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GWが明け、卒論のドラフトを提出した。
『ダブルスタンダードの変遷及びヒトの社会活動に与える影響について』
「さて、これをテーマにした理由を聞こうか」
個人面談の時間がやってきた。研究室に現在人はいない。ドアは開いたままだ。
「個人面談中」というプレートがかかっている。男女を問わず二人きりになることを避ける大学側の方針だ。
廊下を通り過ぎる声が聞こえてくるので菜穂は落ち着かない。
「はい、この世にはたくさんのダブルスタンダードがあり、それに振り回されているのが現状です。これは自然に解消されていくものなのか、声を上げ社会を変えていかなければいけないのか。また、なぜ、リベラルの急先鋒と言われた人でさえもダブルスタンダードであったのか。気づかなかったのはなぜなのか。具体的に言いますと、政治家が公的に平等を掲げておきながら、家庭では家父長制度を順守し、男尊女卑を是認していた。彼らの考えるリベラルとは何なのか。
また、階級社会においてのダブルスタンダードにはどんなのがあったのか。階級社会の江戸時代の庶民は幸せそうだと、1859年にイギリスのオールコック卿が記述しています。ダブルスタンダートでも受容できたのはなぜなのか。
ダブルスタンダードどころか、いろいろな理論が百家争鳴状態で、その前でどっちを向いていけばいいのかわからなくなっているのも、ひきこもりや若者の消極性と関係があるのではないか、と。自由の獲得と同時に何を失い、今後何を獲得しなければいけないのか。どうすれば迷宮から抜け出せるのか。総合的な観点からこの問題に着手したいと思いました」
「ふむ、内容は多岐に渡りそうだが、とりあえず事例をたくさん集めて取捨選択だな。それと外国の文献も参考にするように。仮説を立てることも忘れずに」
「えっ、海外もですか」
菜穂は涙目になる。そんな語学力あったかな。
「今は、google翻訳があるから、大丈夫」
「うっ、わかりました」
「さて、一通り聞いたところで、ホントの動機を聞こうかな」
「えっ、えっ」
噂には聞いていたが、やっぱり聞かれるんだ。これってダブルスタンダード??
「何なら、ドアを閉めようか。その方が話しやすいなら」
ヘッ、密室?
ニタリと笑われて焦る。顔が熱くなる。
「意味わかんないんですけど、わたし今赤面してます。戸を閉めて、出る時顔が赤かったら、先生に迷惑がかかりますから」
「はは、勘違いさせて悪かった。すまない。良かれと思って言っただけだ。はい、ホントの動機は」
「動機というか、世の中矛盾が多すぎて。本音と建て前とか、二枚舌というのか。どうしてヒトはそれを使い分けることに抵抗がないんだろう、というのがきっかけです。
例えば、『若いうちはヒトの意見をよく聞きなさい』、『いろんな人とつきあいなさい』等ありますが、『他人の意見に流されるな』『ストレスを与える人間とはつきあうな』とか、具体性に乏しくて、どう切り分けていいのか。匙加減がわからないんですよ」
伸は言葉を選びながら訥々と話す菜穂の唇を見ていた。本人は考えをまとめるのに必死で視線に気づいてはいない。
かたちのいい唇だな。それをここで言ったら信頼関係が失われるから止めとくが、いつか言ってやろうと思う。その時がくるか、どうか。
表情を引き締め、おもむろに口を開く。
「そうだな。確かにいちがいにどちらがいいとは、個々のケースでちがってこよう。まあ、具体性がないものはスルーだな。言ってることはご立派でも中身が伴わない。生きた言葉しか響かない。ざらっとした違和感は、たいてい合ってるものだ。
個々の表現も、現象や個体差によってニュアンスも変わってこよう。『女にはわからない』という性別ハラスメントと同じように『エイジハラスメント』がある。経験が浅いことをいいことに、一見親切そうにいってくるヤツもいる。根底は懐柔だったり、嫉妬だったり、支配だったり、攻撃だったりな。
