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誘惑は花の香り
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「レーナ様がお好きなんでしょう」
そう、新人の侍従に聞かれて、レオナードは花を手折る手を止めた。
ガラス越しの温かな日差しを受けて、城の庭園に作られた温室の中は汗ばむくらいだった。色とりどりの花が所狭しと咲き誇り、花の香りは争うように匂い立っている。
その中でも比較的優しい香りの花をレオナードは選んで手折っていた。
もうすぐ出産される女王陛下は香りにも過敏になられている。女王が好む香りの花をお部屋には飾ってさしあげなくては。
そう思いながら、花を選んでいると、新しく女王陛下の侍従になったフランにいきなり聞かれたのだ。
「レーナ様がお好きなんでしょう」
と。
レオナードは知的な眉をひそめて、新人に「レーナ様のことは女王陛下とお呼びするように」と窘めた。
「それに、もちろん私は女王陛下のことは好きですよ。敬愛申し上げています。それはローマリウス国の国民ならば当たり前のことです。ああ・・・あなたの国ではそうではなかったのですね」
レオナードは少しばかり侮蔑の混じった口調で、ヨークトリア国から来た新人侍従のフランを見た。フランの国の王女、マーガレッタの暴君ぶりはレオナードも承知の上だった。そのマーガレッタ王女に処刑されそうになったフランをローマリウス国で引き取り、女王の侍従に任命したのは国王のキリウスだった。
他国の者を、それもマーガレッタ王女の側近だった青年を、大切な女王陛下の侍従になさるとはキリウス様は何を考えていらっしゃるのだ・・・と、レオナードは自分の主君の軽佻に重い溜息を吐いたのだった。
「そういう意味の好きじゃないんですけど」
フランは花の鉢に水をあげながら、意味ありげな視線をレオナードに投げかけている。
フランの輝くような金髪と若々しい青い瞳はレオナードの濃い栗色の髪と深い藍色の瞳とは対照的で、見かけと同様に性格も合わないと、レオナードはフランを嫌厭していた。
いくらフランが出産に詳しくても、細かい気配りはできそうもない若者だ。女王陛下の侍従には相応しくないのではないか。そう、思いながらも、レオナードは主君の決めたことに異を唱えることはできなかった。
「好き、という言葉では語弊があるなら、『愛している』って言ったほうがいいですか?レオナードさん、女王陛下を愛してますよね」
フランは気楽な物言いだったがレオナードの身体には緊張が走った。
押し殺している自分の女王への恋慕を看破されている。信じられない思いでレオナードはフランに困惑の表情を向けた。
「わかりますよ。だって、僕はレオナードさんのことを見てるから・・・」
こんな若者にも自分の顔色がわかってしまうのなら、レーナ様もキリウス様ももしかして気づいているのか、とレオナードの内心の焦燥を読んだように、新人の侍従は続けた。
「レーナ、いえ、女王陛下も国王陛下もそういうことには鈍いお人でしょう?レオナードさんの気持ちが分かってたら侍従として側において置くことなんてできないですよね。いつ女王陛下を寝取られるかわからないですから。というか、女王陛下だって、レオナードさんに口説かれたら嬉しいんじゃないかな」
フランの軽薄な口調に、レオナードの胸の奥に怒りが湧いた。穏やかな表情で声だけは心を刺すほどの冷たさで
「私は侍従です。主君の妻に手をかけるなど、ありえません。例え、あなたが言うように女王陛下に懸想していたとしても、私はその想いを墓場まで持って行きます」
レオナードの言葉にフランは口の端を持ち上げて
「そういう、禁欲的なところがそそられるんですよね」
レオナードはフランの言った意味を考えあぐねて、眉根を寄せた。
いつの間に詰め寄ったのか、間近にフランの顔がありレオナードはわずかに狼狽して間を取ろうと後ろに下がった。下がった先は温室のガラス窓の行き止まりだとわかり、レオナードはフランに早く仕事を片付けて城に戻るように促した。
