僕の中のボクと君の中のキミが出逢ったら(完結保証)

せせらぎバッタ

文字の大きさ
21 / 23

21

しおりを挟む
「徹さん、何があったの?」

「うーん、俺の中の淳がいきなり暴走しだして、それにつられて美央まででてきちゃったんだよ。遥香も記憶がなかっただろう」



 頭の中で『俺のせいにするなよ』という声が響く。

「それと、」言うべきか、言わぬべきか。『言えよ』といわれ、言うことにした。



「俺は、それがきっかけで淳と話ができるようになった」

 遥香は驚き、自分も美央と話してみたいと言いだした。



『抱きしめてやれよ。心細い思いをしたんだから』

 ああ、混乱する。言われなくても抱きしめるさ。



「遥香、今日は大変だったね。愛してるよ」



 スルッと淳がでてきて『愛してるよ』と囁いた。はにかんだ遥香の唇を奪い、胸をなでさすりながら首筋へと吸うように肌を舐めていく。

 もどかしいのか服の裾をボトムから抜き出し、直接素肌を愛撫していく。スカートの裾にも手を入れ、パンティに手が触れようとした時、



「いや、こんなところで、車の中では」遥香が身体をよじった。

「べつなところに行こうか。遥香ちゃんを抱きたくてたまらない。徹じゃ、慰めてやれないよ」

「淳さん?」

「淳、抱くのは家に帰ってからだ。少しは我慢しろ」

「徹さん?」



 困惑した遥香のスカートから手を抜き、徹はシートベルトを締めた。

「淳は興奮してるんだ。俺が何をしてもはねつけてくれ。事故に遭って、遥香や美央に何かあったら大変だ。わかったな、淳」



 最後は厳しい口調でいった。『わかったよ。その代わり夜は俺がでていくからな』ふてくされたような声が返ってきた。





 途中で買った総菜を前にソファに落ち着くと、二人でハアとため息をついた。1日が長かったが、これから長い夜が待っている。



 必要なことは最低限話した。あとは遥香の質問に答えればいい。肝心なことを伏せてあるせいか、遥香はいまひとつ納得していない顔をしていた。いずれ話す時がくるだろう。その時、どう言えばいいのだろう。遥香を傷つけたくない。でも彼女が知りたくなったのなら、伝えるべきだろう。矛盾する案件に徹は頭を抱えた。



 今夜は淳に遥香を奪われるのか。

『徹も抱きたいのか。3人で交互にってのはどう?俺は徹を眠らせるコツを知ってるんだぜ。その気になればいつでもできる。やらないだけ紳士だろう』

『バカな。何をいってるんだ。遥香を混乱させるな』



「徹さん、どうしたの?」

 箸をとめた徹をいぶかしげに見ている。

「ああ、淳がでたいっていってるんだ」

「淳さんは大丈夫?なんで暴走しちゃったんだろう」



 考え込む遥香に何と言葉をかけていいかわからなかった。美央も淳も遥香を守っている。ぬるま湯と言われようが、守りたいものは守る。徹だって最近自然に笑うようになった遥香を守りたい。こんなクソみたいな経験はない方がいいにちがいないのだから。



『徹さあ、俺がなんで現れるようになったか、何がきっかけだったか、知りたい?』

『どうだろう。知らない方が良かったりするのかな』

『遥香ちゃんよりはましなんじゃね。あの男は殺してやりたいくらいだ』

『物騒なことはいうな。理由を知ったら、俺はどうなる?』

『それはわからない。俺は精神科の先生じゃないから。聞いてみたら』



 徹は考え込む。知ることで何が変わるのだろう。変わらないかもしれない。いや、淳を生み出すほどの衝撃だ。思い出そうとすれば、今でも頭痛に襲われる。もしその時の感情を再体験したら、恐怖と絶望の痛みに耐えられるだろうか。切り離してあるから今は普通に生きていられるのだ。

