愛しの My Buddy --イケメン准教授に知らぬ間に溺愛されてました--

せせらぎバッタ

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「君島さん、少しはよくなった」

 目が覚め、身体を起こすと、養護の先生がベッドまできてくれた。
「はい、だいぶ楽になりました」

「鉄分不足ね。生理はいつも重いの?」
「最近、ちょっと重いような気がします」
「漢方もいろいろあるから、あんまり重いようだったら相談に行ってみるといいわ。ああ、それと寝ている時、ブラジャーのホックゆるめたから。もしなんだったらつけてあげるわよ」

 菜穂は胸が楽なことに気がついた。いつも締め付けるようなブラをつけているから、開放感がちがう。ワンサイズ小さいのを買ってしまっているのは自分なのだが。

「下着のサイズ合ってないわね。購入した時より成長しちゃったのかな。身体の線がくずれちゃうわよ。せっかく若いんだから、若さを満喫してちょうだい」
 先生はそういって片目をつぶった。

 今年新卒で着任した養護の先生。年はいくらも違わないのに、ナチュラルメイクで落ち着いている、大人の女性。それがウインクひとつでお姉さんに早変わりだ。

「あの、下着のサイズが合わないのは、実はわたし、胸が大きくて悩んでいるんですけど、」
「そうかなとは思ったけど。胸の大きさは個性よ。誰かに何か言われた?」
「はい、垂れてるとか。あれが好きそうとか、バカだとか」
「女子がいうんだったら、そんなのただの嫉妬よ。気にするほどのものじゃないわ。男子は気になる子に真逆のリアクションをしちゃうだけ。子供なの。実際、毛がはえただけの小学生みたいなもんよ『あたしのこと、大好きなのね』って言ったれ。その時は悪態つくだろうけど、その後言わなくなるわ」

 先生はふふっと優しく笑った。

「とはいえ、そう簡単に切り替えられないわよね。わたしが気になったのは、君島さんが前肩になってること。あと猫背ね。内臓の働きが悪くなるわ。腰にも負担がくるし。性格も後ろ向きになる。誰かのどうでもいい言葉で健康を損ねるなんて、それこそバカよ。
 大きかろうが、小さかろうが、愛する自分の一部。ちゃんと、自分を愛してあげなきゃ。だから、胸を張って。そんなんで若さを消耗してほしくないなぁ」

 先生はそこで白衣をはだけた。シャツのボタンもはずす。ブラを持ち上げ乳房がプルンと露わになる。「触ってもいいわよ」

 えっ?そこには菜穂とは比べられないくらい、豊満な胸があった。圧倒的な存在感は美しく、確かに、これを否定するのは野暮だと思った。

「先生も?」
「白衣だとよくわからないと思うけど、そっ、わたしも一時悩んでてね。昔のわたしを見ているようで、君島さんにはそうなってほしくなかったの。立ち止まることも必要だけど、他人に振り回される時間は短ければ短いほどいいわ」

 冗談で言ったんだろうけど、菜穂は触りたくなった。触れるとやわらかな感触にギューッと力が入った。

「こらこら、痛いぞ。はい、おしまい」
「あ、ごめんなさい」

 先生ははだけた服を整えながら、
「自分の一番のファンは自分でなきゃいけないの。自分を大切に扱い、愛してあげる。そうすると自信がでてきて、自己肯定感も高まる。いじわるな言葉もイヤな奴もやがて通り過ぎていくわ。通り雨みたいなもの。ちょこっと濡れるけど、すぐ乾くわ。
 大きい胸も自分なの。身長と同じでどうすることもできないわ。隠すものでも卑下するものでもないのよ。まっ、頭ではわかっていてもなかなかうまくいかないけどね。姿勢が悪くなるのは、心が悪い方に乱れているから。落ち込んだ時ほど胸をはるのよ」

 青春、頑張ってね、といって先生は菜穂のブラのホックをつけてくれた。

 カランコロンと鐘がなった。時計を見ると授業終了を告げる鐘だとわかった。教室に戻ってスクールバッグを持ってこないといけない。
 先生に礼をいって廊下を歩きだすと、上野がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。彼にもお礼を言った方がいいのだろうか。言いたくないけど。

「君島、よくなったか」
 気づかわしげな顔でそう訊いてきた。菜穂のスクールバッグも持っている。

「あ、今日はありがとうございました。もう大丈夫です」
「俺、送ってくから」
「いえ、いえ、そんな大丈夫です」

「そうよ、送ってもらいなさい。帰り道また貧血になるかもしれないし」

 養護の先生がヒョコッと顔をだした。
 鞄、俺が持つから、といって上野はスタスタ歩きだした。仕方がないので菜穂も歩きだす。

「な、ほ~」
 声に振り返ると友達の沙織が手を振っていた。「身体大丈夫?」

「うん、なんとか」

 上野がイラついたように「君島は具合が悪いんだから、あまり長話するなよ」

「ああ、ごめん。菜穂と帰ろうと思ってたんだけど、上野に悪いからまたね」
 ニヤニヤ笑いながら沙織が親指を立てる。

 上野に悪い?当の本人はふてくされたように斜め上を見ている。調子悪いのはこっちなんだけど。上野に送ってもらうのは外堀を固められ、既定路線化しつつある。

 駅まで歩き、電車に乗った。ラッシュ前なので人はまだ少なく、余裕で座れた。隣りに上野も座る。
 めんどくさいなぁ。おっぱいとセックス目当ての男子と二人っきりなんて、気持ち悪くなりそう。