そう、こんなところで時間を取られてはいけない。もう晩餐の支度にかからなければ。
侍従の顔になったレオナードにフランは女と見紛うほどの中性的な顔に媚びるような微笑みを浮かべて
「せっかく二人きりなれたのに、つれないこと言わないでください。レオナードさん」
フランの言葉と表情が何を意味するものか察したレオナードは
「私はあなたにはまったく興味がありません、フランさん。別に男色を嫌うわけではありませんが、そのような行為をしたいなら私ではなく他の方をお誘いになってください」
彼の棘のある言葉にフランは傷ついたように目に影を落とすと
「僕だって、誰とでもできるってわけじゃないんですよ。僕はレオナードさんを見ていると・・・いえ、あなたの女王陛下を見る目が切なくて、寄せる想いが切な過ぎて、僕も胸が痛むんです」
「余計な心配は無用です。私の心の整理はついていますから」
そうなのだ。決して報われることはないと分かっている。でも、想うだけなら自由だ。
「心・・・はね。でも、身体は?女王陛下を抱きたいと思わないんですか?」
フランがレオナードの耳元で囁くように言った。
腰が引けて自分より身長の低いフランの顔が横にあるのに気づきレオナードは身体を立て直そうとした。
「女王陛下を組み敷いて自分のものにしたいとは思わないんですか?」
「それは・・・」
レオナードは言葉に詰まった。確かに、1度はそんな機会があった。あの時、どうしても出来なかった自分を悔いることがあるのは事実だった。
もし、あの時、レーナ様の口から洩れたのがキリウス様の名前ではなくて私の名前だったら、躊躇わずにレーナ様に口づけして、そしてあの方が我慢できなくなるほどの愛撫をして差し上げて・・・
そこまで想像したレオナードの胸中を察したように
「僕はあなたを慰めて差し上げたいだけです。想いを遂げられないあなたをお慰めしたい。・・・とても辛いんです、見ている僕も」
耳元で掠れたように囁くフランの声が甘く、誘惑的に思えてレオナードは自分を律するために端正な顔を顰めた。フランを払いのけようと上げた手を掴まれ、レオナードの唇は若者の唇で塞がれた。
「何を・・・」思わず声を出してしまったレオナードの口の中にフランの舌が侵入して、彼の舌を絡めとった。
フランの唇はまるで女性のように柔らかく甘く、舌は口腔を愛撫するように妖しく蠢く。
レオナードの意識が『あの夜』に飛んだ。あの時、愛しい女性と共に褥にいながら唇さえも合わせられなかった自分に対する後悔が身体を痛いほどに蝕んでいる。
レーナ様と同衾してキリウス様に殺されたほうがましだったかも知れない。
いや、あの時、思い止まったのはレーナ様のためだった。もし私に抱かれたことでレーナ様が苦しむなら、それはすべきではないことなのだ。
だけど・・・私の身体は今もレーナ様の吐息と身体の温もりを覚えている。あの、柔らかな下腹部が私の屹立した男の部分に触れたことも・・・
「ねえ、女王陛下を犯す妄想して、自分で慰めているんでしょう」
若者は粘りつくような声音でレオナードの唇に舌を這わせて言った。レオナードは自分の手淫を指摘されて屈辱に苦し気な表情を浮かべた。
フランの言ったことに否定ができない。
夜ごとに苛まれる後悔だった。女王の白い裸体を嬲り、艶めかしく蜜で潤う秘部を貫き、淫靡な声を想像して放ってしまう自分の汚さに嫌悪しかわかない手淫だった。
「今も想像してるのでしょう・・・だって、こんなに」
フランの男にしては繊細な手がレオナードの硬くなったものを慈しむように撫でている。
「身体は正直ですよね。いくら顔は冷ややかでも・・・ここは・・・」
いったいいつの間にズボンのボタンを外されていたのか、気がつかなかった失態でレオナードは狼狽し、フランを引きはがそうと腕に力を込めた。
その力が急に抜けた。
フランが口に含んだのだ。
硬く反ったものをもう自身の精神力だけで静めることはできないと、レオナードは諦めと混濁した快感の中、フランの舌の凌辱を受ける。
眩む視界に映るフランの波打つ金の髪が、まるで女王の豊かな黄金の髪のように見える。