さて、それこそ判断するには経験不足だ。では、どうすればいいのか。簡単だ。相手の言葉がどこからきて、何を見ているかによる。同時に自分も何を見ているか。その座標がちがっていれば、相手にしなくていい。論文と同じだ。
論文はまず最初に定義づけを行う。個人差のある曖昧な価値観をいったんここで統一しておくんだな。伝えたいことが明確になり読み手の理解度もあがる。
友人といて話が嚙み合わなくなった時、言葉の認識がちがっていることなどたくさんあるだろう。『いい人』の基準もバラバラだしな」
「先生は、若い頃、あ、」
「要訂正!今もまだ若い」
伸が間髪いれずに割り込んできた。
「あっ、はい、学生の頃はどうでした?」
「わたしか、さっき例えに出した内容は、わたしも若い頃はよく言われたな。言ってくるヤツは正論吐いてる自負があるから、なぜかドヤ顔でな。まあ、言われたことは今思うと、全部クズだった。言ってくるヤツはクソ!何の役にもたってない。ちょっと取り入れてみたこともあったが、その時間はまったくムダ。まあ、気づきを与えてくれたとは言えるんだろうが。それだけだったな」
菜穂はなるほどぉ、と頷いてる。
「まあ、そんなとこだ。あともっと具体的なエピソードが欲しいかな。それを最初の目的のところに盛り込むといい。その方がインパクトがある」
菜穂が一礼して研究室をでていった。何度も見たきれいな後ろ姿をしみじみと眺める。
ずいぶん色気がでてきたなぁ。
少女から大人の女性へと少しずつ脱皮してきている。英語圏に行けば誰でも英語ができるようにならないのと同じ、ヒトも自動的に大人になるわけではない。
勝手に腐っていく奴と、風味豊かに醸成されていく奴。同じ時間が経ったというのに、このちがい。成否を分けるのは何なのか。
自分は、ちゃんと成熟しているんだろうか。
自分のデスクに戻り、パソコンの画面を開くと、メールが入っていた。大学、学生、学会関係。広告メールに最近購入した本の発送通知。英文のメールもきていた。ダラダラ内容を確認し、最後のメールを開くと、差出人はノーラだった。
いろいろあったが、今は友人としていい関係を築いている。ノーラの息子、マシューが大学入学前に日本を旅行したいらしい。その相談だった。
マシューか、懐かしいな。小さい頃はよく遊んであげたものだ。
近況を知らせ、最後に直接マシューから連絡するようにと返信し、コーヒーを新しくいれた。
ノーラとネイサンの息子マシュー。
アメリカの大学院に進学して落ち着いた頃、ボストン市内のノーラの両親をたずねた。大学は寮生活、広いキャンパス内でたいていのものは賄えるため、なかなか外出する機会に恵まれなかった。親にせっつかれ、ようやく土産物をもって足を向けたのは、既に9月も終わろうとしている頃だった。
ベルを鳴らして出迎えたのは、意外なことにノーラだった。
「伸がくるっていうから、わたしも来たの。会いたかったわ。元気そうね」
ハグをしていると、ノーラの後ろからブロンドの小さな男の子が顔をのぞかせた。
「息子のマシューよ。5才になるわ」
「ハイ」
「ハイ」
長い睫毛で見上げ、恥ずかしそうにいった。
思わず抱き上げ、高い高いをすると、キャッキャと笑った。「ネイサンも来てるの?」
そう問うと、ノーラの顔が曇った「あとで言うわ」
ノーラ家族とランチを食べ終えると、二人でドライブすることになった。
「ノーラもたまには息抜きしてきなさい。伸も最近のボストンを知るにはちょうどいいわ。マシューはわたし達が見てるから」
マシューはノーラの父とレゴに夢中だ。
「どう、懐かしい?」
「そうだね。相変わらずキレイな街だ。秋の紅葉はキレイだろうな」
伸も大人になり、ノーラとは普通に会話ができるようになっていた。自分でも成長したと思う。いや、時間が解決しただけか。
「ところで、ネイサンの話が一度もでなかったけど、何かあったの?」
「ええ、実は最近離婚したのよ。マシューもまだ小さいし、ボストンに戻ってきたわ。今は両親の近くのアパートに二人で暮らしているの」