「君島ってさ~、俺のこと避けてる?」

 面と向かって言われてしまった。バレた?
「だったら、どうなの?」

「俺、何かした?」
「べつに、何もされてないけど」悪口言われただけ。
「2年になって同じクラスになれて嬉しかったんだけどな」

 わたしは不愉快だったわ。
「なんでそんなこと言うの?わたしのことバカにしてるくせに」

「えっ」心底不思議そうな顔をする。
「バカになんかしたことないよ。1年の時はクラスもちがっていたし、接点ないじゃないか。教えてくれよ。どうしてそうなった?」

 バカにした話だ。言おうか、言うまいか。自分はあれだけ傷ついたのに、本人には記憶がない。確かに養護の先生のいう通りだ。他人の言葉に振り回されていた時間はクソで、自分はバカだった。まあ、怪我の功名で勉強は頑張れたけど。

「上野くんてさあ、どんな女子が好きなの」菜穂は爪を研ぎ始める。
「えっ、いきなり、何それ?俺に、告ってくれるの?」
「大丈夫、それは100%ないから。教えてくれたら、こっちも理由を教えてあげるから」

 ツンとした表情でいう。ばあか、誰が告るかよ。悔しくて泣いたなんて、涙がもったいなかった。これが一番の後悔。

「えっとお、可愛くて、髪がサラサラで、おとなしいけど、芯が強そうな」
「それから、」

 セックスさせてくれる、おっぱいがデカい女の子なんでしょ。ああ、それは遊びの女か。それもなんかムカつく!

「えっ、それからって」

 上野は困ったようにうつむく。小学生みたいにモジモジしていて、菜穂のスクールバッグのキーホルダーをいじっている。
 勝手に触らないでよ。

「本命と遊びの女の子って、分けるタイプでしょ?」
「君島、意味わかんない。さっきから何なの?」
「上野君はぁ、本命はちゃんといても、バカそうで、胸が大きくってぇ、あれが好きそうな子なら遊ぶんでしょ。っと、最低!!」言葉でパンチをくらわす。

「おい、何だよそれ!何怒ってんだよ」

「わたし、知ってるんだから!上野君が陰でわたしのことそう言ってるの、知ってんだから」

 涙なんかもったいないのに、興奮してジワッとあふれてきた。体調が悪いからこうなるんだ!こんな奴に流す涙がもったいない!

 上野は固まったまま、蒼ざめている。記憶の片隅にあったようだ。
 降りる駅に着いて菜穂が立ち上がると、上野もついてきた。

「心配だから送らせて」
 ぽつりと言われた。

「帰りがわからなくなるよ。もう、いいってば」
「いや、送らせて。帰りはスマホで地図検索するから平気」

 とぼとぼ肩を落として歩く上野の前を歩く。近づいた家をさし、「もうあそこがわたしの家だから。大丈夫」

 玄関前まで粘るかなと思ったが、黙ってスクールバッグを渡してくれた。

「明日、学校来られそう?」
「たぶん」
「俺、明日から迎えにくるよ」

 顔がひきつる。訳わかんない!
 くるっと向きを変え、歩こうとしたら、手首をつかまれた。

「俺、君島のこと好きなんだ。ホントに好きなんだ。おっぱいとか、あれが好きとか、友達の前でいったかもしれない。でも、それ、照れ隠しで。それ抜きで好きなんだ。傷つけてごめん。悪かった」

 次の日から上野は毎朝菜穂を迎えにくるようになった。学校でも「君島が大好き。告ったけど返事がまだもらえない」と公言するようになった。

 半年以上が過ぎ、菜穂はとうとう上野とつきあうようになった。


「菜穂ちゃん!何考えてるの?俺以外のこと考えてる?妬けちゃうなぁ。ああ、独り占めしたい」
 柏木が頬をプニッと引っ張る。

「おっぱいが大きいと遊ばれやすいのかな」
「俺は本気だよぉ」
「柏木さんの本気は、どこまで本気かわからなくって。内心わたしのことチョロいって思ってんのかな、とか」
「おっぱいが大きいだけなら声かけないさ。俺は採用する時、男も女もニコッと笑った時の顔で決めるんだ。笑顔が印象に残る子を採用。ああ、いい顔で笑うなぁと。これがはずれない。笑顔って、性格がでるんだよ」

「柏木さん、笑って」
 イーッと口を伸ばした顔に笑ってしまう。確かに笑った目尻が印象に残ったもんな。

「ねえ、柏木っち」
「かしわぎっちときたか、いいね、特別感があって嬉しいな。それで、なほっち、どうしたの」
 かなり単純。

「遊びと本気って、どう区別するんですか。最初から遊び、途中から本気、本気のつもりが遊び?」
「まず、」
「まず?」
「なほっちのことは一目ぼれだけど。だいたい3ヶ月やりまくる。それを過ぎれば本気かどうかわかる」

 菜穂は頭までシーツをかぶり、盛大にため息をついた。
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