錯覚だと頭の隅では分かっていながら、レオナードは自分のものを口に含んでいるのが女王に思えてきた。
レーナ様の麗しい花びらのような唇を、私は汚している。レーナ様の舌の動きはなんて淫らなのだろう。私のすべてを吸いとってしまわれるおつもりか。
喘ぐような声を洩らして、レオナードは仰け反った。
私のお口にちょうだい、レオナード
レオナードの耳に女王の甘い蜜のような声が聞こえた。
「レーナ様・・・!」レオナードは低く呻いて、金色の髪を押さえつけ、喉の奥深く突きたてると熱い液を解き放った。
「僕としてるのに、イクときに他の女性の名前を呼ぶなんて、ひどくないですか」
フランが不満げに唇を尖らす。
「あなたとしたつもりはありません。気に入らないのならもう私には触れないでください」
着衣の乱れを直しながらレオナードは知的な侍従の顔でフランにさっさと仕事に戻るように言った。
「気に入らなくないなら触れてもいいんですね。また、お慰めしてもいいんですね」
言葉尻を捕らえて抜け目なくそう言ったフランに顔を顰めながらも否定はせずに
「ずいぶん遅くなりました。晩餐の支度を急がなくては」
レオナードは肩を竦めたフランに手折った花の束を手渡した。
「フラン、これを女王陛下の部屋に活けてください。あなたが女王の侍従なのですから」
女王への想いは変わらず、耐えがたく切ない。
けれど、自分の想いを知る誰かがいるというのはずいぶんと慰めになるものだと、レオナードは年若い侍従が城に駆けていく後ろ姿を見つめた。
「まあ、いい香りね」
そう無邪気に微笑む女性をフランはわずかに嫉妬を込めた目で見た。フランが仕える女王陛下のレーナ・デ・ローマリウスだ。
妊婦でありながらも、その比類ない美しさには一片の陰りもない。
女王から視線を外して、フランは花瓶に花を活ける。
「レオナードさんが温室で選んでくれた花です。女王陛下の部屋に飾って差し上げるようにと言われたので」
そう、レオナードさんが大切なのはレーナ様だけなのだ。
私のことなんか、眼中にない。だから・・・あんな大胆なことをしてしまった。
レオナードさんのレーナ様を想い慕う切なさにつけこんで、誘惑した。
彼のモノを、口に含んで・・・そして、彼の放った液を飲んでしまった。
本当は口づけだけのつもりだったのに、あんなに熱く硬くしてしまうから、我慢させるのがお可哀想で・・・
お慰めしたかった・・・。
フランは花瓶を前に頬を赤く染め悩ましい溜息をついた。
そんなフランを女王が優しい眼差しで見つめている。
「レオナードは私のことをよくわかっているのよね。彼は優秀な侍従だわ。・・・でも、ちょっと、まじめすぎるかしら。だから、気がつかないのよね」
いたずらっぽくクスクスと笑う女王にフランは首を傾げた。「気がつかない・・・?」
ええ、と女王はフランを琥珀色の瞳で真っ直ぐ見て言った。
「あなたが女性だってこと、気がついてないでしょ」
女王がまるで『お天気がいいわね』という気軽さで放った言葉にフランが固まった。
「女王・・・陛下・・・気がついて・・・いらしたんですか?」
「ええ。だって、体つきや仕草を見ればわかります。それにしても男って、どうしてこう鈍感なのかしら。キリウスもまったく気がついてないでしょう?」
国王陛下はレーナ様しか見てないから、とフランは言いかけてやめた。
レオナードさんもそうなのだ。レーナ様しか見ていない。
「でも、どうして男性の姿なんかしているの?」
「爵位を継ぐためです。父は私に子爵を継がせたかったので。だから、薬で喉も潰して、男の子として生きてきました」
「ま・・・ベルサイユのばらね」
女王のつぶやきの意味が理解できずにフランは眉尻を下げて
「申し訳ありません。陛下、このことはまだ黙っていただけますか?」
「ええ。誰にも言わないわ。でも、女性の姿になりたかったらいつでも言ってね。ドレスを貸してあげるわ」
キラキラと目を輝かせ、楽しそうな女王に苦笑しながら、フランは思う。
レオナードさんは私が女性だと知ったら・・・避けるかもしれない。
あの人が愛してる女性はレーナ様だけだから。
