半グレ銀行マンの復讐と野望

愛国文恵

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復讐

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年が明け、前島立夫は三十三歳になった。
二月初め、姫路支店の大会議室。60人全行員を前に、彼は支店長として初めての赴任挨拶に立った。

静まり返った空気の中、前島は原稿を見なかった。視線を上げ、一人ひとりを値踏みするように見回す。その眼差しだけで、場の温度が一段下がった。

「この姫路支店には、長年はびこってきた旧態依然の習わしがある」

ざわり、と空気が揺れる。前島は続けた。

「年功、顔色、派閥。そんなもので評価が決まり、数字を出した者が報われない、そういう慣例は今日限りで終わりにする」

古参行員の何人かが、無意識に背筋を固くした。新人たちは、息を詰めて前を見つめている。

「これからは、業績第一だ。数字を出した者が評価される。出せない者は、理由の如何を問わず、相応の処遇になる」

ここまでは、まだ“改革派の支店長”で済んだ。 だが、次の一言が、会場の空気を完全に凍らせた。

「そしてもう一つ。俺は、俺を陥れ、嵌めた者がいる。名前は言わん。だが、心当たりのある者は、自分で分かっているはずだ」

数秒の沈黙。誰かが喉を鳴らす音が、やけに大きく響いた。

「覚悟しておけ。これは改革でも再建でもない。はっきり言う、いわれなき左遷、懲戒解雇した 復讐だ」

言葉にした瞬間、古参行員の顔色が一斉に変わった。青ざめ、視線を伏せ、机にしがみつく者もいる。
一方で、新人や中堅の一部には、抑えきれない高揚が浮かんでいた。
腐った水が入れ替わる――そう直感した者たちだ。

「俺に逆らうのは勝手だ」

 前島は、きっぱりと言い切った。

「だが、その代償は小さくないと思え」

会場は、もはや物音一つしなかった。

「なお、人事を発表する」

前島は淡々と続ける。

「村木行雄君を、支店長代理に任命する。俺の右腕だ。俺の方針は、すべて村木を通じて現場に落とす」

ざわめきが起きかけたが、前島の一瞥で即座に沈んだ。

「それから――俺の妻の海棠千賀子を、秘書室長にする みんなも知ってのように海棠常務の娘だ この姫路支店への思い入れはだれよりも強く 東京から呼ぶことにした」

この名前には、明確な動揺が走った。誰もが、その“意味”を理解したからだ。

「以上だ」

前島は短く言い、深く一礼した。

拍手は、なかった。
だがその代わりに、姫路支店には確実に何かが始まった。

挨拶は、わずか五分だった。

だが行員たちは、旧前島立夫、海棠立夫が何を言いたいのか、何を求めているのかを、
嫌というほど理解した。
要点は単純だった――従え。さもなくば消えろ、それだけだ。

なにしろ、海棠の息子である。
この男に逆らうということは、単なる人事不利などという生易しい話ではない。
島流し――いや、銀行員としての“死刑宣告”に等しい。
 
支店から追い出され、経歴に傷を刻まれ、二度と表舞台に戻れなくなる。
古参行員ほど、その現実を骨身に染みて知っていた。

一方で、若い行員たちは違った。
恐怖と同時に、どこか痛快さすら感じていた。
これまで絶対に崩れなかった序列が、いま目の前で音を立てて崩れようとしている。
その中心に立つのが、この三十三歳の支店長だ。

笑えない冗談だが、誰かが心の中でそう呟いていた。
――逆らうのは、島流しか、死刑か、だな。

その瞬間から、姫路支店の空気は完全に変わった。
海棠立夫という名は、もはや「支店長」ではない。
 
裁定者であり、処刑人であり、そして復讐を遂げに来た男の名だった。
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