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最初の1年目!

夏の天の川…その②

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その翌日緒賀ちんは、月齢と天気や交通事情、
温泉宿の空き具合等も総合的に勘案し、
鈴音先生の同意を得た上で日程を確定させると、
LINEで俺とアレックスに連絡して来た。
丁度お盆直後から出発し、日程としては2泊3日である。
場所は東京を出発してから中央道を山梨方面に向かい、
長野県、信州上田の真田の隠れ湯温泉という事だった。
緒賀ちんは以前ここを友人と訪れた事があり、
この近辺が夜になると非常に暗くなる事を知っていた様だ。
緒賀ちんはトヨタのハイエースを改造したキャンピングカーを所有しており、
ここに所有の天体望遠鏡3台と太陽望遠鏡1台を乗せるらしい。
車はスペースにかなり余裕があるので、鈴音先生に如月姉妹、
それに俺とアレックス、緒賀ちんの計6人が乗っても問題ないそうだ。

約束の日の11時、準備を完了した俺とアレックス岡本、
それに鈴音先生と如月姉妹は、大衆食堂おがちんに集合した。
全員でまずはおがちんに入り、腹ごしらえをすますと、
いよいよ出発である。
鈴音先生も如月姉妹もそれぞれ似合ったTシャツに薄い夏用のジャケット、
下はジーパン姿である。普段の制服とは違うが、
これも中々可愛く決まっている。思わずよだれが出そうだ。
「よし!それじゃあ出発する。途中何度か休憩をはさんだとしても、
3時半頃には目的地に到着するだろう。その後は少し休んで温泉に浸かって、
食事を済ませたら1回目の星空観望会だな。天気予報も快晴の星見日和だ」
緒賀ちんは随分嬉しそうである。
「では、行くとしましょう」
鈴音先生と如月姉妹が最初に車に乗り込み、ついで俺とアレックスが
乗り込む。この車はそもそも9人乗りだからまったく問題はない。
「よし!シートベルトは締めたな?ではレッツゴー!」
車では緒賀ちん好みの軽快なロックミュージックが流れ、
彼が運転するハイエースで、俺たちはうきうきしながら信州上田、
真田の隠れ湯に向かった。
快晴の青い夏空はどこまでも続いている。
こんなワクワク感なら何度あってもいい。

高速に乗ってからは車はますます快調に走り、途中何度かパーキングで
トイレ休憩を挟んだものの、3時前には真田の隠れ湯温泉に到着した。
森の中の古びた日本風の1軒屋、まさに秘湯という感じの良い温泉宿。
周りはからは蝉の声が良く聞こえ、
標高が高いせいだろうか、この時期でもなんとなく秋の風情を感じる。
さっそくチェックインを済ませる。部屋は男部屋と女部屋の2部屋だ。
それが終わると、まだ日が高いという事もあって、温泉から少し下った所にある
休耕田の広場に望遠鏡の設置して、その後簡単な望遠鏡講座、
それと太陽観望をしようと言う事になった。
緒賀ちんは事前に宿屋と話しをつけて、
ここで天体観望をする許可を貰っているらしい。

車を広場に止め、全員が降りると、緒賀ちんは車の後部ドアを開け、
そこから望遠鏡の機材を取り出して、セッティングを始める。
30分程でひと通り準備が終わると、「では今日使う基材の説明をするぞ」
と緒賀ちんが話し始めた。
「今日は皆に色々な星を楽しんで欲しいと思って、3種類の望遠鏡を用意してある。
まずこの大きくて太い筒の機材だが、
口径25㎝の自動導入式シュミットカセグレンだ。
シュミットカセグレンというのは、反射望遠鏡の1種だと思えば良い。
コンパクトな割に大口径、集光力が高いという特徴がある。
架台は自動導入式の経緯台。コンピュータとGPSと傾斜センサーを内蔵していて、
自動的に自分で自分の位置や傾きを認識し、指定した天体を簡単なキー入力で
自動導入してくれるという優れものだ」
【へ~~~!】初めてみる如何にも高価そうな、
大きな深いブルー色の望遠鏡にみんな関心している。
「これって、M何とかって星の番号を入れると自動的に
それを導入してくれるという事ですか?」
俺(大橋)が聞くと、
「その通り。Mはフランスの天文学者、シャルル・メシエが作った
天体カタログの番号だな。ちなみにウルトラマンが居ると言われるM78星雲は、
冬でないと見えないから今日は無理だ」
と緒賀ちんは答えた。『え~~~!』みんな少し残念そうだ。

「安心しろ。この時期は1年で1番色々な天体が見える時期だ。
続いては口径13㎝の屈折望遠鏡だ。この望遠鏡は見ての通り、ガラス
レンズを使って光を集めるタイプの望遠鏡だ。コントラストが非常に良く、
低倍率でも高倍率でもオールマイティーだ。
ただ屈折は口径が大きくなると高価かつ重くなるのが欠点だな。
架台は古典的なドイツ式赤道儀。北極星に極軸を合わせる必要がある」
緒賀ちんは説明を続ける。
「最後は口径8.5㎝の双眼望遠鏡だ。これは屈折望遠鏡を2台組み合わせて
両目で星を見る事ができる様にしたものだ。当たり前だが、
人間は片目で対象を見た時よりも、
両目で見た時の方が対象物をリアルに眺める事が出来る。
両目で見た場合、片目の場合と比べて眼の認識力は1.44倍になるそうだ。
架台は単純な経緯台、完全手動式だ。

望遠鏡は顕微鏡と違って倍率が高ければ高性能という訳ではない。
それぞれの天体には、使用する望遠鏡によって適性な倍率というものがある。
また天体の種類によっては、低い倍率の方が美しく見えるものもあるから、
上手く倍率を使い分ける必要がある。
よって今日は中~高倍率に強いシュミットカセグレンと、
低倍率に強い双眼望遠鏡、
どちらにでも使える屈折望遠鏡と、3種類を用意した。
後で写真付きの天体カタログを渡すから、それを見て、
今日見たい対象を選んでおいてくれ。何時まで観望するかにもよるが、
遅い時間になれば秋から初冬の星座も出て来る。それまでは夏の天体主体だな」
緒賀ちんはそう言うと、鈴音先生と俺に1冊づつ天体の本を渡してくれた。

それからは太陽望遠鏡を使って、みんなで1時間程太陽を観望した。
その日の太陽は良く燃えていた…というか、
フレアやプロミネンスが一杯出ていて、いつになく活動的だった。
太陽系の中心にある巨大な太陽、その大きさを直系1メートルの球だとすると、
地球はパチンコ玉くらいの大きさだと緒賀ちんは説明してくれた。
太陽系のボスとしての圧倒的なパワーを見せつけられた様な気がする。
「で、先生、この太陽望遠鏡って、いくらするの?」
俺が聞くと、「ピンキリだけど、安いやつでも架台込みで10万くらいはするぞ…」
なるほど、余程好きなマニアじゃないと手が出ない物なのだなぁ~と俺は思った。
まあ、そんな珍しいものを見れただけでも超ラッキーだ…。
「う~む、うにょうにょがなんだか可愛いのう~」
如月天音も興味深そうに太陽望遠鏡で太陽を見ている…。
小さな帽子を被って短く纏めたポニーテールにTシャツ姿。
その姿もとてもエロ可愛いなぁ~と俺は思うのだった。
まったくラッキーづくしの初日だぜ…。

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