 その記憶を持ったまま淳は生きている。



 淳は強いな。

 徹はしみじみと思った。



「徹さん」

「ああ、ごめん、ごめん。淳が遥香に会いたがってさっきからうるさいんだ」

 遥香が嬉しそうな顔をした。苦いものを口にした時のように、顔がゆがむのを隠せなかった。

「遥香は淳が好きなんだね。その俺よりも」

 瞳を見開いた遥香が、頭を振った。「ちがうわ。二人とも大好きよ。比べられない」



 嘘だ。

 遥香は淳を選んでいる。本能的に言葉の嘘を見破った。責めるわけにはいかない。自分だって美央の方を愛しているのだから。



『おまえは美央より遥香の方が好きなのか』

『‥‥』



 淳は何もいわない。それが返事だと思った。なんてこった。いったい自分たちはどこまでぐるぐる絡み合うのだ。

 遥香と淳がセックスしている最中であれば、こちらも集中していろいろ考えられる。



『今夜は淳に任せることにしたよ』

『恩にきるぜ』



「そのうち淳がでてくる。とりあえず風呂入ったり、明日の準備をしてからかな。遥香もいろいろ終わらせといた方がいいと思う」

「うん、そうする」



 艶めいた声に、徹はふと大事なことを忘れていたことに気がついた。自分が嫌になる。遥香と淳に気を取られて、美央を置き去りにしていた。

「その前に、」



『美央と会う。少し時間をくれ』

『そうだな。その方がいい』



「遥香、美央とちょっと変われるか?」

 遥香もあっと気づいたように口を開けた。

「美央、ちょっと話があるから出てきてくれないか」



 いつも勝手にでてきていたから、いざ呼び出すにはどうしたらいいのだろう。

「どうすれば美央がでてきてくれるかな」

 遥香も腕組みをしながら考えている。「わたしが声をかけてみる。美央はこちらのことわかっているのよね」



『ああ、寝てなければな』淳が会話に割り込んできた。

『寝てたら、どうやって起こすんだ』

『そうだな。遥香を抱きながら、美央って呼んでみろよ。愛する男の声がすれば、すぐ起きてくるさ』

 遥香は美央に話しかけているが、いっこうに現れる気配がなかった。



「遥香、淳が試しにやってみろって言ってたんだけど、俺が今から美央だと思って呼びかけようと思う。リラックスして俺に身を任せてくれないか」



 遥香が目を閉じた。頭を抱き、美央と呼んでみた。返事はなかった。遥香の唇を吸いながら、美央の悦ぶ場所をめがけて指をはわせていった。下着に手を入れ、クリトリスをそっとなでる。秘芯にあふれた蜜を感じながら、指を差しいれた。ピクンと遥香の身体がしなった。



「美央。でてきてくれ。会いたいよ。会いたくてたまらない」 

 遥香から力が抜けた。ぐったりした身体を抱きながら、美央、美央と呼びかける。



「ああん、徹、会いたかった」

 しがみついてきたのは、美央だった。涙があふれ、泣き笑いの顔だった。



「美央、心細かっただろう。大丈夫か。遥香は大丈夫だ。淳も問題ない」

 えっえっと嗚咽をもらし、胸に顔をうずめ泣きじゃくっている。髪をなでながら、落ち着くのを待っていた。



「は、遥香はあいつにいい思い出しかないから、あ、会うって決めた時、複雑だったけど、我慢しようと思ったんだ。で、でも実際に会ったらさ、」

 徹は美央を力いっぱい抱きしめた。どんなに心細かっただろう。側にいながらすぐ寄り添えない。4つの人格は時にもどかしい。



「と、徹、一人にしないで。怖い、怖いよぉ。あいつが憎かった。殺してやりたいくらい憎かった。そう思ったら遥香を押しのけていたの。でも、後で怖くなった。怖い。とおる、徹ぅ。嫌いにならないで。わたしを見捨てないで。お願い」



 顎に手をやり、そっと唇に触れた。「大丈夫。俺がずっとついているから、愛しているよ。ずっとそばにいるから」

「ホントに?絶対だよ。徹と遥香でどっかに行っちゃわないでよ」

「どこにも行かない。みんな一緒だ」

「わたしのこと消さない?邪魔にならない?」

「邪魔になんかするもんか。美央がいない生活なんて考えられないよ。どうすれば安心する?美央の望むことならなんでもしてあげるよ」

「抱いて、思いきり激しく抱いて」



 涙で濡れた顔で美央がせがんできた。性器に手をあてるともう挿入できそうなくらい濡れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...