死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸

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第1章〜塔の上の指揮者〜

第5話•後編〜ひとつの夢と四つの柱〜



貯蔵庫が建ってから数日。
村の景色は、静かに、しかし確実に変わりつつある。

 

畑の広がりに、行き交う人々の足取り。
井戸から流れる水が、農地へと導かれ、育てた作物が蔵へと運び込まれる。

 

いつの間にか、“流れ”ができていた。

 

思い返せば、最初にこの村で得た信頼は、水だった。
枯れかけていた井戸を復旧させ、水路をつなぎ、暮らしの基盤を整えた。

 

そこから少しずつ、俺の言葉に耳を傾けてくれる人が増えていった。

 

鍛冶場の火が灯り、畑が広がり、倉が建ち、人が集まってくる。
それぞれが、自分の役割を持ち始めた。

 

村人たちの変化は、きっと俺一人の力じゃない。
けれど――もし、俺の行動がその背中を少しでも押したのなら、それは嬉しい。

 

毎日の暮らしに精一杯だった彼らが、今は“次”を見ている。
鍬を握る手に、未来を描く余裕が生まれてきている。
――夢を語れるようになった。

 

(だったら、俺の方も、応えなきゃな)

 

任せるべき人間には、しっかり任せる。
その代わり、名前をつけよう。役目を与えよう。
それが、村の仕組みを強くしていく第一歩になる。

 

俺は立ち上がり、扉を開けた。
控えていたセリアが静かに振り返る。

 

「どうかされましたか?」

 

「ああ。ユルグ、オルト、ケルベ。三人をここに呼んでくれ」

 

少しだけ驚いたように瞬きし、それから微笑を浮かべてうなずく。

 

「承知しました。すぐに手配いたします」

 

◇ ◇ ◇

 

集まったのは、館の広間。
質素な空間だが、外から差し込む光と、整えられた資料棚の静けさが、どこか厳かさを与えていた。

 

セリアが扉を閉め、振り返る。

 

「皆さま、お揃いです」

 

顔を見合わせる三人。
ユルグは気だるげな様子で片手を腰に当て、オルトは黙って佇み、ケルベは腕を組んで立っていた。

 

「今日は、話しておきたいことがあります」

 

俺の言葉に、三人の視線が集中する。

 

「ここまで、皆さんのおかげで村はずいぶん変わりました。……本当に、ありがとうございます」

 

真っ直ぐにそう告げると、ユルグが鼻を鳴らした。

 

「なんだよ、改まって……背中がむずがゆくなるぜ」

 

「フン……俺は、たまたま手が空いてただけだ」

 

オルトもぼそりとつぶやきながら、どこか誇らしげな顔をしていた。

 

「礼なんざいらねえさ。こっちとしても腕の見せどころだったしな?」

 

ケルベがにやりと笑い、全員の表情がどこか和らいだ。
その空気の中、俺は一歩前に出て、姿勢を正す。

 

「ですが、それだけでは終わりにできません。
村をさらに発展させていくには、しっかりとした“仕組み”が必要です」

 

三人の表情が引き締まる。

 

「そこで、皆さんに正式な役割をお願いしたいと思っています。
“責任ある立場”として、任命させていただけますか」

 

まず、ユルグの前に立つ。

 

「ユルグさん。これまで農作を引っ張ってくださいましたが、
これからは“農務長”として正式にお任せしたいんです。
畑の拡張や作物の管理、若者たちへの指導まで含めて、今後も力を貸してください」

 

ユルグは頭をかきながら、少し照れくさそうに笑った。

 

「……ったく、肩書きなんざ柄じゃねえけどな。
けど、まあ……あんたがそう言うなら、やってみるさ。どうせ俺の畑だしな」

 

「ありがとうございます」

 

俺も笑みを返し、続いてオルトの前へと向き直る。

 

「オルトさん。鍛冶場が動き出したことで、村の基盤がようやく固まりました。
今後は“鍛冶長”として、工房の管理と、弟子たちの指導をお願いしたいと思っています」

 

オルトはしばらく無言のまま視線を落とし、ふと、口元だけで笑った。

 

「……まったく、領主様は人使いが荒ぇな。
けど、鍛冶場に火が入ったからには、やるしかねぇか。……弟子の面倒くらい、見てやるよ」

 

「心強いです」

 

そして、ケルベへ。

 

「ケルベさん。貯蔵庫建設の手腕には、本当に驚かされました。
村の道や建物を整えていくには、あなたの知識が必要です。
“建築長”として、インフラ整備をお引き受けいただけませんか」

 

ケルベはふっと息を吐き、腕を組み直す。

 

「へっ。まいったな……そう言われちまったら、断れねぇじゃねぇか。
まあ、俺の仕事は“造る”こと。昔っから変わらねえ。それをやるだけだ」

 

最後に、セリアへと向き直る。

 

「セリア。これまでずっと俺を支えてくれていたけど、
これからは“執務長”として、政務全般や村全体の管理を引き続き任せたい」

 

セリアは一礼し、静かに微笑む。

 

「承知しました。……ようやく、名乗る役職ができましたね」

 

「これからも頼りにしてる」

 

その瞬間――
視界に、淡く光が灯る。

 


《スキル獲得:任官の才》
・役職を授けることで、その人物の能力を活性化させる
・任官対象に対し、作業効率と教育効果が上昇する補正を付与


 

(――人を信じて、託す。それが、この力の源か)

 

光が消えるのを見届けながら、俺は小さく息を吐いた。
それぞれが、それぞれの場所で動き出す準備が整った。
ようやくこの村は、本当の意味で――“動き始めた”のだ。




◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
初回は【金・土・日】の3日連続更新!
明日は【20:10】に【6話】を公開します!
ぜひ続きもご覧ください。

よろしければ「お気に入り登録」や「ポイント投票」「感想・レビュー」などいただけると、とても励みになります。

続きもがんばって書いていきますので、また覗いていただけたら嬉しいです。

◆◇◆ 後書き ◆◇◆

おかげさまで、フェルザ村にもようやく“流れ”が生まれてきました。

貯蔵庫も完成し、頼れる棟梁ケルベも正式任命。
農務長、鍛冶長、建築長、執務長――と、肩書きが村に増えていく中で、
それぞれが“動く役割”を持ち始めた感じがあります。

……え? 村長のボロスさんは、って?

うーん、あの人は……「見守る係」ということでどうでしょう。
たぶん今も、集会所の縁側でお茶すすってます。元気です。たぶん。

 

ついに次回、女性枠が登場します。
名前はリリィ。狩人の娘。責任感の強い、とてもいい子。

そしてセリアさん、まさかの肉弾戦参加――⁉︎

ルノスにとっては、スキルより大事な“命のやりとり”が試される一幕になるかもしれません。

内政も、命がなきゃ始まらない。

 

◆次回:第六話~震える手の先に~

それではまた、森の奥でお会いしましょう!
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