だから、今は男性でいい。
男色と思われても、彼が気を許してくれるなら、それでいい。
完
そう、新人の侍従に聞かれて、レオナードは花を手折る手を止めた。
ガラス越しの温かな日差しを受けて、城の庭園に作られた温室の中は汗ばむくらいだった。色とりどりの花が所狭しと咲き誇り、花の香りは争うように匂い立っている。
その中でも比較的優しい香りの花をレオナードは選んで手折っていた。
もうすぐ出産される女王陛下は香りにも過敏になられている。女王が好む香りの花をお部屋には飾ってさしあげなくては。
そう思いながら、花を選んでいると、新しく女王陛下の侍従になったフランにいきなり聞かれたのだ。
「レーナ様がお好きなんでしょう」
と。
レオナードは知的な眉をひそめて、新人に「レーナ様のことは女王陛下とお呼びするように」と窘めた。
「それに、もちろん私は女王陛下のことは好きですよ。敬愛申し上げています。それはローマリウス国の国民ならば当たり前のことです。ああ・・・あなたの国ではそうではなかったのですね」
レオナードは少しばかり侮蔑の混じった口調で、ヨークトリア国から来た新人侍従のフランを見た。フランの国の王女、マーガレッタの暴君ぶりはレオナードも承知の上だった。そのマーガレッタ王女に処刑されそうになったフランをローマリウス国で引き取り、女王の侍従に任命したのは国王のキリウスだった。
他国の者を、それもマーガレッタ王女の側近だった青年を、大切な女王陛下の侍従になさるとはキリウス様は何を考えていらっしゃるのだ・・・と、レオナードは自分の主君の軽佻に重い溜息を吐いたのだった。
「そういう意味の好きじゃないんですけど」
フランは花の鉢に水をあげながら、意味ありげな視線をレオナードに投げかけている。
フランの輝くような金髪と若々しい青い瞳はレオナードの濃い栗色の髪と深い藍色の瞳とは対照的で、見かけと同様に性格も合わないと、レオナードはフランを嫌厭していた。
いくらフランが出産に詳しくても、細かい気配りはできそうもない若者だ。女王陛下の侍従には相応しくないのではないか。そう、思いながらも、レオナードは主君の決めたことに異を唱えることはできなかった。
「好き、という言葉では語弊があるなら、『愛している』って言ったほうがいいですか?レオナードさん、女王陛下を愛してますよね」
フランは気楽な物言いだったがレオナードの身体には緊張が走った。
押し殺している自分の女王への恋慕を看破されている。信じられない思いでレオナードはフランに困惑の表情を向けた。
「わかりますよ。だって、僕はレオナードさんのことを見てるから・・・」
こんな若者にも自分の顔色がわかってしまうのなら、レーナ様もキリウス様ももしかして気づいているのか、とレオナードの内心の焦燥を読んだように、新人の侍従は続けた。
「レーナ、いえ、女王陛下も国王陛下もそういうことには鈍いお人でしょう?レオナードさんの気持ちが分かってたら侍従として側において置くことなんてできないですよね。いつ女王陛下を寝取られるかわからないですから。というか、女王陛下だって、レオナードさんに口説かれたら嬉しいんじゃないかな」
フランの軽薄な口調に、レオナードの胸の奥に怒りが湧いた。穏やかな表情で声だけは心を刺すほどの冷たさで
「私は侍従です。主君の妻に手をかけるなど、ありえません。例え、あなたが言うように女王陛下に懸想していたとしても、私はその想いを墓場まで持って行きます」
レオナードの言葉にフランは口の端を持ち上げて
「そういう、禁欲的なところがそそられるんですよね」
レオナードはフランの言った意味を考えあぐねて、眉根を寄せた。
いつの間に詰め寄ったのか、間近にフランの顔がありレオナードはわずかに狼狽して間を取ろうと後ろに下がった。下がった先は温室のガラス窓の行き止まりだとわかり、レオナードはフランに早く仕事を片付けて城に戻るように促した。
そう、こんなところで時間を取られてはいけない。もう晩餐の支度にかからなければ。
侍従の顔になったレオナードにフランは女と見紛うほどの中性的な顔に媚びるような微笑みを浮かべて
