抽出が完了した。上部の蓋を開けると中から薬草から抽出された真緑色の液体が見えた。素早く調合釜へ移し替え、残り半分の薬草も抽出を開始する。
残りを抽出している間、調合釜へ蒸留が終わった蒸留水を加え、ある程度混ぜた後に粉末状の魔石を液体に対して半分くらい入れた。そこから半刻ほど魔力を加えながら混ぜ、最後テンニン結晶を一つまみ入れて完成だ。大瓶へ移し替え、残り半分も同じ手順で行った。
濃縮ポーションが全て完成したのは、調合を始めて一刻半くらい経った後だ。目の前に大瓶二つ、満杯まで入れられた濃縮ポーションは翡翠色をした美しい仕上がり。インテリアとしても受けがよさそうなほど綺麗だ。
「ふぅー、ポーションはこれで終わりっと。薄める用の魔法水は……組合で作るかなぁ」
ちなみに今回ティカが作った濃縮ポーションは、魔法水との希釈が必要で五滴で一瓶。一瓶が100g程なので希釈倍率は20倍くらいだ。大瓶一本1000gなので200本ポーションが作れる計算だ。大瓶は二本あるので最終的に400本分のポーションを二刻も掛からず作ってしまうティカはやはり才能があるようだ。
一先ず組合から頼まれた材料分のポーションは作り終えたので、道具を片付けベッドへ寝転がったティカ。一旦休憩することにしたようだ。
商業区はその名の通り、食べ物から日用品、ルイツ特産の鉱石まで様々なものが売られている。露店販売なので直接品物を目利きしたり、店主と交渉などが日常的に行われる活気溢れる場所だ。
そんな商業区へ昼食を買いにやってきたティカ。美味しそうな匂いが辺りから漂う中、一つの屋台に足を止めた。大きな金属製の寸胴鍋をかき混ぜる店主の姿が目にはいった。薬を調合する姿と屋台で料理をかき混ぜる姿にシンパシーでも感じたのかその屋台へ誘われるように近づいてく。
「いらっしゃい! 食べて行くかい?」
「おじさん、これってどういう食べ物なんですか?」
「おっ、この料理を見るのは初めてかい」
「はい」
「これはな、麵料理ってんだ。小麦粉を細く伸ばしたものを一度茹でてスープと一緒に食べる料理だ。一口どうだい、ほれ」
寸胴鍋からスープと麺を器に注いでティカに器を渡した。小さな器から立ち上る湯気と共に野菜の風味と出汁がティカの鼻をくすぐる。店主から箸を受け取って実際に試食してみる。ズルズルと啜りながら口にすると何とも言えないもちもちとした触感とつるりと口に入る麺に頬を緩ませた。
「おじさん、これ一杯ください」
「あいよ。銅貨三枚な」
「はい」
「まいど」
銅貨三枚を店主に渡し、木製の器いっぱいの麺料理を受け取った。屋台の脇にずれ麺料理を啜る。麺以外にも角切りに切った一口サイズの野菜があっさりスープの出汁を吸って口に入れた瞬間うま味が溢れる。今まで食べたことのない料理に目を輝かせながら食べるティカだった。
昼食を食べ終わり、宿に戻ってポーション製作に取り掛かろうと帰路についていた時のことだ。ふと目に留まったのは雑貨屋だった。露店販売らしく店先に布を敷いて雑貨を並べてあった。
見たところ日用品が七割といったところか。日用品以外にこの町特産の鉱石も少しばかり置かれていた。大きさは掌に収まるサイズで一つ銅貨八枚から大銅貨2枚程度だ。
雑貨が乱雑に並ぶなかティカが気になっていたのは黒光りする鉱石だ。他の鉱石に混じって艶と黒色が一際目立つ石が一つだけあった。他の鉱石はくすんだ土色をしているので恐らく鉄鉱石だ。更に小石くらいの銅鉱石が二つ。この黒い鉱石の正体に気づいたのか手に取ってまじまじと観察している。
「すみません、これいくらですか?」
「ん? 大銅貨一枚だよ」
「これ下さい」
「まいどどうも」
黒い鉱石を大銅貨一枚で購入したティカは今度こそ小鳥の宿へ帰還した。
「さて、ポーション作っていきますか」
