ひよっこ薬師の活用術

雨霧つゆは

文字の大きさ
13 / 22

13話 ポーション製作 後編

しおりを挟む
 薬師組合からポーションの材料を持ち帰ったティカは、自室に荷物を置き早速ポーション作りに励むと思いきや昼食を取りに商業区へ向かった。
 商業区はその名の通り、食べ物から日用品、ルイツ特産の鉱石まで様々なものが売られている。露店販売なので直接品物を目利きしたり、店主と交渉などが日常的に行われる活気溢れる場所だ。
 そんな商業区へ昼食を買いにやってきたティカ。美味しそうな匂いが辺りから漂う中、一つの屋台に足を止めた。大きな金属製の寸胴鍋をかき混ぜる店主の姿が目にはいった。薬を調合する姿と屋台で料理をかき混ぜる姿にシンパシーでも感じたのかその屋台へ誘われるように近づいてく。

「いらっしゃい! 食べて行くかい?」
「おじさん、これってどういう食べ物なんですか?」
「おっ、この料理を見るのは初めてかい」
「はい」
「これはな、麵料理ってんだ。小麦粉を細く伸ばしたものを一度茹でてスープと一緒に食べる料理だ。一口どうだい、ほれ」

 寸胴鍋からスープと麺を器に注いでティカに器を渡した。小さな器から立ち上る湯気と共に野菜の風味と出汁がティカの鼻をくすぐる。店主から箸を受け取って実際に試食してみる。ズルズルと啜りながら口にすると何とも言えないもちもちとした触感とつるりと口に入る麺に頬を緩ませた。

「おじさん、これ一杯ください」
「あいよ。銅貨三枚な」
「はい」
「まいど」

 銅貨三枚を店主に渡し、木製の器いっぱいの麺料理を受け取った。屋台の脇にずれ麺料理を啜る。麺以外にも角切りに切った一口サイズの野菜があっさりスープの出汁を吸って口に入れた瞬間うま味が溢れる。今まで食べたことのない料理に目を輝かせながら食べるティカだった。

 昼食を食べ終わり、宿に戻ってポーション製作に取り掛かろうと帰路についていた時のことだ。ふと目に留まったのは雑貨屋だった。露店販売らしく店先に布を敷いて雑貨を並べてあった。
 見たところ日用品が七割といったところか。日用品以外にこの町特産の鉱石も少しばかり置かれていた。大きさは掌に収まるサイズで一つ銅貨八枚から大銅貨2枚程度だ。

 雑貨が乱雑に並ぶなかティカが気になっていたのは黒光りする鉱石だ。他の鉱石に混じって艶と黒色が一際目立つ石が一つだけあった。他の鉱石はくすんだ土色をしているので恐らく鉄鉱石だ。更に小石くらいの銅鉱石が二つ。この黒い鉱石の正体に気づいたのか手に取ってまじまじと観察している。

「すみません、これいくらですか?」
「ん? 大銅貨一枚だよ」
「これ下さい」
「まいどどうも」

 黒い鉱石を大銅貨一枚で購入したティカは今度こそ小鳥の宿へ帰還した。


「さて、ポーション作っていきますか」

 小鳥の宿の自室に戻ったティカは、早速ポーション作りに取り掛かった。まず始めに蒸留装置を組み立てて設置。先ほどエマからわけてもらった水を蒸留装置にかけておく。意外と水から蒸留水にするまでに時間がかかるのだ。
 蒸留している間に魔石を粉末にする作業にとりかかる。革袋から取り出した白い魔石をすり鉢で丁寧に粉末状にし、別の袋へ移した。この作業を魔石が無くなるまで行った。

 続いて薬草から成分の抽出作業に移る。組合でポーションを作ったときは道具がなく仕方なく抽出せずにそのまま使用したが、薬草の成分を抽出すれば効果の高いポーションを作ることができる。
 鞄から抽出器を取り出し床に置く。見た目は丸い筒状の機械で上部の蓋を開けると粉末を入れられるようになっている。一度に入りきらないので半分だけ粉末状の薬草を入れた。抽出器の下部をスライドさせると丸い窪みがあり、そこへ鞄から取り出した銀色の球体を窪みに嵌め込んだ。この物体は放散石といい天然の放散結晶を圧縮成形したものだ。放散石に熱を加えることで起きる拡散現象と呼ばれる光を利用して物体を細かく分離させる。ちなみに人がこの拡散光を浴びると水蒸気のように蒸発してしまう。扱いには細心の注意が必要だ。

 抽出器の底をスライドさせ黒い石を二つ、そして魔石を一つ入れて抽出を開始する。この黒い石は石炭鉱といい、魔力と反応して熱を生む鉱物だ。先ほど露店で買ってきたものと同じ見た目だ。
 抽出器が薬草を抽出をしている間、調合釜を準備して暫し休息時間。先ほど露店で買った石をポケットから取り出した。

「やっぱり石炭鉱だよねこれ。まさか大銅貨一枚で買えるなんて……もう少し在庫が欲しいところだけど、露店を探し回ってたら他にも見つかるかな」

 どうやら露店で買った鉱石は石炭鉱で間違いないようだ。大銅貨一枚で買えたことに満足げだが正直、ティカが持つ石炭鉱の相場は大銅貨一枚程度なので妥当だ。寧ろあの小ささだと少々割高気味かもしれない。まぁ、あまり手に入らなかったから買えて嬉しいのか満足気な表情だ。
 しかし、石炭鉱はごく普通に手に入るポピュラーな鉱石で採掘が盛んな町なら簡単に手に入るものだ。流通も結構されており、特にこの町ルイツは大規模な鉱床があるため鉄鉱石の次くらいに採掘される。需要もそこそこあって、一般的な使い方として火炎石と混ぜて冬場の暖とりや溶岩石と混ぜて超高温の熱で武器を打ったりと用途は様々だ。

「んー、もう一度麺料理を食べに行くついでに露店でも散策しようかなぁ…………おっ!」

 シューという湯気の音を合図に抽出が完了した。上部の蓋を開けると中から薬草から抽出された真緑色の液体が見えた。素早く調合釜へ移し替え、残り半分の薬草も抽出を開始する。
 残りを抽出している間、調合釜へ蒸留が終わった蒸留水を加え、ある程度混ぜた後に粉末状の魔石を液体に対して半分くらい入れた。そこから半刻ほど魔力を加えながら混ぜ、最後テンニン結晶を一つまみ入れて完成だ。大瓶へ移し替え、残り半分も同じ手順で行った。

 濃縮ポーションが全て完成したのは、調合を始めて一刻半くらい経った後だ。目の前に大瓶二つ、満杯まで入れられた濃縮ポーションは翡翠色をした美しい仕上がり。インテリアとしても受けがよさそうなほど綺麗だ。

「ふぅー、ポーションはこれで終わりっと。薄める用の魔法水は……組合で作るかなぁ」

 ちなみに今回ティカが作った濃縮ポーションは、魔法水との希釈が必要で五滴で一瓶。一瓶が100g程なので希釈倍率は20倍くらいだ。大瓶一本1000gなので200本ポーションが作れる計算だ。大瓶は二本あるので最終的に400本分のポーションを二刻も掛からず作ってしまうティカはやはり才能があるようだ。

 一先ず組合から頼まれた材料分のポーションは作り終えたので、道具を片付けベッドへ寝転がったティカ。一旦休憩することにしたようだ。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

神々の寵愛者って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

処理中です...