「せっかく二人きりなれたのに、つれないこと言わないでください。レオナードさん」
フランの言葉と表情が何を意味するものか察したレオナードは
「私はあなたにはまったく興味がありません、フランさん。別に男色を嫌うわけではありませんが、そのような行為をしたいなら私ではなく他の方をお誘いになってください」
彼の棘のある言葉にフランは傷ついたように目に影を落とすと
「僕だって、誰とでもできるってわけじゃないんですよ。僕はレオナードさんを見ていると・・・いえ、あなたの女王陛下を見る目が切なくて、寄せる想いが切な過ぎて、僕も胸が痛むんです」
「余計な心配は無用です。私の心の整理はついていますから」
そうなのだ。決して報われることはないと分かっている。でも、想うだけなら自由だ。
「心・・・はね。でも、身体は?女王陛下を抱きたいと思わないんですか?」
フランがレオナードの耳元で囁くように言った。
腰が引けて自分より身長の低いフランの顔が横にあるのに気づきレオナードは身体を立て直そうとした。
「女王陛下を組み敷いて自分のものにしたいとは思わないんですか?」
「それは・・・」
レオナードは言葉に詰まった。確かに、1度はそんな機会があった。あの時、どうしても出来なかった自分を悔いることがあるのは事実だった。
もし、あの時、レーナ様の口から洩れたのがキリウス様の名前ではなくて私の名前だったら、躊躇わずにレーナ様に口づけして、そしてあの方が我慢できなくなるほどの愛撫をして差し上げて・・・
そこまで想像したレオナードの胸中を察したように
「僕はあなたを慰めて差し上げたいだけです。想いを遂げられないあなたをお慰めしたい。・・・とても辛いんです、見ている僕も」
耳元で掠れたように囁くフランの声が甘く、誘惑的に思えてレオナードは自分を律するために端正な顔を顰めた。フランを払いのけようと上げた手を掴まれ、レオナードの唇は若者の唇で塞がれた。
「何を・・・」思わず声を出してしまったレオナードの口の中にフランの舌が侵入して、彼の舌を絡めとった。
フランの唇はまるで女性のように柔らかく甘く、舌は口腔を愛撫するように妖しく蠢く。
レオナードの意識が『あの夜』に飛んだ。あの時、愛しい女性と共に褥にいながら唇さえも合わせられなかった自分に対する後悔が身体を痛いほどに蝕んでいる。
レーナ様と同衾してキリウス様に殺されたほうがましだったかも知れない。
いや、あの時、思い止まったのはレーナ様のためだった。もし私に抱かれたことでレーナ様が苦しむなら、それはすべきではないことなのだ。
だけど・・・私の身体は今もレーナ様の吐息と身体の温もりを覚えている。あの、柔らかな下腹部が私の屹立した男の部分に触れたことも・・・
「ねえ、女王陛下を犯す妄想して、自分で慰めているんでしょう」
若者は粘りつくような声音でレオナードの唇に舌を這わせて言った。レオナードは自分の手淫を指摘されて屈辱に苦し気な表情を浮かべた。
フランの言ったことに否定ができない。
夜ごとに苛まれる後悔だった。女王の白い裸体を嬲り、艶めかしく蜜で潤う秘部を貫き、淫靡な声を想像して放ってしまう自分の汚さに嫌悪しかわかない手淫だった。
「今も想像してるのでしょう・・・だって、こんなに」
フランの男にしては繊細な手がレオナードの硬くなったものを慈しむように撫でている。
「身体は正直ですよね。いくら顔は冷ややかでも・・・ここは・・・」
いったいいつの間にズボンのボタンを外されていたのか、気がつかなかった失態でレオナードは狼狽し、フランを引きはがそうと腕に力を込めた。
その力が急に抜けた。
フランが口に含んだのだ。
硬く反ったものをもう自身の精神力だけで静めることはできないと、レオナードは諦めと混濁した快感の中、フランの舌の凌辱を受ける。
眩む視界に映るフランの波打つ金の髪が、まるで女王の豊かな黄金の髪のように見える。
錯覚だと頭の隅では分かっていながら、レオナードは自分のものを口に含んでいるのが女王に思えてきた。
レーナ様の麗しい花びらのような唇を、私は汚している。レーナ様の舌の動きはなんて淫らなのだろう。私のすべてを吸いとってしまわれるおつもりか。