「なんてこったい、びっくりした!」
「結婚する時は離婚しないと思ってたんだけどね」
「まあ、離婚前提で結婚する人はいないけど。理由は、聞いてもいいの?」
ノーラは顔をゆがませ、まだ言えないと言った。苦しみは進行形なのか。
ボストンビーチまで車を走らせ、カフェのテラス席に腰かけた。気持ちのいい潮風が通り抜けていく。ノーラの髪が乱れると、手が自然に伸びた。
「ありがとう。またすぐクシャクシャになっちゃうけどね」そこでノーラはクスッと笑い、すっかり大人っぽくなったのねといった。
「ひっでーな。もう立派な男だよ。味見してみる?」
「もう、そんないっちょまえのこと言って、出会ったばかりの8才坊やの印象が強すぎるわ」
相変わらずの子供扱いに、つい不貞腐れてしまう。
「何だか、離婚してからずっとバタバタしてたから、久しぶりにリラックスできたわ。こうやって、ゆっくり海を見ることもできなかったし。ありがとう。伸」
ノーラは寄せては返す波から視線をそらさず言った。少しずつ晴れやかな笑顔になっていく。その変化を飽きることなく見つめていた。
そうさせることができた自分に、嬉しい反面戸惑いを感じた。くすぶってた熾火に火が点くのを感じた。
カフェを出た後、子供のように素足になり波打ち際を散策した。冷たい海水にヒャッと声をあげながら、落ちている貝殻を拾ってはまた浜辺に返した。
寄り添う影はどう見えたのだろう。伸は手を伸ばし、ノーラを抱き寄せた。身体を預けてくる彼女に安心し、そっと唇を重ねる。二人が手にしていた靴がポトンと砂浜に落ちた。彼女の腕が背中に回されると、伸は思いきり舌を絡め始めた。
「まだ8才?」
「うそよ。久しぶりに会って、正直ドキッとしちゃった」
「抱きたいな。ずっとノーラのことが好きだったんだ」
途中、いろんな人を好きになったことは伏せておく。
返事はノーラからの濃厚なキスだった。
『ダブルスタンダードの変遷及びヒトの社会活動に与える影響について』
「さて、これをテーマにした理由を聞こうか」
個人面談の時間がやってきた。研究室に現在人はいない。ドアは開いたままだ。
「個人面談中」というプレートがかかっている。男女を問わず二人きりになることを避ける大学側の方針だ。
廊下を通り過ぎる声が聞こえてくるので菜穂は落ち着かない。
「はい、この世にはたくさんのダブルスタンダードがあり、それに振り回されているのが現状です。これは自然に解消されていくものなのか、声を上げ社会を変えていかなければいけないのか。また、なぜ、リベラルの急先鋒と言われた人でさえもダブルスタンダードであったのか。気づかなかったのはなぜなのか。具体的に言いますと、政治家が公的に平等を掲げておきながら、家庭では家父長制度を順守し、男尊女卑を是認していた。彼らの考えるリベラルとは何なのか。
また、階級社会においてのダブルスタンダードにはどんなのがあったのか。階級社会の江戸時代の庶民は幸せそうだと、1859年にイギリスのオールコック卿が記述しています。ダブルスタンダートでも受容できたのはなぜなのか。
ダブルスタンダードどころか、いろいろな理論が百家争鳴状態で、その前でどっちを向いていけばいいのかわからなくなっているのも、ひきこもりや若者の消極性と関係があるのではないか、と。自由の獲得と同時に何を失い、今後何を獲得しなければいけないのか。どうすれば迷宮から抜け出せるのか。総合的な観点からこの問題に着手したいと思いました」
「ふむ、内容は多岐に渡りそうだが、とりあえず事例をたくさん集めて取捨選択だな。それと外国の文献も参考にするように。仮説を立てることも忘れずに」
「えっ、海外もですか」
菜穂は涙目になる。そんな語学力あったかな。
「今は、google翻訳があるから、大丈夫」
「うっ、わかりました」
「さて、一通り聞いたところで、ホントの動機を聞こうかな」
「えっ、えっ」
噂には聞いていたが、やっぱり聞かれるんだ。これってダブルスタンダード??
