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深夜2時のリピーター
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「いらっしゃいませー」
俺は深夜のコンビニでバイトしている。
シフトは23時から翌朝5時まで。
防犯カメラと蛍光灯の白い明かりだけが心の頼りだ。
深夜2時を過ぎると、客足は極端に減る。
眠気をごまかしながら品出しをしていると、自動ドアが開く音がした。
「……いらっしゃいませ」
店内に入ってきたのは、小柄な女だった。
スウェットにフードをかぶり、顔はほとんど見えない。
どこかで見たような気がするが、よく思い出せない。
彼女はまっすぐにドリンク棚へ向かい、缶コーヒーを一本だけ手に取ってレジへ来た。
「158円です」
何も言わず、千円札を出す彼女。
無言のまま受け取り、レシートも取らずに店を出ていった。
(……まぁ、変な客ってのはいる)
それから毎晩、決まって深夜2時ちょうどに彼女は現れた。
同じ缶コーヒーを手に取り、無言で会計を済ませて帰る。
言葉を交わしたことは一度もない。
けれど、なぜか彼女の目だけははっきりと覚えていた。
冷たくて、どこか“抜け落ちてる”ような目。
3日目、あまりに気になって防犯カメラの映像を見返した。
彼女が入店してくる映像は映っている。
でも……自動ドアは、開いていなかった。
(機械の不具合か……?)
そう思ったが、翌日の映像も同じだった。
ドアが開く音は毎回するのに、映像ではドアが動いていない。
さすがに気味が悪くなって、先輩の高田さんに相談してみた。
「深夜2時に同じ女が毎日くるんですけど、なんか変で……」
すると高田さんは顔色を変えた。
「……お前、それ、あの子じゃないか?」
「え?」
「3年前、この近くのアパートで亡くなった女子大生。
夜中に缶コーヒー買いに出て、そのまま事故に遭って……」
言葉が出なかった。
高田さんは続けた。
「このコンビニ、当時の監視カメラにその子の最後の姿が映ってたんだ。
買った商品は、缶コーヒー。深夜2時ちょうど」
まさか。
けど、話を聞くにつれて、俺の中で点と点がつながっていく感覚があった。
その夜。
俺はいつものようにシフトに入った。
何も起こらなければいい、そう思いながら、時間だけが過ぎていく。
そして、深夜2時。
チリン、と音を立ててドアが開いた。
現れたのは、やはりあの女だった。
俺は意を決して声をかけた。
「あの、いつも同じ時間に来られてますよね。よく眠れないんですか?」
女は、ぴたりと動きを止めた。
ゆっくりとこちらに顔を向けたその目は――真っ黒だった。
瞬間、空気が凍りつくような感覚に包まれた。
女は一言、ぽつりとつぶやいた。
「……ここ、まだあるんだ」
次の瞬間、蛍光灯がパチンと音を立てて消えた。
真っ暗な店内に、冷たい空気だけが漂う。
急いでブレーカーを確認し、復旧させた。
店内が再び明るくなった時――女の姿は消えていた。
缶コーヒーだけが、レジのカウンターにぽつんと置かれていた。
金は、払われていない。
⸻
翌朝、オーナーに映像の件を報告すると、彼はただ無言でうなずき、
奥から古びた段ボール箱を持ってきた。
中には、3年前の事故当時の監視カメラ映像のコピーが入っていた。
俺はその中から、彼女が映っているという時間の映像を再生した。
そこには、レジに向かって缶コーヒーを差し出す女の姿――
そのレジに立っているのは、俺自身だった。
「……嘘、だろ……?」
俺はその日から、深夜シフトをやめた。
もう二度と、2時のレジには立たない。
けれども、たまに思い出してしまう。
あの時、彼女が最後につぶやいた言葉。
「ここ、まだあるんだ」
あれは、“この店”のことではなかったのかもしれない。