喘ぐような声を洩らして、レオナードは仰け反った。
私のお口にちょうだい、レオナード
レオナードの耳に女王の甘い蜜のような声が聞こえた。
「レーナ様・・・!」レオナードは低く呻いて、金色の髪を押さえつけ、喉の奥深く突きたてると熱い液を解き放った。
「僕としてるのに、イクときに他の女性の名前を呼ぶなんて、ひどくないですか」
フランが不満げに唇を尖らす。
「あなたとしたつもりはありません。気に入らないのならもう私には触れないでください」
着衣の乱れを直しながらレオナードは知的な侍従の顔でフランにさっさと仕事に戻るように言った。
「気に入らなくないなら触れてもいいんですね。また、お慰めしてもいいんですね」
言葉尻を捕らえて抜け目なくそう言ったフランに顔を顰めながらも否定はせずに
「ずいぶん遅くなりました。晩餐の支度を急がなくては」
レオナードは肩を竦めたフランに手折った花の束を手渡した。
「フラン、これを女王陛下の部屋に活けてください。あなたが女王の侍従なのですから」
女王への想いは変わらず、耐えがたく切ない。
けれど、自分の想いを知る誰かがいるというのはずいぶんと慰めになるものだと、レオナードは年若い侍従が城に駆けていく後ろ姿を見つめた。
「まあ、いい香りね」
そう無邪気に微笑む女性をフランはわずかに嫉妬を込めた目で見た。フランが仕える女王陛下のレーナ・デ・ローマリウスだ。
妊婦でありながらも、その比類ない美しさには一片の陰りもない。
女王から視線を外して、フランは花瓶に花を活ける。
「レオナードさんが温室で選んでくれた花です。女王陛下の部屋に飾って差し上げるようにと言われたので」
そう、レオナードさんが大切なのはレーナ様だけなのだ。
私のことなんか、眼中にない。だから・・・あんな大胆なことをしてしまった。
レオナードさんのレーナ様を想い慕う切なさにつけこんで、誘惑した。
彼のモノを、口に含んで・・・そして、彼の放った液を飲んでしまった。
本当は口づけだけのつもりだったのに、あんなに熱く硬くしてしまうから、我慢させるのがお可哀想で・・・
お慰めしたかった・・・。
フランは花瓶を前に頬を赤く染め悩ましい溜息をついた。
そんなフランを女王が優しい眼差しで見つめている。
「レオナードは私のことをよくわかっているのよね。彼は優秀な侍従だわ。・・・でも、ちょっと、まじめすぎるかしら。だから、気がつかないのよね」
いたずらっぽくクスクスと笑う女王にフランは首を傾げた。「気がつかない・・・?」
ええ、と女王はフランを琥珀色の瞳で真っ直ぐ見て言った。
「あなたが女性だってこと、気がついてないでしょ」
女王がまるで『お天気がいいわね』という気軽さで放った言葉にフランが固まった。
「女王・・・陛下・・・気がついて・・・いらしたんですか?」
「ええ。だって、体つきや仕草を見ればわかります。それにしても男って、どうしてこう鈍感なのかしら。キリウスもまったく気がついてないでしょう?」
国王陛下はレーナ様しか見てないから、とフランは言いかけてやめた。
レオナードさんもそうなのだ。レーナ様しか見ていない。
「でも、どうして男性の姿なんかしているの?」
「爵位を継ぐためです。父は私に子爵を継がせたかったので。だから、薬で喉も潰して、男の子として生きてきました」
「ま・・・ベルサイユのばらね」
女王のつぶやきの意味が理解できずにフランは眉尻を下げて
「申し訳ありません。陛下、このことはまだ黙っていただけますか?」
「ええ。誰にも言わないわ。でも、女性の姿になりたかったらいつでも言ってね。ドレスを貸してあげるわ」
キラキラと目を輝かせ、楽しそうな女王に苦笑しながら、フランは思う。
レオナードさんは私が女性だと知ったら・・・避けるかもしれない。
あの人が愛してる女性はレーナ様だけだから。
だから、今は男性でいい。
男色と思われても、彼が気を許してくれるなら、それでいい。
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