「何なら、ドアを閉めようか。その方が話しやすいなら」
ヘッ、密室?
ニタリと笑われて焦る。顔が熱くなる。
「意味わかんないんですけど、わたし今赤面してます。戸を閉めて、出る時顔が赤かったら、先生に迷惑がかかりますから」
「はは、勘違いさせて悪かった。すまない。良かれと思って言っただけだ。はい、ホントの動機は」
「動機というか、世の中矛盾が多すぎて。本音と建て前とか、二枚舌というのか。どうしてヒトはそれを使い分けることに抵抗がないんだろう、というのがきっかけです。
例えば、『若いうちはヒトの意見をよく聞きなさい』、『いろんな人とつきあいなさい』等ありますが、『他人の意見に流されるな』『ストレスを与える人間とはつきあうな』とか、具体性に乏しくて、どう切り分けていいのか。匙加減がわからないんですよ」
伸は言葉を選びながら訥々と話す菜穂の唇を見ていた。本人は考えをまとめるのに必死で視線に気づいてはいない。
かたちのいい唇だな。それをここで言ったら信頼関係が失われるから止めとくが、いつか言ってやろうと思う。その時がくるか、どうか。
表情を引き締め、おもむろに口を開く。
「そうだな。確かにいちがいにどちらがいいとは、個々のケースでちがってこよう。まあ、具体性がないものはスルーだな。言ってることはご立派でも中身が伴わない。生きた言葉しか響かない。ざらっとした違和感は、たいてい合ってるものだ。
個々の表現も、現象や個体差によってニュアンスも変わってこよう。『女にはわからない』という性別ハラスメントと同じように『エイジハラスメント』がある。経験が浅いことをいいことに、一見親切そうにいってくるヤツもいる。根底は懐柔だったり、嫉妬だったり、支配だったり、攻撃だったりな。
さて、それこそ判断するには経験不足だ。では、どうすればいいのか。簡単だ。相手の言葉がどこからきて、何を見ているかによる。同時に自分も何を見ているか。その座標がちがっていれば、相手にしなくていい。論文と同じだ。
論文はまず最初に定義づけを行う。個人差のある曖昧な価値観をいったんここで統一しておくんだな。伝えたいことが明確になり読み手の理解度もあがる。
友人といて話が嚙み合わなくなった時、言葉の認識がちがっていることなどたくさんあるだろう。『いい人』の基準もバラバラだしな」
「先生は、若い頃、あ、」
「要訂正!今もまだ若い」
伸が間髪いれずに割り込んできた。
「あっ、はい、学生の頃はどうでした?」
「わたしか、さっき例えに出した内容は、わたしも若い頃はよく言われたな。言ってくるヤツは正論吐いてる自負があるから、なぜかドヤ顔でな。まあ、言われたことは今思うと、全部クズだった。言ってくるヤツはクソ!何の役にもたってない。ちょっと取り入れてみたこともあったが、その時間はまったくムダ。まあ、気づきを与えてくれたとは言えるんだろうが。それだけだったな」
菜穂はなるほどぉ、と頷いてる。
「まあ、そんなとこだ。あともっと具体的なエピソードが欲しいかな。それを最初の目的のところに盛り込むといい。その方がインパクトがある」
菜穂が一礼して研究室をでていった。何度も見たきれいな後ろ姿をしみじみと眺める。
ずいぶん色気がでてきたなぁ。
少女から大人の女性へと少しずつ脱皮してきている。英語圏に行けば誰でも英語ができるようにならないのと同じ、ヒトも自動的に大人になるわけではない。
勝手に腐っていく奴と、風味豊かに醸成されていく奴。同じ時間が経ったというのに、このちがい。成否を分けるのは何なのか。
自分は、ちゃんと成熟しているんだろうか。
自分のデスクに戻り、パソコンの画面を開くと、メールが入っていた。大学、学生、学会関係。広告メールに最近購入した本の発送通知。英文のメールもきていた。ダラダラ内容を確認し、最後のメールを開くと、差出人はノーラだった。