俺が、ここにいること――そのものを、言っていたのかもしれない。
俺は深夜のコンビニでバイトしている。
シフトは23時から翌朝5時まで。
防犯カメラと蛍光灯の白い明かりだけが心の頼りだ。
深夜2時を過ぎると、客足は極端に減る。
眠気をごまかしながら品出しをしていると、自動ドアが開く音がした。
「……いらっしゃいませ」
店内に入ってきたのは、小柄な女だった。
スウェットにフードをかぶり、顔はほとんど見えない。
どこかで見たような気がするが、よく思い出せない。
彼女はまっすぐにドリンク棚へ向かい、缶コーヒーを一本だけ手に取ってレジへ来た。
「158円です」
何も言わず、千円札を出す彼女。
無言のまま受け取り、レシートも取らずに店を出ていった。
(……まぁ、変な客ってのはいる)
それから毎晩、決まって深夜2時ちょうどに彼女は現れた。
同じ缶コーヒーを手に取り、無言で会計を済ませて帰る。
言葉を交わしたことは一度もない。
けれど、なぜか彼女の目だけははっきりと覚えていた。
冷たくて、どこか“抜け落ちてる”ような目。
3日目、あまりに気になって防犯カメラの映像を見返した。
彼女が入店してくる映像は映っている。
でも……自動ドアは、開いていなかった。
(機械の不具合か……?)
そう思ったが、翌日の映像も同じだった。
ドアが開く音は毎回するのに、映像ではドアが動いていない。
さすがに気味が悪くなって、先輩の高田さんに相談してみた。
「深夜2時に同じ女が毎日くるんですけど、なんか変で……」
すると高田さんは顔色を変えた。
「……お前、それ、あの子じゃないか?」
「え?」
「3年前、この近くのアパートで亡くなった女子大生。
夜中に缶コーヒー買いに出て、そのまま事故に遭って……」
言葉が出なかった。
高田さんは続けた。
「このコンビニ、当時の監視カメラにその子の最後の姿が映ってたんだ。
買った商品は、缶コーヒー。深夜2時ちょうど」
まさか。
けど、話を聞くにつれて、俺の中で点と点がつながっていく感覚があった。
その夜。
俺はいつものようにシフトに入った。
何も起こらなければいい、そう思いながら、時間だけが過ぎていく。
そして、深夜2時。
チリン、と音を立ててドアが開いた。
現れたのは、やはりあの女だった。
俺は意を決して声をかけた。
「あの、いつも同じ時間に来られてますよね。よく眠れないんですか?」
女は、ぴたりと動きを止めた。
ゆっくりとこちらに顔を向けたその目は――真っ黒だった。
瞬間、空気が凍りつくような感覚に包まれた。
女は一言、ぽつりとつぶやいた。
「……ここ、まだあるんだ」
次の瞬間、蛍光灯がパチンと音を立てて消えた。
真っ暗な店内に、冷たい空気だけが漂う。
急いでブレーカーを確認し、復旧させた。
店内が再び明るくなった時――女の姿は消えていた。
缶コーヒーだけが、レジのカウンターにぽつんと置かれていた。
金は、払われていない。
⸻
翌朝、オーナーに映像の件を報告すると、彼はただ無言でうなずき、
奥から古びた段ボール箱を持ってきた。
中には、3年前の事故当時の監視カメラ映像のコピーが入っていた。
俺はその中から、彼女が映っているという時間の映像を再生した。
そこには、レジに向かって缶コーヒーを差し出す女の姿――
そのレジに立っているのは、俺自身だった。
「……嘘、だろ……?」
俺はその日から、深夜シフトをやめた。
もう二度と、2時のレジには立たない。
けれども、たまに思い出してしまう。
あの時、彼女が最後につぶやいた言葉。
「ここ、まだあるんだ」
あれは、“この店”のことではなかったのかもしれない。
俺が、ここにいること――そのものを、言っていたのかもしれない。
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