小鳥の宿の自室に戻ったティカは、早速ポーション作りに取り掛かった。まず始めに蒸留装置を組み立てて設置。先ほどエマからわけてもらった水を蒸留装置にかけておく。意外と水から蒸留水にするまでに時間がかかるのだ。
蒸留している間に魔石を粉末にする作業にとりかかる。革袋から取り出した白い魔石をすり鉢で丁寧に粉末状にし、別の袋へ移した。この作業を魔石が無くなるまで行った。
続いて薬草から成分の抽出作業に移る。組合でポーションを作ったときは道具がなく仕方なく抽出せずにそのまま使用したが、薬草の成分を抽出すれば効果の高いポーションを作ることができる。
鞄から抽出器を取り出し床に置く。見た目は丸い筒状の機械で上部の蓋を開けると粉末を入れられるようになっている。一度に入りきらないので半分だけ粉末状の薬草を入れた。抽出器の下部をスライドさせると丸い窪みがあり、そこへ鞄から取り出した銀色の球体を窪みに嵌め込んだ。この物体は放散石といい天然の放散結晶を圧縮成形したものだ。放散石に熱を加えることで起きる拡散現象と呼ばれる光を利用して物体を細かく分離させる。ちなみに人がこの拡散光を浴びると水蒸気のように蒸発してしまう。扱いには細心の注意が必要だ。
抽出器の底をスライドさせ黒い石を二つ、そして魔石を一つ入れて抽出を開始する。この黒い石は石炭鉱といい、魔力と反応して熱を生む鉱物だ。先ほど露店で買ってきたものと同じ見た目だ。
抽出器が薬草を抽出をしている間、調合釜を準備して暫し休息時間。先ほど露店で買った石をポケットから取り出した。
「やっぱり石炭鉱だよねこれ。まさか大銅貨一枚で買えるなんて……もう少し在庫が欲しいところだけど、露店を探し回ってたら他にも見つかるかな」
どうやら露店で買った鉱石は石炭鉱で間違いないようだ。大銅貨一枚で買えたことに満足げだが正直、ティカが持つ石炭鉱の相場は大銅貨一枚程度なので妥当だ。寧ろあの小ささだと少々割高気味かもしれない。まぁ、あまり手に入らなかったから買えて嬉しいのか満足気な表情だ。
しかし、石炭鉱はごく普通に手に入るポピュラーな鉱石で採掘が盛んな町なら簡単に手に入るものだ。流通も結構されており、特にこの町ルイツは大規模な鉱床があるため鉄鉱石の次くらいに採掘される。需要もそこそこあって、一般的な使い方として火炎石と混ぜて冬場の暖とりや溶岩石と混ぜて超高温の熱で武器を打ったりと用途は様々だ。
「んー、もう一度麺料理を食べに行くついでに露店でも散策しようかなぁ…………おっ!」
シューという湯気の音を合図に抽出が完了した。上部の蓋を開けると中から薬草から抽出された真緑色の液体が見えた。素早く調合釜へ移し替え、残り半分の薬草も抽出を開始する。
残りを抽出している間、調合釜へ蒸留が終わった蒸留水を加え、ある程度混ぜた後に粉末状の魔石を液体に対して半分くらい入れた。そこから半刻ほど魔力を加えながら混ぜ、最後テンニン結晶を一つまみ入れて完成だ。大瓶へ移し替え、残り半分も同じ手順で行った。
濃縮ポーションが全て完成したのは、調合を始めて一刻半くらい経った後だ。目の前に大瓶二つ、満杯まで入れられた濃縮ポーションは翡翠色をした美しい仕上がり。インテリアとしても受けがよさそうなほど綺麗だ。
「ふぅー、ポーションはこれで終わりっと。薄める用の魔法水は……組合で作るかなぁ」
ちなみに今回ティカが作った濃縮ポーションは、魔法水との希釈が必要で五滴で一瓶。一瓶が100g程なので希釈倍率は20倍くらいだ。大瓶一本1000gなので200本ポーションが作れる計算だ。大瓶は二本あるので最終的に400本分のポーションを二刻も掛からず作ってしまうティカはやはり才能があるようだ。
一先ず組合から頼まれた材料分のポーションは作り終えたので、道具を片付けベッドへ寝転がったティカ。一旦休憩することにしたようだ。
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