いろいろあったが、今は友人としていい関係を築いている。ノーラの息子、マシューが大学入学前に日本を旅行したいらしい。その相談だった。
マシューか、懐かしいな。小さい頃はよく遊んであげたものだ。
近況を知らせ、最後に直接マシューから連絡するようにと返信し、コーヒーを新しくいれた。
ノーラとネイサンの息子マシュー。
アメリカの大学院に進学して落ち着いた頃、ボストン市内のノーラの両親をたずねた。大学は寮生活、広いキャンパス内でたいていのものは賄えるため、なかなか外出する機会に恵まれなかった。親にせっつかれ、ようやく土産物をもって足を向けたのは、既に9月も終わろうとしている頃だった。
ベルを鳴らして出迎えたのは、意外なことにノーラだった。
「伸がくるっていうから、わたしも来たの。会いたかったわ。元気そうね」
ハグをしていると、ノーラの後ろからブロンドの小さな男の子が顔をのぞかせた。
「息子のマシューよ。5才になるわ」
「ハイ」
「ハイ」
長い睫毛で見上げ、恥ずかしそうにいった。
思わず抱き上げ、高い高いをすると、キャッキャと笑った。「ネイサンも来てるの?」
そう問うと、ノーラの顔が曇った「あとで言うわ」
ノーラ家族とランチを食べ終えると、二人でドライブすることになった。
「ノーラもたまには息抜きしてきなさい。伸も最近のボストンを知るにはちょうどいいわ。マシューはわたし達が見てるから」
マシューはノーラの父とレゴに夢中だ。
「どう、懐かしい?」
「そうだね。相変わらずキレイな街だ。秋の紅葉はキレイだろうな」
伸も大人になり、ノーラとは普通に会話ができるようになっていた。自分でも成長したと思う。いや、時間が解決しただけか。
「ところで、ネイサンの話が一度もでなかったけど、何かあったの?」
「ええ、実は最近離婚したのよ。マシューもまだ小さいし、ボストンに戻ってきたわ。今は両親の近くのアパートに二人で暮らしているの」
「なんてこったい、びっくりした!」
「結婚する時は離婚しないと思ってたんだけどね」
「まあ、離婚前提で結婚する人はいないけど。理由は、聞いてもいいの?」
ノーラは顔をゆがませ、まだ言えないと言った。苦しみは進行形なのか。
ボストンビーチまで車を走らせ、カフェのテラス席に腰かけた。気持ちのいい潮風が通り抜けていく。ノーラの髪が乱れると、手が自然に伸びた。
「ありがとう。またすぐクシャクシャになっちゃうけどね」そこでノーラはクスッと笑い、すっかり大人っぽくなったのねといった。
「ひっでーな。もう立派な男だよ。味見してみる?」
「もう、そんないっちょまえのこと言って、出会ったばかりの8才坊やの印象が強すぎるわ」
相変わらずの子供扱いに、つい不貞腐れてしまう。
「何だか、離婚してからずっとバタバタしてたから、久しぶりにリラックスできたわ。こうやって、ゆっくり海を見ることもできなかったし。ありがとう。伸」
ノーラは寄せては返す波から視線をそらさず言った。少しずつ晴れやかな笑顔になっていく。その変化を飽きることなく見つめていた。
そうさせることができた自分に、嬉しい反面戸惑いを感じた。くすぶってた熾火に火が点くのを感じた。
カフェを出た後、子供のように素足になり波打ち際を散策した。冷たい海水にヒャッと声をあげながら、落ちている貝殻を拾ってはまた浜辺に返した。
寄り添う影はどう見えたのだろう。伸は手を伸ばし、ノーラを抱き寄せた。身体を預けてくる彼女に安心し、そっと唇を重ねる。二人が手にしていた靴がポトンと砂浜に落ちた。彼女の腕が背中に回されると、伸は思いきり舌を絡め始めた。
「まだ8才?」
「うそよ。久しぶりに会って、正直ドキッとしちゃった」
「抱きたいな。ずっとノーラのことが好きだったんだ」
途中、いろんな人を好きになったことは伏せておく。
返事はノーラからの濃厚なキスだった。
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